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視点を変えれば組織が変わる:人事戦略としてのリフレーミング活用法ー川上真史氏のからの考察

 川上真史ビジネス・ブレークスルー大学教授の「企業と心理学 トピックス #40 リフレーミング」というテーマを取り上げます。

1. リフレーミングとは:心の枠組みを変える力

 私たちの認識、感情、そして行動は、物事をどのように捉えるかという「心の枠組み」、すなわち認知フレームによって深く形作られています。「リフレーミング」とは、このしばしば無意識に機能する認知フレームを意識的に見直し、特に私たちの幸福や成長を妨げるようなネガティブなフレームを、より建設的でポジティブなものへと意図的に再構築するための洗練された心理的スキルです。

 この認知フレームは、個人の過去の経験、受けた教育、所属する文化、そして個人的な信念体系といった多様な要素の相互作用によって形成されます。それは、特定の状況に対して、特定の解釈や感情的反応、行動パターンを自動的に引き起こすフィルターのように機能します。特に、私たちの心は進化の過程で危険を察知するために、否定的な情報や出来事に対してより強く、速く反応する「ネガティビティ・バイアス」を持つ傾向があり、これがネガティブなフレームを強化しやすくしています。

 ネガティブなフレームが固定化してしまうと、慢性的なストレス、意欲の減退、自己肯定感の低下、さらには対人関係の悪化といった、私たちの人生における様々な側面での不利益に繋がる可能性があります。リフレーミングのプロセスは、まず、自分が特定の状況に対してどのようなネガティブなフレームを適用しているかに「気づく」ことから始まります。この自己認識が第一歩です。

 次に、そのネガティブなフレームが本当に状況を正確に反映しているのか、そしてそのフレームを持ち続けることが自分にとって有益なのかを客観的に「問い直し」、その妥当性に意識的に「挑戦」します。続いて、その状況に対する他の可能な解釈、特にポジティブな側面、成長の機会、あるいは建設的な対処法を示唆するような解釈を積極的に「探し出し」ます。

 最終的に、見つけ出した代替フレームの中から、最も現実的で、かつ自身の目標達成や精神的安定に資すると考えられるものを選択し、それを意識的に「採用し、強化」していくという、能動的かつ段階的な認知プロセスがリフレーミングなのです。これは単なる表面的な楽観主義ではなく、認知的な柔軟性を駆使して現実をより良く生き抜くための戦略といえます。

2. 日常に見るリフレーミングの実例

 リフレーミングの概念は、私たちの日常生活の具体的な場面でその力を発揮します。例えば、「失敗」という経験を考えてみましょう。ネガティブなフレームに囚われると、「自分は無能だ」「もう挽回できない」といった自己否定的な思考が支配し、次の行動への意欲を失わせることがあります。

 しかし、これを「今回の失敗は、成功への道筋で避けて通れない学習プロセスの一部であり、具体的な改善点を明確にしてくれた貴重なデータだ」とリフレーミングすることで、失敗は終わりではなく、次なる成功へのステップへとその意味を変えます。この視点の転換は、落胆を学びへの意欲へと変え、具体的な改善行動を促します。

 次に、物質的な豊かさや機会に対する捉え方を示す例として、好きな食べ物が「半分しか残っていない」状況があります。「不足」に焦点を当てれば不満や不安が生じますが、「まだ半分も残っている」という「豊かさ」や「存在」に焦点を当てることで、感謝や満足感が生まれます。この小さな例は、限られた資源(時間、お金、エネルギーなど)に対して、私たちがどのような心構えで向き合うかという、より大きな人生哲学を反映していると言えるでしょう。ポジティブなフレームは、今あるものへの感謝を育み、日々の満足度を高めます。

 人間関係における「鬱陶しい」と感じる人物との関わりも、リフレーミングの対象となります。感情的な反応としてイライラし、エネルギーを消耗する代わりに、「この人は私とは異なる価値観を持っている。その違いを理解することは、私の多様性への理解を深める訓練になるかもしれない」あるいは、「この人の行動は、一般的に望ましくないとされることの良い例を示している。何を避けるべきかを学ぶ『反面教師』として捉えよう」と考えることで、冷静さを保ち、状況を客観的に分析する視点を得ることができます。これにより、感情的な消耗を防ぎ、より建設的な対応策を考える余裕が生まれます。

