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許すとか許さないとか【第五話】 #創作大賞2025

【第五話】調査報告①

1995年6月某日

「お腹空いたね」
「うん、お昼食べよ」

 真希の両親が通っていた高校の校庭には、学生が食事をれるようなスペースが用意されていた。寺門しおりと清水のぞみも外で昼食をるようだ。
 二人は三年間ずっと同じクラスだった。寺門真司は二年次に転校してきたらしい。調査の手始めとして、その日に来てみた。真希の情報が細やかで助かった。頼んでもいない情報がビッシリ書かれたメモを用意してくれたのだ。おそらく両親の卒業アルバムなどから過去の情報を漁ってくれたのだろう。本気で本当のことを知りたいということだ。その気持ちに応えたい。
 背が高い方が清水のぞみ。高校生の頃から整った顔立ちをしていたのだな。一緒にいる小柄な女の子が寺門しおりか。美人というよりはカワイイという表現が似合いそうだ。目がクリクリとしていて可愛らしい。二人とも相当モテただろう。

「お弁当、今日も自分で作ってきたの?」
「うん、だって私のお母さん、朝苦手なんだもの。それに、料理は嫌いじゃないし」
「しおりのお弁当、いつもおいしそうなんだよね。いいな」
「そう?のぞみのサンドイッチもおいしそうだよ」
「そりゃおいしいわよ。サブウェイのだもん」
「サブウェイ、おいしいよね。私も好き。お母さん、毎日お昼前に学校に届けてくれるんでしょ?いいじゃん」
「自分の買うついでだよ。まあ、手間とお金はかかってるとは思うけどさ。嫌味じゃなくて、ウチはお父さんの給料が高いみたいで、何でもお金で解決しようとする傾向があるのよ。そういうの、なんかいやらしくない?」
「そんなこと言わないの。美人に産んでもらって、家にお金もあって、私立の高校にも通わせてもらってさ、贅沢言ったらバチが当たるよ」
「もう!お母さんみたいなこと言わないでよ。私はね、サブウェイに飽きて愚痴をこぼしてるだけなんだから。いくらおいしくても飽きるって」
「そっか、確かに飽きるかもね」
「そうよ」

 しおりは少し考えるような様子で黙っていたが、何か決心したような顔になり、のぞみの顔を見て言った。

「あ、あのさ、私作ろっか?」
「ん?何を?」
「お弁当」
「えー、いいの?」
「うん、ひとつ作るのも二つ作るのもそんなに変わらないし」
「やったー、嬉しい。しおりのね、そういうところが好き。でも本当にいいの?」

 しおりの頬は少し赤みが差しているように見えた。

「うん、前から作ってあげようかなって思ってたし。その……いつもサブウェイだから」
「なにそれ。早く言ってよね。でも本当にすごく嬉しい、ありがとう」
「うん、明日から作るね」
「やった!明日から楽しみがひとつ増えた。でもさ、お弁当なんて好きなオトコに作るものだよね。私でごめんね。好きな人ができたら作るのやめていいからね」
「大丈夫だよ、そんな人いないし。もし好きな人できたら、三個作るよ」
「マジで?しおりは本当に優しいよね。話は変わるけど、今日転校生来たじゃない?寺門、何君か忘れたけど」
「真司君」
「そう、真司君!あの子、どう思う?」
「どう思うって、今日会ったばっかりだし」
「そっか、そうよね。私、席が隣になったから少し話したんだけど、彼、親が転勤族で海外含めていろんなところに住んでたみたい。会話が洗練されてて面白いんだよね。本もたくさん読んでるみたいで、しおりとも話が合うと思うよ」
「そうなんだ」
「彼、転校生だし、お昼一緒に食べる人もいないと思うから今度誘ってみようと思うんだけど、どうかな?」
「どうかなって、もしかして好きになっちゃったの、寺門君のこと」
「まだちょっと気になるってだけ」
「怪しいですね、のぞみさん」
「もう!変な言い方しないでよ!転校生に親切にして何が悪いのよ」
「いいえ、何にも悪くありません」
「しおり!」

