Call of revolution 第1話

■登場人物
マウロ(18)…語り手。スラム地区に暮らす青年。将来の夢は小説家。
日記を書くことが趣味。
ペペ(18)…ペペの友人。ギャングの抗争に巻き込まれて死亡する。
マウロの母(50)
マウロの父(55)

ルシア(21)…フリーのジャーナリスト。アメリカの大学(ルイジアナ)出身。

M・B(22)…MS(ギャング団)のボス。冷酷で非情。

アンドレイ(39)…教会の牧師。元ギャング。

モブキャラ
 警官(32)
 DNIC(国家犯罪捜査部の兵士)

【舞台】:中米ホンジュラス。
   二大ギャングであるMS(マラブンダ・スレーニョス)と18(エイティーン・ロスト・ギャング)が激しく対立するスラム地区。

【あらすじ】
 殺人率世界第三位の国、ホンジュラス。スラム地区に暮らす青年パハロは地元ギャングとの古い繋がりを断てずにいた。
ある日、街中での抗争により、重傷を負った彼はNGO団体の施設に収容され、そこで同い年のジャーナリスト・ルシアと出会い、恋に落ちる。
そして更生を誓い、自分自身の未来のために国外へ脱出。
その後、書いた小説が見事にヒットし、受賞式の舞台で「アートこそが命。武器と暴力をなくそう」とメッセージをうっったえる。

→第一話はルシア(ヒロイン)との出会いまで。

〇自宅・リビング

 粗末な食卓を囲む家族。
 棚にあるラジオからニュースが流れている。
ラジオの音声「APPによるニュースをお伝えします。
もはや何度も繰り返された儀式と言えるでしょう。
17日午後、コマヤグエラ・セントロ地区でギャング組織『MS(マラブンダ・スレーニ
ョス)』と『18(エイティーンス・ロスト・ギャング)』の二大間抗争が勃発。
死傷者は少なくとも400人を超えると予想され、これを受け大統領は遺族に深い哀悼の意を表するとともに、治安回復のための非常事態宣言の期限を一か月延長することを発表しました。さらには————」
母と父、手を止め、思わずラジオに顔を向ける。
マウロ、イヤホンでポッドキャストを聞き始める。
母「食事中よ」
 マウロ、イヤホンを外し、机におく。
父「そんな高価なもの、どうやって手に入れた?」
マウロ「友達だよ……」
父と母、顔を見合わせる。
父「どこで知り合った?」
マウロ「関係ないだろ」
母、ため息をつく。
父「もっとマシな人間関係を築いたらどうなんだ」
マウロ「父さんに何が分かるっていうんだよ」
父「少なくともお前よりは世の中のことを知ってる。いい加減、真っ当に生きないと、そのうち取り返しがつかないことになるぞ」
マウロ「ごちそうさま……」
 無言で席を立ち、二階にある自分の部屋に上がる。
 鍵の付いた机の引き出しから、日記を取り出し、何やら書き始める。
マウロ(NA)『真っ当に生きろ、か。この言葉ほど、インチキなにおいがするものはない。
 分かったような口をきく人間の大半は、人生をある種の競技だと勘違いしている。
 決められたルールに従ってやらなければいけない競技だと。
 全く、馬鹿げてる。頭でっかちで融通が利かない奴にかぎって、真面目だとか、真っ当だとか、そういった言葉を事あるごとに持ち出してきやがるんだ。
 ぼくらの現実は、そう単純な話かりじゃないってのに……』
 コンコン、と部屋のドアがノックされる。
 母「友達が来てるわよ」
  マウロ、ため息をつき、日記を机の引き出しに戻す。
 
