ジャッキー・チェンと勝負する(39)
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1997年の「ナイスガイ」が今回のお題。
この映画の香港公開は1997年の1月。つまり香港映画界でいちばんの書き入れ時である春節(旧正月)の映画である。そして、1997年というのは、ながらく英国領であった香港が中華人民共和国に「返還」された重要な年だ。
つまりこの作品は、香港が中国に返還されるという大転換点の年の最初を飾った作品ということになる(返還は1997年の7月に行なわれた)
今でこそ中国政府とはうまくやっているようだが、1997年を迎えるまで、香港映画界の動揺は大変なものだったようだ。それはそうだろう、天安門事件などに象徴される中国の政治体制と、自由奔放な香港映画の体質が「合う」わけがないと誰しもが思ったに違いない。
この時期に、香港映画のトップどころが次々とハリウッド映画に転出していったのも無理はない。じつはジャッキー・チェンの第2次アメリカ進出(「レッド・ブロンクス」以降)の背景にも、この問題があったことは想像に難くない。
そして返還を目前にしたこの時期、ジャッキーはオーストラリアで連続して映画を撮っている。前作「ファイナル・プロジェクト」と、この「ナイスガイ」だ。
じつは、ジャッキーはオーストラリアに居住経験がある。両親が在住していたため、無名時代に一時期俳優業を断念していたジャッキーは、オーストラリアで職に就いていたのだ。彼がロー・ウェイの招きで香港に戻り「成龍」となる前の話だ。
そんなオーストラリアで連続して新作を撮影したのは、ひょっとしたら、香港返還後にオーストラリアを本拠にする可能性を探っていたのかも知れない。実際には、翌1998年に「ラッシュアワー」がヒットしてハリウッドへの道が開けたのだが。
さて、そんなことはともかく、この「ナイスガイ」はどんな出来ばえか?
公開当初からちょっと感じていた「違和感」が、この作品にはある。「新ポリス・ストーリー」や「ゴージャス」といった作品に対するのとは違う。「ナイスガイ」そのものは、アクション中心、というか、アクションしかない、まさにジャッキー・チェンらしい映画である。そのはずだった。だが、そこに、ほかのジャッキー映画とは違うテイストがまぎれこみ、ほんのちょっとだが違う味わいを醸しているのだ。
それは、監督をつとめたサモ・ハンの「成分」だろう。
二人の関係は、今さらここで解説するまでもないが、この「ナイスガイ」は、約10年ぶりに二人が「監督⇔主演」のコンビを組んだ作品だった。
サモ・ハンとジャッキーは、いかにも似た者同士に見えるし、実際にアクションに対するこだわりなどは共通のものが多い。
しかし、思い切ってざっくりと言ってしまうと、二人のあいだには「モノ」に対する姿勢の違いがあると思う。
サモ・ハンは「モノ」を主としてアクションを作り、ジャッキーは「モノ」を従としてアクションを作る。きわめて大雑把な言い方だけど。
いつものジャッキーはアクションを演じる際、「モノ」はあくまで小道具として使われる。それは自転車や机・椅子といった小物でも、ヘリコプターのような大掛かりなものでも同じだ。物理的なサイズの問題ではない。ジャッキーがあくまで中心にいて、「モノ」は文字通りにアクションの「道具」として使われるのだ。
対して、少なくともこの映画では、ジャッキーはアクションの真ん中にいない。有名な建設工事のシーンでは、工事現場そのものの面白さ(たとえば無数に扉のある迷路のような場所)であり、街中を疾走する馬車の危なっかしさであり、モンスタートラックの迫力である。極端なことをいえば、そこにジャッキー・チェンがいなくても、「モノ」があれば成立してしまうようなアクションだ。
もちろん、それがすべてではない。だが、いま上げたようなシーンが、「ナイスガイ」の名場面として見た人の記憶に残っているとしたら、やはりこの作品は「異質な」ジャッキー映画だということなのではないか。この後にハリウッドで「使われる」ジャッキーほどではないが。
その原因が、たぶんサモ・ハン監督にあるであろうことは、容易に想像がつく。そしてそうしたアクションの構成が、ジャッキー自身の意図でないであろうことも。
たとえば、映画プロデューサーとしての力量をいえば、アクションだけでなく、ホラーや恋愛ものから純粋コメディまでを楽々と作り続けるサモ・ハンのほうが幅も広く(肉体的な幅ではないよ)、大物であろう。いっぽうで、明るく楽しく激しいアクションに徹してきたジャッキーもまた当然ながら自らの映画館に自負があるはずだ。それもハンパでない自負が。
子どものころからの兄貴分であり先輩格であるサモ・ハンと、彼よりも大きな成功を収めたジャッキーとの間には、余人のうかがい知れない感情や絆があるだろう。そしてそれが、まことに微妙な形で「影」をおとしたのが、この「ナイスガイ」だったのではないか。
これ以来、二人がコンビを組んだ映画は、ない。
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