知らない人に「こんにちは」と言ってみること(バイナン 12)

これは、
現役の占い師がナンパ師に弟子入りをして、
1000人の女性に路上で声をかけた体験談の連載です。
はじめてご覧になる方は、先にこちらをご覧ください ↓
オバケみたいな顔
はじめての「路上での声かけ」がはじまった。
緊張しすぎてリバースしてしまったけれど、
なんとか戦線には戻ってきた。
「じゃあ、今度は俺が指名するから
ひなたはその子に声をかけてきて」
私はただ、小さく頷いた
「おいおい、顔、かーお!
なんかオバケみたいに怖くなってるよ」
ワタルにそう言われて
慌てて作り笑顔をつくる
きっと相当ひどい顔をしていたはずだ。
「そうそう、その笑顔だよ
記念撮影しようぜ」
そう言ってワタルは肩を組み、
スマホで2人を自撮りをした
「これ見てみ」
画面を向けられる
無理やり上げた口角
死んだ魚みたいな目
青白い顔……
ほんとにオバケみたいな顔
「こんなひなたの顔、はじめて見たわ
待ち受けにしようかな」
ワタルがゲラゲラ笑う
つられて私も笑ってしまう
悔しいけれど
その笑いで、少し緊張がほどけた。
「そうそう、その顔だよ
もう一枚撮ろうぜ、せーの」
2枚目は、さっきより少しだけマシな顔
爽やかとは程遠いけれど
人間の顔にはなっていた
自撮り2回
それだけで、呼吸が少し整った
はじめての「声かけ」
「よし、そろそろいくか
じゃあ、あの赤いポーチの子」
目の前から歩いてくる子を、
指ささずに示す
ピンクの髪
大きな涙袋
フリフリのスカート
いわゆる地雷系
渋谷では、特別目立つわけでもない
横を通り過ぎた彼女を追いかけ、
前に出てから
「こんにちは」
彼女は首も動かさず
目だけ一瞬こちらを向け
そのまま歩き続けた
私は離脱し、ワタルの元へ戻る
「ナイスファイト!」
手を叩いてくれる
間髪入れず
「じゃ次は、あの黒いワンピの子」
同じように追いかけ
前に出て
「こんにちは」
明らかに迷惑そうな顔
スッと避けられる
戻ると
「じゃ次は」
そのあとも3人
目線をくれるだけまだマシ
ほとんどは、視界にも入れてもらえない
声が、街の空気の中に溶ける。
「よし、今日はここまでにしておこうか
今日は5人だから、1000人まであと995人だね」
さらっと言う
そして、その場でレッスン終了
「おつかれー、じゃまた来週」
ワタルは軽やかに去っていった。
これをあと200回繰り返すのか?
私は近くのマクドナルドに入った
振り返りと今日学んだことの
メモをしようと思った。
でも、頭が働かない
徹夜明けみたいに身体はぐったり
なのに、心臓だけはまだ速い
イスにもたれて
ぼんやりする
いろんなことが浮かびそうで
何も形にならない。
ふと我に返ってコーヒーに口をつけると
ホットだったはずが、ぬるい
ノートを開く
「1000人」と書いたページ
その下に
日付と「5人」
とだけ書いた
1000人まで
あと200回、これを繰り返すのか
本当にできるのか?
振り返りを書こうとしたけれど
気が遠くなって
……そのままノートを閉じた
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