〇自宅・玄関
 マウロ「少し外に出てくるよ」
 母、腕を組み、無言で見送る。

〇スラム街の通り
 友達のペペと並んで歩きながら、仕事について話す。
マウロ「今日は集金か? それともパトロール?」
ペペ「今回はいつもと違って特別だ」
 ペペ、腰のベルトにさしていた拳銃を見せる。
 マウロ、顔をしかめる。
マウロ「おい冗談だろ? 殺しはやらないぞ」
ペペ「分かってるよ。 弾は一発も入ってない。 
いざって時に見せて、脅すだけだ」
マウロ「……約束だぞ」
ペペ、肩をすくめ、銃をしまう。
マウロ「それで……今回はいくらになる?」
ペペ「粉(コカイン)2袋と、700レンピラってとこだ」
マウロ「そうか、なら終わったら金だけもらう。 ヤクはいらない」
ペペ「全く、せっかく旗役(バンデーラ)に昇格したってのに、まだそんな調子かよ」
マウロ「知ったことか。 ぼくにはお前と違って、夢があるんだ。
 この街(リベラ・エルナンデス)を出るっていう夢が。 いつまでもギャングの真似事ばかりしていられない」
ペペ「ああ、例の小説家だか何だかになるってやつか。 
相変わらずこぢんまりしてんな、お坊ちゃん」
マウロ「何とでもいいやがれ、野良犬野郎」

〇塀に囲まれた高級住宅・玄関前

ペペ「ほら、バレないようにつけろ」
 バンダナと帽子を受け取って、つける。
マウロ「やっぱ盗みか。 モノは一体なんなんだ」
ペペ「高級車だ。 ニッサンとかいう会社のな。 女を大量に詰め込めるイカしたワゴンさ」
マウロ「……知るかよ。 まあとにかく、中に入ってキーを探すってわけだな」
ぺぺ「そういうことだな。 さてさて、どうするか……」
  周囲を見回し、侵入できそうな場所を探す。
  小さな裏門の扉を見つけ、乗り越えて中に入る。
  その後、屋根に上って開いている二階の窓から忍び込む。
  屋敷を掃除していた召使いと遭遇。銃で脅して車のキーのありかを聞く。
  キーを手に入れ、車庫に移動する最中、家主と遭遇。
  ペペ、持っていた拳銃を発砲してしまう。肩口に当たる銃弾。倒れる家主。
ペペ「やっべえ……」
マウロ「おい! 弾は入ってないっていっただろ!」
ペペ「黙ってろ! ああ、クソ……とりあえず、車庫にいくぞ」
  案内役の召使いをロープで柱にしばりつける。
  車庫に移動し、車のエンジンをかけ、無事盗みだすことに成功。

〇CA-5沿線(道路、車の往来)
 
