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第5回 まず何から聴けばいいのか

※本記事は連載で、全体の目次はこちら(第0回)になります。第1回から読む方はこちらです。

好きな曲を二,三曲見つけて格別の演奏で聴いてみる

 クラシック音楽の魅力を一通り見てきて、早速この世界に飛び込みたくなってきたと思います。では具体的に、まず何から始めればいいのでしょうか。
 ハーモニーを楽しめるようになることがクラシック音楽を愉しむためのポイントだという話をしましたが、そのためには、まずクラシック音楽に慣れることが重要だと思っています。私は、人それぞれ感性が異なり、好きな曲も十人十色だと思っていますので「これを聴け!」と特定の曲やCDを薦めるようなことはしません。まずは、よくある「クラシック音楽ベスト100」のようなオムニバスCDや動画サイトなどにあるクラシック音楽名曲集など(合法なもの)で、好きな曲を二、三曲見つけてもらうことをおすすめします(クラシック音楽をあまり聴いたことが無いのであれば、まずはメロディーラインが明確なショパン、チャイコフスキー、モーツァルト、ベートーヴェンなどがいいと思います)。そのうえで、次の3つの書籍を揃えてください。
 
・新編 名曲名盤300 ベストディスクはこれだ!(2011年4月発行)
・最新版 名曲名盤500 ベストディスクはこれだ!(2017年6月発行)
・新時代の名曲名盤500+100 “いま”を反映する必聴ディスクはこれだ!(2023年2月発行)

 
 どれも『レコード芸術』というクラシック音楽CD評論に関しては右に出るものがいない雑誌の連載を基にしたムックです。10名ぐらいの音楽評論家がクラシック音楽の名曲それぞれに対して、これまで発売されたCDの中からベスト3を選んでいます。それらの1位に3ポイント、2位に2ポイント、3位に1ポイントを投票し、最終的に他の評論家のポイントと集計して総合ランキングを算出しています。そのため、個人が選んだ名盤ガイドのように個人の主観や思い入れが入りにくいランキングになっています。このように複数の評論家による投票によって総合ランキングを決めるということを6年ごとにおこなっているのですが、このような方法を採っている名盤ガイドは他に例がありません。
 
 これらの書籍で、さきほど自分が好きになった曲を探してみて、総合ランキング上位のCDを一通り聴いてみます。CDは新品でも中古でも構いませんし、iTuneStoreなどでデジタル音源を購入していただいても構いません。また、最近では月額料金(1000円程度)を払えば聴き放題のクラシック音楽サブスクがありますので、それに登録して聴いていただいても構いません。具体的には「Apple Music Classical」「Amazon Music Unlimited」などがあります。先ほど、好きな曲を二、三曲見つけてもらうことをおすすめしたのは、一曲だけだとこの書籍に載っていない恐れがあるからです(もし、どの曲も載っていない場合は、他のオムニバスCDなども聴いてみて好きな曲を探す作業に戻ってみてください)。
 図書館でもクラシック音楽CDを借りることができるのですが、多くの人が借りるためにCDの読み取り面に傷が多く付いています。これによって、CDプレーヤーやパソコンでの読み取りの際にエラー補正が発生し、音質が劣化する可能性がありますので、正直図書館のCDはあまりおすすめしません。
 
 書籍に載っている総合ランキング上位のCDを実際に聴いてみると、やはり名演とされているだけあって、それとわかる独特の気迫があることに気づくと思います。個々の楽器の音は雄弁で、演奏家はノリノリでグルーブ感がある、オムニバスCDやネットで聴いた演奏とは別物のような凄い演奏に遭遇することになるでしょう。これこそがクラシック音楽の醍醐味なのです。一度このような「本物のクラシック音楽」に接してしまうと、もうこの沼からは抜け出せなくなり人生がすっかり変わってしまうことになるでしょう。
 
 この総合ランキングをよく見てみると、総合一位なのにもかかわらず誰も一位に挙げていないCDや、ある人が一位に挙げている(これ以上の演奏はないと考えている)ものの、総合ランキングではかなり下の方になっているものなど様々です。このうち「ある人が一位に挙げている」場合には、たとえ総合ランキングが低かったとしてもできるだけ聴いてみるようにした方がいいと思います。なぜなら、その人と自分の感性が近い場合には、そのCDが自分にとってのオールタイム・ベストになる可能性があるからです。
 
