支援実績:管理職の方への教育:2025年、製造業
某企業B社様(製造業)の人事課題支援を継続しています。その中で、先般、管理職の方への研修、コミュニケーションを実施しました。簡単に内容を紹介します。当内容の公表は支援企業様からの承諾済みではありますが、大枠の内容に止めていることはお許しください。
支援企業・実施概要
業種、従業員規模:製造業、従業員60名程度
場所:(自身の居住地である)福島県外の地方企業
実施期間:2024年7月~支援中
方法:現地訪問(数回)+オンライン(1回/1~2週)
主たる窓口:社長、人事担当係長
内容:評価制度(評価者研修含む)、賃金制度構築、他、総務・人事関係のサポート
「制度は、導入してからが本当のスタートである」
この言葉の重みを、私は改めて実感することになりました。
昨年、新たな人事評価制度の導入をご支援しました。制度の運用開始から約半年という、まさに組織に変化が生まれ始める絶妙なタイミングで、管理職の皆様を対象とした「振り返り研修」を実施させていただきました。
「作ったはいいが、現場でうまく回っていない」「いつの間にか形骸化してしまった」。多くの企業が陥りがちな課題に対し、この「振り返り」というプロセスがいかに重要であるか。今回は、研修当日の熱気あふれる対話を通じて見えてきた、人事評価制度を「生きた制度」へと進化させるための課程をまとめました。
研修は、半年前の記憶を呼び覚ますことから始まりました。日々忙殺される中で、ともすれば忘れがちになる「制度の根本思想」を、改めて全員で共有する時間です。
評価の二大目的:「処遇決定」と「部下の成長」
人事評価には、大きく分けて二つの重要な目的があります。一つは、給与や賞与を決定するための「処遇決定」機能。これは会社の経営判断が最終決定権を持つ領域です。
しかし、もう一つ、現場の管理職がより主体的に、そしてダイレクトに関わることができる極めて重要な目的があります。それが、「部下の成長支援」機能です。
研修では、「部下の成長は、トップが一人ひとりに直接指導するわけにはいかない。現場の課長、係長である皆さんが直接関与できる、皆さん自身の重要な役割」という点を強調しました。 評価は、部下の給料を決めるためだけのものではなく、部下一人ひとりの成長に寄り添い、未来を共に考えるためのコミュニケーションツールである。この原点に立ち返ることが、全ての出発点となります。
プロセスこそが命 - 「点」ではなく「線」で捉える評価
次に、人事評価のプロセスについて再確認しました。多くの場合、評価は期末の「評価シートを埋める作業」として捉えられがちです。しかし、それでは評価は単なる「点」でしかありません。
真の価値は、以下の4つのステップが繋がった「線」のプロセスにあります。
目標設定:期初に、部下と対話し、納得感のある目標を共に設定する。
期中指導:ここが最も長く、最も重要。 日々の業務の中で、目標の進捗を確認し、助言やサポートを行う。
評価:期末に、設定した目標に対する達成度を評価する。
フィードバック:評価結果を伝え、次期の成長に向けた対話を行う。
特に研修で時間を割いたのは、「期中指導」です。 ここでのタイムリーなコミュニケーションがなければ、期末の評価は「後出しじゃんけん」になりかねません。「もっと早く言ってくれれば…」という部下の不満は、まさにこの期中指導の欠如から生まれるのです。 このプロセス全体を円滑に回すことが、評価制度を育成の仕組みとして機能させるための鍵であることを再度共有しました。

現場のリアルな声ー理想と現実の間で生まれた葛藤
理論の再確認を終え、この半年間、管理職の皆さんが実際に制度を運用する中で直面した、生々しい課題や悩みを共有する時間です。そこには、理想通りにはいかない、しかしだからこそ価値のある「リアルな声」が溢れていました。
最大の壁、「目標設定」のリアリティ
「部下が、自分で目標を立ててくれないんです」。これは、多くの管理職が最初にぶつかる壁かもしれません。研修でも、このテーマについて活発な意見が交わされました。
ある方からは、「『何かありませんかね?』と逆に質問されてしまう。こちらから提案しないと、なかなか本人の言葉として目標が出てこないんです」という、具体的な悩みが吐露されました。
また、別の方からは、「売上目標は立てやすいが、それを達成するための具体的な行動目標に落とし込むのが難しい。売上だけを目標にすると、日々の活動とどう結びつければいいか分からなくなってしまう」という声も上がりました。
さらに、根本的な問題として、「そもそも、目標管理シートの言葉自体が少し抽象的で、部下が本当に意味を理解して書けているのか、という疑問がある」という鋭い指摘も。 これらは、部下の主体性を引き出したいという理想と、具体的な道筋を示さなければ進まない現実との間で奮闘する、管理職の真摯な姿を映し出していました。
これに対し、「会社のミッションをまず提示し、それを達成するためにあなたは何ができるか、という問いかけから始める方が、部下も考えやすいのではないか」という、具体的な解決策の提案もなされました。 抽象的な「目標を立てろ」ではなく、具体的な「会社の方向性」と「個人の役割」を接続させるアプローチの重要性が見えてきました。
実践の壁、「時間」と「記録」との戦い
次に挙がったのは、日々の業務に追われる中での実践の難しさです。
ある部門の管理職の方は、「部下複数人をを抱える中、一人ひとりと会議室でじっくり面談する時間を確保するのが本当に難しい。どうしても、現場での作業の合間に立ち話で進捗を聞く、という形になってしまいがちです」と、現実的な運用状況を語ってくださいました。

