女性が活躍する会社ベスト100に学ぶ、全社員の生産性を高めるためのマネジメント変革ー日経新聞記事より考察
日本経済新聞朝刊(2026年5月25日付)『部署や立場超え 交流促す 「女性が活躍する会社」 東京海上日動が首位』を拝読しました。
日本経済新聞社グループの「日経 ウーマンエンパワーメントプロジェクト」と「日経ウーマン」が実施した2026年の「女性が活躍する会社ベスト100」において、東京海上日動火災保険が首位に輝きました。次いで2位にはゆうちょ銀行、3位にはEY Japanがランクインしており、上位企業はいずれも部署や立場を超えた交流の促進や、多様な働き方を受け入れる組織風土の醸成に力を入れている点が特徴的です。各社は女性のキャリア支援や管理職登用の向上に向けて、独自のユニークな施策を展開しています。
東京海上日動が実践する両立の模擬体験「もしもチャレンジ」
首位となった東京海上日動火災保険では、ワークライフバランスに関する評価が非常に高く、総合職に占める女性比率が6割、さらに女性正社員の4割以上が子供を持つなど、多様なライフイベントを迎えた社員が数多く活躍しています。その同社が2025年度から全国展開しているのが「もしもチャレンジ」というユニークな取り組みです。これは、管理職が通常の業務を行いながら、育児と仕事の両立などを模擬体験する2週間のプログラムです。期間中の管理職は、時短勤務(午前9時から午後4時30分まで)を義務付けられ、時間外の連絡ツール確認も禁止されます。
さらに、期間中には「子供の保育園から急に呼び出しがあった」といった突発的な指令が下され、体験者は即座に業務の調整や部下への代理依頼を迫られます。この試みにより、体験した管理職はトラブルへの柔軟な対応力や業務の割り振りの重要性を学ぶだけでなく、月4回あった会議を1回に減らすなど、組織全体の業務効率化や会議のスリム化にも成功しています。育児だけでなく、介護やリスキリングなど多様な背景を持つ社員が増える中で、時間内に成果を出す意識の向上や、多様性を受け入れる風土作りに大きく貢献しているといえるでしょう。
世代や地域を越えた交流を生む「リバースメンター」と「ナナメの1on1」
東京海上日動では、新入社員から35歳までの若手がメンターとなり、支店長や部長などの上位役職者に対して若手ならではの視点や情報を提供する「リバースメンター制度」も拡充しています。2024年度の試験導入から2025年度には30組へと規模を拡大しており、組織運営におけるモチベーション向上などの具体的な相談が行われ、組織の活性化につながっています。
また、2位のゆうちょ銀行では、女性の管理職・役員比率の向上に向けて「ナナメの1on1」という施策を導入しています。これは、普段の業務で接点のない異なる部署や、離れた地域の女性社員同士、さらには女性役員と若手社員をマッチングして面談を行うものです。特に小規模な店舗で働く社員にとって、限られた人間関係を超えて多様なロールモデルと触れ合う機会となっており、自身のキャリア形成を客観的に捉え直す好機として評価されています。
AIコーチングとスポンサーシップによるキャリア支援の最前線
3位のEY Japanでは、女性役員の育成を加速させるため、役員が幹部候補の女性社員を直接支援する「スポンサーシッププログラム」を運用しています。さらに、2025年8月からは女性リーダー育成の新たな手段として、AIによるコーチングを導入しました。24時間いつでも利用できるAIコーチングは、時間的な制約が多い女性社員でも活用しやすく、人間特有のコーチングスキルのバラつきやバイアスを排除できるという利点があります。これにより、均質かつ効率的なリーダーシップ開発が可能となり、女性のキャリアアップを強力に後押ししているといえるでしょう。

組織の多様性と成長を支える施策のあり方:企業人事の視点から
今回の「女性が活躍する会社ベスト100」の調査結果や上位企業の取り組みを拝見すると、女性活躍というテーマが単なる数字の達成にとどまらず、組織全体の働き方改革や風土の変革に深く結びついていることが理解でk増す。
私たち日々の実務に携わる立場としても、これらの事例から自社に応用できるエッセンスを学び、組織のエンゲージメントや生産性を高めるための一手を考えていきたいところです。
当事者意識を醸成する「疑似体験型」研修の有効性