 最後に、「仕事量が多すぎる」という現代人に共通の悩みも、リフレーミングによってその受け止め方を変えることが可能です。単に「過重な負担」と捉えてストレスを感じるだけでなく、「これだけの責任を任されるのは、組織からの信頼の表れであり、自身の能力が評価されている証拠だ」「この多忙な時期を乗り越えることで、私の問題解決能力や時間管理能力は飛躍的に向上するだろう」と意味付けを変えることで、プレッシャーを自己成長の糧や、組織への貢献実感へと転換できる可能性があります。もちろん、物理的な負荷軽減は別途必要ですが、この認知的な転換は、状況への主体的な関わり方やストレスへの対処能力に大きな違いをもたらします。

3. 対人関係を豊かにするリフレーミング

 リフレーミングは、私たちの社会的な繋がり、すなわち対人関係の質を高める上で、非常に有効なコミュニケーションツールとなります。人間関係における多くの問題は、相手の意図を誤解したり、否定的な仮定に基づいて行動したりすることから生じます。例えば、友人からの返信が遅い時に、「無視されているのではないか」とすぐに結論付けるのではなく、「何か特別な事情で忙しいのかもしれない」あるいは「後でゆっくり返信しようと考えているのかもしれない」とリフレーミングすることで、不必要な心配や関係の亀裂を防ぐことができます。

 相手の言動の背後にあるかもしれない、ポジティブな意図や中立的な状況を考慮に入れる習慣は、共感力を深め、より正確な相互理解を促進します。批判的なフィードバックを受けた際にも、それを個人的な攻撃と捉えて感情的に反発するのではなく、「私の成長を願って、あえて厳しい視点を提供してくれているのかもしれない」「自分では気づかなかった改善点を示唆してくれる、貴重な情報だ」とリフレーミングすることで、防御的な姿勢から学びの姿勢へと転換し、建設的な対話の道を開くことができます。

 コミュニケーションにおける誤解が生じた場合、一方的に相手を責めるのではなく、「私の伝え方に、誤解を招くような曖昧な点はなかっただろうか」「相手はどのような文脈で私の言葉を受け取ったのだろうか」と、自他の視点を含めて状況を捉え直すリフレーミングは、冷静な原因分析と、相互理解に基づいた解決策の模索を可能にします。これは、単に問題を解決するだけでなく、関係性そのものをより成熟させる機会ともなり得ます。

 特に職場など、関係性を選択できない状況で「苦手な人」や「意見の対立する人」と協働しなければならない場合、リフレーミングは心理的な盾となり、プロフェッショナリズムを維持する助けとなります。相手の行動をその人の特性や状況に帰属させて客観視したり、その関わりから得られる学び(例えば、多様な意見への対処法、自己の感情コントロール能力の向上など)に焦点を当てたりすることで、感情的な消耗を最小限に抑えつつ、必要な協力関係を維持することが可能になります。このように、リフレーミングは他者との間に健全な境界線を保ちながら、ポジティブで生産的な関係性を築くための高度なスキルなのです。

4. ストレス軽減と問題解決能力の向上

 私たちの心身の健康を脅かすストレスに対し、リフレーミングは強力な防御策となり得ます。心理学における認知評価理論が示す通り、ストレス反応の大きさは、出来事そのものの客観的な性質よりも、私たちがその出来事をどのように主観的に解釈し、評価するかによって大きく左右されます。例えば、予期せぬトラブルに見舞われた時、「万事休すだ」と破局的に評価すれば、強いストレス反応(動悸、冷や汗、思考停止など)が引き起こされます。

 しかし、同じ状況を「これは困難な挑戦だが、乗り越えれば大きな自信と経験が得られるだろう」「既存の計画の弱点を見直す良い機会を与えられた」と、挑戦や学習の機会としてリフレーミングすることで、ストレス反応は大幅に軽減され、むしろ問題解決に向けたエネルギーが湧いてくることさえあります。締め切りが迫るプレッシャーも、「時間が足りない」という焦りではなく、「限られた時間内で最高のパフォーマンスを発揮するための集中力を試す時だ」「効率的な仕事術を実践する絶好の機会だ」と捉え直すことで、不安を前向きな力へと転換させることが可能です。

