【真宗大谷派】宗派経常費御依頼について〜制度のあらましと問題点〜
はじめに
さて、今回はタイトルにある通り宗派経常費御依頼について説明していこう。なお、この記事は住職をやる事になったはいいものの、まるで宗派の知識なんてないよ困ったな、という新米住職、教師の方に向けて執筆する。
ただ、御門徒の方にとっても
「あぁ、毎年納めているお金はこのような内容であったのか」
とぜひ知っていただきたいので、適宜、説明を加えながら読みやすいものになるように努めた。
その前段階の知識としては宗派運営予算の基礎知識が必要になるため、以前のnoteも見ていただきたい。
では、順を追って説明していこう。
宗派経常費御依頼について
そもそも宗派経常費御依頼(以下、「御依頼」)とは毎年の宗教法人「真宗大谷派」(京都の東本願寺を含め、全国の真宗大谷派寺院を包括する宗教法人)の予算約90億円のうち、50億円弱を全国の大谷派寺院(8400ヵ寺)へ割当する制度のことだ。
誰がその金額を決めるのか
これは内局(ないきょく)という、国で言う内閣に相当する組織が決める。
主に僧侶の選挙で選ばれた議員の代表者で構成されており、大谷派としての動き、東本願寺での儀式だったり、研修会をしたり、最近だと能登半島地震の復興支援をしたりと、そうしたお仕事全般を、教団の目的である「同朋社会の顕現」につながる「宗務」(しゅうむ)と位置付けるが、その宗務執行の全責任を負うのが内局である。
国で言う総理大臣に相当する宗務総長(しゅうむそうちょう)を筆頭にした5人の参務(さんむ・大臣のような立ち位置)から成る内局が毎年、「いくらをどこに割当するのか」を決めるのだ。
毎年度、国会に相当する宗会(しゅうかい)で予算全体が議論され、その予算に基づき、内局は御依頼額を決定している。
ちなみにこの「割当」は「わりあて」とは読まない。「かっとう」と言う。
内局はどこに対し、その金額を割当するのか
先ほど、全国の大谷派寺院へ割当すると言ったが、実は内局が直接寺院へ割当するのではない。
ここで、真宗大谷派の組織全体を確認しておく。
全国8400の大谷派寺院はそれぞれ10前後〜30前後の集まりである「組」(そ)を形成しており、その「組」は行政区域や歴史に基づき、全国22の「教区」(きょうく)に分属されている。
(※2025年7月追記、教区再編成で現在は18教区)
中央(東本願寺)で議論された真宗大谷派の方針は基本的に「教区」に伝達され、その「教区」から「組」へ、「組」から「寺院」へ、と言う流れをとる。
そのため、御依頼については内局は各教区へとまず割当する。そして、各教区では各教区所属の僧侶、門徒で議会を構成しているので、そこで話し合い、各組、あるいは各寺院への具体的な割当金額を議決するのである。
これは、宗務執行の原資の大部分を占める御依頼を、しっかりと宗派を構成する教区として、寺院として完納を目指していくという責任の現れとも言える。
なお、教区が直接寺院への割当金額を決める場合もあれば、組への割当にし、その後に組内での話し合いで寺院への割当金額を決める場合もある。
納め方について
さて、ここまで御依頼のあらましについて確認してきたが、おそらくここまでの情報なら実際に教区HPなどで目にすることができる情報だが、ここから先は耳馴染みのない方も多いと思う。
では、納め方について、見ていこう。ちなみに割当方法は各教区異なるが、以下の納め方は全国共通である。
1−1 相続講として納める〜積立〜
これが一番基本にして、一番複雑な納め方だ。そもそも相続講とは、東本願寺が明治に至るまでに4度の大火により焼失し、その度に建て直されてきた際に生じた莫大な借財を返すために始まった制度である。全国の門徒は講員となり、毎年一定額を拠出し、その金額が一定になると「〇〇院」という法名の上につく院号や、東本願寺にお骨を収められる権利(収骨)が賞典(ご褒美)として与えられる。
よって、お寺は自分が預かっている門徒に声かけをし、一件あたり幾らという積み立てをお願いし、寺院に来た御依頼額相当を門徒から集め、納めるのである。
