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ヴィラ神奈川・前編/看取りケアの一環として実現した、高尾山登山の記録

こんにちは。昨年10月、平成医療福祉グループの介護福祉事業部に入職した田中です。
この一年、当グループの関東エリアの介護施設を中心に、スタッフから話を聞いたり施設内イベントへ参加したり、様々な場面で施設の取り組みを知ることができました。
そのような中で、その人らしい最期を支える取り組みである「看取りケア※」について考える機会をもらいました。

※看取りケアとは?
医師により医学的に回復の見込みがないと判断されたときに、身体的及び精神的苦痛を緩和し、安らかで自分らしい最期を迎えられるように支援するケアのこと。ご入居者の意思ならびにご家族の意向を最大限に尊重し、施設スタッフとの協議・協力のもと行われる。

平成医療福祉グループ「看取りに関する指針」より

きっかけとなったのは、ヴィラ神奈川の施設長・小林さんの「先日、お看取り対象の利用者さんと登山をしてきたんです。」という一言。

……看取り期に入られた利用者さんはおそらく体力もあまりない状態のはず。それなのに、登山っていったいどういうこと!?と思い、登山を企画・実行したヴィラ神奈川のスタッフの方々にお話を聞かせてもらうことに。

山を登った先に、どんな景色が見えたのでしょうか。

利用者さん、ご家族、スタッフの協力のもと実現した、ある登山の物語を、全2回に分けて紹介します。

※本記事は看取りケアの実践を紹介する内容ですが、対象となったご利用者様はその後回復され、2025年12月時点では、ヴィラ神奈川で穏やかに過ごされています。


施設紹介

介護老人福祉施設「ヴィラ神奈川」
〒221-0864
神奈川県横浜市神奈川区菅田町19
JR横浜線「鴨居駅」から横浜市営バス12系統「西菅田団地」停留所下車 徒歩10分
HP:https://kanagawa.tokuyou.jp/

ユニット型の特別養護老人ホーム。なだらかな形状の建物が特徴的で、窓が多く、明るく開放感あふれる施設です。広々とした館内は、利用者さんご家族から寄付してもらった家具や装飾で家庭的な温かみがあります。
窓の外には園芸スペースが設けられ、施設の中にいながらも、四季折々の花を楽しむことができます。

きっかけのお誕生日会

看取りケアがはじまった利用者さんがいました。

その方は90代前半の女性、Aさん。介護度は要介護5で、全ての場面で介助が必要な状態でした。静かな印象の方で、近くにいるスタッフからしてもあまりお話をされるイメージはなかったそうです。

ヴィラ神奈川では、利用者さんの誕生日を毎月お祝いしています。

Aさんの誕生日は、90代のご主人と、同じく90代で、Aさんの古くからのご友人をお招きしてお祝いしました。

そのとき、山やAさんが映った写真を集めたフォトブックをご友人が持参。そこで「Aさんは山登りがすごく好きだった」という事実をスタッフがはじめて知りました。

「私はAさんに山の楽しみを教えてもらって感謝しているんです。」
「最後にAさんを山に連れて行って恩返しがしたかった。」

ご友人のお話を直接聞いた、ケアマネジャーの野口さんと看護師の山北さん。Aさんに対する想いに突き動かされ、そのあとすぐに施設長のもとへ向かい、登山計画を提案しました。

HappyBirthdayの飾りつけをしたお部屋でお祝い。

そのときの光景を小林施設長は次のように振り返ります。

「野口さんと山北さんが2人で私の部屋に入ってきて、『(Aさんを)登山に連れて行ってあげたいんですけど、難しいですよね…?』と不安そうに言っていました。でも、話を聞いて、私もAさんに大好きな山に登ってほしいと思ったので、その提案は嬉しかったです。
すぐに『いいよ いいよ!行こうよ!』と2人に答えていました。悩む気持ちはなく、「どうやったら行けるか」ということを考えました。」

施設長から許可が下り、登山に向けて物語が走り出しました!

