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🎧針を落とせば、いつかの風景Pt.5〜プロコル・ハルム――ブルースとバロックの邂逅

ここは、とある街の音楽好きが自然と集まる喫茶店「フォックストロット」。
UKロックを愛するマスター・カズヒコのもと、駆け出しの銅版画家アミ、そして中学時代からの親友で音楽雑誌ライターのユキヒロが、ときおり立ち寄っては、レコードとコーヒーを肴に静かで熱い音楽談義を繰り広げている。


プロコル・ハルム 『プロコル・ハルム』 (1967年)


デビュー・アルバムと“青い影”をめぐる謎

アミ「マスター、今日の新しいコーヒーって、名前がついたんですか?」
カズヒコ「ああ、ちょうど決めたところさ。“青い影”って呼ぶことにしたよ。」
アミ「あっ、それってプロコル・ハルムのあの曲ですよね?有名な…」
ユキヒロ「“青い影(A Whiter Shade of Pale)”だな。1967年、あの曲が流れた時代は世界が揺れてた。サマー・オブ・ラブ、サイケデリック、ビートルズの『サージェント・ペパーズ』が出た年。そんな中で突然ラジオから流れてきた、あのバッハを思わせる荘厳なオルガン。あれには誰もが耳を奪われた。」
カズヒコ「そうなんだよ。しかもデビュー・シングルがいきなり大ヒット。だけど不思議なことに、このファースト・アルバムには“青い影”が収録されていないんだ。」
アミ「えっ?一番有名な曲が入ってないなんて、どうしてですか?」
ユキヒロ「イギリス盤ではシングルとアルバムを別に考える慣習があったんだよ。ビートルズもそうだろう?シングルはシングル、アルバムはアルバム。それに“青い影”はあまりに特別で、アルバムの流れとは独立してたんだ。」
カズヒコ「でもアメリカ盤ではちゃんと収録されてるんだ。国によって事情が違うんだよ。」
アミ「なるほど…なんだか不思議ですね。私にとって“青い影”は、夕暮れに一人で聴くと心がすっと広がるような曲です。マスターがコーヒーにその名前をつけたの、ちょっとわかる気がします。」
カズヒコ「一口ごとに、あのオルガンの旋律を思い出してほしいんだ。ちょっとビターで、でも深く染みていく感じをね。」

ブルースとバロックのあいだで

ユキヒロ「アルバムそのものは、ブルース・ロックを基盤にしているんだ。“Conquistador”とか“Something Following Me”なんかを聴くと、当時の若いバンドがアメリカのブルースに影響を受けつつ、自分たちの色を出そうとしてるのがわかる。」
カズヒコ「そこにマシュー・フィッシャーのオルガンが加わると、ブルースの泥臭さが一気に荘厳な響きに変わる。クラシカルで、どこか教会音楽のような重みがあるんだ。」
アミ「ブルースとクラシック…普通は混じらなそうな組み合わせですけど、聴くと自然に感じますね。」
ユキヒロ「それがプロコル・ハルムの革新だったんだよ。バンド名自体もラテン語風の響きで、“白い煙草”とか“はっきりしないもの”とか諸説あるけど、とにかく神秘的で匿名性がある。名前からして既存のロック・バンドとは違う匂いを漂わせていた。」
カズヒコ「そういう“よそ行き”の感じが、イギリスのアート・ロックの始まりを象徴してるんだと思う。クリムゾンやイエス、ジェネシスといったプログレ勢につながっていく系譜の先駆けでもある。」
アミ「ジェネシスって…このお店の名前の元ですよね。」
カズヒコ「そうそう。“フォックストロット”だな。だけどその前に、こういうプロコル・ハルムみたいな存在があったからこそ、UKロックがクラシカルで荘厳な方向に踏み出せたんだ。」
ユキヒロ「しかも、このアルバムは録音の質も独特で、モノラル盤とステレオ盤で印象が全然違う。初期盤を探すコレクターは今でも多い。中古レコード店で見つけたときのあの喜びは、僕たち世代には格別だ。」
アミ「マスターもユキヒロさんも、中学生の頃から中古レコード屋に通ってたんですよね?」
カズヒコ「ああ、店長にいろんなことを教わった。“これがプロコル・ハルムだ”って針を落としてくれた時の衝撃は今でも覚えてるよ。オルガンが鳴り響いた瞬間、世界が変わったように思えた。」
ユキヒロ「音楽は時代の空気を閉じ込めてる。67年のロンドンの匂いと、僕らがレコード屋で息を呑んだ瞬間が同じ盤の中にあるんだ。」
アミ「じゃあ、この“青い影”のブレンドを飲みながら聴けば、その時代の空気に少し近づけるかもしれませんね。」
カズヒコ「そうだな。レコードとコーヒーがあれば、時代を超えて旅ができる。そんな気がするよ。」


次回作・・・

ヤード・バーズ「ロジャー・ジ・エンジニア」

■登場人物

  • カズヒコ:52歳。喫茶店「フォックストロット」のマスター。UKロックに詳しく、レコードコレクター。

  • アミ:26歳。ウェイトレス兼、駆け出しの銅版画家。美大卒で個展開催が夢。音楽はマスターの影響で興味を持ち始めた。

  • ユキヒロ:52歳。音楽雑誌のライターでカズヒコの中学時代からの親友。店にふらりと現れてはブラックコーヒーを飲む。

※喫茶店「フォックストロット」の名前は、ジェネシスの同名アルバムに由来。
 

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