【続編】KDDI架空取引2,461億円〜改善報告書に学ぶ循環取引と内部統制の死角〜
こんにちは、「IA Insight Lab(IAラボ)」管理人のHIROです。米国でGRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)と内部監査を専門とするコンサルファームの代表をしています。このシリーズでは、公認不正検査士/公認内部監査人の私が、世の中で起きた不正や不祥事を、専門知識のない方にもわかるように解説しています。
今日のテーマは、KDDIの子会社で起きた巨額の「架空循環取引」です。
実はこの事案、私は今年2月に一度記事を書いています。「【不祥事解説】KDDI子会社『架空循環取引』はなぜ内部監査をすり抜けたのか?〜2,460億円の蜃気楼〜」という記事です。ただ、あのときはまだ「不正の疑い」が報じられた初期段階で、全容はわかっていませんでした。私は当時、この事案を実体のない「蜃気楼」と呼びました。
あれから約4ヶ月。2026年3月31日に特別調査委員会の調査報告書が公表され、さらに6月2日にはKDDIが東京証券取引所へ「改善報告書」を提出しました。蜃気楼の正体が、はっきりと姿を現したのです。
そこでこの続編では、確定した不正の全容と、KDDIが「これからどう立て直すのか」を記した改善報告書の中身を、かみ砕いて解説します。読み終えるころには、ニュースの数字の裏で何が起きていたのか、そしてなぜ約7年間も誰も止められなかったのかが、きっと腑に落ちるはずです。
本記事はすべて、KDDIと特別調査委員会が公表した一次情報に基づいています。登場人物は報告書が匿名化しているため、実名ではなく役職で記します。
記事全体のサマリー
本文を読み進める前に、まずは本記事のサマリー画像を掲載しますので、全体の理解促進にお役立ていただければ幸いです。

1. 事案解説:2,461億円の架空取引、確定した全容
まずは「何が起きたのか」を、順を追って整理しましょう。専門用語はそのつど説明しますので、身構えずに読み進めてください。
1-1. 登場するのは3つの会社——まず関係を整理する
この事案には、3つの会社が登場します。
一つ目は、誰もが知る通信大手のKDDI株式会社。東証プライムに上場する親会社です。二つ目は、インターネット接続サービスで知られるビッグローブ株式会社。KDDIの「子会社」です。三つ目は、ジー・プラン株式会社。ビッグローブのさらに子会社、つまりKDDIから見れば「孫会社」にあたります。
不正の舞台になったのは、このビッグローブとジー・プランが手がけていた「広告代理事業」でした。まずはこの三層の関係を、頭の片隅に置いてください。親会社・子会社・孫会社という距離感が、のちのち効いてきます。
1-2. そもそも「広告代理事業」とは何だったのか
ここで言う広告代理事業は、ウェブ広告を「仲介」して手数料を得るビジネスです。
イメージとしては、広告を出したい会社(広告主)と、広告を載せる媒体との間に立ち、取引を取り次いで、成果の件数に応じた手数料を受け取る——そういう商売です。報告書では、ジー・プランが単独で仲介するものを「G rep」、ビッグローブも関わるものを「B rep」と呼んでいます。
ごく普通の、健全なビジネスモデルに見えます。問題は、この事業の取引のほとんどが「中身のない、空っぽの取引」だったことです。
1-3. 「架空循環取引」を、たとえ話で理解する
事案の核心である「架空循環取引」。言葉は難しそうですが、構造はシンプルです。
まず「架空取引」とは、実体のない、にせの取引のこと。今回でいえば、広告を出したい広告主が実際にはいないのに、あたかもいるかのように装って、広告の発注書や請求書だけを作っていた、ということです。
そして「循環取引」とは、お金や伝票を複数の会社の間でぐるぐると回す手口を指します。
たとえ話をしましょう。AさんからBさん、BさんからCさん、CさんからDさんへと代金を順番に支払い、最後にDさんからまたAさんへ支払う——お金がぐるりと一周して戻ってくる。商品は最初から最後まで実在しないのに、それぞれの帳簿には「売上」と「仕入」が記録されていく。これが循環取引です。
今回の商流は、上流に位置する広告代理店(上流代理店)を起点に、上流代理店 → ジー・プラン → ビッグローブ → 下流の広告代理店(下流代理店)へと発注と支払が流れ、最後に下流代理店から上流代理店へとお金が還流する形でした。各社がそのつど手数料を抜き、伝票だけが立派に整っていく。実際に広告が世に出ることは、ありませんでした。