 さらに、リフレーミングは、ストレス耐性を高めるだけでなく、問題解決能力そのものを向上させる効果を持ちます。ネガティブなフレームに捉われていると、「何をしても無駄だ」「自分には解決する能力がない」といった無力感に苛まれ、問題解決への意欲自体が失われてしまうことがあります。これは「学習性無力感」と呼ばれる状態で、挑戦を避ける行動パターンに繋がります。

 対照的に、リフレーミングは、困難や障害を自己の成長機会と捉える「成長マインドセット」を育みます。問題を「解決不可能な壁」ではなく、「乗り越えるべき課題」と認識することで、粘り強く解決策を探求し、試行錯誤を厭わない姿勢が生まれます。また、問題を多角的な視点から捉え直すリフレーミングのプロセス自体が、従来の思考の枠を超えた斬新なアイデアや、見過ごされていたリソースの発見を促し、より創造的で効果的な問題解決へと導くのです。

5. 創造性とモチベーションを引き出す鍵

 リフレーミングは、私たちの内面に秘められた創造的な可能性と、目標達成への持続的な意欲、すなわちモチベーションを解き放つための重要な鍵となります。ポジティブ心理学の分野で注目されるバーバラ・フレドリクソンの「拡張-形成理論」によれば、喜び、興味、希望といったポジティブな感情は、私たちの思考の範囲を広げ、新しいアイデアや行動を探求する意欲を高める働きがあります。リフレーミングによって意図的にポジティブな心理状態を作り出すことは、この創造的なプロセスを活性化させます。

 対照的に、恐怖や不安といったネガティブな感情は、私たちの注意を脅威に集中させ、思考を狭め、既存の安全なパターンに固執させる傾向があります。リフレーミングによってネガティブな感情の影響を和らげ、好奇心や楽観性を育むことは、心を開放し、普段なら結びつかないような概念を結びつけたり、常識にとらわれないユニークな発想を生み出したりするための「認知的な柔軟性」を高めます。しばしばユーモアのセンスと創造性が関連付けられるのも、ユーモアが状況を予期せぬ角度から捉え直すリフレーミングの一形態であるためと考えられます。

 モチベーションの維持と向上においても、リフレーミングは決定的な役割を果たします。長期的な目標達成の道のりでは、必ずと言っていいほど困難や挫折が伴います。その際、「やはり自分には向いていない」「これまでの努力が水の泡だ」といったネガティブな解釈は、意欲を著しく低下させます。しかし、「この困難は、目標達成に必要な特定のスキルを強化するための試練だ」「計画のこの部分に改善点があることが明らかになった。これは貴重な学びだ」とリフレーミングすることで、挫折は終点ではなく、軌道修正や成長の機会へと意味を変え、再び前進するための動機付けとなります。

 日々の繰り返しのように思える地道な作業に対しても、「これは壮大な目標を達成するための、不可欠な基礎固めだ」「この単調な作業を通じて、集中力や忍耐力が確実に鍛えられている」といったように、より大きな目的や自己成長との繋がりを意識することで、内発的な意欲を引き出すことができます。リフレーミングは、外部からの報酬や罰に依存するのではなく、物事の意味付けを自ら主体的に変えることによって、内側から湧き出る情熱と、困難に立ち向かい続ける粘り強さ(グリット)を育むための、自己管理の核心的な技術なのです。

6. リフレーミング実践法(1):言葉と意味の再解釈

 リフレーミングを単なる概念理解に留めず、実生活で活用できるスキルとして身につけるためには、日々の意識的なトレーニングが不可欠です。その中でも、即効性があり、かつ効果的な方法の一つが、「日常的に使う言葉遣いを意識的に見直し、変える」ことです。私たちが発する言葉、あるいは頭の中で繰り返す自己対話は、私たちの感情や思考、さらには行動にまで強い影響力を持っています。例えば、「問題だらけだ」と感じる状況を、「解決すべき課題がたくさんある」と言い換えるだけで、受け身の被害者意識から、能動的な挑戦者の意識へと変化する可能性があります。

 具体的な言葉の置き換え(ワードスワップ)の例としては、「不安だ」を「期待で少し興奮している」、「失敗した」を「学んだ」「改善点が見つかった」、「忙しすぎる」を「多くの機会に恵まれている」「充実している」、「批判された」を「フィードバックを得た」「異なる視点を知る機会を得た」などが考えられます。これらの言葉の選択は、単なる言い換えに留まらず、その状況に対する私たちの基本的な態度や感情的な反応を微妙に、しかし確実に変えていきます。ポジティブ、あるいは少なくとも中立的で建設的な言葉を選ぶ習慣は、自己肯定感を高め、前向きな行動を促進する自己暗示としても機能します。