ペペ「初仕事にアクシデントはつきものだ。 次はもっとうまくやる」
 マウロ「はあ? 次だって? このサイコ野郎……ついにいかれやがったな。
お前とはもう二度とつるまないぞ」
 ペペ「あ? 今さら引き返せると思ってんのか。 監視カメラにはばっちり映ってる。
  よかったな相棒、お前ももれなく道連れだ」
 マウロ「この……くそったれが。 こんな仕事、受けるんじゃなかった」
 ペペ「よく言うぜ、偽善者が。 ノリノリでついてきたくせによ」
 マウロ「とにかくだな、もうこれ以上、付き合ってられない。 こんなこと続けてたら命がいくつあっても足りないからな」
 ペペ「はいはい、そのセリフ、少なくとも200回は聞いたぜ。 
  どのみち金欲しさに、また俺を頼ってくるにきまってる」
  マウロ、顔をそむける。
  ペペ、それを見て、ため息をつく。
 ペペ「なあ、もういい加減、覚悟を決めろよ。 
   俺たちは知っての通り、初めから『持たざるもの』だ。 生きていくためには誰かから奪うか、何かに寄生するしかない。 MS(ギャング)とのつながりだって、そのうちの一つだ」
 マウロ「生きるため? ぼくの目には死に急いでいるようにしか映らないけどな」
 ペペ「どう見えるかなんて、知ったことじゃない。 でも現実ははっきりしてる。
   少なくともギャングの仕事は面倒だが、その分実入りはいい。 叶うかもわからない夢なんかにすがるより、よっぽど地に足のついた生き方だ」
マウロ「どうだかな……」
ペペ「まあ、今にわかるさ。 夢はストリートで奪われる。
  おれたちももうすぐ二十歳だ。 やがては“大人”になって、次第にいろんなことに折り合いってのをつけていかなくちゃいけなくなる」
  パトカーのサイレンが聞こえてくる。
  思わず顔を見合わせる二人。
マウロ「通報されたのか」
ペペ「いや、そんなはずはない……」
パトカーの拡声器「直ちに停車しなさい。 指示に従わない場合は発砲する」
ペペ「くそ。 ひとまず銃を隠せ」
マウロ、受け取った銃を座席の下に隠す。
  直後、横にパトカーがつけてくる。
  降りてきて、窓を開けるように言う警官。
警官「けっこうスピードだしてただろ。 ええ?」
マウロ「いや、その、お巡りさん。 制限速度は守っていたつもりなんだけど……」
   警官、肩をすくめ、車を降りるようにジェスチャーする。
   だが降りようとするマウロを助手席に座っていたペペが制止する。
警官「なんのつもりだ?」
  警官、腰のホルスターに手をかける。
ペペ「なあ、お巡りさん、悪かったよ。 今これしかないけど、見逃してくれないかな」
   札を数枚取り出して見せる。
   警官、札束をひったくり数えだす。だが足りないと、鼻で笑う。
警官「あと2千だ」
ペペ「それは無理だ」
警官「じゃあこの話はなかったことにさせてもらう」
  ペペ、舌打ちをする。
ペペ「なあ、おっさん。 あんた家族はいるか」
警官「なんだと?」
ペペ「もしいるんなら、態度には気をつけたほうがいいぜ。 そもそもこの一帯が誰の縄張りか知ってるか?」
  ペペ、服の袖をまくり、「MS」の入れ墨を見せる。
ペペ「俺たちはいま、頼まれた仕事の最中なんだ。 依頼者はあんた方もよく知るあの男、M・Bさ。 さあこれ以上はもう、言わなくてもわかるよな?」
警官「分かった……行っていい」
ペペ「ありがとう兄弟(グラシアスブラザー)」
  エンジンをかけ、車を発進させる。

〇MSのアジト(キリングハウス)

 門番「要件は?」
 ペペ「M・Bに頼まれた車を届けに来た」
  門番、マウロを一瞥する。
 門番「そいつは?」
 ペペ「協力者だ。 頼りになる奴さ」
 門番「よし。 入れ」
 
  ×  ×  ×

〇MSのアジト・車庫(木材工場の跡地)

 拘束された男と、その前に血の付いた鉄パイプを持って立つM・B。
 それらを笑いながら眺めるギャングの構成員たち。
 
マウロ「なあ、あいつら何やってんだ?」
ペペ「しっ! いいから……黙ってろ」
M・B、山刀を持って歩きながら、
M・B「————なあ、おれの親父がなんで死んだか知ってるか?」
 拘束された男、泣きながら首を振る。
M・B「癌だよ。 たしかおれが11歳のガキの頃だった。 今でも後悔してる。
 もっと早くに見つけてやればよかったってな……」
 笑っていた群衆が沈黙する。
M・B「親父が死んでから幸せだった俺の日常は一変した。
 母親はある日、急に家出して、二人の姉は男を作ったまま行方知れず。 挙句に一番下の弟は栄養失調で、生まれてまだ数か月もしないうちに逝った。 分かるか、おれの家族は文字通り『癌』で崩壊したんだ」
 M・B、煙草を取り出して吸う。
M・B「昔から、おれにとって家族以上に必要なものはない。 だから二度と失くさないように金と力を手に入れ、そして新しい家族を作った。 それが『MS(マラブンダ・スレーニョス)』の始まりだ。 ゆるぎない愛、忠誠心……ようやくすべてを取り戻したんだ。
 だが……」
 鉄パイプを床に叩きつける。
 マウロ、思わず後ずさる。

