せっかちな人とそうでない人
信号が青になる前に、心だけ走り出してしまう朝
最近、誰の「せっかち」に笑った?
自分の中の小さなエンジンが空ぶかしして、
まだ赤信号なのに足だけ前に出そうになる。
わたしは今日も、胸の内側で走り出す気持ちに
手綱をつける練習をしている。
信号の押しボタンを20回、の謎
子どものころ少しだけ住んだ大阪で、
「探偵ナイトスクープ」という
関西ローカルのテレビ番組をよく観ていた。
出演者が探偵となり、視聴者から寄せられる
さまざまな疑問を調査・究明するという番組。
当時は、上岡龍太郎さんや越前屋俵太さんが出演してた。
忘れられない回がある。小学生からの依頼——
「押しボタン式の歩行者信号、20回押すと早く変わる」

信号のような公共性の高いものが、そんな裏技で
早くなったりするわけがないと思ったけど、
結果は……たしかに早く変わる。
けど、理由は拍子抜けだ。
1回押して30秒で変わる信号があるとして、
20回押すのに20秒かかったら、押し終わってからは10秒待ち。
たったそれだけ。
つまり、押してる最中に時間が進むから
“早くなった気がする”だけ。
なんとも大阪らしい、愛すべき勘違い。
せっかちって、体感時間の魔術師だ。
エレベーター「閉」ボタンを先に押す人
せっかちは遺伝でも習慣でもなく、たぶん生活のリズムの癖だ。
横断歩道で青になる1秒前に、つま先だけフライング。
エレベーターでは行き先ボタンより先に「閉」を連打。
実家では、母親に「あんた、ほんとせっかちね」と眉を下げられる。
「そんなに急いでどこへ行くの?」と聞かれると、たいてい答えられない。
ただ、前に進みたい気持ちだけが、からだの先端に出てしまう。

なぜ人は急ぐのか。
間に合わせたい、遅れたくない、取りこぼしたくない。
言い換えれば、安心が欲しい。
待ち時間の空白が怖くて、なにかしていたい。
押しボタンを20回押す指先は、たぶん心の中の空白と戦っている。
この空白と上手につき合うには、からだを少しだけ遅らせる。
信号の前で深呼吸を一口、
エレベーターの中で背伸びを一本。
何かを“足す”より、少し“引く”。
その分だけ余白が生まれて、視界が広がる。
“せっかち”の語源は「急き勝ち」。
急ぐほうが勝ち、のクセ。
でも、いつも勝てるレースじゃない。
勝ち負けの前に、息が続かない。
だから今日は、勝ちより“ひと息”を選ぶ。
青になってから一歩、会話の前に一拍、返信の前に一呼吸。
スピードを落とすことは負けじゃない。
落としたぶんだけ、「こころ」を置き忘れずにいられる。

せっかちは恋の致命傷に
せっかちは、恋の場面でも顔を出す。
既読がつかない三分で勝手に物語を作って、
心だけ先に疲れてしまう。
そんなときは、半歩だけゆるめる。
返信を待つ間に好きな音楽を一曲、次に会う日のメモを一行。
相手の速度を尊重できた日は、
ふたりの関係の呼吸が合う。
急がない選択が、いちばん早い近道になることだってある。
早く済まないと落ち着かない日もある。
遅いとイライラする時間もある。
それでも、心が靴ひもを結び終えるのを待ってから歩きたい。
押しボタンは一回。息はもう一回。
青になったら、笑って渡ろう。
せっかちの指先より、やさしい足取りで。
もし探偵ナイトスクープに出てた小学生に会えたら、
いまのわたしならこう伝える。
「ボタンを20回押さなくても大丈夫。
君が押した一回は、ちゃんと届いてるよ」
そっと、肩の力を抜いて。
信号は必ず青になるから。

【おまけ】 今日の「恋したくなる言葉」
恋人期に入った瞬間、距離の単位が1駅から1センチへ。
— ひなた | また恋したくなるアルパカ (@hinata_uranai) September 2, 2025
そして・・・
「女が男の友達になる順序は決まっている。
まずはじめが親友、それから恋人、
そして最後にやっとただの友だちになる」
by アントン・チェーホフ(ロシアの劇作家)
親友期は合図が細かい。… pic.twitter.com/xACBahDsCT
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