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やくざい師の叶え薬~ケアテイカー優の場合~ 【六】


SNSでの拡散


【投稿】
こないだ、大金井公園でスケボー練習してたら、転んで右足首がありえない角度に曲がった。マジで百八十度くらい。
大会控えてたから絶望してたけど……
そこに突然、女神みたいな人が現れて、足を触った瞬間に痛みが消えた。
嘘みたいだけど、本当の話。
ありがとう!どこかで見ててくれてるなら。
明日の大会がんばります!

【コメント】
え、何言ってんのこの人
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練習しすぎて幻覚見た説wでもがんばってな〜w



【投稿】
うちの爺ちゃんが大金井公園よく散歩してるんだけど、この前転んで膝から血出してたらしい。
そしたら女の人が現れて「膝を交換してくれた」とか言ってて「ああ、爺ちゃんボケはじめたのかな」って心配してたけど……
まさか、あの人?

【コメント】
何それ、大金井公園、こわぁ
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じつは私も……(以下省略、詳細は言えません)
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乗っかるやつ、出てきた乙w

【投稿】
≪体験談≫ 女の子の母親です。娘が大金井公園近くの小学校に通っています。
ある日、登校中に転んで膝をすりむいて泣いていたとき通りがかった女性が絆創膏を貼ってくれたそうです。でも帰宅後に絆創膏を剥がしてみたら、傷跡がどこにもなかったんです。
本当に怪我をしていたのかしら?と思っていたんですが……最近のこの投稿たちを見て、驚いています。
ちなみに「普通の可愛いお姉さんだった」と娘は言っていました。

【コメント】
目撃情報、続々でこわい~
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親切なようで、目的が見えないのが逆に怖い
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「かわいらしい普通の見た目」ってのがいちばん怖いやつなんよ

【投稿】
「都市伝説“身を削る女”の噂まとめ」
・〇〇区、大金井公園に現れる
・絆創膏や包帯をくれる
・自分の体の一部をちぎって他人に渡す
・病気やケガを治せる
→ガチで怖いんだが……

【投稿】
〈悲報〉視力を失った男性。見削女のおかげで視力を取り戻すも、眼球のない彼女の顔がトラウマに……

【コメント】
なにそれ、ホラーだろw
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大金井公園もう行けない
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いや、俺は彼女に会いに公園いくぞ!
投稿が途絶えたら通報してくれw
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あれ、実は死んだ看護師の地縛霊らしい……


三度目の処方


「うわああーーーッ!!って。おばけにでも遭遇したかのような叫び声でしたよ!ひどくないですかっ?!」
梟堂薬局のカウンターで、優は思いきり語気を強めていた。怒りというより、困惑と羞恥が入り混じったような表情だ。
優は三度目の叶え薬を処方してもらいに来ていた。

モリちゃんは、その勢いに驚いてヒュッと身を細くすぼめた。
「ごめんね、モリちゃん。驚かせちゃったね」

「目のない女性が、夜の公園で突然目の前に現れたら、そりゃあ誰だって叫びますよ」
釉薬が返す。

「ええ~でも、私、ただ助けたくて……」
「それにしても、春田様がそのような使い方をされていたとは」
「はい……。ちょっとした怪我じゃなくて、もっと永遠に失われたものを癒してみたかったんです」

思い返せば、あの男性の視力を取り戻すために目を差し出したあの日。
いつもならすぐ再生される身体の一部が、そのときだけはなかなか戻ってこなかった。

「そういえば、その時は目が再生するまで、妙に時間がかかったんです。どうしてでしょうか」

釉薬は顎に手を添え、考えるようにうなずいた。
「この叶え薬は、自身の治癒力を大幅に促進することで身体を再生させているのだと思います。
おそらくですが……春田様の体力や免疫力が落ちていた影響ではないでしょうか。見たところ、かなりお疲れがたまっているようですが」

優は、毎晩の“パトロール”が原因で寝不足が続いていた。
退勤後、夜の大金井公園を歩き回り、癒しが必要そうな人を見つけては薬の力を使っていたのだ。そして最近では多少目撃されても平気だろうと、自分でも驚くほど大胆になっていた。

