藤色の蓮華 -色の記憶 #4-
梅雨が明ける頃、光の質が変わる。
空は急に高くなり、日差しは輪郭を強くする。
春のやわらかな光は、いつの間にか遠くへ行ってしまった。
そんな季節の変わり目に、ふと思い出す色がある。
藤色の蓮華。
山間を走る、2両編成の汽車があった。
通学電車の車窓から見える景色が、私の原風景になっている。
春になると、一面に蓮華畑が広がった。
田んぼいっぱいに咲く蓮華の花は、紫色を帯びたやわらかな紫だった。
淡いようでいて、遠くから見ると緑色の全体を染めてしまうような、不思議な強さを持った紫だった。
やがて花はすき込まれ、土に還る。
あの紫は、土の中で静かに、次の季節へバトンを渡す。
しばらくすると、水田に水が張られ、鏡のように春の青い空を映し出す。
生命力に満ちた青竹色の苗は眩しく、まだ何回じっと見ていない私は、目を細めながら遠景を見つめていた。
空を映した水面には、やがて若苗色の緑が並ぶ。
お行儀よく整列した稲の緑は、風が吹くと、光と戯れながらいつもせいに揺れた。
若苗の緑は天に向かってぐんぐん背を伸ばし、青竹色を深めていく。
たとえ風が強くても、するりとしなやかに身をかわす。
そして秋。
稲穂は頭を垂れ、黄金色に輝きだす。
山の色も、空の色も、光の角度も変わっていく。
季節の記憶には、色がある。
色の移ろいが、季節の変わり目を教えてくれる。
あの汽車は、もう廃線になってしまった。
同じ景色は、二度と見ることができない。
それでも、色の記憶は残っている。
梅雨が明け、夏の光が近づいてくる頃。
私は少しだけ、春の日差しを懐かしく思う。
そして、あの蓮華畑の藤色を思い出す。
あなたの原風景は、何色ですか?
***
この「色の記憶」と並行して、59歳からの小さな挑戦を綴るマガジンも続けています。
色の記憶をたどることは、これまでの自分をもう一度見つめ直すことでもあるのかもしれません。
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