 ところで、私は先ほど書籍を3冊挙げましたが、2023年に「新時代の名曲名盤500+100」が発行されていて「曲数が一番多いし情報も最新なんだから、2011年と2017年に発行された書籍はいらないんじゃないの?」と思われた方もいるでしょう。しかし、事はそう単純ではありません。2023年版では、過去の不朽の名盤たちが不当に低く評価されているのです。例えば、2023年版では「前回、前々回で1位となった●●が、今回はなんとランキング圏外に」といったことが多々発生しているのです。投票する評論家たちが「きっとみんな、あのCDに投票するだろう」と考えて逆張りをしたら、他の人も同じようなことを考えていて、このような総合ランキングになってしまったのかもしれませんが、2023年版では新しく発売されたCDがかなり過大評価されているように見受けられます。2023年版の副題がこれまでの「ベストディスクはこれだ!」から「“いま”を反映する必聴ディスクはこれだ!」に変わっていることからもわかるように、新しく発売されたCDにバイアスがかかったランキングになっているように思います。
 不朽の名盤がもっとも適切に評価されていると私が考えているものが、2011年版のランキングです。2017年版では取り上げる曲数が200曲も増えていて参考になるのですが、総合ランキングに首をかしげたくなるようなものが散見されるようになってきます(例えば、マーラーの交響曲で総合1位がアバド?など)。2023年版では取り上げる曲数がさらに100曲増えますが、総合ランキングが大きく変容しています。ただ、変容しつつも過去の不朽の名盤を凌駕するような新盤(クルレンツィス、グザヴィエ・ロトなど)がちゃんと総合1位になっているなど、ある程度参考になるところもありますので、これら3つの書籍をバランスよく見て、自分の耳で判断してみるとよいと思います。
 また、名曲として取り上げられている楽曲の変化をみることで、2011年から2023年までのクラシック音楽界における人気曲の変遷を掴むこともできます。例えば、取り上げられている楽曲として、マーラーやショスタコーヴィチのものが顕著に増えているのですが、ロッシーニの「弦楽のためのソナタ集」などは2023年版では無くなっています。他にも、ブラームスの「ハンガリー舞曲集」やスクリャービンの《交響曲第4番》、コダーイの組曲《ハーリ・ヤーノシュ》が2023年版だと名曲名盤プラス100の方に入っていて、選出された500曲の名曲からは外れています。

好きな曲や作曲家を拡げてみる

 好きな曲を格別の演奏で触れて、クラシック音楽にハマることができたら、今度は好きな曲を拡げてみましょう。例えば、ベートーヴェンのピアノ協奏曲が好きなのであれば、交響曲やピアノ・ソナタ、ヴァイオリン協奏曲も聴いてみます。あるいは、ベートーヴェンと時代や作風の近い作曲家(モーツァルト、ブラームスなど)のピアノ協奏曲も聴いてみてください。それで心に響くものがあったら、さきほどの3冊で過去の名盤を聴いてみるということを繰り返して、どんどん愉しめる曲を拡げてみましょう。
 これを繰り返していると、ある特定の指揮者や演奏家(ピアニストやヴァイオリニスト)が好きになってくると思います。そうなれば、その演奏家に関する伝記や評論を愉しめるようになります。また、自分が好きな演奏を高く評価している音楽評論家は、自分と感性が近いということですので、他の曲でもその評論家の評価が参考になるでしょう。それだけでなく、評論家の方々は書籍を出されていたり、雑誌でCD月評を担当されていたり、連載を持たれていることも多いので、それを読めば自分が感動することができる演奏に高確率で出会えることになるでしょう。
 好きな指揮者や演奏家が得意とする曲を知りたい場合には、索引が参考になります。2011年版と2017年版には索引がありますのでこれを見れば、それぞれの演奏家が得意な楽曲を一覧で確認することができます。
 2023年版にも載っていない最新の名演奏を把握するには、『レコード芸術ONLINE』が参考になります。このオンライン雑誌では毎月新譜を網羅的に評価しているうえに、年に一回(12月頃)、新レコード・アカデミー賞を開催しています。この賞ではその年に出たCDや映像作品のなかから特に優れたものを選出していますので、これを見ていれば最新の名演奏もフォローできるでしょう。
 以上のように、好きな曲や演奏家がある程度できたら、ぜひコンサートに足を運んでみることをおすすめします。コンサートに関する情報は『音楽の友』という雑誌に詳しく書かれていますが、他にも『モーストリー・クラシック』や『音楽現代』のような雑誌もありますので、併せて参考にするとよいでしょう。
 演奏家にある程度詳しくなってくると、CDがリリースされる前やコンサートに行く前にある程度、予想ができるようになりますので、その予想が当たったかで一喜一憂することができるようにもなります。例えば「ラトルにはブルックナーは合わなさそう」とか「ブロムシュテットや久石譲は最近ベートーヴェンの交響曲全集を完成させたから、次はブラームスかシューベルトに着手するのではないか」といった感じでいろいろと妄想できるようになるのです。
 
 最後に一言、オペラについての補足です。さきほどの3冊でオペラの音源ベースでの名盤を確認することができるのですが、オペラではなんといっても演出面が重要になってきます。この演出については、2022年10月号の『レコード芸術』にて特集が組まれたことがありました。『[保存版]「映像時代」のオペラ BD&DVD名盤選』というタイトルなのですが、演出が優れたオペラの公演を映像で愉しみたいという方は、こちらが参考になると思います。

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