【36歳からの人生の作り方】#11 「奇跡」が向こうからやって来た――9歳年下の彼が、土砂降りの中を走ってきた日
36歳まで、わたしは「趣味で絵を描いていた専業主婦」に過ぎなかった。
それがイラストレーターになり、46歳で漫画家になり、51歳でインタビューライターになった。気づけば4冊の本を出し、NHKで教え、新聞やテレビ媒体でコラムを書くまでになったのだ。
36歳の自分に20年後の自分の話をしても、おそらく信じないだろう。
今までわたしが心がけてきたこと、やってきたこと、やらなかったことを、少しずつ書いていきたいと思う。
だいぶお待たせしてしまったが、この冒頭から始まる記事も、今回で11本目となる。
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10秒で読める「前回までの話」
20年前、趣味で絵を描いていた専業主婦のわたし。ライター講座が縁で決まった「ひよこ企画」は離婚と同時に頓挫するが、代わりに『仏像ぬり絵』の著者として華々しくデビュー。
うっかり油断したわたしは会社を辞めてフリーランスに。そして仕事は激減する。人生初のモテ期が到来。しかし単なるメンヘラホイホイに成り果てていた。

クリエイター集団へのラブコール
2007年秋、さて、ここでいよいよ、クリエイター集団Aの登場である。
mixiで交流した姐御やBくんがおもしろすぎて、クリエイター集団Aの集まりに参加したくてたまらなくなった。といっても、恋愛に結びつけることは1ミリもなく、ただここに行けばいろんなクリエイターに知り合えるのでは?と考えたのだった。
(あわよくば仕事に結びつくかも?という想いの方が強かった)
わたしにしては珍しく、Bくんに「何かあったら呼んで!」と猛烈アプローチした。その甲斐あって、11月のはじめに、渋谷での飲み会に参加できることになった。そこで、今のオット・Yと出会ったのである。
年下男子に囲まれて
Yとは1次会ではほとんど話さず、2次会でも近くには座らなかった。3次会で、なぜかわたし(38歳)とYを含む3人の年下男子(29歳~31歳)という組み合わせで飲むことになった。なお、Yは最年少の29歳である。
わたしは当時、持ち運びしやすいハガキサイズのファイルにイラストを入れて人に見せていた。ほとんどの人はせいぜい10分程度で見終わるそのファイル。Yに手渡すと、彼は静かに見始めた。
残りの3人でいろんな話をして散々盛り上がったあと、Yが「ありがとうございます」とファイルを返してきた。
「えっ?今まで見てたの??」なんと、彼は1時間以上かけて見てくれたのだ。
「どうだった?」と尋ねると、「素敵な絵だと思います」とほほ笑む。Yはとにかく寡黙で、ほとんど話さなかった。
きっかけは「待ち受け写真」
そのあと、運命の瞬間が訪れる。当時はまだガラケーで、わたしは待ち受けをこの写真にしていた。

パカッと開いて現れたこの写真を見て、寡黙なYが「あ、吉井さん」とつぶやいた。
「ファンなの?」と尋ねると「大好きです」という。
この写真、吉井さんにしてはかなり地味で、ファンでなければ気づかないかも、と思う。
当時の世間の吉井さんのイメージってこういう感じだったよね。イエローモンキー全体がチリチリパーマだった時代もあったし。

実は、この写真を待ち受けにしていたのは一週間くらいの間だけ。あとにも先にも、その一週間以外に、わたしがケータイの待ち受けに推しを設定したことはない。
それなのに、この1週間の間にYと知り合ったことがまず、奇跡だった。
土砂降りの中、雨男来たり
その後、mixiでメッセージのやり取りがはじまった。
わたしは先日の飲み会で1週間後に開催されるグループ展のDMハガキを配っていた。Yは、「絵を見るのが好きなので、仕事が終われたら行きます」という。リップサービスかな、とあまり本気にしていなかった。
しかし土砂降りの土曜日、彼は休日出勤の帰り、駅から濡れながら走ってやって来た。「ホントに来てくれたんだ!」あまりに驚いて、自分の顔が赤くなるのを感じた。あれ?なんでだ?
開口一番「僕は雨男で、イベントごとをいつも雨にしてしまうんです、申し訳ない」わざわざ展示に来てくれて謝る人にはじめて会った。「いやいや、わたしも雨女だし」と笑ってみせると、空気が和らいだ。
そしてわたしのイラストを、ほかの誰よりも丁寧に見てくれた。いや、時間かけすぎじゃない?と思うほどに。

展示に来てくれる人の中には、絵を見るより、わたしと話しに来る人も多い。それはそれでうれしいけど、絵描き的にはやっぱり絵を見てもらえるのが一番うれしいものだ。
「よく美術館には行くの?」と尋ねると、Yは「絵を見るのは好きなんだけど、見るのに時間がかかりすぎて、なかなか人を誘えない」という。
「わたしも見るの遅いの!よく人に抜かれるし、一緒に行った人が先に見終わってロビーで寝てたことがある」と話すと彼は笑って共感してくれた。
「奇跡」が向こうからやって来た…のか?
イエローモンキーについては「カラオケで歌っても、わかってくれる人が少ない」というので「今度一緒にカラオケする機会があったら、わたしはノリノリで聴くから歌って!」と約束した。
この会話を客観的に聴くと、まさに「美術館やイエローモンキーのライブに一緒に行ける人」なのだ。
でも、わたしには彼が「奇跡の相手」だとは到底思えなかった。
38歳のわたしが、29歳のYに恋愛感情を持つなんて「厚かましい」としか思えなかった。最初に会ったとき、大学生かと思ったほど、彼は若く見えたのだ。
しかも彼は美しかったのだよ。

こんな少女漫画から抜け出たような人とのちに結婚することになるなんて、当時のわたしにはもちろん、考えられないことだった。
おまけ:不思議の国のアリス展
彼が来てくれた展示は『不思議の国のアリス展』だった。2007年はひよこ日記を描いていなくて、こんな感じの絵日記を描いていた。

11/9(金)
アリス展オープニング。
遠方から友人が来てくれたのに間に合わず、がっかり。
仲良しの編集長が来てくださり、あとでメールが届いた。
「元気そうで安心しました」
心配かけていたのか・・・・
パーティーにはある出版社の編集さんも来てくださった。二次会で二人して飲んで、かなり飛ばしまくる。話してると実に落ち着く御仁。こうして仕事抜きのお友達が増えてゆく(笑)
頑張って仕事につなげなくては。楽しいからいいんだけどねー。
11/10(土)
雨の中、予定の来客が遅れ、17時過ぎに一気に集中してあたふた。
思いがけない来客はうれしいし、女友達とのおいしいディナーもうれしい。
この「思いがけない来客」というのが、Yのことである。
来てくれたお客さんとは必ず記念撮影する。このときもたくさんの方が来てくださった。でもこの3年半後にわたしは東京を離れてしまったので、ほとんどの人とはもう何年も会えていない。

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