Phase 2とは何か——Phase 3への勝算を探る #10
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Phase 2は、薬の開発でとても重要な分かれ道だ。
Phase 1で「人に投与できそうだ」と確認された薬は、次にPhase 2へ進む。
ここで問われるのは、単に「安全かどうか」ではない。
本当に効きそうなのか。
どの患者に使うべきなのか。
どの用量なら勝負できるのか。
そして、Phase 3という大きな投資に進んでよいのか。
つまりPhase 2は、薬の可能性を見極めるだけでなく、
Phase 3に進む“勝算”を作る段階なのである。

この記事では、Phase 2で何を見て、何を決めているのかを整理する。
ここを理解すると、今後、臨床試験のニュースやIR資料を読むときに、
このデータは、Phase 3に進む根拠として十分なのか
という視点を持てるようになる。
Phase 2で何を確かめるのか
Phase 2の目的は、大きく三つある。

一つ目は、本当に効きそうかを確かめることだ。
Phase 1では、安全に人へ投与できるかを見ることが中心だった。
しかしPhase 2では、いよいよ「この薬に医学的な効果がありそうか」を患者で確認していく。
もちろん、この段階で最終的な結論が出るわけではない。
それでも、Phase 3に進むには、
この薬は効くかもしれない
と言えるだけのシグナルが必要になる。
二つ目は、どの用量で使うべきかを探ることだ。
薬は、多ければ多いほど良いわけではない。
低すぎる用量では、十分に効かないかもしれない。
一方で、高すぎる用量では、副作用が強くなりすぎるかもしれない。
そのためPhase 2では、効果と安全性のバランスが取れる用量を探していく。
三つ目は、Phase 3をどう設計するかを決めることだ。
どの患者を対象にするのか。
どの用量で試すのか。
何を「効いた」と判断するのか。
どの比較対象と比べるのか。
こうした判断が、Phase 3の試験設計に直結する。
一言でいえば、Phase 2は、Phase 3という大型投資に進むための判断材料を集める場である。
判断材料が揃って初めて、企業は「Phase 3に進む価値がある」と判断できる。
逆に、見込みが薄いと判断すれば、Phase 2で開発を止めることもある。
早めにやめることは失敗ではない。
むしろ、Phase 3という巨額投資の前に、早い段階で正しい判断をしたともいえる。
Phase 2aとPhase 2b——「効きそうか」と「どの量で使うか」
Phase 2は、大きく二つの段階に分けて考えられることが多い。
それが、Phase 2aとPhase 2bだ。
ただし、最初に注意しておきたいのは、この区分は絶対的なものではないということだ。
「ここからここまでがPhase 2aで、ここからがPhase 2b」と厳密に決まっているわけではない。
企業や試験によっては、Phase 2aとPhase 2bを明確に分けず、一つのPhase 2試験の中で有効性の確認と用量探索を同時に行うこともある。
そのため、Phase 2a / Phase 2bという言葉は、規制上の厳密な分類というより、Phase 2の役割を理解するための目安として捉えるとよい。
Phase 2a——まず「効きそうか」を見る
一般的に、Phase 2aは**Proof of Concept(PoC)**の段階として理解されることが多い。
Proof of Conceptとは、簡単にいえば、
この薬は、本当に治療効果を出せそうか
を確認することだ。
この段階では、Phase 1で確認された安全性、忍容性、PK/PDデータなどをもとに、どのくらいの用量で試すかを決める。
場合によっては、有効性のシグナルを見つけやすいように、やや高めの用量が選ばれることもある。
なぜなら、低すぎる用量では、
薬そのものに効果がなかったのか
それとも、単に用量が足りなかっただけなのか
が分からなくなってしまうからだ。
Phase 2aでは、薬に十分なチャンスを与えたうえで、「本当に効きそうか」を見極める必要がある。
ここで有望なシグナルが見えれば、開発チームは次の段階に進む。
一方で、効果が見えなければ、Phase 3に進む前に開発を止めることもある。
つまりPhase 2aは、Phase 3という大型投資に進む前の、最初の重要な関門なのである。
Phase 2b——「どの用量で勝負するか」を決める
Phase 2bでは、より実践的な問いに移る。
どの用量で使うべきか。
どの用量なら、効果を保ちながら副作用を抑えられるか。
複数の用量を比較し、有効性と安全性のバランスを見ながら、Phase 3で試す用量を決めていく。
ここでの判断は、Phase 3の試験設計に直結する。
用量の選び方を誤ると、Phase 3で大きな問題になる。
低すぎれば効果を示しにくくなる。
高すぎれば副作用が目立ち、使いにくい薬になってしまうかもしれない。
だからPhase 2bでは、「効くかどうか」だけでなく、どの用量ならPhase 3で勝負できるかを見ることが重要になる。