また、評価の客観性を担保するために重要となる「行動観察シート」の記録についても、リアルなエピソードが飛び出しました。「いざ記録しようとメモを取り出すと、『何を書いてるんですか?』と部下に構えられてしまって…。なんだか事情聴取みたいになってしまった」という話には、思わず笑いが起こりましたが、多くの人が頷く「あるある」な光景です(本来は、観察シートは、「自分限り」としておくのが望ましい。
こうした課題に対し、「完璧を目指す必要はない」、というメッセージを送っています。立ち話でも、意識して声をかけ続けること自体に意味がある。記録も、毎日全員分を完璧に残すのではなく、「今週はこの2人に注目しよう」と対象を絞り、キーワードだけでも書き留めておく。 まずは、「できる範囲で、継続すること」。その小さな一歩が、大きな変化に繋がっていきます。
小さな実践が生んだ、確かな「変化の兆し」
葛藤や課題が共有される一方で、この半年間の実践が組織にもたらした、ポジティブで確かな変化の兆しについても、多くの素晴らしい報告がありました。
変化1:「無関心」から「関心」へ。アンテナが広げた可能性
ある管理職の方から、非常に象徴的な発言がありました。「正直に言うと、私はあまり人に興味を持たないタイプの人間なんです。でも、この行動観察シートを意識するようになってから、部下のことを意識的に見るようになった。そうしたら、『あ、今日はこの人、少し体調が悪いのかな』とか、些細な変化に気づけるようになったんです。自分の中に、部下に対するアンテナが広がった気がします」。
これは、単に部下を「管理」するのではなく、一人の人間として「関心」を持ち、見守るという、マネジメントの原点への回帰です。この小さな意識の変化が、職場の心理的安全性を高め、部下が安心して働ける環境の礎となります。
変化2:「自己開示」から始まった、本当の信頼関係構築
特に印象的だったのは、ある管理職の方の実践例です。「目標設定を始める前に、まずはお互いを深く知ることから始めようと思いました」と語ります。面談の場で、まずご自身のこれまでのキャリア、仕事への想い、そして今この部署で何を成し遂げたいかを、率直に部下へ伝えたのです。
その上で、部下にも同じように「今までどんな仕事をしてきて、これからどうなりたいか」を語ってもらったところ、これまで見えなかった個々の想いや価値観が明らかになりました。 この対話があったからこそ、会社の方針と本人の想いをすり合わせた、納得感の高い目標(例えば、ベテラン社員の「後進への引き継ぎ」を正式な目標とするなどを設定できたと言います。上司からの「自己開示」が、部下の心を開き、評価制度を血の通ったコミュニケーションの場に変えた、素晴らしい事例でした。

変化3:ツールが「対話のきっかけ」を生む好循環
そして、目標管理シートというツール自体が、ポジティブなコミュニケーションを誘発し始めていることも明らかになりました。ある部門では、シートがあることで「本人が自らの業務を客観的に振り返り、次の課題は何かを考える良いきっかけになった」と報告されました。
特に、期中の段階で目標を達成できた社員がいた際、シート上で「今後の課題」を記入する欄があったため、「じゃあ、残りの期間でこの新しい課題に取り組んでみようか」と、極めて自然に、より高いレベルへの挑戦を促す対話が生まれたそうです。 これは、制度が単なる「管理ツール」ではなく、成長を促す「対話のプラットフォーム」として機能し始めた、何よりの証拠と言えるでしょう。
まとめ:「振り返り」と「対話」こそが、制度を組織の文化にする原動力
今回の振り返り研修は、多くの示唆を与えてくれました。人事評価制度を絵に描いた餅に終わらせず、組織の血肉としていくために最も重要なこと。それは、「実践し、語り合い、修正する」という、泥臭くも誠実なサイクルを、粘り強く回し続けることに他なりません。
研修の場で、管理職の皆さんがそれぞれの悩みや成功体験を共有し、「うちの部署でも、あのやり方を試してみよう」「悩んでいるのは自分だけじゃなかった」と相互に学び合う。この「評価者間の目線合わせ」こそが、評価のブレをなくし、組織としての一体感を醸成していくでしょう。
研修の最後に、トップから「人事評価とは、詰めるためのものではない。どうすれば人が成長できるのか、できたことをちゃんと褒めてあげられるのか。そのための仕組みなんだ」という力強いメッセージが語られました。 経営トップのこの想いが、現場の管理職にとって何よりの支えとなり、制度を推進する大きな原動力となります。
人と組織を育てる旅に、近道や魔法の杖は存在しません。B社様のように、現場のリアルな声に真摯に耳を傾け、対話を重ねていく地道なプロセスこそが、制度を真に価値あるものへと変えていく唯一の道であると、私自身も改めて感じたところです。全体への支援も大切ですが、この後は管理職個別の支援に進んでいく予定です。