門徒さん視点からしたら、おそらく毎年、お寺の維持費に合わせて、「相続講金」や「宗門護持金」といった名称で別途集められている金額があるのではないだろうか。これについては各寺院まちまちのやりかたである。
仮に御依頼が100万円来たとして、200件の門徒に5000円を拠出してもらえば
5000*200で100万円、これを持って当該のお寺はその年度の御依頼を完納した事になる。
1−2 相続講として納める〜院号法名・収骨〜
そうは言っても、現代社会の変容では、若い時からこつこつお寺に積立、なんていうのはとても難しい。そして前段で確認した一定額積み上がった賞典としての院号、収骨も、もはや院号の代金、収骨の代金、として捉えられているし、住職も、
「院号が欲しかったら8万円を本山に収める必要がある」
と、説明されている方も多いと思う。
実はこの金額は毎年コツコツ積み立てなくても、いきなりその金額を収めてもかまわないのだ。ちなみに収骨は12万円の賞典。院号と合わせると20万円になる。
なので、仮に御依頼が100万円来たとして、3件の門徒が葬儀の時に院号収骨を希望され、5件の門徒が院号を希望したならば、
20万*3 + 8万*5 で100万円、これを持って当該のお寺はその年度の御依頼を完納した事になる。
ここで一つおさえておいてほしいが、当然この金額は全て本山へと収められるので、当該寺院の会計にはなにも収入がない。
また、積立という表現を使っているが、預貯金ではないため、祖母が相続講で100万円積立ていたんです、という場合でもその100万円は本山に拠出した実績額であり、すでに研修会や人件費、儀式の時の蝋燭代などなどに使われているわけなので引き出せるような性質のものでもないというのは当然である。
1−3 相続講として納める〜予納〜
これが一番知名度が低い。知らない住職も大変多い。あらましを説明すると、例えば1-1の積立にしろ、1-2の院号法名・収骨での収め方にしろ、寺院によっては不安定かもしれない。要はコンスタントに葬儀がなければ院号法名・収骨のニーズはそうそう生まれないし、積立にする場合もしっかりと期日までに入るかどうかの見通しが立たない。
もし、想定より収納がなければ、御依頼「未完納」寺院となり、教区によってはペナルティが独自に教区内の取り決めとして課されるケースもある。
よって、最近選択する寺院が増えてきたのが「予納」だ。毎年8月に寺院には御依頼割当の通知がなされるが、通知が来た瞬間に寺の会計からの持ち出しで先に割当金額を納めてしまうのだ。
仮に100万円とするが、これをすることで「早期完納」寺院となり、手続き上のメリットもある。
では、その後で門徒からの積立や院号収骨の依頼が来たらどうすればいいのか?
当然、超過して追加で納めるという選択をしても構わないが、相続講には「予納切り出し」というシステムがある。
例えば100万円を予納していた寺院に、門徒が院号法名を取りたいと8万円を持参された。その場合、住職はその8万円を寺の会計に入れ、院号の申請に使う8万円を予納の100万円の中から充てることができるのだ。
これにより、寺院は端数も含めてぴったりの金額で御依頼を納めることもできる。
ちなみに積立も申請もすべて寺院が行うので、門徒の方はまず寺院に相談してほしい。
2 同朋会員志として納める
さて、次に多いのがこの同朋会員志だ。宗派は各寺院に聞法会の場が開かれることを願っており、そのための活動を同朋会運動として長らく展開している。この会員志はそれに資する金員だ。寺院は仮に100万円を同朋会員志で納めた場合、奨励として10%の還付金が受けられる。(将来的に制度変更の可能性あり)
要は1割引のようなものだ。「お得だ!」と思うかもしれないが、これは同朋会員志として納めている以上、相続講賞典とはなんら関わりはない。
もし、門徒の方が収骨をしたいと言ってきた時は別途12万円を相続講として納める必要があるのだ。
ちなみに組み合わせることもできるので、基本は相続講、残りの金額は同朋会員志で納めるお寺も多い。
収骨をする場合は京都の東本願寺まで行かないといけないので、距離的に北海道や九州などはニーズが極端に低い。そうした地域は全額を同朋会員志で納めるというケースが多い。