 もう一つの重要な実践法は、「一つの出来事や状況が持つ、複数の意味合いを積極的に探求し、その中からポジティブあるいは建設的な側面を選び出す」練習です。ほとんどの出来事は、単純な白黒で割り切れるものではなく、様々な側面や解釈の可能性を内包しています。例えば、昇進が見送られたという出来事に対して、ネガティブな側面(失望、自己評価の低下)にのみ焦点を当てるのではなく、他の可能性(現職での経験をさらに積む機会、準備不足だった点を見直す機会、より自分に適したキャリアパスを考えるきっかけ)を意識的に探します。

 この複数の意味を探求する具体的なテクニックとしては、「この状況から得られるポジティブな教訓は何か?」「この経験が、長期的に見てどのようなメリットに繋がる可能性があるか?」「もし親友が同じ状況だったら、どのようなアドバイスをするか?」といった自問自答を習慣化することが挙げられます。また、考えられる解釈を紙に書き出してリスト化したり、信頼できる第三者に意見を求め、異なる視点を取り入れたりすることも有効です。重要なのは、現実を歪曲するのではなく、現実に存在する多様な意味の中から、自己成長や問題解決に最も役立つ解釈を選択し、それを自分の認識の基盤とする認知的な努力を続けることです。

7. リフレーミング実践法(2):自己認識と柔軟な思考

 リフレーミングを効果的に実践し、その恩恵を最大限に引き出すためには、「自分自身のネガティブな思考パターンや、陥りやすい認知の歪みに気づく」という高度な自己認識能力(メタ認知)が不可欠です。私たちは誰しも、ストレス下や特定の状況において、自動的に発動してしまう否定的な思考の癖を持っています。例えば、一つのミスを自分の全人格の欠陥のように捉える「過度の一般化」、物事を常に最悪のシナリオで予測する「破局化」、全てを完璧か無価値かの両極端で判断する「二極思考」などが、その典型例です。

 これらの無意識の思考パターンに気づくためには、日々の自分の内面に注意を向ける練習が必要です。強い感情(怒り、悲しみ、不安など)を感じた時に、一歩引いて「今、私は何を感じているか?」「その感情は何によって引き起こされたか?」「その引き金となった出来事を、私はどのように解釈したか?その解釈は本当に唯一の、あるいは最も妥当なものか?」と自問自答する習慣は、自己の思考プロセスを客観視する力を養います。マインドフルネスの実践や、日々の感情と思考を記録するジャーナリングも、この自己認識を深める上で非常に有効なツールとなります。大切なのは、これらのパターンに気づいた際に自己嫌悪に陥るのではなく、「ああ、自分にはこういう考え方の傾向があるのだな」と、非難することなく、ありのままに観察し受け入れる態度です。

 そして、リフレーミングを自由自在に行うための究極的な鍵は、「『こうあるべきだ』『こうでなければならない』といった固定観念や硬直した思考から脱却し、柔軟な認知の姿勢を育む」ことです。強い信念や固定観念は、時に安定感を与えてくれますが、同時に新しい視点や異なる解釈を受け入れることを妨げる壁ともなり得ます。「失敗は絶対に許されない」「常に他人の期待に応えなければならない」といった硬直した思考は、状況をより建設的に捉え直すリフレーミングの適用を著しく困難にします。

 思考の柔軟性を高めるためには、まず「知的謙虚さ」を意識的に培うことが重要です。「自分の考えが絶対的に正しいとは限らない」「世の中には多様な価値観や解釈が存在する」という認識を持つことで、異なる意見や予期せぬ出来事に対しても、よりオープンな態度で向き合うことができます。具体的には、自分の意見とは異なる視点の書籍を読んだり、多様な背景を持つ人々と積極的に交流したり、敢えて自分の思い込みに挑戦するような問いを立ててみたりすることが有効です。

 結論として、リフレーミングは単なる一時的なテクニックではなく、継続的な自己省察と意識的な実践を通じて磨かれる、生きる上での重要なスキルです。このスキルを習得し活用することで、私たちは変化に対する適応力を高め、感情的な知性を深め、より豊かで、回復力のある、そして主体的な人生を築いていくことができることでしょう。