「確かに……ちょっと寝不足気味だったかもしれません。目のときだけでなく、最近は再生そのものが遅い気がします」
「それでは本末転倒ですよ。もともとは、睡眠導入薬をご希望でいらしたのに」
釘を刺すような釉薬の指摘に、優はうつむいた。返す言葉が見つからない。

釉薬は【叶え薬の記録帳】に、優の話を書き込みながら続ける。
「頻繁に自己治癒を繰り返してしまったことも、消耗に繋がっていたのでしょう。大金井公園へ行くことは少し控えてみては?」

「えっ……」
大金井公園に通っていることは、釉薬には話していない。

釉薬はさらりと続けた。
「どうして分かったのか、という顔をされていますね。春田様、SNSはあまりご覧にならないのですか?」
釉薬がポケットからスマートフォンを取り出し、画面を優に見せた。

この古風な店と和服の釉薬に、スマホという端末がなんだか不釣り合いで一瞬だけ違和感を覚える。
「えっ、なにこれ……」

画面には、最近の大金井公園での「身を削る女」についての投稿がいくつも並んでいた。その中には、確かに優が薬の力を使った時のことだと思われる内容も、身に覚えのない内容も、たくさんある。
感謝の声がないわけではない。けれども、それ以上に目についたのは、戸惑い、懐疑、恐怖、そして——冷笑。

「……私がしていたこと、間違ってたんでしょうか」
優の声は、かすかに震えていた。
「春田様の誰かを救いたいという気持ちは、本当に尊いものです。しかし……」

釉薬はそう前置きし、何か考えている様子のあと急に表情を明るくする。
「ところで、旅行の計画はお好きですか?」
「え、旅行ですか?」

釉薬はうれしそうに頷いた。
「私は、旅行の行程を考えることが好きでして。限られた予算の中で、自分の好きな宿を選んで。そこを起点に、この日はあそこ次の日はここって、細かく決めるのが楽しいんです」

「そうなんですね」
話の意図が読めず、優は曖昧に相槌を打つ。
「贅沢できなくても、自分のペースで組み立てた旅は満足ができます。でも、もし突然『日本一の高級宿に予約変更してあげたぞ!』なんて勝手に変えられたら……。
たぶん嬉しさよりも、戸惑いのほうが勝つと思うんです」

「……それが、今の私のしてること?」
「視覚を失った男性の件は、少なくともそう思えました。その方は、見えない世界で生きる強さと覚悟をすでに持っていらっしゃいました。
それを、突然変えられてしまったら……?」

「大きなお世話、ってことですね。でも本当に、助けたかっただけなんです」
「その“良かれ”が、他人にとっては負担になるかもしれません。自己犠牲の優しさは、時に不信感やプレッシャーを相手に感じさせるのです。
春田様は、何かを無理に差し出さなくても、ただ春田様としてそこにいるだけで、誰かの心を支えることができるのではないでしょうか」

私が、私としてただ居るだけで?
そんな自分に価値があるとは、優にはまだ思えなかった。

「私は、たとえモリちゃんが脂粉をくれなくても、この薬局に居てくれるだけで嬉しいのです」
優は苦笑した。モリちゃんと自分を比べられても困る。けれど、それはたぶん慰めの言葉なのだろう。モリちゃんの脂粉、叶え薬の原料だったっけ……
少しだけ肩の力が抜けた。

釉薬が薬の瓶を差し出し、いつものように静かに微笑んだ。

「こちらが、今週分の薬になります。また1週間後にお越しください。

……どうぞ、お大事に」


優の小さいころの思い


どうしよう。
母が不機嫌そうに、妹の真琴を叱っている。
プレゼントを渡せば、機嫌が直るかもしれない。
「お母さん、これ、あげる」

どうしよう…。
お母さんが、何か悲しんでるみたいだ。
「お母さん、どうしたの?優がお話きくよ、大丈夫だよ」

どうしよう…。
お母さん、怒っているみたい。優がちゃんとお手伝いしてないからかもしれない。
「お母さん、洗濯物たたんでおくね」

どうしよう…。
お父さんが出て行っちゃって、お母さんが泣いている。
「これからは、優が頑張ってお母さんを支えるから…」

頑張ってプレゼントをあげるから。
頑張って話を聞くから。
頑張って役に立つようにするから——

私は我慢できるから。
だから、お母さん。笑っていてほしい。愛してほしい。ただそれだけだった。
それが、幼い優のたった一つの願いだった。



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