【経済】日経平均45000円!「失われた30年」の終焉か?経済学者がそれをもたらした「5つの構造変化」について完全解説
日経平均がついに45,000円を突破――。
バブル期の高値を超えた今、街にあの頃の熱狂や派手さはありません。今回の株高は単なる景気循環ではなく、日本経済を30年以上縛ってきた「失われた時代」の終焉を告げる構造的変化の現れと考えるべきです。
この記事では、インフレの顕在化から企業ガバナンス改革、海外マネーの再評価、そして国内個人資金の覚醒まで、経済学者の視点で5つの要因をわかりやすく解説します。
はじめに:熱狂なき株高の「正体」
2025年9月16日に、日経平均株価が、ついに45,000円を突破した。 それまでの高値は1989年(平成元年)の暮れに記録した、3万8915円だった。多くの日本人にとって、それはバブルの狂騒を象徴する数字であり、「失われた時代」を象徴する、決して超えられない壁だったかもしれない。
その壁を、私たちは30年以上を経て、ついに、そして静かに超えた。 しかし、街にはバブル期のような熱狂はない。だからこそ、多くの人がこう疑問を抱いているのではないだろうか。「この株高は、いったい何なのか?」「これは本物なのか?」と。
結論から言えば、今回の株価上昇は、かつてのバブルとは全く性質が異なる。単なる景気循環ではなく、日本経済の根幹で起きた「5つの構造変化」が、パズルのピースのようにカチッとはまった結果なのである。
この記事では、その5つの変化の要因を経済学の視点から一つひとつ紐解いていきたい。
【要因①】日本株の「異常な出遅れ」
構造変化の第一の要因について。それは、日本の株式市場が過去30年間、世界の成長から完全に取り残され、異常なほど割安に放置されていたという事実である。
下のグラフを見て頂きたい。これは、1990年を100として、日経平均株価(青い線)と、米国のS&P500(赤い線)の最近までの推移をグラフ化したものである。
これをみれば一目瞭然だが、基点の1990年は共に100であるが、日経平均の方は今も同じぐらいの水準である。それに対して、S&P500は、約18倍になっている。
要するに米国の株価がこれほど劇的に成長したのに対して、日本の株価はこれほどまでに停滞していたのである。
もっとも、この「何倍になったか」という比較は、配当やインフレ率をどう調整するか、為替レートをどうするかなどで数字は変わり得る。だから、ここでは、下のグラフ以外の数値は提示しないが、ざっくりみて、 米国や欧州の株価がこの間に十数倍以上に成長したのは確かである。それに対して、日本の株価は最近の急騰を含めても、ようやく2倍にも届きそうもないというのが現実なのである。
そういう意味では、日本の株価は世界と比べて明らかに出遅れていたと言える。そして、現在の株高の根底には、この「異常な出遅れ」を取り戻そうとする、地殻変動のような巨大なエネルギーの働きがあるのは確かであろう。

【要因②】潮目を変えた「インフレの顕在化」
長く続いたデフレのトンネルが終わり、「インフレ」の時代が到来したことが、二つ目の大きな変化である。
物価上昇は家計には負担となるが、経済全体、特に企業や株式市場にとっては潮目を変える大きな要因となる。
· 企業の売上・利益の増加:モノの値段が上がれば、企業の(名目上の)売上や利益は増加する。
· 資産価値の上昇:企業が保有する土地や工場、設備といった「実物資産」の価値は、現金の価値が下がる分、相対的に上昇する。
「現金(預金)をただ持っているだけでは、その価値がどんどん目減りしていく」という環境下では、人々は資産を守るために、株式や不動産といった資産に資金を移そうとする。この「インフレヘッジ」の動きが、株式市場に新たな資金を呼び込んでいる。
【要因③】東証が仕掛けた「企業ガバナンス改革」
外部環境が整うだけでなく、主役である企業自身が変わり始めたことも決定的だった。その最大のトリガーが、2023年に東京証券取引所(東証)が打ち出した改革だ。
キーワードはPBR(株価純資産倍率)である。
PBRとは
PBRは「株価 ÷ 一株あたり純資産」と定義されている。企業の「純資産」というのは、その会社の総資産から負債を引いたものなので、正味でその会社が持っている資産の総額ということになる。
と言うことで、PBRは「現在の株価が、その会社の一株あたりの純資産額の何倍あるか」というものを表している。PBRが2ならば、この会社の株価は一株あたり純資産の2倍になっていることを意味しているし、PBRが0.5ならば、その会社の株価は一株あたり純資産の半分しかない、ということになる。
したがって、一株あたりの純資産を基準にしたときに、PBRの大きさは、その会社の株価が割高か(PBRが大きいとき)、あるいは割安か(PBRが小さいとき)を判断するための一つの手掛かりになる。
ただ、ここで注意しなければならないのは、よく「純資産は、企業が解散したときに株主に戻ってくる清算価値のことだ」と言う人がいるが、厳密に言えば純資産=清算価値ではない。
なぜなら、いざ会社を解散するときに、持っている資産を全部売ったとしても、帳簿上の金額で各資産が売れる保障はないからである。例えば、非常に特殊な部品を作る工場を解散時に売りに出したとしても、そもそもそういう特殊な工場を買いたいと思う人や企業はほとんどいないだろうから、その工場は非常に安くでしか売れないかも知れない、と言うようなことが起こり得るのである。
そういう意味で、一株あたり純資産は「もしその会社が解散し、清算されたときに株主に戻される一株あたりのお金」だとは、必ずしも言えないのである。
ただ、そうは言っても、純資産は、「会社の解散時に資産を廃却したときにいくらで売れるのかの目安」になるのは確かなので、その意味で、「純資産は清算価値の目安」であるということはできる。言葉を換えて言えば、「純資産は清算価値の近似値だ」と言っても良いだろう。
そう考えると、PBRが1倍より小さい企業は、ざっくり言えば、「その会社が解散した時に株主が手にする価値(清算価値)よりも、株価が安い」状態を意味する。例えば、株価が1000円の企業のPBRが0.5であるならば、もしその会社が解散したときには、株主には一株あたり2000円が戻されることになる。逆に言えば、「この会社の株を1000円で買えば、2000円の価値が手に入る」ということになる。
これは、かなりお得だということになる。
投資家はPBRの小さい会社の株を買った方が良いの?
