🎧針を落とせば、いつかの風景 Pt.10〜レッド・ツェッペリン『レッド・ツェッペリン I』の衝撃
ここは、とある街の音楽好きが自然と集まる喫茶店「フォックストロット」。
UKロックを愛するマスター・カズヒコのもと、駆け出しの銅版画家アミ、そして中学時代からの親友で音楽雑誌ライターのユキヒロが、ときおり立ち寄っては、レコードとコーヒーを肴に静かで熱い音楽談義を繰り広げている。
レッド・ツェッペリン 『レッド・ツェッペリン I』 (1969年)
衝撃のデビューサウンド
アミ「マスター、このジャケット、飛行船が炎に包まれてますよね。すごく印象的です」
カズヒコ「そうだ。ヒンデンブルグ号の爆発事故をそのまま使ってるんだよ。バンド名そのものを具現化したようなデザインだね。衝撃的なイメージが、まさにこのアルバムの音を象徴している」
ユキヒロ「当時はブルースを基盤にしたロックが主流だったけど、ツェッペリンはその枠を突き破ってきた。ジミー・ペイジがヤードバーズを脱退して立ち上げた新バンドとして注目されていたけど、まさかここまで革新的とはね」
アミ「冒頭の『Good Times Bad Times』からドラムがすごいですよね。ジョン・ボーナムの音って、体にズシンと響く感じがします」
カズヒコ「あの細かいバスドラ連打は、当時では考えられないテクニックだった。そこにジョン・ポール・ジョーンズのベースが絡む。リズム隊の存在感が強烈だからこそ、ペイジのギターとプラントの声がさらに際立つんだ」
ユキヒロ「プラントのボーカルはまだ若さが残って荒削りなんだけど、そのシャウトは圧倒的だよね。ブルースの影響を受けつつ、後のハードロックのスタイルを決定づけた歌い方だ」
アミ「『Communication Breakdown』はすごく速くて、後のパンクみたいな勢いを感じました」
カズヒコ「そこも革新的な部分だな。短いけれど強烈なリフ、スピード感。ジャンルを飛び越える音楽性がすでにあった」
ユキヒロ「それにペイジは録音方法にもこだわっていた。アンプから距離をとってマイクを置き、立体的な音を収録する。スタジオ録音の常識を変えたとも言われているんだ」

ブルースの再構築と未来への扉
ユキヒロ「アルバム後半になると、さらに深い世界が広がる。『Dazed and Confused』は、ライブで20分以上に膨らむ大曲になっていくんだ。サイケデリックで、重くて、不気味な空気をまとっている」
カズヒコ「ブルースの土台を保ちながらも、即興で曲を変貌させる力は圧倒的だっただろうな。聴く者を異世界に連れていくような感覚がある」
アミ「『You Shook Me』や『I Can’t Quit You Baby』ってブルースのカバーなんですよね。でも原曲よりずっとドラマチックで、ツェッペリンの音になってます」
ユキヒロ「そこが重要なんだ。ただコピーするんじゃなくて、バンド全員のエネルギーで“再構築”している。ボーカルとギターの掛け合いは、まるで舞台のセリフの応酬みたいだよ」
カズヒコ「そして最後の『How Many More Times』。ベースリフから始まって、展開が次々に変わる。ライブでは30分近く演奏することもあったらしい」
アミ「そんなに! 即興の余地がすごく大きい曲なんですね」
ユキヒロ「そう。スタジオ盤は原型に過ぎない。ライブでの爆発力こそがツェッペリンの真髄。デビュー作の時点で、その可能性を見せつけていたんだ」
カズヒコ「完成度の高さと同時に、これから広がっていく未来を示している。『レッド・ツェッペリン I』は、ロック史の出発点のひとつであり、後のハードロックやヘヴィメタルを方向づける扉を開いたアルバムだよ」
アミ「聴きながらジャケットを眺めていると、本当に“時代が変わる瞬間”を体験している気分になりますね」
次回作・・・
レッド・ツェッペリン 『Led Zeppelin II』 (1969年)
■登場人物
カズヒコ:52歳。喫茶店「フォックストロット」のマスター。UKロックに詳しく、レコードコレクター。
アミ:26歳。ウェイトレス兼、駆け出しの銅版画家。美大卒で個展開催が夢。音楽はマスターの影響で興味を持ち始めた。
ユキヒロ:52歳。音楽雑誌のライターでカズヒコの中学時代からの親友。店にふらりと現れてはブラックコーヒーを飲む。
※喫茶店「フォックストロット」の名前は、ジェネシスの同名アルバムに由来。
