麻薬は悪魔の薬か? 緩和ケア看護師が伝えたい『本当の役割』
「モルヒネって麻薬ですよね。
使いだしたらどんどん量が増えていくのでしょう?」
これは私が過去に関わった患者さんとの話です。
痛みに苦しむ患者さんを前に
主治医からモルヒネの使用を提案された患者さんが居ました。
お腹の痛みが強く、様々な鎮痛剤を使ってもあまり効果がなく。
いよいよ医療用麻薬を使おうという段階でしたが、患者さんはモルヒネの使用に承諾されませんでした。
病室から出てきた先生が、首を横に振り私に言いました。
「患者が希望しないものを使うわけにはいかない。今まで通りの薬で対応しよう」
今まで通り……。
私の心に何か重いものが沈み込んできました。
それでも何も使わないよりマシだと思い、患者さんの様子を伺いながら、一般的な痛み止めを内服してもらう日々が続きました。
数日様子を見ていましたが、患者さんは明らかに痛みに耐えている様子でした。
ある夜勤明けの朝、交代の申し送りの時間でも患者さんのことは話題になりましたが、本人が嫌がっているなら仕方がない、とその日も結論が出ませんでした。
どうしても、あの人の思いが知りたかった
このままでいいのだろうか。
私は帰る前にこれだけは確認しよう、と患者さんの部屋に行きました。
表情はつらそうでしたが、患者さんは私の話を聞くと言ってくれ、私は患者さんのベッドサイドに座りました。
「一晩中あなたを見ていましたが、正直とても辛そうに見えました。
今もです。どうしてモルヒネを使うのは嫌なのですか?」
すると患者さんは少しの沈黙の後、
「モルヒネって麻薬ですよね」と、小さな声で言いました。
「使いだしたらどんどん量が増えていくのでしょう?
それに親戚が『モルヒネを使ったら最後だ』って言うから」
私は患者さんの青白い顔を見つめました。
モルヒネを使うという意味を、もう他にやれる手が無い、最後に使う薬、と思っているようでした。
「あの、○○さん。先生の仰っていたモルヒネについて、もう一度私から説明させてください」
私は患者さんに少しずつお話ししました。
モルヒネと聞くと、以前は本当に最後のときにしか使われないこともありましたが、今は痛みが出始める時期から使うのが主流になっていること。
そして痛みがコントロールできたら別の薬に変えたり、医療用麻薬自体をやめる方も、看護師として何人も見てきたということ。
※ただし、これは必ず主治医の管理のもとで行われるものです。
自己判断での中止は危険ですので、薬の変更や中止については必ず担当医にご相談ください。
そうしてみなさん、緩和ケア病棟から家に帰ったり、普通の病棟で治療を続けるかの選択をしているということ。
私の説明に患者さんはうなずき、そして黙ってしまいました。
しばらくの沈黙。
やはり説得するのは無理だったか……。
私が立ち上がり部屋を出ようとしたとき、患者さんがポツリと言いました。
「モルヒネのこと、先生にお願いできるでしょうか」
私は目頭が熱くなるのを感じながら、「はい、もちろんです」と返事をして、急いで看護室に戻りました。
その後、患者さんは痛みをうまくコントロールできるようになり、笑顔を取り戻していきました。
医療用麻薬の本当の役割
実はこんなふうに医療用麻薬について誤解する患者さんは、少なくないのではないかと思います。
一般的に、麻薬と聞くと「犯罪」「やめられない」「廃人になる」などといった悪いイメージがありますよね。
使うと薬物依存になってしまうのではないか、なんて。
医療用麻薬は、医師の指示できちんと管理された使い方をしていれば、
痛みがある状態で適切に使用する場合、依存症になるリスクは極めて低いとされています。
国立がん研究センターの「がん情報サービス」でも以下のように明記されています。
「医師の指示に従って正しく使えば、依存症の心配はありません」
(2026年3月14日時点)
そして、医療用麻薬はずっと使い続けるとは限りません。
抗がん剤や放射線治療でがんが小さくなり、痛みの原因が取り除かれれば、医師の管理のもと、段階的にお薬の量を減らしたり、中止したりすることも可能なのです。
がんを患う患者さんは、病状にもよりますが平均50%の方が体に痛みを感じていると言われています。
(出典:厚生労働省「医療用麻薬によるがん疼痛緩和の基本方針」より)
もしこの記事を読んで、あなた自身や大切な人のことが少し頭をよぎったなら、ぜひ一度、担当の医師や看護師に話しかけてみてください。
聞くことは勇気がいるかもしれませんが、何も失うことはありません。
医療用麻薬のことを、自分を死に向かわせる悪魔の薬ではなく、再び自分の足で歩き出すための『杖』のようなものだと考えてみませんか?
この記事は、医療用麻薬への不安や誤解を抱えている患者さん、ご家族に向けて書いています。誰かの「痛み」を少しでも和らげるきっかけになればと願っています。
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【免責事項】
※本記事は、筆者個人の臨床経験および執筆時点の医学的知見に基づいた情報提供を目的としています。医療の進歩は早く、個々の患者様の状態によって最適な治療法は異なります。具体的な診断や治療については、必ず主治医や専門の医療機関にご相談ください。
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