AI時代の人事進化論:テクノロジーで「個」の才能を科学し、組織の未来を拓くーAoba-BBT経営人材育成サミット2025:岩本隆氏、源田泰之氏、進藤竜也氏、政元竜彦氏
Aoba-BBTの「次世代経営人材育成サミット2025」。2025年12月3日に、『人事はテクノロジーで進化する〜AI時代の“人を見る力・育てる力”を問い直す〜』というテーマで開催されました。登壇者は岩本隆氏(慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師/山形大学 客員教授)、源田泰之氏(ソフトバンク株式会社 執行役員 コーポレート統括)、進藤竜也氏(セプテーニグループ株式会社 人的資産研究所 代表取締役)、政元竜彦氏(株式会社Aoba-BBT 取締役副社長)の4氏でした。

1. HRテクノロジーの進化と「AIエージェント」の台頭
HRテクノロジー市場はグローバルで急成長を続けており、現在は「生成AI」から、自律的にタスクを遂行する「AIエージェント」へと活用の中心が移り変わっています。この変化は、単なる業務の効率化にとどまらず、働き方そのものを再設計する「働き方改革2.0」の実現を加速させています。テクノロジーで代替可能な業務はAIに任せ、人間は「AIにはできないこと」や「AIを活用すること」に時間を割くことで、時間あたりの生産性を飛躍的に高めることが目指されています。
また、国際規格であるISO30414のアップデートや、日本における人的資本可視化指針の策定など、人的資本経営への注目は世界的に高まっています。特に「育成」や「リーダーシップ」は企業価値向上に直結する重要領域と定義されており、経営戦略と連動した人材戦略の策定が不可欠となっています。これに伴い、人事部門は従来のオペレーション中心から、現場のビジネスパートナー(HRBP)として「人間科学」の理解と「データ」に基づいた客観的な議論を両立させる役割へと進化が求められています。
2. 「育成の方程式」とイノベーション人材の発見
データとAIを活用して「人を見る・育てる」力を科学的に追求するアプローチとして、「育成の方程式」という考え方があります。個人の成長(Growth)は、本人の個性(Personality)と、上司やチーム、仕事の内容といった環境(Environment)の掛け合わせによって決まるという概念です。
この方程式を運用するために、簡潔な360度フィードバック(レピュテーションデータ)を蓄積し、誰がどのような環境で最も輝くのかを可視化する試みが進んでいます。特筆すべき発見は、従来の組織で「問題児」や「変わり者」と見なされがちな尖った人材こそが、実は新規事業を切り拓く「イノベーション人材」であるという事実です。こうした人材は採用市場にわずか3%程度しか存在せず、既存の組織文化の中では早期離職のリスクも高いですが、データによって彼らの特性を正しく理解し、適切な配置と抜擢を行うことで、企業の変革を牽引する力に繋げることが可能です。
3. ソフトバンクにおけるAI共存社会の実装
最先端の事例として、ソフトバンクでは全社員がAIを使い倒す環境を徹底的に整備しています。単にツールを導入するだけでなく、1人100個のAIエージェントを作成するミッションや、賞金付きの生成AIコンテストを通じて、現場から26万件ものアイデアを創出しています。
同社の戦略の核心は、生成AIの活用によって筋肉質化した組織から余剰リソースを生み出し、その人材をリスキリングによって新規事業領域へと大胆にシフトさせる「人材ポートフォリオの再編」にあります。また、孫正義氏の後継者を育成する「ソフトバンクアカデミア」や、社内起業制度である「ソフトバンクイノベンチャー」など、手挙げ制(公募制)を中心とした自律的なキャリア形成の仕組みが、挑戦を尊ぶ文化を支えています。
4. 総括:人とAIの「共同」が拓く未来