取引相手は、約7年間でのべ218社にのぼりました。そのうち、この不正の輪に組み込まれていたのは21社。のちの調査で、広告代理事業の売上の実に約99.7%が、この架空取引によるものだったと判明します。事業のほぼ全体が、蜃気楼だったのです。
中身は空っぽ。でも、帳簿の上ではしっかり売上が立つ。これが架空循環取引の恐ろしさです。
1-4. なぜ金額は「雪だるま式」に膨らんだのか
ここで多くの人が抱く疑問は、「なぜ2,461億円もの規模になったのか」でしょう。
カギは、循環取引の宿命にあります。お金が一周するたびに、各社が手数料を抜いていく。つまり、回せば回すほどお金は目減りします。目減りした分を補い、なおかつ「売上が伸びている」ように見せ続けるには、次の取引額をさらに大きくするしかありません。こうして取引額は雪だるま式に膨らんでいきました。
その「燃料」になったのが、二つの仕組みです。
一つ目は「先出し」。これは、自分が代金を受け取るより先に、相手へ支払ってしまうことです。代理店ごとに支払いの期日(支払サイト)が15日後だったり45日後だったりとズレており、その差を利用して、入金を待たずに次の支払いを先行させていました。
二つ目が「グループファイナンス」です。これは、親会社が子会社へお金を融通する社内の資金システムのこと。ビッグローブはKDDIからこの資金を使えたため、手元資金が尽きることなく「先出し」を続けられました。皮肉なことに、親会社の信用力と資金力が、不正を回し続ける燃料になってしまったのです。
1-5. 実際に、いくら失われたのか
ここで注意したいのは、2,461億円がそのまま消えてなくなったわけではない、という点です。
この2,461億円は「水増しされた売上高」であり、その多くは伝票の上で膨らんだ数字です。本当に怖いのは、別の数字です。各社が手数料として抜き、グループの外へ実際に流れ出てしまったお金——いわば、二度と戻らない損失——が、約329億円ありました。
さらに、こうした事業を取り込む過程で計上していた「のれん」(買収で支払った価値のうち、目に見えない部分)などの減損も発生しました。それらを含めると、最終的な純利益への影響は、約1,290億円の押し下げにのぼります。
帳簿の上では2,461億円。実際にグループの外へ消えたお金は329億円。最終損益への打撃は約1,290億円。同じ事件でも、どの角度から見るかで数字は変わります。
1-6. たった2名が、約7年間、隠し通せた理由
最も驚くべき事実は、この巨額不正を主導したのが、たった2名の社員だったことです。
中心人物は、ジー・プランで広告代理事業を率いていた事業部長(報告書ではA氏とされています)。もう1名は、その部下(B氏)でした。2人は2023年1月から、ビッグローブにも兼務で出向していました。組織ぐるみの不正ではなく、この2名以外に「架空だと知っていた」と認められる社内関係者や役員はいなかった、というのが調査の結論です。
きっかけは、2018年2月ごろ。立ち上げた広告代理事業が思うように伸びず、赤字と売上目標の未達が見込まれました。事業からの撤退を迫られる焦りから、A氏は「一時的に架空の売上を立てて穴を埋め、あとで正規の取引で取り返そう」と考えます。ところが、取り返すことはできませんでした。穴を埋めるためにまた架空取引を重ね、金額は膨らみ続け、遅くとも2018年8月から2025年12月まで、およそ7年にわたって止まらなくなったのです。
では、なぜ7年間も周囲に気づかれなかったのか。2人は、発覚を防ぐための工作を、実に周到に行っていました。上流の代理店と下流の代理店が直接顔を合わせないようにし、契約書や請求書は正規の取引とそっくりに整え、単価の高い商品を選んで「金額が大きいのは当然」と見せかける。さらに「取引先の、そのまた先の取引相手を確認しないのは業界の慣行だ」と説明し、商流の全体像が誰にも見えないようにしていました。極めつけは、にせの成果レポートにわざと「成果が落ち込む時期」を作り、いかにも本物らしく見せる念の入れようでした。
書類は完璧に整っていた。だからこそ、誰も見抜けなかった。ここに、この事案の最大の教訓が潜んでいます。
1-7. 「私的利益のためではない」の裏側
A氏は調査に対し、「関係者や自分自身の私的な利益のために行ったのではない」と説明しています。