3 正信偈書写本を買う
宗祖親鸞聖人がお生まれになって850年、真宗を開かれて800年という節目を2023年に迎え、その記念の慶讃法要を行なったが、その時の記念品として、正信偈書写本を作成した。
門徒の方が手に取って書写し、日々のお勤めでお使いいただけるように、また書いたものを子供や孫に手渡していただけるように、そうしたものだ。
1冊2000円だが、実はこれ、法要が終わった現在も引き続き取り扱いが続いており、その購入金額は御依頼に充当できるのだ。以下にリンクを貼っておこう。
当然、相続講でもなければ同朋会員志でもないので、上述の賞典やキャッシュバックなどの各種取り扱いはない。
https://www.higashihonganji.or.jp/assets/pdf/ohtaniha/kyouka/top/data25.pdf
4 願事礼金(一部)を充当する
これぞまさに知る寺院ぞ知るような取り扱い。宗派へは法人規則を変更したり、住職を交代したり、得度をしたりとさまざまな手続きがなされるが、その際には事務手数料のような形で願事礼金を支払う。基本的に御依頼とは全く無関係である。
しかし、僧侶が法要の際に座る場所(座次)を進席する(上がる)手続きや、着用できる衣の種類や色を申請する手続きの際に発生する願事礼金については御依頼に充当できるのだ。
なので、その年度に手続きを予定している寺院は予めいくらの礼金が発生するかを教務所(教区に設置されている宗派の役所)に問い合わせておき、その分を差し引いた経常費を納めると超過が発生しない。
ただ、基本的には1万円前後の金額である。
5 本山永代経、申経
これも知名度が低い。
本山読経(永代経・申経)
本山永代経・本山申経の一部は、直接本山での申し込みも可能ですが、原則として所属の寺院(教会)を通じた事前手続きをお願いしています(六種申経を除く)。
特に、本山永代経の特等・一等、本山申経の特種・一種は、必ず寺院(教会)を通じた事前の手続きが必要です(事前の申請がない場合、「別座」のお扱いができません)。
ご参拝希望日の1ヵ月前までを目途に所轄の教務所にてお手続きをお願いします。本山読経の詳しいお扱いについてはこちらからご確認ください。
読経志の納金は、宗派経常費として、寺院(教会)への御依頼に充当されます。
要は京都の東本願寺にお参りに行った時にお経付きの寄付を申し込めば、それも寺院の納めるべき経常費に充当されるというわけだ。
まとめ
慣例とされるゆえにあまり細かな納め方などについては説明書などなく、それゆえに住職がなくなり急遽継ぐ事になった若住職などはそもそもの御依頼、またその納め方がわからず苦労された方も多いだろう。これまでのまとめが少しでも理解の一助になれば嬉しい。
発展 経常費御依頼の問題と平準化について
ここからは、より専門的な内容になる。現在、宗派も改革に取り組んでいる内容になるので、しっかりと確かめていきたい。
前述の通り、御依頼は内局が決めるということがあるが、全教区一律ではない。教区間格差がある。そしてこの格差こそが問題の種になっている。
以下、観点を一つ一つ確かめながら見ていこう。
1 具体的な内局の割当について
毎年総額を内局が定め、その額を以下の基準で割り各教区へ「御依頼」がなされている。また、門徒戸数調査とは宗派が全ての寺院に対して定期的に行う調査であり、これにより教勢の実情や、御依頼割当のベースとなる「どれだけの門徒がいるのか」という情報を把握する。
当然、同じ門徒でも「毎月お参りに行く門徒」もあれば、「法事しか付き合いのない門徒」もいる。それらを独自の基準によって1門徒とか0.5門徒とか0.3門徒などとカウントし、共通一律の「門徒指数」というものを弾き出している。
【参考】内局の教区への割当(2024年度)
①第4回門徒戸数調査によって得られた「門徒指数」【80%】
②「御依頼実績(過去20カ年度平均)」【10%】
③「寺院均等割」【5%】
④「経済指標」【5%】
+若干の内局の調整。
お気づきと思うが門徒指数100パーセントではないことで、各教区ごとに1門徒指数あたりの単価が違う割当となっている。この点が「格差」発生源である。