特に注目したいのは、東京海上日動の「もしもチャレンジ」に代表される、管理職を巻き込んだ模擬体験の仕組みです。ダイバーシティや両立支援に関する座学の研修は多くの企業で実施されていますが、実際に「限られた時間の中で突発的なトラブルに対応する」という経験を管理職自らが体験することの影響力は計り知れません。
制度の利用者が増える一方で、周囲の負担感やマネジメントの難しさが課題になるケースは少なくありません。しかし、管理職自身が制約のある働き方をリアルに体験することで、育児や介護を担う部下への共感が自然と生まれ、業務の属人化を防ぐためのタスクシェアや、会議の削減といった具体的な行動変容に直結しやすくなると考えられます。このような「痛みを伴う疑似体験」を研修プログラムやマネジメント層の育成に組み込むことは、組織全体のレジリエンスを高める非常に有効な一手になり得るでしょう。
コミュニケーションの「ナナメの関係」がもたらす安心感と視野の拡大
ゆうちょ銀行の「ナナメの1on1」というアプローチも、非常に示唆に富んでいます。社内でのキャリア形成において、直属の上司や同じ部署の同僚には、かえって本音の悩みや長期的なキャリアの不安を相談しにくいという心理的なハードルが存在することがあります。特に拠点が分散している企業や、女性の比率がまだ低い部署においては、身近にロールモデルを見つけられないという孤立感が課題になりがちです。
そこで、業務上の利害関係がない「ナナメ」の先輩や他部門の役員と話せる機会を設けることで、社員は心理的な安全性を保ちながら、客観的なアドバイスを受けることができます。これは離職防止やモチベーション向上に寄与するだけでなく、社員が自らの可能性を広げ、多様なキャリアの選択肢を前向きに捉えるきっかけ作りとして、積極的に取り入れていきたいアプローチだといえるでしょう。
縦のつながりを変革する「リバースメンター」の可能性
さらに、若手がシニア層をメンタリングする「リバースメンター制度」は、世代間のギャップを埋め、心理的安全性の高い組織風土を醸成するための優れた施策だと考えられます。従来の上意下達のコミュニケーションだけでなく、意思決定層が若手の新鮮な価値観やデジタルネイティブならではの視点に直接触れることで、組織運営のアップデートや、柔軟な風土の醸成につながるはずです。
女性活躍の推進には、経営層や管理職といった上位層の意識改革が不可欠ですが、このように下からのフィードバックを仕組み化することで、押し付けではない、自然な形での意識のパラダイムシフトを促すことができるのではないかと考えられます。
テクノロジーの活用によるキャリア支援の効率化と平準化
EY JapanのAIコーチングの事例は、これからの人材開発における時間とリソースの制約を克服するための新しいヒントを与えてくれます。人間によるメンター制度やコーチングは非常に価値が高い一方で、コーチ側のスキル不足や相性、また時間の確保が難しいといった運用上の課題がつきまといます。
ライフイベントで多忙な社員であっても、24時間いつでもアクセスでき、かつバイアスのない客観的なフィードバックを受けられる環境をテクノロジーによって補完することは、支援の網羅性を高めるために現実的な選択肢となりつつあります。すべてをデジタルに置き換えるのではなく、人の手による温かみのある伴走(スポンサーシップなど)と、効率的なAI活用を組み合わせた「ハイブリッド型」の人材育成モデルを模索していきたいものです。
制度から「風土」へ:すべての社員が恩恵を受ける環境づくり
女性活躍を推進するうえで最も大切なのは、それが「一部の対象者のための特別な優遇制度」に見えないようにすることではないでしょうか。東京海上日動の事例でも、管理職の模擬体験が結果として会議の削減や業務の効率化といった、組織全体のメリットにつながっています。
育児だけでなく、介護や自身の病気、あるいは自己啓発や趣味など、誰もが何らかの「時間の制約」を抱える可能性がある時代です。女性向けの施策としてスタートしたものであっても、最終的には「誰もが柔軟に働き、成果を最大化できる環境づくり」へと昇華させていく視点を持つことが、全社的な共感と協力を得るための鍵になるといえるでしょう。各社の先進的な知見を自社の文脈に合わせてアレンジし、誰もが心地よく挑戦できる組織の基盤を少しずつ整えていきたいところです。