しかし調査では、別の事実も確認されました。取引相手である上流代理店の社長から、A氏に対し、飲食代などの名目で現金が渡っていたのです。その額、2023年9月から2025年12月までの間に、約3,000万円。本人がどう説明しようと、不正の継続が誰かの利益につながっていた——この事実は、重く受け止める必要があります。
2. なぜ約7年間も止められなかったのか——内部統制の死角

ここまでが「何が起きたか」。続いて、この続編の主題である「なぜ防げなかったのか」に入ります。改善報告書と調査報告書は、その原因を驚くほど率直に分析しています。
2-1. 発覚のきっかけは「好業績への違和感」だった
意外に思われるかもしれませんが、この不正を最初に怪しんだのは、外部ではなくKDDIの内部の人間でした。
2025年2月、当時のKDDIの社長が、経営戦略会議の場で、ビッグローブの広告代理事業の「大幅な業績向上」に対して、コンプライアンス上の問題はないかと懸念を示したのです。普通なら、子会社の好業績は喜ばしい話です。それを素直に喜ばず、「うますぎる話には裏があるのではないか」と立ち止まった。この違和感が、すべての始まりでした。
ここからKDDIの監査部門(監査本部)が広告代理事業を内部監査の対象に加え、監査役も子会社監査の準備を進めます。2025年5月ごろには、会計監査人(PwC Japan有限責任監査法人)からも不正の可能性が指摘され、外部の専門家も入れた社内調査が始まりました。
A氏はこれを察知し、2025年11月初旬に一部の代理店と口裏合わせをして、いったんは発覚を免れます。しかし同じころ、KDDIがビッグローブに「取引金額を抑えるように」と指示。すると、ぐるぐる回っていたお金の流れが細り、2025年12月中旬、一部の代理店からの入金が遅れます。資金繰りが回らなくなったところで、ついにA氏が不正の存在を認めました。蜃気楼は、ここで崩れたのです。
その後KDDIは、2026年1月14日に外部の弁護士・公認会計士からなる特別調査委員会(委員長は元検事の弁護士)を設置。電子メールやチャットのデータ約337万件を集め、関係者80名に延べ98回のヒアリングを行うなど、約2ヶ月半にわたる徹底調査の末に、全容を明らかにしました。
2-2. 「3つの防衛線」が、すべてすり抜けられた
調査委員会は、原因を「3つの防衛線(スリーラインモデル)」という枠組みで整理しています。これは、組織が不正やミスを防ぐための、3段構えの守りを表す考え方です。せっかくなので、この機会に覚えてしまいましょう。
第1線は、現場の事業部門そのものです。ここでは、業務が特定の担当者に集中する「属人化」が起き、本来は別々の人が担うべき「発注する人」と「支払う人」の役割が分けられていませんでした。A氏が1人で何でも決められる状態だったのです。
第2線は、その現場を管理し、けん制する部門です。ここでは、取引先の信用力を調べる「与信管理」が甘く、下流代理店に本当にその仕事をこなす能力があるのかを確かめず、何より「その取引は本当に実在するのか」という確認が抜けていました。
第3線は、独立した立場から組織全体をチェックする内部監査です。ところがその内部監査も、取引が実在するかどうかを踏み込んで検証するものにはなっていませんでした。
三段構えの守りが、三段とも機能しなかった。これが、約7年間も不正が見抜かれなかったからくりです。
2-3. 子会社という「聖域」——親会社KDDI側の盲点
問題は、子会社の中だけにとどまりません。親会社であるKDDI側にも、見過ごせない盲点がありました。
KDDIにとって、広告代理事業はなじみの薄い分野でした。知見が乏しいために、その事業に潜むリスクを察知できず、子会社の中で誰がどの業務を担っているのかという実態の把握も不十分でした。先ほど「燃料」と呼んだグループファイナンスについても、貸し出しの「上限額(枠)」ばかりを見て、「そもそもこの子会社は、なぜこんなに資金を必要としているのか」という需要の妥当性を問うていませんでした。
好業績を上げている子会社は、つい「うまくいっているのだから、口を出すまい」と扱われがちです。その結果、子会社が一種の「聖域」になってしまう。これは今回のKDDIに限らず、多くの企業グループが抱える普遍的な弱点です。
2-4. KDDI自身が認めた「内部統制は、有効ではなかった」
そして、この事案を象徴する出来事があります。