M・B「何の因果かわからないが、『癌』は体だけでなく、人の心にも表れるものらしい。
   こいつを見ろ、いい例だ。 知らぬ間におれたちを裏切りやがったんだからな。
   大切な家族を……」
 M・B、座っている男に顔を寄せ、煙草の煙を吹きかける。
 M・B「おい、アザール。 なあ、なんでこんことしようと思った?
    18(ライバル組織)のやつらにこうでも言われたのか? ヤクを横流しすすれば、エル・ドラド(アメリカ)に亡命させてやるってか?」
  男、恐怖で震え始める。
  M・B、ため息をつく。
 M・B「まったく、終わってやがるぜ。 
    ようお前、あの国がハンバーガーの加工肉(ピンクスライム)に何を使ってると思う……こどもの肉だよ。 世界中からさらってきた子供をミンチにして、その肉を平然とした顔で食ってるんだよ。 ビジネスの為なら何でもやる。 連中、片っ端から大ウソつきだ。
仲間の振りして平気で人を裏切る。 そう、お前みたいに……」
  M・B、バットを振り上げ、男を何度も殴り、殺す。
 M・B「見たか、お前ら。 『癌』が見つかれば、すぐに取り除く。 それがおれのやり方だ。 どんな奴にも容赦しねえ。 家族を蝕む奴は見つけ次第、追い詰めて、そして叩きつぶしてやる」
  M・B、部下を二人呼びつける。
 M・B「死体を片付けろ」
  部下たち、男の死体を粉砕機に投げ入れて粉々にする。
  マウロ、その場を去ろうとする。
  ぺぺ、それを止め、
 ペペ「待てよ、おい。 車を届けたことを報告しなくちゃならない。 それに……」
 マウロ「うるさい! これ以上、トラウマを植え付けられるのはご免なんだよ!」
 M・B「おい、そこのお前ら。 何を揉めてるんだ?」
  顔を見合わせ、その場に凍り付く二人。
  M・Bが二人のもとにくる。そして盗んできた車を見て、よくやったとペペを称賛する。
 ペペ「あ、ありがとう兄弟。 それで報酬は……」
  M・B、胸元から札束を取り出して渡す。
  マウロの方を見て、サングラスを外し、
 M・B「おや、こちらの二枚目くんは? 見た感じ入れ墨もしてないヒヨッコみたいだが……」
 ペペ「マウロ。 おれの友達だ。 仕事を手伝ってもらってる。口も堅いし、いいやつだよ」
 M・B「へえ……正式な“儀式”はもう済んだのか?」
 ペペ「まだだ」
 M・B「おや、それはいけないな。 さっきの“ショー”を見られちまった以上、このままただで帰すわけにもいかねえし、どうするよ?」
  二人、顔を見合わせる。ペペ、首を振り、仲間にならないと殺される、とジェスチャーする。
 マウロ「……“儀式”を受ける。 最初からそのつもりで来たんだ」
 M・B「ああ、そうだろうな。 そうだろうとも」
  M・B、ついて来いとジェスチャーし、マウロを車庫の外へ連れ出す。

〇車庫の外

 入れ墨をしたMSのメンバーが大勢いる。
 その中央にマウロを連れていくM・B。

M・B「皆、集まってくれ。 今から“儀式”を執り行う」
 周りから拍手が起こる。
 マウロの周りに集まってきて、挑発を始めるメンバーたち。
 その中の一人が麻袋と縄をM・Bに投げてよこす。
 マウロ、麻袋をかぶせられた上に手足を縛られ、床に倒される。
 M・Bの掛け声で、一斉に殴るけるの暴行が加えられる。
M・B「30秒間、死ぬ気で耐えな。 そうしたら仲間として認めてやる」
 
 ×  ×  ×
 
〇M・Bの部屋

 傷だらけでソファにこしかけるマウロ。それを介抱するペペ。
 向かい側に腰掛け、煙草を吹かすM・B。

M・B「最高だったよ、兄弟。 いい根性してる」
マウロ「ありがとう……」
 M・B、席を立ち、後ろの棚から拳銃を取り出してマウロに渡す。
マウロ「これは……?」
M・B「家族の証だ。 9mmのオートマチック。反動が少なくて、初心者でも扱いやすい。  明後日の午後、『18』の基地に攻め込むから、その時までに使えるようになっとけ」
    
