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許すとか許さないとか【第ニ話】 #創作大賞2025

【第二話】お母さんに聞いてみる

 私は自分の家が大好きで、できればずっと家にいたいタイプなんだけど、今日は全く帰りたくなかった。お母さんが待っているマンションに帰りたくない。嫌すぎて明彦に甘えたけど駄目だった。

「明彦、やっぱり私、帰りたくない。……ホテル、行ってもいいよ」
「え、本当?!でも、俺、繊細だから、たぶん駄目」
「は?駄目とか関係ないんだけど!」
「あ、怒った?いいね、その調子!真希ちゃん、逃げちゃ駄目だよ。たぶんね、今日お母さんに聞かなかったら一生聞けないと思う。俺も一緒に行こうか?」
「それは……なんかヤダ。聞かれたくない」
「そ、そうだよね。じゃひとりで頑張って!俺、すごい気になるけど、後から根掘り葉掘り聞かないから。真希ちゃんの味方だから。じゃね、おやすみ」

 あの意気地なし。あっさり帰りやがって。
 なんで私がこんな思いしなきゃいけないのよ。誕生日なのに。はぁ。
 お母さん、なんて言うかな。傷つくだろうなあ。ああ、聞きたくない。でも、聞かないと気が済まない。
 勇気を出してインターフォンを押す。

「はい、どちら様」
「私。ただいま」
「あれ?真希ちゃん、もう帰ってきたの?いま開けるね」

 エレベーターに乗って五階で降りて、531号室のチャイムを押した。スリッパで小走りする音が聞こえてドアが開いた。

「おかえり」
「うん」
「お茶淹れてたけど飲む?」
「うん」

 リビングで母と娘が無言でお茶を啜るシーンを五分くらい演じていると、お母さんが口を開いた。

「どうしたの?今日、早かったじゃない」
「そう?晩ご飯食べて帰ってきたらこんなもんでしょ」
「誕生日に彼と食事でしょ?朝帰りするかと思ってた」
「ブーッ」

 私は飲みかけたお茶を盛大に吹き出した。

「あら、真希ちゃん。お茶は吹き出しちゃ駄目よ」

 お母さんが私が吹き出したお茶を拭きながら言う。

「今のはお母さんが悪いでしょう!朝帰りとか言うから」
「そう?真希ちゃんも二十一歳になったんだし、そろそろいいんじゃないの?朝帰りくらいしても」
「いいんだ、朝帰りしても」
「許可もらってするもんじゃないけどね。うふふ。真希ちゃん、根が真面目だから。お父さんはどう思うか知らないけど」

 ここだと思った。

「そうだ、お父さん!お父さんのせいなの、私が今日早く帰ってきたの。お父さんのせいで、私、振られちゃったのよ」
「あら、そうだったの、かわいそうに。でも、なんでお父さんのせいなの?」
「明彦と高級レストランで食事してたらね、お父さんがいたのよ、綺麗な女の人と一緒に」

 言ってしまった。もうお母さんの顔をまともに見ることができない。ショックだろうな。なんで言っちゃったんだろう。クヨクヨしてたらお母さんが普通のテンションで聞いてきた。

「なんて名前?」
「へ?名前って何の?」
「レストランの」
「確か『セラヴィ』」
「ああ、それなら大丈夫よ」
「え、なんで?」
「その綺麗な女の人ね、私の友達だから」
「友達だとなんで大丈夫なの?逆に駄目でしょ。なんでお父さん、お母さんの友達と浮気しちゃってるのよ」
「浮気、なのかな?」
「浮気でしょ?友達と二人で行くようなレストランじゃないわよ」
「ああ、まあねぇ。悔しくないと言ったら嘘くさいか。でも、そういう気持ちにはならないんだよね。好きな人が好きな人と過ごしているのって素敵なことだと思うし。私のことを嫌いでそういうことをしてるわけじゃないって分かってるし、それに……」
「いや、もう途中から何言っているのか全然分からないんだけど!」
「いいのよ」
「何が?」
「あなたが理解できなくても」
「どうして?」
「私の考えを押し付けたくないもの……あ、お茶、まだある?私、なくなっちゃった」

 お母さんは立ち上がって急須にお湯を注いで戻ってきた。私の湯呑みにお茶を注いだ後、自分の湯呑みにゆっくりとお茶を注いだ。

「お父さん、なんか言ってた?」
「浮気じゃないって。お母さんも知ってることだからって」
「それだけ?」
「うん」
「ズルいなぁ」
「うん、私もそう思った。お母さんに聞いてもいいかって言ったら『好きにしろ』だって。最低!」
「うふふ、でもね、内心めちゃくちゃ焦ってたと思うよ。許してあげて」
「いや、絶対無理!お母さん、なんで許せるの?娘の誕生日に他の女と美味しいもの食べてたんだよ?」

 言い過ぎかなと思ったけど、感情を抑えられなかった。それでも、お母さんのテンションは変わらない。私をでるような顔で話し始めた。

「真希ちゃん、ありがとう。お母さんのために怒ってくれてるんだよね、きっと。でもね、私は大丈夫。許すとか許さないとか、そういうことじゃないの。私はね、真希ちゃんのお母さんになれて本当に幸せなの。だから、お父さんと一緒になったことも後悔してない。娘に浮気現場を見られた時にズルいことする人だとは知らなかったけどね。あ、浮気じゃなかったか、あはは」

 笑ってする話じゃないでしょう、お母さん。お母さんが良くても私は全然納得できないよ。何なの。何か弱みでも握られてるの?一体誰に?
 お父さんと一緒にいた、あの女しかいないか。そう言えば性格悪そうな顔してたかも。そうだ、あの女がお父さんとお母さんの弱みにつけ込んで、勝手なことをしているんだわ。もうそうとしか思えない。絶対に許せない。私が何とかするしかない。

「お母さん。お父さんと食事してた友達ってどんな人?私、会いに行ってもいいかな?」
「えっ、会ってどうする気?」
「決まってるでしょ、お父さんと別れてもらうの」
「あの二人、付き合ってるんだっけ?」
「知らない。でも、二人っきりで食事してた。お母さんを家に留守番させて。そんなの友達がすることじゃないよ。私は許せない」
「そっか。分かった。いいよ。会ってきなさい」
「止めないんだ?」
「止めない。私はあなたの意志を尊重する。て言うか、自分の友達に会わせるだけだし」

 お母さんはそう言って、また「あはは」と笑った。


【第三話】アンタ、誰なの?

#創作大賞2025 #ミステリー小説部門

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