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エターナルライフ第6話 再会 康輔

霧が晴れると昨日の豪雨に洗われた見事な青空が広がった。
朝露が朝日を浴びてキラキラ輝く中を、俺は彼女を連れて森に向かった。
もうこの季節のこの風景も見納めかも知れない。自分の死を意識してから、名も知らぬ草花も樹も山も、この世界の全てのものが輝いて見える。

険しい道に差し掛かったときに彼女の手を取った。白くて華奢なその手を握ると、またしてもユキと被ってしまう。最初はユキの娘かとも思った。しかし名前が違う。遠野や森という家は彼女の親族にもいないはずだった。

小高い丘に登るとその先が森になっている。俺たちは森の奥の大きな池を目指して進んでいく。彼女は中々健脚だった。
「君は何かスポーツをやっているの?」
「高校まで陸上部にいました。でも今は何も…」
「陸上は何をやってたの?」
「ハードルです。百メートルでインターハイにも出たんですよ。入賞もできなかったけど」
「なるほど、それじゃこんな山歩きは何ともないな」
落葉樹の鮮やかな緑が眩しい。梢には鳥たちが歌っている。上枝にリスを発見し、彼女に教えてあげると、子供のようにはしゃいだ。

池の端の倒木に腰掛けて休憩する。池の向こうは針葉樹の森だ。
「見て」
彼女が俺の肩に手を置いて囁く。
「お、鹿だ。まだ子供だね」
草を食んでいた子鹿はふとこちらを見つめ、森の奥に駆けていった。
「綺麗。東山魁夷の絵みたいですね」
「ああ、でもあれは白馬だろ」
どこかで鶯が鳴いている。水面を魚が跳ねる。俺たちはしばらく黙って座っていた。

「さあ、そろそろ行くか。腹が減ったろう? 朝はクラッカーとフルーツだけだったから」
立ち上がりながらそう言うと、彼女は座ったまま遠くを見つめていた。
「どうした?」
「こんなに綺麗な、豊かな自然の中で暮らせたらいいなって」
彼女は顔を向けて微笑む。頬骨の上にかすかな笑窪を浮かべて。
そうしないか、という言葉を飲み込んだ。彼女がどんな反応をするのか怖かった。
この、突然舞い込で来た子鹿のような美しい娘と一緒に暮らせたらどんなに素敵だろう。俺は今までひとりでいることを苦痛に感じたことはなかった。むしろ群れることを避けて生きてきた。でも今、自分があの家でひとりきりで朽ち果てていくことに、耐えがたい孤独を感じてもいた。

「お昼は私が作ります」
そう言って、彼女はあり合わせの食材で昼食を作っている。キッチンに立って働く彼女の後ろ姿を見ながら、かつて、誰かが自分のために料理を作ってくれたのはいつのことだったろうかと考えた。テーブルの上にいくつかの料理が並べられ、二人で食べた。
「どうですか?」
「君は料理のセンスがあるね。とても美味しい。」
「料理はおばあちゃんに教わったんです。今でも基本自炊してます。節約のために。でも、それを誰かが食べてくれて、美味しいって言ってくれるのはとてもうれしいです。誰かのために食事を作るのって大好き!」
「そうか。君はいい奥さんになれるよ」

食事が終わって食器をかたづけると、彼女は荷造りを始めた。何となくぎこちない空気が漂った。荷造りを終えた彼女は言った。
「いろいろとありがとうございました。また、お邪魔してもいいですか?」
「ああ、もちろん」
「良かった」
「あの…」
「え?」
「ああ、誤解しないで聞いて欲しいんだけど、もし、君が良ければ、ずっとここに居てもらってもいいんだ」
「本当ですか?」
笑顔を輝かせて彼女は言った。彼女には警戒心というものがまるでないのか。そもそもこんなオヤジは彼女にとって男の範疇には入らないのか。彼女は待ちわびた主人の帰宅を迎える子犬のように、全身に歓びを溢れさせながら言った。
「あ、そうだ。黒田さん、買い物に行きましょう。私のベッド、持ってきたお金で買います」
俺たちは街まで買い物に出かけ、久しぶりに夕食を外で摂った。


エターナル・ライフ第7話 初夏 美里


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