これからの人材育成においては、AIを徹底的に使いこなす一方で、構想力や共感力といった「人間ならではの能力」を磨く「両建て」のアプローチが重要です。テクノロジーによって個々人の特性をより深く理解し、それぞれが持つ可能性を最大限に引き出すこと。それこそが、人口減少社会におけるHRの進化の在り方であるといえるでしょう。
企業人事の視点から:テクノロジーを「個の可能性」を拓く力に変える
データと科学の視点で「相性」を再設計する
日々の業務の中で、配属や異動の決定に悩むことは少なくありません。多くの場合、過去の経験則や現場の要望に基づいた判断になりがちですが、これからは「育成の方程式」のような科学的な視点を取り入れたいところです。個人の資質と、配属先のリーダーやチーム文化との「相性」を定量的に捉えることで、個人のパフォーマンスを最大化させる最適解を見つける一手となり得ます。
特に、現場での評判やレピュテーションをデータとして蓄積する試みは、非常に示唆に富んでいます。従来の主観的な人事評価だけでなく、周囲からの「一緒に働きたい」という信頼の度合いを可視化することで、数字には表れにくい貢献や潜在的なリーダーシップを見出すことができるようになるのではないでしょうか。
「異質な才能」を守り育てる仕組みづくり
組織を強くするためには、マジョリティとは異なる特性を持つ「イノベーション人材」の存在が欠かせません。しかし、こうした人材は既存の評価制度や組織の同調圧力の中で、その才能を十分に発揮できず、埋もれてしまったり離職してしまったりすることも考えられます。
そこで、データを用いて彼らの特性を早期に把握し、既存の枠組みにとらわれない特別な育成計画や抜擢の場を用意することが考えられます。彼らを「扱いづらい人材」として排除するのではなく、変革の種として大切に育む。そうした寛容さと戦略性を兼ね備えた組織への進化を目指したいものです。
業務代替の先にある「攻めのリスキリング」
AIの普及によって多くの業務が効率化されることは間違いありませんが、それは決して人員削減のためだけのものではないと考えたいところです。AIによって生まれた時間のゆとりを、いかにしてより付加価値の高い業務や新規事業への挑戦へと繋げていくか。この「人材の再配置」と、それに伴う「リスキリング」の設計こそ、今取り組むべき大きなテーマです。
単にスキルを習得させるだけでなく、社員一人ひとりが「自ら学び、変わりたい」と思えるような、手挙げ制のプログラムや社内起業の機会を整える。ソフトバンクの事例のように、テクノロジーを使い倒す環境と、自律的なキャリア形成を後押しする制度をセットで運用することで、組織全体の活力を高めることが可能になるといえるでしょう。
経営と対話するための「共通言語」を持つ
人的資本経営が叫ばれる中、人材戦略をいかに定量的なデータで経営層に提示し、議論を深められるかも重要です。ISO30414のような国際基準やスキルマップを参考にしながら、自社独自の「人材要件」と「現状のギャップ」を可視化する「人材過不足会議」のような場を設けることも、有効なアプローチとして考えられます。
「人が大切だ」という抽象的な議論を超えて、データという共通言語を用いることで、ファイナンスや事業戦略と同じ土俵で人材について語る。そのような姿勢を持つことで、経営の意思決定において人材戦略がより中心的な役割を担うようになっていくのではないでしょうか。
人間にしかできない「意味付け」と「構想」に注力する
テクノロジーが進化すればするほど、最後に重要になるのは、私たち人間にしかできない「問いを立てる力」や「未来を描く構想力」であるといえるでしょう。AIは過去のデータの延長線上にある最適解を出すことは得意ですが、ゼロから新しい価値を生み出し、他者の心を動かすのは人間の役割です。
研修や教育の場においても、知識の習得だけでなく、リベラルアーツの研鑽や他流試合を通じた視座の向上など、人間力を磨く機会をより重視したいところです。テクノロジーを賢く味方につけながら、個々の社員がその人らしく輝き、組織としての創造性を爆発させる。そのような未来を信じて、一歩ずつ歩みを進めていきたいと考えます。