TPP——最終的にどんな薬にしたいのか
Phase 2の意思決定を考えるうえで、とても重要な考え方がある。
それが、TPP(Target Product Profile:目標製品プロファイル)だ。
TPPとは、簡単にいえば、
この薬を、最終的にどんな製品として世に出したいのか
をまとめた“完成予想図”のようなものだ。
製薬企業は、開発の早い段階から、最終的な製品像を考えている。
たとえば糖尿病の新薬を開発しているとしよう。
TPPには、次のような内容が入る。
対象は中程度の2型糖尿病患者。
1日1回の錠剤。
既存薬より低血糖リスクが少ない。
高齢者にも使いやすい用量設計。
これは、承認を取った後に目指す「理想の製品像」である。
TPPには、対象患者だけでなく、有効性の目標、用量・用法、安全性、競合品との差別化ポイントなども含まれる。
そして、この理想の製品像から逆算することで、Phase 2の設計が決まっていく。
どんな患者を試験に選ぶのか。
何を効果の指標にするのか。
どの用量を試すのか。
既存薬とどう差別化するのか。
こうした判断は、すべてTPPとつながっている。
TPPは、臨床チームだけで作るものではない。
研究、臨床開発、薬事、メディカル、マーケティング、事業開発、経営企画など、さまざまな視点が関わる。
なぜなら、薬の開発は科学だけでは決まらないからだ。
どの患者に未充足ニーズがあるのか。
市場規模はどれくらいか。
競合品と比べて何が違うのか。
承認後にどのような使われ方を目指すのか。
こうした科学とビジネスの判断が、開発の早い段階から交わっている。
誰に使う薬なのか——患者選びとバイオマーカー
Phase 2では、通常、数十人から数百人規模の患者が参加する。
ここで重要になるのが、
誰を試験に入れるのか
という判断だ。
TPPで描いた「理想の製品像」を実現するには、試験に参加する患者を慎重に選ぶ必要がある。
そのために使われるのが、包含基準(inclusion criteria)と除外基準(exclusion criteria)である。
包含基準とは、「この条件を満たす患者を試験に入れる」という基準だ。
除外基準とは、「この条件に当てはまる患者は試験に入れない」という基準である。
たとえば糖尿病の薬を開発するなら、年齢、罹患期間、HbA1cの範囲、合併症の有無、腎機能や肝機能などで患者を絞り込む。
最近発症した患者と、長年病気を抱えている患者では、体の状態が大きく異なる。
だから、薬の効果を最もはっきり見られる集団を選ぶ必要がある。
ここには難しいジレンマがある。
患者を絞りすぎると、試験では効果が出やすくなる。
しかし、承認後に使える患者の範囲が狭まり、市場は小さくなる。
一方で、患者を広げすぎると、市場は大きく見える。
しかし、患者背景がばらつき、効果を統計的に示すのが難しくなる。
つまり、患者選びは単なる臨床試験の技術論ではない。
どこまで対象を絞るのか。
どこまで広げるのか。
この判断には、臨床開発と商業戦略の両方が関わっている。
バイオマーカーで「効きやすい患者」を探す
現代のPhase 2では、患者選びがさらに精密になっている。
その代表が、バイオマーカーを使った選別だ。
バイオマーカーとは、病気の状態や薬への反応を示す客観的な指標のことだ。
たとえば、遺伝子の変化、血液中のタンパク質、画像所見などが含まれる。
簡単にいえば、
この薬が効きやすい患者は誰か
を見つけるための手がかりである。
たとえば中外製薬のアレセンサ(一般名:アレクチニブ)は、肺がんのうち、ALK融合遺伝子またはALK再構成を持つALK陽性患者を対象とする薬だ。
この薬は、ALK融合による異常なシグナルを標的にする。
そのため、ALK陽性でない患者では効果が期待しにくい。
このような標的療法では、薬のメカニズムが比較的明確なため、対象患者を最初から絞り込むことができる。
一方で、最初からどの患者に効くかが明確に分かっているとは限らない。
幅広い患者を対象に試験を始めたあと、データを分析する中で、
特定の遺伝子を持つ患者だけ、明らかに反応が良い
ということが見えてくる場合もある。
その場合、Phase 2は、どの患者に効くかを科学的に見極めていくプロセスそのものになる。
どちらのパターンでも共通しているのは、
全員に同じ薬
という考え方から、
この患者に、この薬
という考え方へ移っているということだ。
これが、**プレシジョンメディシン(精密医療)**の発想である。
Phase 2の患者選びは、この考え方を実際の臨床開発に落とし込む重要な場面なのである。
何を見て「効いた」と判断するのか
Phase 2で最も難しい判断の一つが、
何を測って、効いたと判断するのか
である。
臨床試験では、この「何を測るか」を評価項目(Endpoint)と呼ぶ。
その中でも、最も重要な指標が主要評価項目(Primary Endpoint)だ。
たとえばHIV治療薬を考えてみよう。
本当に知りたいのは、最終的には、
患者が長く健康に生きられるか
である。
