白鵬、去る
2025年6月2日、元・白鵬の宮城野親方が日本相撲協会を正式に退職した。
ここにいたるまでの経緯などは、マスコミ等でさんざん報道されているので繰り返さない。またそもそもどうしてこんな事態になったかの内情も、外部からでは憶測にしかならないので、あえて触れない。なんとも残念な結末になったとだけ書いておこう。
今後は、残された形になる、元・宮城野部屋所属の力士たちの処遇が注目される。彼らはいま、どんな思いでいるのだろう。
この期に及んでは、ただひとつ、残された白鵬の弟子たちが力士生活を続けられる環境を得られることが望まれる。現在は一門の伊勢ヶ濱部屋に預かりとなっている伯桜鵬や草野といった若い有望株、人気の炎鵬、さらには明日の関取を目指す若者たちのことだ。
かつて、やや似た状況で部屋が閉鎖になった春日山部屋では、所属していた力士の大半が引退の道を選んだ、というか引退へと追いやられた。その愚をまた繰り返すようなことだけは避けていただきたい。【参照】
そして日本相撲協会には、猛省をしていただきたい。
というのも、今回の騒動の原因は元・白鵬の部屋経営の失敗ということにされるのだろうが、ではその元・白鵬に宮城野部屋を継承させたのは誰か?
いうまでもない、横綱・白鵬の引退時に年寄襲名を認め、宮城野部屋の継承を認めたのは、日本相撲協会の理事会である。つまり、そもそもの原因を作ったのは、今回元・白鵬を断罪した現・相撲協会執行部ではないのか。そこらへんの原因分析と再発防止には、本気で取り組んでもらわねばならない。これで一件落着にしてはいけませんよ。
そして、さらにその原因を突き詰めれば、それはただひとつの名言に集約できる。
名選手必ずしも名監督ではない。
プロ野球などでよく引き合いに出される言葉だ。当たり前といえば当たり前だ。プレイヤーとしての実力や技能と、監督などに求められるマネジメントの技量は、まったくといっていいほど別のものだからだ。
大相撲の世界にも、これはあてはまる。
以前に書いたことがあるが、横綱が引退して弟子を育て、その弟子が大成するケースは、じつはけっこう稀なほうである。【参照】
たとえば、優勝20回以上の大横綱たちを見てみる。
優勝20回超の大横綱は、白鵬をのぞくと5人いる。大鵬(32回)、千代の富士(31回)、朝青龍(25回)、北の湖(24回)、貴乃花(22回) 彼らのうち誰一人として大横綱どころか横綱を育てることもできていないのだ。千代大海を育てた千代の富士と、途中までだが貴景勝を育てた貴乃花のふたりが大関を出しているだけ。それ以外は優勝力士すら出せていない。
大横綱が、自らの後継者を作れないのが実際なのだ。元・白鵬には、このへんのジンクスも破ってくれそうな期待があったのだが……
しかし、当然といえば当然なのかもしれない。
現在の大相撲の、いや相撲協会の仕組みでは、土俵で一定の実績を積んだ力士が引退して年寄株を取得すれば、おおむね部屋を興して独立することは可能になっている。
そこには、資格試験もライセンス交付もない。彼らの指導者としての力量は、やってみてから初めてわかることなのである。
それでいいのだろうか?
たとえば、サッカー界では、監督やコーチなどの指導者をするには資格が必要になっている。サッカー連盟が課する講習や試験を経てライセンスを取得しなければ、どんなに現役時代の成績が華麗でも、監督もコーチもできない。
大相撲にも、こうした仕組みが必要なのではないか。
大相撲の世界は、プロの野球やサッカーなどと大きく違い、それゆえにこそこうした仕組みはより切実に必要だと思う。
というのも、力士たちの大半は中卒か高卒で、力士として入門してくる。ほぼ未成年なのだ。
そうした彼らを預かるのは親方(師匠)だ。そして弟子たちは、ほぼ相撲社会の中で生活する。関取に昇進するまでは、ほとんどが部屋に住みこみ、共同生活を送るのだ。
つまり師匠たちは、未成年の弟子たちを、文字通り育てるのだ。力士としてだけではなく、一人前の人間として。
だとすれば、師匠たちは相撲のコーチとしてだけでなく、教育者でもあるのだ。その資格がすべての親方たちにあると断言できるのだろうか?
今回の問題の「根」は、じつはこのへんにあるのではないか。いうまでもなく、今回が史上初めての事件ではない。過去に相撲部屋でのこうしたトラブルは、大小ふくめて数え切れないほどではないか。
そうした環境で力士として育ち、引退するまで外部の世界との関わりも少なく、そのままストレートに師匠となった者が、上手く部屋をまとめられず、経営に失敗するような事態は、ある意味で当然の帰結なのかもしれない。
新弟子たちは、入門すると例外なく相撲教習所で講習を受け、相撲社会の仕組みを学ぶ。
同じように引退して年寄を襲名する力士たちにも、一定の講習を受けさせるのがいいのではないか。そしてその中で、個々の力量、資質などを判断し、試験をおこない、部屋を持つにふさわしいと判断できたものにだけに師匠の資格を与える。
こんな制度はいかがかな。
現在の大相撲で最大の問題は、新弟子の減少である。
そりゃあ、そうだろう。大事な子供を預けようとする親たちから見れば、現在の相撲界は安心してわが子を託せる世界にはとても見えないだろう。まして今回の事件がこれだけ騒がれてはなおさらだ(そのへんのマイナスも、協会幹部たちは考えていたのかね)
この「白鵬事件」を機に、こうした事態が良い方向に進むならば、いや進めなければならないと思う。
最後になるが、元・白鵬には、これで相撲を見捨てないでいただきたい。
大相撲(相撲協会)には嫌気がさしているとも思うが、相撲というスポーツ(スポーツ以上のものだと思う)の魅力は、あなたが一番わかっているだろう。少年相撲の白鵬杯は、絶対に続けてもらいたいし、なんなら相撲の世界大会なども主宰してはいかがだろう。元・白鵬の人脈や知名度があれば。じゅうぶん可能だと思うが。
この魅力あるスポーツを世界に普及させ、輝かせることに、ぜひとも尽力していただきたい。
