《創作BL 1week》夜の喫茶店で【2日目】
閉店20分前。
今日は来ないのかな、と思ったところで、扉の鈴が静かに鳴った。
「こんばんは。……まだ大丈夫?」
「もちろん。どうぞ」
三宅さんは席につくと、少しゆっくり息を吐き、肩の力を抜く。
いつもの柔らかい雰囲気のなかに、どこか疲れが残っているのが見える。
「……今日は、帰りたくなくて」
思わず手が止まる。
声をかける前に、僕は三宅さんの肩や指先の小さな動き、呼吸のリズムをじっと見ていた。
その仕草の一つひとつが、心の中に静かな波紋を広げる。
「えと……何か、あったんですか?」
「ちょっとね。職場の空気が、うまく噛み合わなくて。
ここに来ると、落ち着くからさ」
そう言いながら、カウンター越しの僕の手元を見ず、ただ温かい湯気を眺めている。
珈琲の香りと蒸気が、ふんわりと二人を包み込むようだ。
“僕がいるこの店"が、少しでも落ち着くのかな——
勝手にそう思って、口元がゆるむ。
「……ゆっくりしていってください」
自分でも驚くほど、声が自然に優しくなっていた。
珈琲をゆっくり淹れる手を動かしながら、店内に流れる静かな時間に、二人だけの空気が溶けていくのを感じる。
外の風が木々を揺らし、夜の街の音がかすかに響く。
雨はもう降っていないけれど、街灯の光に映る濡れた路面がしっとり光る。
三宅さんの視線が僕に向くたび、胸が小さく跳ねる。
言葉にしなくても、互いの存在を確かめ合える——そんな夜の感覚が、静かに満ちていった。
珈琲の香りが立ち上るカウンター越しで、互いの距離を意識しながら、僕は少しだけ微笑む。
今夜、この場所に来てくれてよかった——
そんな静かな想いが、胸の奥に温かく広がった。
