日本の新薬はどう承認されるのか——PMDA・厚労省と日本版スピード承認制度を読み解く #17
このシリーズのラインナップは→ 第1回の記事でご確認いただけます。
前回は、米国で新薬がどう承認されるかを見てきた。
NDAやBLAといった申請、FDAの審査、そしてFast TrackやAccelerated Approvalといった優遇制度。
そこで、こんな疑問を持った方もいるかもしれない。
では、日本ではどうなっているのか。
米国の制度を中心に見てきたのは、製薬ビジネスにおける米国市場の重要性が理由だった。これは記事02で整理したとおりである。
しかし、日本市場を読むなら、日本の承認制度も知っておく価値がある。
特に最近は、「ドラッグロス」という言葉をニュースで見かけることが増えた。海外で承認された薬が、日本では使えない——そんな話である。
この記事では、日本の新薬承認の仕組みを、米国(記事16)と対比しながら整理する。そして最後に、日本市場が抱える構造問題である「ドラッグラグ・ドラッグロス」を、ビジネス視点で読み解く。
承認の主役は誰か——PMDA・厚生労働省・薬事審議会
米国では、FDAが審査から承認までを一手に担っていた。
日本では、ここが少し違う。役割が分かれているのだ。
登場するのは、大きく3者である。
PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構) ——科学的な審査を行う実働部隊。
厚生労働省(厚労省) ——最終的に承認を「決定」する行政。
薬事審議会 ——外部専門家が承認の可否を審議する場。
流れをざっくり言うと、こうなる。
製薬会社は、厚生労働大臣に対して承認申請を行い、その審査実務をPMDAが担う。PMDAが品質・有効性・安全性を科学的に審査し、その結果を厚生労働省に報告する。重要な品目については、薬事審議会で審議され、その意見を踏まえて、最終的に厚生労働大臣が承認する。

ここで、米国との対応関係を押さえておきたい。

米国ではFDAが「審査」も「承認」も担う。一方、日本では審査(PMDA)と承認の決定(厚労大臣)が分離している。
記事16で見たFDAの諮問委員会とまったく同じではないが、外部専門家の意見を踏まえて承認判断を支える仕組みとして、日本では薬事審議会が近い役割を持つと考えると分かりやすい。
なお、この薬事審議会は、かつて「薬事・食品衛生審議会」と呼ばれていたが、2024年4月の改組後は「薬事審議会」となっている。過去の資料では旧名称で出てくることもある。
申請から承認までの流れ——「12ヶ月」という基準
ここからは、申請から承認までの流れを見ていく。
なお、日本の承認制度は国内の仕組みで動くが、申請資料や臨床試験、品質・安全性評価の考え方は、ICHなどを通じて国際的にかなり共通化されている。そのうえで、日本ではPMDAが審査し、厚生労働大臣が承認する、という国内プロセスが動いている。
PMDAは、申請を受け付けると審査を進める。
ここで知っておきたいのが、総審査期間の目標である。
PMDAは、新医薬品の通常品目について、申請受付から承認までの総審査期間の目標を12ヶ月に置いている。
記事16で見たように、米国FDAのStandard Reviewの目標は10ヶ月だった。数字の取り方が完全に同じではないため単純比較はできないが、「だいたい1年が一つの基準」という感覚はつかんでおきたい。
ただし、これらはあくまで総審査期間の目標であり、すべての品目が必ずその期間内に承認されるという意味ではない。PMDA側の審査、企業側の照会事項対応、GMP調査、提出資料の完成度などによって、実際の審査期間は前後する。
そして米国にPriority Reviewがあったように、日本にも「審査を早める制度」がある。
ここからが本題である。
日本版「審査を早める制度」を整理する
日本にも、米国の優遇制度に近い仕組みがいくつかある。
ただし、日米の制度設計は完全に同じではない。以下の対応関係は、理解のための目安として見てほしい。
優先審査——重篤・有用性で前倒しする(≒ Priority Review)
重篤な疾病で、医療上の有用性が高いと認められる薬は、優先審査の対象になる。
優先審査に指定されると、総審査期間の目標が、通常の12ヶ月から9ヶ月に短縮される。
これは、米国のPriority Review(標準審査より審査を早める制度)に対応するものだと考えてよい。