 × × ×

〇夜、寝室

 寝ころびながら、日記を書くマウロ。

マウロ(NA)「何もかもが死んだような夜だ。
       不穏な気配を察してか、草木もろとも街中が静まりかえっている。
       M・Bはこの世の地獄みたいな男で、雪崩みたいに止まりやしない。
       数日後、間違いなく戦争になる。そうなれば、大勢が死ぬ。
       奴らは軍隊アリみたいなもんだ。手当たり次第に食らいまくる。
       この街じゃ、そんなのが自然の摂理かのように繰り返されるんだから、まったく堪ったもんじゃない」

小窓に、何かがぶつかる音。マウロ、思わずその方を見る。
窓を開け、下をのぞくとペペと何人かの友人が来ていて、「降りて来いよ」と叫んでいる。
 マウロ、ため息をつき、日記を閉じる。

× × ×

〇ドラッグパーティーの会場

 爆音で流れる音楽。
 大勢が踊り狂っている。
 
マウロ「なんだ、このいかれたバカ騒ぎは」
ペペ「景気づけだよ。 M・Bが取り計らってくれたんだ。 音楽に女、マリファナ。 必要なもんは何でもそろってる。 マジ天国だぜ」
マウロ「勝手にやってろよ、まったく」
ペペ「まあそういうなって。お互いに後先短い身だ。楽しもうぜ」
マウロ「お前……なんでそんな気分になれる?」
ペペ「価値観の違いってやつだな。 おれはこの瞬間を味わいつくすタイプだ。 お前もギャングになったわけだし、これからは好き放題やればいい」
 ペペ、近くにいた女性と踊り始める。
 マウロ、会場の出口を探している途中でM・Bに遭遇。
M・B「よお、新入り。 楽しんでるか?」
 クスリをくるんだケースを渡され、受け取るマウロ。
M・B「ほら、一息にやっちまえよ。 そうすれば後のことなんか、どうでもよくなる」
 マウロ、クスリを吸い込む。
 その後、幻覚症状が現れ始める。
 M・Bに連れまわされ、パーティーを楽しむ。
 だがそんな中、突如、銃声が。
M・B「くそ。 18の奴らだ。 ぶっ殺してやる」
 会場はパニックに。
 マウロ、逃げ惑う人びとの中で地面に押し倒される。
 銃声があちこちで上がる。
 マウロ、気を失う。
 
 × × ×

〇明け方、パーティー会場

 マウロ、誰もいなくなった会場で一人目覚める。
 重い足を引きずりながら、歩き出す。

〇自宅・玄関前

父「こんな時間まで一体何してたんだ」
 父、マウロを殴り飛ばす。母、それを止めようとする。
マウロ、無言のままにらみつけ、二階に上がる。
 父、その背中に向かってしばらく外出禁止だと怒鳴る。

〇夜、寝室

 ベッドの下に隠してあった酒を次々に飲む。
 ぼんやりとした意識のなか、日記を書き始める。
マウロ(NA)「何もかも思い通りにならないけれど、せめて自分の命くらいはこの手で決着をつけたい。 こんな形になってしまって残念に思う」
 M・Bに渡された拳銃を取り出し、頭に突きつける。
 だが、引き金をひくことができず、泣きわめく。
 そうこうしているうちに、夜が明けていく。

〇ギャングのアジト
 コカインを吸い始めるMSの構成員たち。
ペペ「お前、昨日寝てないだろ。 ひどい顔だぜ」
マウロ「もう、ほっといてくれ」
 銃を手に歩き出す。

 × × ×

〇18のアジト

 M・Bの掛け声とともに、銃撃戦が始まる。
 ペペが銃で頭を打ちぬかれて死ぬ。
 マウロ、正気に返り、その場を離れようとする。
 だが、流れ弾がわき腹をかすめ、その場に倒れこむ。
 そのとき、軍隊が到着。ギャングを鎮圧し、マウロも手錠をかけられる。
 マウロ、意識を失う。

〇病室

 ベッドに横たわるマウロ。傍らの椅子に座る母。
母「お父さんが出ていったわ」
 マウロ、無言のまま窓の方を見つめる。 
 母、手術の請求書を見せて
母「これからどうしたらいいの……」
 母、泣き崩れる。
 マウロ、涙をこらえる。