しかし、死亡やAIDS発症などの結果を待つには、長い時間がかかる。
そこで、より早く測定できる指標として、「ウイルス量」が使われる。
ウイルス量が下がれば、長期的には病気の進行を抑えられる可能性が高い。
このように、最終的な臨床結果の代わりに使われる早期の指標を、代替エンドポイント(Surrogate Endpoint)と呼ぶ。
一方で、がん領域では少し事情が複雑だ。
奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、腫瘍縮小率などの指標は、薬の効果を比較的早く捉えられる。
そのため、Phase 2ではよく使われる。
ただし、これらの指標が、最終的にどこまで患者の利益につながるかは、疾患や治療ライン、薬の作用機序によって異なる。
たとえば、腫瘍が小さくなったとしても、それが必ずしも長く生きられることにつながるとは限らない。
逆に、腫瘍の縮小が小さくても、病気の進行を長く抑えられる場合もある。
だから、がん領域では今も、全生存期間(Overall Survival:OS)が、最も直接的で信頼性の高い臨床エンドポイントの一つとされている。

ここが難しい。
早く測れる指標は、開発スピードを上げる。
しかし、その指標が本当に患者の利益につながるとは限らない。
一方で、患者の利益を直接測る指標は信頼性が高い。
しかし、結果が出るまでに時間がかかる。
つまり、エンドポイントの選択は、科学、薬事、ビジネスの交差点にある判断だ。
何を測るかを誤ると、Phase 2で「成功した」と見えても、Phase 3で失敗することがある。
だからPhase 2では、
効いたかどうか
だけでなく、
何をもって効いたと判断したのか
を見ることが重要になる。
Phase 2は、Phase 3に進む自信を作る
Phase 2の最終的な役割を一言でいえば、
Phase 3に進んでよいという自信を作ること
である。
その自信は、主に三つの柱によって支えられる。
一つ目は、有効性の確認だ。
この薬は、本当に効く可能性があるのか。
患者で効果のシグナルは見えているのか。
二つ目は、最適な用量の特定である。
どの用量なら効果を保てるのか。
どの用量なら副作用を抑えられるのか。
Phase 3で試すべき用量はどれなのか。
三つ目は、エンドポイントの妥当性だ。
測っている指標は、本当に患者価値につながるのか。
Phase 3でも再現できそうな指標なのか。
規制当局や医療現場を納得させられるのか。
この三つが揃って初めて、企業は「Phase 3に進む価値がある」と判断できる。
裏を返せば、どれか一つでも欠けていれば、どれほど有望に見える薬でも、Phase 3で失敗するリスクは高くなる。
Phase 2は、薬の可能性を、Phase 3投資の根拠に変えるフェーズだ。
だから、ここで見るべきものは単なる「成功/失敗」ではない。
誰に効いたのか。
どの用量で効いたのか。
何をエンドポイントとして測ったのか。
その結果は、Phase 3でも再現できそうなのか。
こうした問いを持てるようになると、Phase 2の学会発表やIR資料の見え方が変わってくる。
「有効性が示された」という一文だけを見るのではなく、
その裏側にある設計や判断を読むことができるようになる。
Phase 2は、薬の未来を占う重要な分岐点である。
そして投資家にとっては、企業がどれだけ冷静にPhase 3への勝算を作れているかを見極める場でもある。
次回は、投資家の視点から、Phase 2データをどう読むべきかを見ていく。
注記
本記事は、公開情報・規制資料・AIを活用したリサーチをもとに、筆者が内容を確認・編集して整理したものです。筆者は臨床開発の実務担当者ではないため、実際の運用は企業・国・試験内容・モダリティによって異なる点にご留意ください。
参考資料
FDA "The Drug Development Process: Step 3: Clinical Research" — 臨床試験各フェーズの概要
ICH E8(R1) "General Considerations for Clinical Studies" — 探索的試験・確認的試験の考え方
ICH E9(R1) "Statistical Principles for Clinical Trials" — 臨床試験における統計的原則
FDA "Target Product Profile — A Strategic Development Process Tool" — TPPの考え方
FDA "Table of Surrogate Endpoints That Were the Basis of Drug Approval or Licensure" — 代替エンドポイントの整理
BIO "Clinical Development Success Rates and Contributing Factors 2011–2020" — 臨床開発成功率に関する分析
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