KDDIは、過去3年分(第39期〜第41期、2022年4月〜2025年3月)の「内部統制報告書」を訂正しました。内部統制報告書とは、上場企業が「自社の財務報告の仕組みは、きちんと機能しています」と投資家に対して宣言する、法律で義務づけられた書類です。
KDDIは当初、これらの年度について「当社グループの財務報告に係る内部統制は有効である」と報告していました。それを今回、「有効ではない」へと書き換えたのです。「開示すべき重要な不備があった」と、自ら認めたことになります。
これは、企業にとって極めて重い告白です。「私たちの守りには、重大な穴が空いていました」と公に宣言したに等しいからです。なお、訂正後の財務諸表そのものに対する会計監査人の意見は「無限定適正意見」、つまり「(訂正後の数字は)適正」とされています。数字は直したけれど、それを生み出す仕組みには欠陥があった——そういう構図です。
3. 改善報告書を読み解く——KDDIは何を直すのか

原因がわかれば、次は対策です。ここからが、今回の続編の本丸——「改善報告書」の中身です。
3-1. そもそも「改善報告書」とは何か
「改善報告書」という言葉に、あまりなじみがないかもしれません。
これは、上場企業が重大な問題を起こしたときに、証券取引所から提出を求められる、いわば「反省と再発防止の決意表明」をまとめた公式文書です。
今回、東京証券取引所は2026年4月30日、KDDIに対してこの改善報告書の提出を求めるとともに、「上場契約違約金」として9,120万円の支払いを求めました。この金額は、課せる違約金の上限額です。理由は「投資者(投資家)の信頼を損なった」こと。そしてKDDIは2026年6月2日、改善報告書を提出し、その内容が公衆の縦覧(誰でも閲覧できる状態)に付されました。本記事が読み解いているのが、この文書です。
3-2. 7つの再発防止策を、かみ砕く
改善報告書でKDDIが掲げた再発防止策は、大きく7つの柱で構成されています。専門的な言い回しを、実務の言葉に翻訳しながら見ていきましょう。
一つ目は、取引先の管理強化です。誰と取引するのか、その相手は信用できるのかを審査する基準を見直し、継続的に監視する体制を作り直します。
二つ目は、購買業務の権限分離と検収の適正化。「発注する人」と「支払う人」「受け取りを確認する人」を分け、1人に権限が集中しないようにします。今回まさに崩れていた部分です。
三つ目は、新規事業のリスク管理とキャッシュフロー管理の強化。なじみの薄い新規事業ほど慎重にリスクを見極め、お金の流れ(資金繰り)を月次でしっかり管理します。「先出し」が燃料になった反省です。
四つ目は、けん制・監査機能と、グループ内のお金の管理の強化です。内部通報制度を使いやすくし、内部監査のやり方とリスクの見方を見直し、「職業的懐疑心」——つまり「うのみにせず疑ってかかる姿勢」——を高める研修を行います。グループファイナンスについても、貸し出しの審議や財務状況の確認を厳しくします。
五つ目以降は、これらを一過性に終わらせないための仕組みづくりです。グループ全体に再発防止策を浸透させる専門の会議体を設け、取締役会へ定期的に報告すること。KDDIフィロソフィの浸透と不正リスク教育を通じて、高い倫理観と健全な企業風土を育てること。そして、グループ会社との信頼関係や、親会社から送り込む役員のあり方そのものを見直すこと。この三本柱で、再発防止を「やりきる」体制を作るとしています。
対策の多くは「特別なこと」ではなく、本来あるべき守りを、あるべき形に戻す内容です。裏を返せば、当たり前の守りが抜けていた、ということでもあります。
3-3. 経営は、どう責任を取ったのか
不正の後始末は、再発防止策だけではありません。経営責任も問われました。
子会社のビッグローブでは、社長をはじめCFO(最高財務責任者)や監査役など計4名が辞任。ジー・プランでも社長と副社長が辞任しました。親会社KDDIでも、会長と社長CEOが月額報酬の30%を3ヶ月分返納するなど、役員8名が報酬の一部を返上しています。
そして、不正を主導した社員2名は、懲戒解雇となりました。辞任・報酬返納・懲戒解雇という、考え得るかぎりの重い対応が並んだことからも、この事案の深刻さがうかがえます。
4. 本事案から学ぶこと
最後に、この事案が私たちに残してくれた教訓を、三つに絞ってお伝えします。専門家でなくても、明日から自分の仕事や組織に活かせる視点です。
4-1. 「書類が完璧」は、安全の証明にはならない