 × × ×

〇病院の共有フロア

 ソファに腰かけて、日記を書く。
マウロ(NA)「例の件から早くも5日が経過しようとしている。
       世間は徐々に何事もなかったかのように、平穏を取り戻しているが、ぼくの    
方はまだまだ時間がかかりそうだ。
M・Bは指名手配されているが、いまだに行方が分からないらしい」
 看護師が近づいてきて、声をかけてくる
看護師「マウロ、あなたにお客さんよ」
マウロ「客?」
 看護師に手を引かれ、自分の病室へ。
ルシア「どうも初めまして。 マウロ」
 マウロ、ルシアと握手を交わす。
マウロ「誰なんだ、あんたは」
 ルシア、スマホを出し、自分の大学のHPを見せる。
マウロ「へえ、あんたジャーナリストか」
ルシア「そうよ。 ラテンアメリカの文化と歴史について取材しているの。 将来はルポを出すつもりよ」
マウロ「ルポ? 何について書くつもりなんだ?」
ルシア「マラス。 彼らの現状と成り立ちを調査しているの」
 マウロ、首を振り、
マウロ「やめとけ。 下手に首を突っ込むべきじゃない。 死ぬぞ」
ルシア「危険は承知の上よ。 それでもジャーナリストとして、真実を追い求めたいの。
   だからどうか、力を貸してくれないかしら」
マウロ「残念だけど……」
ルシア「————じゃあ、こういうのはどう? あなたの入院費用を全額負担する。その代わりにMSのことについて話してちょうだい。 どう? 悪い話じゃないでしょ」

〇病院の外
 
ルシア「じゃあ早速、街を案内してもらおうかしら」
マウロ「分かったよ」
 マウロ、ルシアを助手席に乗せ、車を出す。

 ×  ×  ×

〇スラム地区(リベラ・エルナンデス)

 マウロ、運転中にルシアの首についたペンダントに目が留まる。
マウロ「君、キリスト教徒?」
ルシア「あら、どうして分かったの?」
 マウロ、ペンダントを指さす。 
ルシア「ああ、これね。十八歳の誕生日に、父がプレゼントしてくれたの」
 ルシア、ペンダントを光にあてる。
 彫られた聖人の像が浮き上がる。
マウロ「その人って、イエス・キリスト?」
ルシア「いいえ。聖ユダよ。 挫折者の守護聖人だと言われているわ」
マウロ「……ぞっとしないな」
ルシア、肩をすくめ、
ルシア「あなたにぴったりだと思うけど」
マウロ「やめてくれ。 ぼくは無神論者だ」
ルシア「あら、そうなの。 それは失礼。 でも絶望しかけた時に、何か信じるものがあるっていうのは案外いいものよ」
マウロ「“信じる者は救われる”ってやつか? 馬鹿らしいよ。 そんなこと言ってキリストも結局、殺されてしまったじゃないか」
ルシア「信仰は結果じゃないわ。 神を信じ、その意味を問い続けるという過程に意味があるの」
マウロ「……分かるかよ、そんなの」

 ×  ×  ×

〇市場・人の往来

ルシア「少し降りて街を歩いて回りたいんだけど」
マウロ「ダメだ。 ここは危険すぎる。 数日前の抗争で大勢死んでから、MSと18両方ともカリカリしてるし————って、おい!」
 ルシア、勝手に車を降りる。
 慌てて後を追うマウロ。
 ルシア、カメラを取り出し、周りの風景を撮り始める。
 それをやめさせようとするマウロ。
マウロ「よせ! 面倒を起こしたいのか」
ルシア「何するのよ!」
 言い争っている隙にひとりの子供が背後から近づき、ルシアの財布を抜き取る。
マウロ「おい、待て! このガキ」
 マウロ、子供を必死に追いかけるがケガしていた脇腹が痛み、立ち止まってしまう。
 だがルシアが走って、子供に追いつき、財布を取り返すことに成功。
マウロ「あんた、意外とやるな」
ルシア「ルイジアナ(大学)じゃ、クロスカントリーの選手だったの。 これくらい楽勝よ」

第2話

第3話


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