令和元年・九州場所雑記
本年納めの九州場所、優勝争いは横綱・白鵬のほぼ独走で決着。43回優勝には恐れ入るしかないし、本人が一夜明け会見で口にしたという50回優勝も絵空事ではない気がした。「けっきょくは白鵬」どころか「まだまだ白鵬」なのか。
その白鵬を追い落とす若手の本命、場所前までは貴景勝か御嶽海かという雰囲気だったが、両者とも失速。大関復帰の貴景勝は奮戦したがけっきょく9勝止まり。先場所覇者の御嶽海は6勝9敗の負け越しで来場所は平幕への陥落が濃厚。白鵬を追うどころか、大関獲りもいったん白紙で、完全出直しとなった。
かわって「ポスト白鵬」に躍り出たのは、今年夏場所で初優勝した朝乃山だろう。新小結の今場所は11勝4敗で技能賞を獲得。初の年間最多勝も手にして、いよいよ大関獲りが視野に入ってきた感もある。いやいや、下手したら来年の九州場所あたりには横綱・朝乃山もありうるかと思った……
と思ったのだが、千秋楽で同じ若手の正代(敢闘賞獲得)にあっけなく敗れたので、やや後退。押し相撲中心の貴景勝や御嶽海とちがい、本格的な四つ相撲の型を持つ朝乃山を本命視したかったのだが、押されると脆いようではまだまだか。もう一段の稽古精進が必要なのかな。
とはいえ、来場所は大関最接近の東関脇昇進が望めそうなので、大望へ向けて頑張っていただきたい。
このように、期待の若手同士の潰しあいが激しく、みんな揃っていまひとつの状況に陥っているのが大相撲の現状だろう。よく言えば群雄割拠、でもドングリの背比べに見えてしょうがない。
おかげで一番ごとの相撲内容はけっこう面白いのだが、そうした状況にいっさいつきあってくれない白鵬がいると、優勝争いを中心にした場所の盛り上がりはいまいちとなってしまう。白鵬が休場して不在だった先場所との盛り上がりの違いを見れば、一目瞭然だろう。
盛り上がりを欠いた今場所だが、その一因は間違いなく休場力士の多さにもあるだろう。
番付を下位に下げて今場所は平幕優勝もアリと見ていた逸ノ城が初日から全休。優勝候補に挙がっていた横綱・鶴竜は初日に急遽休場を発表(初日に不戦敗はめずらしい) さらにはカド番の高安と大関復帰のかかっていた栃ノ心、そして豪栄道も途中休場と大関界隈は総崩れ。新入幕で初日から連勝していた若隆景も休場し、期待の新星・友風は大怪我で長期休場の見込み。幕内の休場力士は7人にも及んだ。
そのせいで本来22番も組まれるはずの幕内取組が、終盤戦ではわずか18番に減少してしまった。おかげで取組のあいだが間延びし、NHKの大相撲中継はさまざまな企画を放送する羽目になっていたくらいだ。
これはプロスポーツの興行としては相当の問題。番付上では看板力士の2横綱、3大関、2関脇がならんでいるのに、実際に相撲を取るのはそれぞれ一人ずつのテイタラク。冗談でなく「金返せ」といわれても仕方ないだろう。
もちろん休場力士は負傷が理由なのだから、無理やり相撲を取らせるわけにはいかない。かといって、こんなことが続けば大相撲の信用問題になる。
そろそろ相撲協会は、チケット払い戻し制度を検討すべきではないか。横綱大関が半分以上休場したらとか、幕内休場が5人を越えたらとかあらかじめ条件を決めておき、そうなった場合に観戦をキャンセルした観客にはチケット代を全額払い戻すのだ。
今場所の休場者は、土俵上の取組中のアクシデントが多かったから仕方ない面はあるが、だからといって高い入場料を払った観客に配慮しないわけにはいくまい。見逃されがちだが、休場→不戦敗の力士を見られないだけでなく、不戦勝の力士の相撲も見られないのだからガッカリであるのだ。
チケット払い戻し、ご検討いただきたい。
それとは別に、休場力士の増加にも対策が必要かもしれない。
休場力士が多くなると、親方や評論家や記者や好角家の口から出るのは「稽古不足」の言葉だが、こう負傷者が多いのでは、もはやそんな問題ではないだろう。稽古中にケガをする力士も多いのだから。時代は変わって、力士の体質も生活習慣も変わっているのだよ。
ひとつには、負傷が完治しないうちに無理をする慣習がいっこうに抜けないせいもあろう。いかにも日本的な「ガマンは美徳」がいまだにはびこっているせいである。
ただ、力士は休場すれば、その分は負けと同じ扱いになり、結果として番付が降下する。これは力士の生活にも関わることなので、どうしても無理にでも出場したくなる。出さえすれば、あるいは勝てるかもしれないと思うのは当然だろう。
だが、無理をすれば負傷は長引き、また休場につながる。そこでまた無理をし、負傷個所は悪化する(あるいは他の個所も痛める) この「負のスパイラル」から抜けられないことが、負傷者を増やしているのではないか。
稀勢の里の例を語るまでもなく、このスパイラルから抜け出すのは、現行制度では困難だろう。
無理を防ぐには抜本的な制度の改革が必要だ。
たとえば、休場を負け扱いにはせず「半敗」にカウントするという手がある。1場所全休しても成績は「15敗」ではなく「7敗半」 すると負け越し点数は「15点」ではなく「7.5点」になる。現行制度では番付15枚降下のところが半分の7枚半ですむ。これならば、いくらかは無理もせずにすむのではないか。どうだろう?
問題は、以前に施行されていた「公傷制度」と同じく、乱用されてはかえって休場者を増やしかねないことだ。運用を厳しくするしかないのだが、そうすると逆効果にもなりかねない。
そうなると負傷による休場を減らすには、現行の本場所制度の見直ししかないだろう。本場所の場所数や、場所の日数を減らすのだ。
いやいやこれはタイヘンな難問だが、実現すれば思わぬメリットもあるかもしれないことに気づいた。なので、この件は、また稿を改めて書くことにしよう。
そうそう、幕内の優勝争いは盛り上がりを欠いたと書いたが、幕内以外の各段はなかなか活気があって、おもしろかった。幕内優勝が前日に決まって盛り上がりが薄くなった千秋楽の土俵を救ったのは、序ノ口、序二段(巴戦)、十両(4人のトーナメント)の優勝決定戦だったし、十両と幕内、十両と幕下の入れ替えはけっこうスリリングなものになった。
そんななか、負傷のために序二段まで番付を落としていた元・大関の照ノ富士が幕下優勝を果たして十両復帰を決めた。よく辛抱して頑張ったと思う。実力者だけに、来年からの逆襲にも期待したい。
番付下位では、続々と有望な若手が進出してきている。NHKのBS放送やネットのabemaTVで中継されている十両以下の取り組みは、けっこう楽しませてもらいました。
何はともあれ、来たる2020年は今年以上に時代の動きがあるだろう(あるいは白鵬がさらなる凄味を見せるか)
初場所の開幕が待ち遠しいのは、例年通りである。