企業人事が見る「リフレーミング」の戦略的価値

 人事として、私たちは常に、従業員の幸福度、生産性、そして組織全体の健全性を向上させるための施策を模索しています。その中で、「リフレーミング」という心理学的なスキルは、個々の従業員の成長支援から、組織文化の醸成に至るまで、人事戦略において非常に重要な意味を持つと認識しています。これは単なる個人の心構えの問題ではなく、組織のパフォーマンスと持続可能性に直結する、育成すべき重要なコンピテンシーの一つです。

1. 組織におけるリフレーミングの定義と重要性

 リフレーミングとは、従業員が職場で直面する様々な出来事や課題(例えば、プロジェクトの遅延、期待通りの成果が出ないこと、困難な人間関係、組織変更、高い業務負荷など)に対して、その捉え方を意識的に転換するスキルを指します。ネガティブでストレスフルな解釈(「失敗だ」「もう無理だ」「あの人のせいだ」)から、より建設的で、成長や解決策に繋がるようなポジティブな解釈(「学びの機会だ」「どうすれば改善できるか考えよう」「異なる視点を知るチャンスだ」)へと視点を変えることです。

 このスキルが組織全体に浸透することは重要です。なぜなら、従業員一人ひとりの認知のあり方が、チームのダイナミクス、部門間の連携、そして最終的には組織全体の文化と業績に影響を与えるからです。変化が激しく、不確実性の高い現代のビジネス環境においては、困難な状況にしなやかに対応し、前向きに乗り越えていく力が不可欠であり、リフレーミングはその中核をなすスキルと言えます。

2. 従業員のウェルビーイングとメンタルヘルスへの貢献

 人事部門にとって、従業員のメンタルヘルス維持とストレス管理は最重要課題の一つです。リフレーミングは、この課題に対する強力なソリューションとなり得ます。日常業務で発生するプレッシャーや挫折、対人関係のストレスなどを、個人がより肯定的に捉え直すことができれば、過度なストレス反応を抑制し、精神的な負担を軽減することができます。

 例えば、厳しいフィードバックを受けた際に、「自分はダメな人間だ」と捉えるのではなく、「成長のための具体的な指摘をもらえた」とリフレーミングできれば、自己肯定感の低下を防ぎ、前向きな改善行動に繋がります。仕事量が多い状況も、「押し潰されそうだ」ではなく、「期待され、多くの経験を積む機会を与えられている」と捉えることで、ストレスをエンゲージメントへと転換できる可能性があります。リフレーミングスキルの向上は、従業員のバーンアウト予防、メンタルヘルス不調の低減、そして全体的なウェルビーイングの向上に直接的に貢献し、結果として休職率の低下や医療費の抑制にも繋がる可能性があります。

3. コミュニケーション円滑化とチームワークの向上

 組織内におけるコミュニケーションの質とチームワークは、生産性を左右する重要な要素です。リフレーミングは、これらの側面においても顕著な効果を発揮します。チーム内で意見の対立や誤解が生じた際、各メンバーが相手の立場や意図を否定的に決めつけるのではなく、「異なる視点を持っているだけかもしれない」「何か背景があるのかもしれない」とリフレーミングすることで、感情的な対立を避け、建設的な対話を進める土壌が生まれます。

 例えば、会議で自分の意見が否定されたと感じた時、「個人的に攻撃された」ではなく、「より良い結論を出すための健全な議論の一部だ」と捉え直すことで、冷静さを保ち、議論に貢献し続けることができます。また、他部署との連携で問題が発生した場合も、「相手の部署が協力的でない」と決めつける前に、「相手には相手の事情や優先順位があるのかもしれない。どうすれば協力しやすくなるか考えてみよう」とリフレーミングすることで、部門間の壁を低減し、よりスムーズな協働を促進できます。人事としては、このようなコミュニケーション改善が、ハラスメントを含むコンフリクトの発生を未然に防ぎ、より健全で心理的安全性の高い職場環境の構築に繋がることを期待します。

4. パフォーマンス向上とイノベーションの促進

 従業員のパフォーマンス向上と、組織全体のイノベーション創出は、人事戦略の核となる目標です。リフレーミングは、従業員が挑戦を恐れず、失敗から学び、継続的に成長していくための「成長マインドセット」を育む上で不可欠です。目標達成過程での困難などを、「能力不足の証明」ではなく、「解決すべき課題」や「新たなアプローチを試す機会」と捉えることで、従業員は粘り強く取り組み、より高い成果を目指すことができます。

