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看護師は患者さんの前で泣いてはいけない?――緩和ケア病棟で働く私が考えること

緩和ケア病棟で働いていると、患者さんやご家族から、人生に深く結びついた思いを聞かせていただくことがあります。

病気そのもののつらさだけではなく、これまで大切にしてきたこと、失いたくないもの、家族への思い。
そうした言葉に触れたとき、私はふと涙が浮かびそうになることがあります。

看護師として働いていれば、泣きたくなる場面は少なくありません。
患者さんから怒りをぶつけられたときや、散歩の途中で胸の内を語ってくださったとき、病状説明のあとにご家族が涙しながら患者さんのことを話されたとき。
看護師もまた感情をもつ一人の人間なのだと実感します。

新人のころ、先輩看護師から「患者さんの前で泣いてはいけない」と教えられてきました。
今でもその教えが大切だと思う場面はありますが、現場で経験を重ねるなかで、私は「看護師の涙をすべて否定することはできない」と考えるようになりました。

今回は患者さんの前で泣きたくなったことのある看護師さんに向けて、なぜ「泣いてはいけない」と教えられるのか。
そしてそれでも涙を完全には否定しきれないと私が感じる理由について、整理してみたいと思います。


なぜ「患者さんの前で泣いてはいけない」と教えられるのか

看護師は患者さんやご家族にとって大きな意味をもつ場面に、数多く立ち会います。
治療方針の説明、病状の変化、看取りの時間。
そうした場面では、患者さんやご家族の心は大きく揺れ動きます。
看護師には患者さんやご家族が安心して悲しみや不安、怒りを表現できるよう支えることが求められます。

しかし看護師が感情に引き込まれて涙を流すことで、患者さんやご家族がかえって気を遣い、自分の気持ちを十分に表現しづらくなることがあります。

終末期がん患者のご家族への看護援助を扱った研究でも、看護師にはご家族の気持ちや考えに関心を示し、安心感を与えながら、感情を表出しやすい場を整える役割があるとされています。(※1)

看護師は「患者さんやご家族の感情表出を妨げないこと」を求められます。
その意味で「患者さんの前で泣いてはいけない」という先輩看護師からの教えには、今でも大切な意味があると思っています。


それでも、涙を完全に否定できない場面がある

「泣いてはいけない」と教えられているのに気づいたら目が潤んでしまい、そのことを誰にも言えず一人で抱え込んでしまう看護師の方もいらっしゃると思います。
「自分は看護師として未熟なのではないか」と悩む人は少なくないでしょう。

私自身も、そうした気持ちになることがあります。
それでも、患者さんから怒りをぶつけられたときや、ご家族の悲しみが強い場面では、涙が出そうになっても堪えるようにしています。
必要であれば、その場を離れて気持ちを整えてから戻ることもあります。

その時間に看護師に求められる役割は、看護師自身が感情を表すことではなく、患者さんやご家族が安心して感情を出せる場を守ることだからです。

一方で、私は看護師の涙をすべて不適切だとは思っていません。

散歩の途中で患者さんが胸の内を語ってくださるとき、あるいは看取りのあとにご家族と思い出話をするとき、自然と一緒に涙ぐむことがあります。
声をあげて泣くわけではなく目に涙がにじむ程度ですが、そうした涙を無理に隠さないことがあります。

ご家族との関係性や場の雰囲気によっては、看護師の涙が「一緒に大切な人のことを思ってくれている」と受け止められ、ご家族にとって心の支えになることがあります。
緩和ケア病棟の看護師の予期悲嘆を扱った研究でも、看護師が家族の悲しみに共鳴し、ともに悲しみを分かち合うような体験が語られています。(※2)

ただし、ここで大切なのは「泣くこと」がよいのではないという点です。

前提にあるのは、患者さんやご家族の感情表出が守られていることと、看護師の涙がその場の中心になっていないことです。
看護師が自分の感情を放出するのではなく、相手の思いにそっと寄り添った結果として生まれる涙であること。
この違いはとても大きいと思います。

大切なのは、涙の有無よりも「誰のための場か」を見失わないこと

看護師が涙を見せるかどうかを考えるとき、私は「泣いてよいか、いけないか」だけで判断をせず、「今この場は誰のための場なのか」を考えるようにしています。

患者さんやご家族が、まだ自分の気持ちを言葉にできずにいるとき。
気丈にふるまっていても、内側では大きく揺れているように見えるとき。
怒りや悲しみがあふれそうなとき。

そうした場面では、看護師は自分の涙を前に出さないほうがよいと思います。
必要なのは看護師が気持ちを表現することより、患者さんやご家族が安心して感情を出せる余白を守ることだからです。

一方で、十分に関係性が築かれていて、患者さんやご家族の気持ちがすでに言葉になっている場面では、看護師の涙が相手の感情を妨げるのではなく、「大切に思っていたことが伝わった」と受け止められることがあります。
そうした涙まで「看護師は専門職だから」という理由だけで完全に押し込める必要はないのではないか、というのが今の私の考えです。

問われているのは看護師の涙そのものではなく、それが患者さんやご家族のためになっているのか、それとも看護師自身の感情の処理になってしまっているのか、という点なのだと思います。


看護師自身が自分の感情を整えることが大切

看護師の涙について考えるたびに、やはり看護師自身が自分の感情を整えることの大切さを感じます。

とくに緩和ケア病棟は、看護師にとっても感情の揺れが大きい環境です。
生きることや別れについて深く考えさせられる場面も多く、スタッフ間で気持ちが追いつかなくなる場面を目の当たりにしてきました。
私自身も、自分の心のケアは看護を続けるうえで欠かせないと実感しています。

海外のレビューでも、患者さんの死や悲嘆に看護師が適切に対処できない場合、患者さんやご家族を支える力が弱まる可能性が示されています。
看護師にとっては、看護を振り返る場をもつこと、同僚に話を聞いてもらうこと、境界を意識することなどが支えになりうると整理されています。(※3)

看護師が自分の感情を整えることは、冷たくなることではありません。
むしろ自分の感情に飲み込まれずに、患者さんやご家族のそばにいるために必要なことです。
涙を流すかどうかの判断も、その延長線上にあるのだと思います。


「患者さんの前で泣いてはいけない」という新人時代の教えは、今も大切にしています。
患者さんやご家族が安心して自分の気持ちを話せるように支えることも、看護師の大切な役割だと思うからです。

ただ関係性や場面によっては、看護師の涙が「気持ちを受け止めてもらえた」と伝わることもある、と正直感じています。
大切なのは「泣いたかどうか」ではなく、その涙が誰のためのものだったかだと、私は考えています。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。今回は看護場面でふと涙が浮かんでしまう看護師さんに向けて書きました。
もし涙が出やすい状態が続いているときは、無理をせず自分自身の休息や相談先の確保も大切だと思います。
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【参考にした資料です】
※1 小野瑚桃ほか「終末期がん患者の家族への関わり ~看護師が心がけているコミュニケーションとは~」 J-STAGE
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstn/6/2/6_99/_pdf/-char/ja

※2 松浦有沙ほか「緩和ケア病棟においてがん患者を看取る看護師の 予期悲嘆と影響要因」 J-STAGE
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjard/43/1/43_204/_pdf/-char/ja

※3 Zheng R, Lee SF, Bloomer MJ. How nurses cope with patient death: A systematic review and qualitative meta-synthesis. Journal of Clinical Nursing. 2018;27(1-2):e39-e49. doi:10.1111/jocn.13975 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28748639/


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