1000人に声をかけたら、壁の向こうが見えるかもしれない(バイナン 10)
これは、
現役の占い師がナンパ師に弟子入りをして、
1000人の女性に路上で声をかけた体験談の連載です。
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なんでナンパを始めようと思ったのか、問われる
私からの占いレッスンを終えて、師弟交代
ワタルのナンパレッスンが始まった。
「ひなた、
今日は路上に出て
声かけしてもらおうと思ってたんだけど」
渋谷・道玄坂のモスバーガーの席に座ったまま、
彼はそう切り出した
「その前に、
どうしても確認しておきたいことがあるんだ」
少し間を置いて、ワタルは続けた
「さっき、ひなたの星回りを見たときにさ
なんでこの人がナンパをやりたいって思うんだろう?
って、正直ちょっと不思議に感じたんだよ」
私は黙って続きを待った
「ずっと非モテだったようにも見えないし
コンプレックスをこじらせてる感じもしない
自己顕示欲が強いわけでもないし
かといって、
男性的な性欲を満たしたい感じでもない
……なんか、すごくフラットなんだよね」
さっきの鑑定を、頭の中でなぞっているような口調だった
「さっき
【ひなたはポップコーンを食べるのが目的で映画館に行く】
って例えを出したけど
ナンパについても
そもそもの動機が、他の人と違う気がするんだ」
ワタルは、まっすぐ私を見た
「なんでナンパをやろうと思ったの?
率直に、答えてほしい」
1つ目の理由 ナンパ師という世界への興味
私は、少し考えてから話し始めた
ナンパの世界に飛び込んでみようと
思った理由は、2つある。
1つ目
純粋に、ナンパ師の世界に興味があった。
ワタルが鑑定に来てくれたことをきっかけに、
ナンパ師と名乗る人たちが、
私の占い鑑定に何人も訪れるようになった。
彼らの話を聞くうちに、
自分の知らなかった、面白い世界だなと思った。
私は占い師として、
ある種のコミュニケーションのプロだと自負しているし、
それなりの経験も積んできた。
でも、ナンパはそれとはまったく別次元の、
コミュニケーションのスキルと経験を
もたらしてくれるんじゃないか
自分をもう一皮むくことができるんじゃないか
そんな期待があった
さっきの鑑定で
「人の才能に強く嫉妬するところがある
でも、その嫉妬が原動力になるタイプ」
と言ってくれたけれど
たぶん私は、
ワタルや、他のナンパ師たちの
コミュニケーション力に嫉妬している
そして、その嫉妬が
「自分もやってみたい」という
モチベーションになっている気がする。
2つ目の理由 もう一度、旅に出たい
2つ目の理由は、
少し突拍子もない話に聞こえるかもしれない。
私は、旅に出たいと思っている
もともと旅が好きで、
時間があれば国内外をあちこち回っていた
占いの出張鑑定で遠くに行くのも、嫌いじゃなかった。
でも、ある時から
「どこに行っても、同じような経験」
しかできなくなったと感じるようになった
洗練されたホテル
美味しい料理
きれいに整った町並み
サービスに不満はない
どこも、最低限以上はきちんと整っている
でも、非日常を求めて旅に出ているはずなのに、
どこに行っても
同じような風景をなぞっているだけの気がした。
「どうせ、どこに行っても同じだよね」
そう思うようになってから、
旅から、少しずつ足が遠のいてしまった
でも
ナンパを通じて、
初対面の人と気軽に話せるようになったら
地元の人と話して、
観光客が行かないような店を教えてもらったり
場合によっては、一緒に飲みに行ったりして
「ここに来てよかった
この人に会えてよかった」
そう思える唯一無二の旅の感動を、
もう一度味わえるんじゃないか
そんな期待がある。
変な理由だと思うかもしれない
でも、私は割と本気で
それがモチベーションになっている。
共に旅に出よう
話し終えたあと、
こんな理由、本気だと信じてもらえるだろうかと
少し不安になった。
でも、ワタルは
茶化すこともなく
とても真剣な顔で話を聞いてくれていた。
さっきの鑑定で
【ポップコーンを食べるのが目的で映画館に行く】
という例えを聞いたときは、
思わず笑いそうになったけれど
ああなるほど、こういうことかと
自分の中で、妙に納得してしまった。
「いろんなナンパ師に会ってきたし
スクールの受講生の話もたくさん聞いてきたけどさ」
ワタルは、そう前置きしてから言った
「旅に出たいからナンパをしたい
って理由は、正直はじめて聞いたよ」
少し間を置いて、続ける
「でも、ひなたが本気でそれを望んでるなら
悪くない理由だと思う」
そう言って、
ワタルはノートを取り出し、
1ページ破って私に差し出した
「ここに、その理由と名前を書いて」
私は、少し考えてから書いた
出会いを通じて
もう一度、旅の感動を味わいたい
ひなた
書いた紙を渡すと、
ワタルはその下に、迷いなく書き足した
共に旅に出よう
ワタル
そして、その紙を私に返した
「この紙は、家の机の引き出しにでも入れておいて」
ワタルは、静かに言った
「ナンパを辞めよう思ったとき、
この紙を見てほしい
たぶん、
この先、つらくなることがある
しんどくて、もう辞めようと思う瞬間が、
きっと来る
面白い旅に出られる確信が持てたら、
そのときは辞めていい
でも、そうじゃないなら、続けよう
面白い旅に出られる確信ができたら、
そのときは、俺と一緒に旅に出よう」
これほど心強い言葉はない
胸がボワっと熱くなるのを感じた。
1000人に声をかけるという目標
私は、ふと気になって聞いてみた
それって、
どれくらいかかると思う?
「そうだな」
ワタルは、少し考えてから答えた
「1000人に声をかけたら、
壁の向こうが見えるかもしれない
とりあえず、
それを目標にしてみたら?」
私はノートを開いて、
1000人と書いた
そして、ワタルから受け取った紙を
ノートに挟んだ
いよいよ、路上へ
「よし、
今日はひなたが声をかけてみよう」
ワタルはそう言って、
荷物をまとめ、席を立った。
今日は座学で終わると
どこかで安心していた私は
いよいよ自分が声をかけると聞いて、
お腹のあたりが
きゅーっと痛くなっていくのを感じていた……
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