 特に、パフォーマンスレビューやフィードバック面談において、マネージャーがリフレーミングの視点を用いることは極めて重要です。改善点を伝える際に、単なる欠点の指摘ではなく、「このスキルを伸ばすことで、あなたはさらに大きな貢献ができるようになる」といった成長の可能性を示す形で伝えることで、従業員の受け止め方は大きく変わり、前向きな行動変容を促すことができます。
 また、新しいアイデアがすぐに受け入れられなかった場合でも、「このアイデアはダメだった」と諦めるのではなく、「どのように改良すれば、より実現可能性が高まるだろうか」「タイミングや伝え方を変えてみよう」とリフレーミングすることで、イノベーションの芽を育み続けることができます。

5. エンゲージメントとモチベーションの維持向上

 従業員エンゲージメントとモチベーションの維持・向上は、離職率の低下と生産性向上に直結する、人事の重要指標です。リフレーミングは、従業員が日々の業務に対して持つ意味付けを変え、内発的な動機付けを高める力を持っています。困難なプロジェクトや高い目標を与えられた際に、「無理難題を押し付けられた」と感じるか、「自分の能力を信頼され、挑戦的な機会を与えられた」と感じるかで、その仕事への取り組み姿勢は全く異なります。

 後者のようにリフレーミングできれば、困難な状況であっても、従業員はそれを自己成長や達成感に繋がるものと捉え、より高いエンゲージメントを持って業務に臨むことができます。また、組織の変革期など、不安を感じやすい状況においても、「変化は脅威だ」ではなく、「新しい可能性が生まれるチャンスだ」「組織と共に自分も成長できる機会だ」とリフレーミングすることで、変化への抵抗感を和らげ、前向きな適応を促すことができます。エンゲージメントの高い従業員は、自律的に行動し、組織への貢献意欲も高いため、組織全体の活性化に繋がります。

6. リーダーシップ開発と組織文化へのインパクト

 リフレーミングは、特に管理職やリーダー層にとって必須のスキルです。リーダーがリフレーミングを実践し、部下とのコミュニケーションや指導に活かすことで、チーム全体の雰囲気が大きく変わります。部下の失敗を単に叱責するのではなく、学びの機会として捉え、共に解決策を考える姿勢を示すリーダーは、部下からの信頼を得て、心理的安全性の高いチームを築くことができます。また、困難な状況においても、リーダーが率先してポジティブな側面を見出し、希望を示すことで、チーム全体の士気を高め、逆境を乗り越える力を引き出すことができます。

 組織全体としてリフレーミングのスキルが重視され、実践されるようになると、それは組織文化そのものにポジティブな影響を与えます。失敗を恐れずに挑戦することが奨励され、多様な意見や視点が尊重され、困難な状況にも柔軟かつ前向きに対応できる、いわゆる「レジリエント(回復力の高い)」な組織文化が醸成されます。このような文化は、従業員の定着率を高めるだけでなく、外部からの優秀な人材惹きつけにも繋がり、企業の持続的な成長を支える基盤となります。

7. 人事施策への展開と結論

 以上の観点から、企業人事はリフレーミングを重要な人材開発テーマとして位置づけ、具体的な施策に落とし込むべきです。例えば、リーダーシップ研修、コミュニケーション研修、ストレスマネジメント研修、レジリエンス研修などのプログラムにリフレーミングの考え方と実践方法を組み込むことが考えられます。また、パフォーマンスマネジメントのプロセスにおいて、マネージャーが建設的なフィードバックを行うためのスキルとしてリフレーミングを指導することも有効です。さらに、組織開発やチェンジマネジメントの取り組みにおいても、従業員の視点を転換し、変化への適応を支援するツールとして活用できます。

 結論として、リフレーミングは、個々の従業員の精神的な健康と成長を支え、チームワークとコミュニケーションを改善し、組織全体の生産性、エンゲージメント、そして適応力を高めるための、非常に費用対効果の高い「心のインフラ」投資と言えます。私たち人事担当者は、このスキルの重要性を認識し、組織内に浸透させるための戦略的な取り組みを推進していくことが、企業の持続的な成功に不可欠であるでしょう。


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