ここで注意したいのは、記事16でも強調したことと同じである。
優先審査は「審査が早くなる制度」であって、「承認を保証する制度」ではない。
審査のスピードと、承認の可否は、別の話だ。
先駆的医薬品指定制度——目標6ヶ月の最速ルート(≒ Breakthrough Therapy)
世界に先駆けて日本で開発される、画期的な新薬を対象とするのが、先駆的医薬品指定制度である。
指定の主な条件は、おおむね次のようなものである。
治療薬としての画期性
対象疾患が重篤であること
極めて高い有効性が見込まれること
世界に先駆けて、日本で承認申請される予定であること
この指定を受けると、総審査期間の目標が6ヶ月まで短縮される。通常品目の半分である。
さらに、申請前の段階からPMDAの相談(対面助言)で優先的な扱いを受けられるなど、審査前から手厚いサポートがつく。
米国のBreakthrough Therapy(強い初期データを前提に、開発全体を加速する制度)と同じく、開発・審査を前倒しする制度に近い。ただし、日本の先駆的医薬品指定制度は、「世界に先駆けて、または同時に日本で申請する意思・体制」を重視する点が特徴である。米国のBreakthrough Therapyと完全に同じ制度ではない。
なお、この指定を受けた医薬品は、制度開始以来、年に数品目という限られたペースで積み上がっている。決して乱発される指定ではない、という点も押さえておきたい(最新の指定品目一覧はPMDAのサイトで公表されている)。
条件付き早期承認制度——検証試験を待たずに承認する(≒ Accelerated Approval)
3つ目が、医薬品の条件付き早期承認制度である。この記事では、分かりやすさのために「条件付き承認」と呼ぶ。
これは、重篤な疾患で有効な治療法が乏しく、通常の検証的試験(一般にPhase 3に相当)を日本で実施することが難しい、または実施に長い時間を要する場合などに、検証的試験の成績を承認前にすべて求めるのではなく、市販後の調査等を条件として承認する仕組みである。
その代わり、承認後に有効性・安全性のデータを集めることなどが「承認条件」として課される。
つまり、
先に承認する。ただし、市販後にデータで裏付けることを条件にする。
という考え方だ。
これは、記事16で見た米国のAccelerated Approval(加速承認)と似た性格を持つ制度である。どちらも、重篤な疾患などで早く患者に治療選択肢を届けるため、承認後のデータ収集や確認を前提にする点では共通している。
ただし、両者は完全に同じではない。米国のAccelerated Approvalは、サロゲートエンドポイント(臨床的有用性を予測すると考えられる代替指標)に基づく早期承認という性格が強い。一方、日本の条件付き早期承認制度は、日本で検証的試験を実施することが困難、または長時間を要する場合に、市販後調査等を条件として承認する仕組みである。力点が少し違う。
早く患者に届けられる一方で、承認後のデータで有効性・安全性を確認していく必要がある。
この制度は2020年9月に法制化され、運用が続いている。
3つの制度を一枚で
ここまでを、米国と対比して整理しておく。

いずれも「早く患者に届ける」ための制度だが、早める対象は異なる。優先審査は審査期間、先駆的医薬品指定は開発・審査全体、条件付き早期承認は承認前に求める検証データの扱いがポイントである。
ただし、指定は承認を保証するものではない。この読み分けは、米国編と同じである。
ドラッグラグ・ドラッグロス——日本市場の構造問題
ここまでは「制度」の話だった。
最後に、その制度が動いている日本市場が、いま何を抱えているのかを見ておきたい。これが業界・投資家の双方にとって、最も重要な論点である。
かつて日本では、海外で承認された薬が日本で使えるようになるまでに、長い時間がかかる問題があった。これをドラッグ・ラグ(drug lag)と呼ぶ。
2010年代を通じて、この遅れは一度かなり改善したとされる。
しかし近年、より深刻な問題が指摘されるようになった。ドラッグ・ロス(drug loss)である。
ドラッグラグが「遅れて入ってくる」問題だとすれば、ドラッグロスはそもそも日本で開発・申請すらされない問題だ。
ドラッグ・ラグ:海外より遅れて日本に入る(=時間の遅れ)
ドラッグ・ロス:そもそも日本で開発・申請されない(=市場からの抜け落ち)