 ふざけているようだったが、俺には少し、しおりの表情が曇っているように見えた。

1995年9月某日

 三ヶ月後の同じ時間に来てみた。三人の関係性がどこまで進んだか確認できればいいのだが。

 のぞみとしおりが並んで歩いてくる。先日と同じ場所に仲良く座った。真司は一緒にお昼を食べないのだろうか。

「のぞみ、はい、お弁当」
「わーい、ありがとう」
「真司君は?」
「うん、ちょっと友達とパン買ってから来るって」
「サブウェイ買ってきてあげたら喜ぶんじゃない?」
「もう!しおりはすぐ余計なこと言うんだから。彼はね、野菜嫌いなんですー」
「あらまー、駄目でちゅねー」
「大丈夫、トマトジュースは好きらしいから。て、そんなことどうでもいいからさ、ちょっと聞いて」
「何?」
「恋のおまじないって信じる?」
「ほうほう、いいですなあ」
「あーもう話す気なくすわ」
「ごめんごめん、どうぞどうぞ」
「あのね、好きな人のね、影を踏むとね、想いが叶うらしいの」
「ああ、なんか聞いたことあるかも」
「だからね、協力して欲しいの。私が真司君の影を踏めるように」
「えー、私も真司君の影、踏みたい」
「私の後に踏ませてあげるからさ、お願い」
「分かった。で、どうするの?」
「簡単よ。お昼食べてさ、教室に戻る時に彼の前でわざとお弁当箱を落としてよ。彼、絶対拾ってくれるから、その隙に私が彼の影を踏むの」
「ふーん、私は?」
「しおりはいつも私と真司君が並んで歩いてるのを後ろから付いてくるでしょ?踏み放題じゃない」
「なーんか有り難くないな、私の影踏み」
「大丈夫、効果は同じだから。あ、真司君、来た。じゃ、しおり、頼んだわよ……真司くーん、こっちこっち」

 それから三人で仲良くお昼を食べ始めた。基本はのぞみとしおりが話して、真司が合いの手を入れる感じのようだ。真司、楽しそうだな。ちょっと羨ましい。
 予鈴が鳴った。三人は慌てて立ち上がり、しおりが先頭に立って教室に向かって歩き出したが、途中で弁当箱を落としてしまう。すぐに真司が弁当箱を拾い上げ、しおりに手渡した。しおりが真司に御礼を言っている間、のぞみは真司の影の上に立ち、何事か呟いている。しおりがそれを見て吹き出すと、のぞみが怒ったように「授業、遅れちゃうよ」と言って走り出した。

「ズルいよ、のぞみ、待ってー」

 しおりは全速力で走り出した。結構、足が速い。のぞみの背中にあっという間に追いつくと、のぞみの影を楽しそうに踏みまくった。

「アンタ、誰の影踏んでるのよ」
「あ、間違えちゃった」

 しおりはそう言って屈託なく笑った。


2005年8月某日


 深夜。新築のアパートの前。赤ん坊の泣き声がする。夜泣きってやつか。泣いているのは真希だろう。258号室の前に移動する。

「もう!なんで毎晩毎晩こんなに泣くのよ」
「どうした?また夜泣きか」
「うん、あなた何とかしてよ」
「勘弁してくれ。明日早いんだ」
「そればっかり。私、ここ数日まともに寝てないのよ」
「それは分かるけど、俺はいま失敗できない仕事をしてるんだ。話しただろう?」
「話したから何だって言うのよ!私はどうなってもいいって言うの?」
「そんなこと言ってないだろ!仕方ない。こんな時間で申し訳ないけど来てもらおう」
「駄目よ。あの子だって仕事があるのよ。迷惑よ」
「明日は休みだろ、確か。お願いするしかないじゃないか。こっちはもう限界なんだし」
「はあ、情けない。私にはやっぱり母親になるなんて無理だったんだわ」
「あんまり自分を責めるなよ。俺が産休取れれば良かったんだ。ごめんな。呼ぶぞ」

 しばらくしてタクシーがアパートの前に止まった。女性がタクシーから降りて階段を登ってくる。俺は慌てて身を隠した。女性が258号室のドアをノックして中に入った。

「しおり!」
「のぞみ!」

 中の様子はさすがに分からない。寺門真司の声がした。

「こんな夜中に呼び出して本当に申し訳ない」
「大丈夫、気にしないで。いつでも呼んでくれて構わないから」
「本当に助かるよ。ありがとう」
「本当にごめんなさい。私が、情けない母親だから……」
「自分を責めないで。みんな同じ気分になるらしいよ。私は子供いないから本で読んだ知識だけど。あとね、保育園で働いているとね、どのお母さんも言ってるわよ、私には無理って。でも、みんな踏ん張ってる。私も手伝うから大丈夫よ。今日は二人とももう寝て?後は私が面倒見ておくから」
「ありがとう!本当にありがとう、しおり!」


【第六話】調査報告②


#創作大賞2025 #ミステリー小説部門

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