ちなみに経済指標は行政が出している平均年収などの指標だ。東京の門徒と田舎の門徒を完全に同じ金額ベースで考えるのはそれはそれでね。
2 教区間格差とその問題点について
この格差は、約20年にわたる取り組みの結果、徐々に解消しつつあるものの、依然として2倍を超える格差が生じているとの報告が上がっている。
同じ真宗大谷派の門徒でありながら、ある教区の御門徒はある教区の倍を超える金額で算定され、御依頼がなされている。その点が不公平であると、各教区からもたびたび内局に対して申し入れがなされてきた。
3 御依頼割当自体に対する教区から本山(内局)への働きかけについて
しかし、実はこの格差、昔はもっと大きかった。
門徒戸数調査を行う前も当然、宗派運営資金の大部分は各教区へ御依頼をしていたが、調査をしていない以上、門徒戸数の十分な把握をしないまま各教区へ御依頼がなされていたのだ。
よって、 「正確な門徒戸数の把握こそが急務である」との宗門世論を受け、これまで4回にわたり門徒戸数調査は実施されてきた。
たまに門徒戸数調査に対して
「本山はこんな意味のない調査をしてけしからん!!」
というふざけたことを言う住職もいるが、この調査自体がかつてふざけた御依頼をしていた宗派に対して、全国の寺院からの申し出で始めた調査なので、少しは歴史を知れよと感じる。寺院側が本山に要望して始めさせた調査ですよ。やめたところで、今後は何を根拠に御依頼させるつもりなんだろうか。
少し話が逸れてしまった。 そして、この門徒戸数調査結果を 10 割使用した御依頼ができれば、どの教区の御門徒に対しても同じ金額で算定することができ、御依頼割当基準の平準化がなされた、と言えるわけだ。
※門徒戸数調査結果を用いる以前の御依頼は「千分率」と呼ばれ、1968 年に策定さた。しかし、高度経済成長期、その後の過疎過密化に伴う人口移動に対応できていたとは言い難く、また各教区の割当基準も非公開だった。
4 第4回門徒戸数調査結果の数値が 10 割使用されていない
さて、10割使用を目指し、どの教区の門徒でも平等な御依頼のために4回にわたる調査をしてきたが、1で確認した通りその調査結果は8割使用にとどまっている。
その理由は以下だ。
将来的には門徒指数を10割使用した割当基準を策定すべきとの認識はあるもの
の、現時点においては時期尚早であると判断した。
内局は御依頼割当を決める時に、有識者会議を開き意見を伺うが、その会議では「まだ10割使用には早い」と言う提言がなされたのだ。
当然ながら、平準化を目指すという目的は変わりなく進められる。その動きのひとつとして、先の報告書内でも時期尚早の理由として言及された「門徒戸数調査に対する寺院の意識の温度差、正確性の問題」に対して、継続点検の実施など種々の施策を打っている。
5 御依頼の減額に向けて
先述の 10 割使用を見送った理由として、調査結果の正確性を担保できなかった点に加えて、もう一点、答申で言及されていたものは「そもそもの御依頼の減額」である。要は元になる金額が高すぎると言うことだ。
そのために、宗派は行財政改革推進本部を設置したり、教区を合併させて経費の削減・最適化を図る、土地活用をして財を創出するなどの施策に奔走している。
まとめ
「ひとりひとりの懇志によって宗門の運営が成り立つ」ことが宗派運営の大前提であるが、現実的に懇志を集める手法としては、宗派が各教区に御依頼を割当する、という方法に帰着せざるを得ない。
形は違えど、他宗派でも会員制度やメンバーシップ制度などで年会費などの毎年定額の形で運営基礎資金を集めるケースが多い。
そうであればこそ、その割当基準に格差をつけない、割当基準の平準化は急務であることは自明であり、正確な門徒戸数把握という意味で門徒戸数調査結果は大変重要な意味を持つ。なので、もしこの文章を読んでくださった住職がいらっしゃるのであれば、次回門徒戸数調査実施時には真摯に取り組んでいただきたい。
ここまでの文章を読んでくださった方には深く感謝申し上げるとともに、宗派経常費御依頼とそれをめぐる諸問題の理解の一助となれば大変嬉しく思う。