たとえば医薬産業政策研究所の代表的な分析では、2020年末時点の国内未承認薬は176品目あり、そのうち国内で開発情報がないものは95品目とされる。また、ドラッグラグを有する品目のラグ期間は中央値で16.4か月、つまり約1.4年とされている。
なお、こうした数字は調査時点や集計対象によって変わる(たとえば厚労省資料では、2023年3月時点で欧米承認済み・国内未承認の品目を別の方法で整理している)。最新状況を見る際は、厚労省や業界団体の資料を確認したい。
なぜ、こうなるのか。
背景の一つが、海外の新興バイオ企業(スタートアップ)が開発した薬である。
こうした企業にとって、日本市場は必ずしも優先順位が高くない。日本の臨床試験には独特の手続きや、追加の日本人データを求められる傾向があり、開発のコストと手間が大きいと受け止められてきた。結果として、「日本は後回し」あるいは「日本ではやらない」という判断につながる。このように、企業が日本での開発・申請を後回しにしたり、場合によっては最初から日本を開発対象から外したりする動きは、ビジネスの文脈で "Japan Passing"(ジャパン・パッシング) と呼ばれることもある。
ここは、ビジネス視点で押さえておきたい。
薬が日本で使えるかどうかは、有効性だけで決まるのではない。
「日本で開発する経済的な合理性があるか」という、企業側の判断にも左右される。
そして、その「経済的な合理性」を大きく左右するのが、薬価——薬の公定価格である。日本の薬価がどう決まり、なぜ相対的に低いのか、そしてそれが企業の判断やドラッグロスにどう響くのかは、それだけで一本のテーマになる。この点は、別の記事で詳しく掘り下げる予定だ。
規制当局も、この問題に手を打ち始めている。
たとえば2023年12月には、海外で開発が先行した薬について、国際共同治験の開始前に日本人での第I相試験を一律に求める考え方を見直し、その必要性を個別に判断する方向が示された。日本だけ追加の初期試験を求められる、というハードルを下げる狙いである。
こうした動きが、ドラッグロスをどこまで反転させられるか。今後数年の、注目すべき論点である。
まとめ——日本の承認ニュースは「制度の階段のどこか」で読む
最後に、要点を整理する。
日本では、PMDAが審査し、厚生労働大臣が承認する。役割が分離している点が米国と違う。
審査を早める制度として、優先審査(9ヶ月)・先駆的医薬品指定(6ヶ月)・条件付き承認がある。それぞれ米国のPriority Review・Breakthrough・Accelerated Approvalに近い(ただし要件や力点には違いがある)。
「指定」は審査を早めるが、承認を保証するものではない。米国編と同じ読み方が通用する。
日本市場の構造問題がドラッグラグ・ドラッグロス。有効性だけでなく、「日本で開発する合理性があるか」という企業判断が、薬の入手可能性を左右する。
日本の承認制度を見るときに大事なのは、「PMDAが審査し、厚労省が承認する」という制度の流れだけではない。
その薬が、優先審査に乗っているのか。先駆的医薬品に指定されているのか。条件付き早期承認なのか。そして、そもそも企業が日本で開発・申請する意思を持っているのか。
この4つを分けて読むと、日本の承認ニュースの意味が、かなり見えやすくなる。
次回は、承認された薬が市場に出たあとの世界——市販後の安全性監視を見ていく。承認は、ゴールではない。
参考資料
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「先駆的医薬品等指定制度」
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品の条件付承認制度への対応」
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「新医薬品に係る承認審査の標準的プロセスにおけるタイムライン」
厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」関連資料
日本製薬工業協会 医薬産業政策研究所「ドラッグ・ラグ/ロスの実態把握と要因分析」
※本記事は、公開情報をもとに製薬業界をビジネス視点で解説するものであり、特定の医薬品・銘柄の投資判断を推奨するものではありません。制度の詳細や最新の運用については、必ずPMDA・厚生労働省の一次情報をご確認ください。
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