新東京プロレス〔闘翔編〕
1986年から1988年まで、「少年サンデー」に連載された、竜崎遼児のプロレス&格闘技コミック「闘翔ボーイ」をご存じだろうか。当時の現実のプロレスや格闘技の状況をモデルにした、なかなかエキサイティングな作品だ。
超高校級の投手として甲子園で活躍した篁(たかむら)大介は、たまたま遭遇したカリスマ的人気プロレスラーで格闘技王の海王完二を打倒すべく、ドラフト会議で8球団の指名を蹴飛ばして、新東京プロレスに入門。プロレスだけでなく、さまざまな格闘技をマスターしながら、頂点をめざす。
まさにスポーツコミックの王道ともいうべきストーリー。目標である打倒・海王までの過程に立ちはだかる敵たちは、シュートボクシング、フルコンタクト空手、骨法、サンボ、ボクシング、ムエタイ、ストリートファイトなど多岐にわたる。
さてそんな「闘翔ボーイ」の主人公である大介が入門するのが新東京プロレス。前回ご紹介した、プロレス漫画の金字塔「1・2の三四郎」と同じネーミングだ。かなり安易な感じのネーミングだが、あるいは「三四郎」へのオマージュなのか?(たぶん違う)
連載開始時の1986年は、プロレス界のメジャーだった新日本プロレスのリングに、総合格闘技の走りとなったUWFが乗り込み、軍団抗争をくりひろげていた。
「闘翔ボーイ」の新東京プロレスの設定は、当時のそうした新日本プロレスを流用したようで、じっさい登場するレスラーたちには、かなりはっきりしたモデルがあるように見える。
エースの海王のモデルがアントニオ猪木なのは言うまでもないだろう。この時期の猪木はすでに異種格闘技路線を店じまいしつつあったのだが、まだまだわれわれファンは、猪木に「最強幻想」を抱いていた。海王はまさにその幻想の具現で、現実の猪木さんよりもかなりストイックだ。
次いで、新東京プロレスには、藤南、村木、武斗といったレスラーがおり(ほとんど活躍しない)、そのモデルが藤波辰巳、木村健吾、武藤敬司(スペース・ローンウルフ時代だな)あたりなのは一目瞭然。
鬼軍曹で新人教育係で海王の片腕でテレビの解説をする本山が山本小鉄、道場のヌシで関節技の鬼の洞口が藤原喜明、ハワイから呼び寄せられて大介に寝技を叩き込む外人コーチのベックがカール・ゴッチ。大介の成長に大きくかかわる彼らだが、このへんは顔までそっくりなのだ。
まったくの噛ませ犬となる外人レスラーでは、フラッシャー・ダンダン・ビダロ、マッド・ドッグ、ニューマン(覆面レスラー)というのが出てくるが、それぞれクラッシャー・バンバン・ビガロ、ディック・マードック、マスクド・スーパースターなのは、簡単に見て取れる。
作中で一度、その日の試合順を書いた、手書きっぽい対戦表が出てくるが(このへんもリアルだ)そこには、午藤、高能、坂田といった名もある。元ネタは、後藤達俊、ジョージ高野、坂口征二なんだろうが、彼らの姿を見ることはできない。
こうした面々はあまり大介とからまないので、海王以外は、ひどく印象も薄い。
ちなみに、モデルとなった面々のうち、誰一人として現在の新日本プロレスに存在していないし、故人も多いのも、なんか時の流れを感じさせる。
いっぽうで、入門したての大介と激しく対決するのは、新東京プロレスの若手たちだ。
ヤングドラゴンと呼ばれているそうで、このへんもヤングライオンからのいただき。手代木とか羅門とか御手洗とか徳丸とか、それなりに凝ったネーミングだが、さほど強いわけでも目立つわけでもない。
なかで入門初日の大介をぶちのめすのが「若手四天王」 闘魂三銃士あたりがヒントなのかな。山際啓治、星崎真吾、犬神章、冴木優と、きちんとネーミングされているが、大介が異種格闘技戦に走ると、ほとんど登場しなくなるので、試合ぶりもよくわからないままだ。しょせんは脇役か。
名前からして冴木優が船木優治かなくらいは想像がつくが、上位のレスラーたちとは違ってモデルは判然としない。
ハッキリわかるのは「四天王の次くらい」で「身長が低くて気の強い」という佃なる若手で、これは間違いなく、後年リバプールの風になった、あの人だろう(まだ現役)
若手のなかでオリジナリティを感じさせるのは、大介と同期で、ことあるごとに対立しながら、やがて「巨人の星」の伴宙太的ポジションにつく、巨漢の兀突(ごつとつ)くらいか。
大介と激突する、新東京プロレスのリングに殴り込んできたフルコンタクト空手の「六車道場」は、当時新日本プロレスのリングに参戦していたUWF軍団のイメージだろう。
総帥の若き空手王が六車明。身長2メートル級で、短気で、けんかっ早いアキラさんといえば、これは間違いなく前田日明だろう。その弟分に宝田や山咲がいるのも、容易に高田延彦、山崎一夫がモデルだとすぐわかる。
こうもモデルがあからさまなのは、作者の竜崎遼児がじつはあまりプロレスに詳しくなかったからだと思われる。当時業界トップの新日本プロレスを取材したのだろうが、その材料をアレンジしきれずにそのまま出してしまったのだろうか。
ただそのおかげで、連載当時に読んでいるときは意外なくらいのリアリティを感じたものだ(実際、道場での練習や巡業の様子などはかなりリアルだった)
大介があっという間に若手の域を脱してしまうと、彼らプロレスラーの出番は減ってしまうが、ここから展開される異種格闘技路線は、じつはその後の現実の展開をかなり先取りしていて、いま読み返すと唸らされることもある。
ストーリー中盤の最大のヤマ場、シュートボクシングのカイザー剛志(シーザー武志です、もちろん)が主催する立ち技最強トーナメントを見よ。後楽園球場(東京ドームはまだない)にさまざまな格闘技選手を集めて、一大トーナメントをぶっ放すのだ。
これ、K−1やPRIDEどころか、そのビジネスモデルとなった前田日明のリングスや、アメリカのUFCよりもはるかに先行しているのだよ。
大介をはじめ、フルコンタクト空手の六車、骨法の陣内十一といったこれまでのライバルの他にも、プロボクシングの東洋チャンピオン、ムエタイの強豪、そして、大相撲の元大関(現役引退して挑戦してくる)、カポエラ、モンゴル相撲までが参戦する。モンゴル相撲の強豪の風貌が、なぜかのちの大横綱・朝青龍に似ている!(もちろん偶然)
そんなこんなで、最後はノールールの総合格闘技・パンクラチオンまでエスカレートするこの「闘将ボーイ」
コミックス全9巻におよぶこの格闘技マンガ、いまは電子版でも読めるので、機会があればぜひともお読みいただきたい。
作者の竜崎はこの後、本格的なプロ野球マンガ「ばっくれ一平」で、さらに私を魅了したのだった。