今回、契約書も請求書も成果レポートも、すべてが正規の取引そっくりに整っていました。だからこそ、長年見抜けませんでした。
ここから得られる教訓はシンプルです。書類がそろっていることと、取引が本当に存在することは、別の話だということ。悪意を持って共謀する者の前では、書類は簡単に偽装されます。だからこそ、「その取引は実在するのか」を、書類の外側から確かめる発想が要ります。広告なら「本当に世に出たのか」、在庫なら「本当にそこにあるのか」。現物や事実に当たって確かめる——この基本が、最後の砦になります。
4-2. 「好業績」こそ、いったん立ち止まって疑う
この事案が最終的に動き出した引き金は、皮肉にも「好調すぎる業績」への違和感でした。当時のKDDIの社長が、子会社の急成長を手放しで喜ばず、「裏はないか」と問うたことが、発覚の起点になったのです。
不正は、しばしば「良い数字」の顔をしてやってきます。赤字や不振はすぐ注目されますが、好業績は祝福され、誰も疑いません。うますぎる話を、いったん立ち止まって疑える健全さ。それを専門用語で「職業的懐疑心」と呼びます。これは監査人だけでなく、経営者にも、現場のマネージャーにも必要な感覚です。
4-3. 前作からのバトン——内部監査人へ
前作で私は、「なぜ内部監査をすり抜けたのか」と問いました。その答えは、今回はっきりしました。三つの防衛線が、三つとも機能していなかったからです。
特に内部監査(第3線)は、組織にとって最後の独立したチェック役です。その内部監査が、書類の整合性を確かめるだけで、「取引の実在性」にまで踏み込めていなかった。改善報告書が「リスク評価手法の見直し」と「職業的懐疑心を高める研修」をわざわざ掲げたのは、ここへの痛烈な反省にほかなりません。
内部監査の価値は、平時には見えにくい。しかし、こうした事案が起きたとき、その不在のコストは2,461億円という形で突きつけられます。
子会社を「聖域」にしない。好業績を疑える目を持つ。そして、書類ではなく実在性を確かめる。当たり前のようでいて、徹底するのが最も難しいこの三つこそ、KDDIの2,461億円が私たちに遺した教訓です。
おわりに
2月に「蜃気楼」と呼んだ事案は、調査によって、その輪郭をくっきりと現しました。たった2名が、約7年間、書類を完璧に整えながら、2,461億円もの売上を空中に描き続けた——これは、本当に起きた出来事です。
しかし、この事案の本当の主役は、不正そのものではないと私は思います。好業績への違和感から声を上げた1人の経営者、連携して調査を進めた監査役と内部監査、そして率直に非を認めて改善報告書を世に出したKDDIの姿勢——「どう過ちと向き合うか」にこそ、組織の成熟度は表れます。
不正は、どんな優良企業にも起こり得ます。大切なのは、起きないと過信することではなく、起きたときに見抜き、認め、立て直せる仕組みを持つこと。この続編が、その仕組みづくりを考える、ささやかなきっかけになれば幸いです。
この記事は、私個人の専門家としての継続学習のため、また読者の方々の学習のために投稿しています。「いいね」や「フォロー」で応援いただけると励みになります。それでは、次回の記事でお会いしましょう!
引用元
KDDI株式会社/特別調査委員会, "当社連結子会社における不適切な取引の疑いに関する特別調査委員会の調査報告書の受領及び今後の当社の対応について/調査報告書(公表版)" (2026年3月31日)
https://newsroom.kddi.com/ir-news/assets/2026/kddi_ir-1111_4392/kddi_ir-1111_4392_pdf_A.pdf
KDDI株式会社, "東京証券取引所への「改善報告書」の提出に関するお知らせ" (2026年6月2日)
https://newsroom.kddi.com/ir-news/assets/2026/kddi_ir-1172_4546/kddi_ir-1172_4546_pdf_01.pdf
株式会社東京証券取引所(日本取引所グループ), "改善報告書の公衆の縦覧:KDDI(株)" (2026年6月2日)
https://www.jpx.co.jp/listing/measures/improvement-reports/t13vrt000001el89-att/t13vrt000001el9p.pdf
前作note記事, "【不祥事解説】KDDI子会社『架空循環取引』はなぜ内部監査をすり抜けたのか?〜2,460億円の蜃気楼〜"
