ニューヨーク行き、最大離陸重量で加速中、「ドアが開いた」の表示──離陸中断の決断とその後
「飛行機って、離陸の途中でも止まれるんですか?」
以前、ある方からそんな事を聞かれました。
確かに、地上を勢いよく加速していく飛行機が突然止まるなんて、想像しにくいかもしれません。
でも実は──離陸途中で止まることは、現場のパイロットにとっても非常に緊張する「決断の瞬間」なのです。
航空の世界ではそれを「リジェクト・テイクオフ(RTO)」と呼びます。
滑走路上で全力加速している最中に、何らかの理由で離陸を中止し、急ブレーキと逆噴射で機体を止める操作。
これは飛行機のブレーキシステムにとっても、最も過酷な状況のひとつと言われています。

そして私は、あるフライトでその瞬間に立ち会いました。
満席・満載のニューヨーク便。最大離陸重量。しびれる滑走。
私はその時、ジャンプシート──コックピット内の補助席に座っていました。
実はこの便、私にとって初めてのニューヨーク行きの乗務。
まだその路線に入ったばかりで、オブザーブの立場としてジャンプシートで飛行をモニターする役目を担っていました。
いわば、路線拡張のための“現場見学”のようなものです。
前方には、真剣な眼差しのキャプテンと副操縦士。
そして、加速する機体の中で──突如、警告が表示されたのです。
そこから始まる、緊張と判断、そしてブレーキの極限。
この記事では、その瞬間に何が起きていたのか、
そして飛行機のブレーキがどう「命を守る役割」を果たすのか、
ジャンプシートから見たリアルをお伝えします。
✈️ 1. RTOとは何か?──その言葉の重みと緊張感
「リジェクト・テイクオフ(RTO)」離陸中止、離陸中断──この言葉が持つ意味は、ただの操作名ではありません。
それは、「飛ばない」という判断を下す、極めて重大な決断を指します。
通常、飛行機が滑走路で加速を始めた後は、決められた速度(V1)を超えると、どんなトラブルが起きても離陸を継続しなければなりません。
なぜなら、そこから止まろうとすると、滑走路の距離が足りなくなり、逆に危険を招く可能性があるからです。
つまり、V1を境に、「行くか、止まるか」の世界がガラリと変わるのです。
そんな中でのRTO。
それは、V1以下で「このまま飛んでは危険」と判断された時にのみ行われる、まさに飛行機の安全の最後の砦です。
しかも、最大離陸重量のような“限界状態”では、ブレーキシステムにかかる負荷は極めて大きくなります。
飛行機のブレーキといえば、着陸のときに力を発揮するイメージがあるかもしれませんが、
実は最も過酷なブレーキ操作は、離陸中に止まる=RTOの時なんです。
なぜなら──
・エンジンは離陸推力でフル稼働中
・機体は燃料も乗客も貨物も“満タン”の状態
・加速しながら一気に止まるため、瞬間的に大量の運動エネルギーをブレーキが一身に受け止める
こうした理由から、RTOは「技術」だけでなく「判断」と「準備」が問われる極めて緊張感のある場面なのです。
そんな状況が、ある日、私の目の前で実際に起きました。
しかも──その時の機体は、最大離陸重量で加速中のニューヨーク便。
これ以上ない緊張感の中で、RTOが実行されました。
✈️ 2. あの日、成田で──最大離陸重量、満載の飛行機
その日は、成田発ニューヨーク行きの長距離国際線フライト
機体は、燃料、乗客、貨物すべてが満載。つまり最大離陸重量(MTOW)──飛行機が許容できる一番重たい状態での離陸でした。
「今日はMAX TAKE OFF WTだな、しびれるね」
そんな会話が、コックピット内でも交わされていたと思います。
私はその日、ジャンプシート(操縦席の後ろにある席)に座っていました。
すぐ目の前には、左席のキャプテン、右席の副操縦士。
2人とも集中した面持ちでチェックリストをこなしていきます。
いつもと変わらないルーティンのように見えても、その空気感にはほんのわずかな緊張の糸が漂っていました。
なぜなら、最大離陸重量での離陸は、あらゆる操作が「限界ギリギリ」だからです。
エンジンは離陸推力(フルスラスト)で回され、滑走路の長さも計算上ギリギリまで使い切る想定。
「もし、何かが起きたら本当に止まれるのか?」
そう思ってしまうような、“しびれる”フライトの始まりでした。

管制塔からクリアランスが出て、滑走路へ進入。
ラインナップしてスラストが上がると、あの独特の重厚な音とともに機体がグングンと加速を始めます。
椅子に押しつけられるようなG、滑走路の路面をかすかに感じる振動。
ジャンプシートの私も、息を呑んで前方の計器を見つめていました。
スピードはぐんぐん上がり、
「80ノット」
副操縦士が速度コールをし、キャプテンが「チェック」と返す──
その時でした。
突如、警告灯が光ったのです。
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