今見たように、PBRの小さい--特にPBRが1以下の--会社の株はおトクな感じがする。それでは、投資家はPBRが1よりも小さい会社を探して、その株を買った方がいいのだろうか?
確かにこの考え方には一理あるようにも思えるが、そもそも私たちはなぜ株を買うのか?という基本に立ち返ると、PBRが1以下の会社=良い会社、とは言えないのである。
というのは、会社が解散するというのは、ごく例外的な異常事態であって、我々が会社に期待することは、その会社が未来永劫にわたってビジネスを続けて、利益を出し続けてくれることなのである。
そういう観点でPBRが1以下だということは、要するに「その会社はせっかく工場などの資産を持っていても、それを有効に生かしきれていないから株価がこんなに安いのだろう」と言うことを意味していると考えた方がよさそうである。
こう考えると、PBRが小さいと言うことを手放しで喜ぶことはできないのである。
東証の強い意志
長年、日本の大企業は、こうした「資本をうまく活かせていない」と見なされる企業が溢れていた。
これに対し、東証はPBR1倍割れの企業に「資本コストや株価を意識した経営計画を示すよう」と、半ば最後通牒のように強く要請したのである
これをきっかけに、企業は堰を切ったように増配や自社株買いといった株主還元策を強化し始めた。ゲーム理論で言うところの「ルールの変更」が、プレイヤーである企業の行動を一斉に変えさせたのだ。これが、日本株の価値を内側から押し上げる原動力となっている面は否定できない。
【要因④】海外投資家の再評価と「円安」の追い風
こうした日本企業の構造的な変化を、海外の投資家たちは敏感に察知していた。以前話題になった著名投資家ウォーレン・バフェット氏による日本の大手商社への大規模な投資は、その象徴的な出来事だ。
それに加えて、「円安」という強力な追い風が吹いた。主にドル建てで投資する海外勢にとって、円安は日本株を割安に購入できる「バーゲンセール」を意味する。同時に、日本の輸出企業の業績を大きく押し上げる効果もある。
「企業は変わり始めた。しかも、割安で買える」 この二つの魅力が重なり、世界のマネーが再び日本市場を目指す大きな潮流が生まれた。
【要因⑤】覚醒した「国内の個人マネー」
最後のピースは、私たち自身の動きだ。2024年から始まった新しいNISA制度である。
「貯蓄から投資へ」というスローガンは長年空回りしてきたが、2000兆円を超すと言われている日本の個人金融資産の半分以上は、安全な現預金として眠り続けてきた。
しかし、インフレによる「現金の価値の目減り」への危機感と、新しいNISAという強力な非課税制度が、ついにこの眠れる巨人を動かし始めた。
これまで市場の「観客」だった多くの個人が、本格的に市場に「参加」し始めたのだ。この国内資金の流入が、相場全体に安定感と持続的な上昇圧力を与えている。
まとめ:これはバブルではなく、構造変化だ
改めて、日経平均45,000円という水準を支える5つの要因を整理しよう。
① 世界から30年間取り残された、日本株の「割安さ」の是正
② デフレの終焉を告げる「インフレ」の顕在化
③ 東証のPBR改革を契機とした、企業の「ガバナンス改革」
④ 「海外投資家」の再評価と円安という追い風
⑤ 新NISAを起爆剤とする、「国内個人マネー」の市場参加
これらは、1989年の土地神話と熱狂だけで膨れ上がったバブルとは、その土台が全く異なる。一つひとつが、日本経済が長年抱えてきた構造的な課題の解決に向けた動きと連動しているのだ。
もちろん、未来は誰にも予測できない。しかし、今起きていることの本質が、単なる好景気の波やバブル現象などではなく、より深く、大きな地殻変動であると理解することは、これからの時代を考える上で極めて重要な視点となると思われる。
「失われた30年」の終わりが、ようやく本当の意味で視野に入りつつあるのかもしれない。
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