多職種連携による検討ポイント

その日から野口さんと山北さんが中心となり、介護職、看護職、ケアマネジャーなど多職種で協力した登山準備がはじまりました。
それぞれの職種の知識や経験からなる専門的な視点をもって検討を重ねた結果、行先は東京都八王子市にある「高尾山」に決定!以下が検討ポイントでした。

<POINT 選考編>

・Aさんの体力
・施設からのアクセス
・ロープウェイが利用できること
・リクライニング式の車椅子でも移動できる道があること
・車でのアクセスが良いこと
・登山後の食事処があること

何よりの決め手は”Aさんが過去に登ったことがある山”ということ。当時のことも思いだせるようにという、スタッフの想いです。

当日は朝10時にヴィラ神奈川を出発。
メンバーは、Aさん、ご主人、ご友人とその娘さん、そして介護職2名、看護職1名、ケアマネジャー1名の合計8名です。
お留守番の施設長に見送られ、施設車で出発しました。

左から施設長、介護職 熊坂さん、ケアマネジャー 野口さん、 Aさんのお友達、ご主人、Aさん、
看護師 山北さん (撮影:介護職 飯野さん)
このとき、Aさんは高尾山に登ると信じておらず、病院に行くと思っていたそうです。

車内は和気あいあいとした雰囲気。皆で話しながら、窓の外の景色を楽しみながら。

当初は、まさか本当に高尾山へ行くとは思っていなかったAさんでしたが、
「徐々に緑が増え、ケーブルカーも見え、山の雰囲気に包まれていくと、Aさんも”本当に高尾山に来たんだ”と実感したのではないかと思います。」と同行した山北さんは振り返ります。

高尾山のふもとにつき、いざ登山!
車椅子で登山と聞くと、「道は危ないんじゃない?」「ロープウェイに乗れないんじゃない?」「まず利用者さんの体力が持たないかも…」など、不安材料も多いのではないでしょうか。
でも心配ありません!ヴィラ神奈川では、各職種の視点を持って検討を重ね、対策を練ってきました!

<POINT 準備編>
検討と対策ポイントー各職種の視点を用いてー

1.現地の不安は実際に目で見て確認すべし!(介護の視点)
施設長の許可のもと、業務時間内に介護職の飯野さんと熊坂さんが下見に行っていました。
・交通渋滞を確認するため、決行日と同じ曜日・時間帯に出発
・ロープウェイ乗降時の段差はどのくらい?
・リクライニング車椅子で通れない危険な道はある?
・登山後に車椅子で入れる飲食店はある?
…と確認した結果、全てクリアできると判断。

熊坂さん:
実は、飯野さんとの下見とは別に、プライベートで子どもを連れて2回行きました。1か月で3回くらいですね。ケーブルカーも6回くらい乗りました。そのおかげでスムーズに行けたのかなと思います。

2.体調管理を徹底すべし!(看護の視点)
当日までに体調を崩さないように、看護師の山北さんを中心にケアが進められました。当日の服装も寒暖差を考慮しました。

3.オムツの“もち”をシミュレーションすべし!(介護の視点)
当日は片道1時間の行程です。高尾山の道中でも簡単にオムツを交換することはできません。どのくらいの時間変えずいけるか、数日前から他の介護職員と協力して確認しました。

「人間なので日によりますし、懸念はありました。もし何かあったら道中にあるヴィラ町田(当グループの特別養護老人ホーム)に寄ることも可能かなと話してはいました。」と飯野さん。
実際に寄ることはなかったそうですが、いざとなったときに助け合えるのがグループの強みの1つです。

4.ご家族にはリスクも含めて相談すべし!(ケアマネジャーの視点)
実現に必須なのは、″ご家族の理解”と”協力”です。
我々の気持ちが先行し、ご本人とご家族が置いてけぼりだったら良いケアとは言えません。

登山の計画がスタートしてすぐに、ケアマネジャーの野口さんからご主人に相談をしました。
・下見やAさんの体調管理を徹底し、万全を期して決行すること
・登山に行ったことにより疲れが出たり、体調を崩したりするリスクもあること

ご主人は快く、「ぜひ行きたい。私1人では連れていけないので、嬉しいです。」と言ってくださりました。高尾山登山決行に向け、ご主人とご友人のスケジュールも早めに抑えました。

5.ダラダラしない!急ピッチで進めるべし!!!(多職種連携)
登山可能という医師の判断はありましたが、体調が悪くなるおそれがなくなったわけではありません。この機会を逃さないように、業務の合間を縫って、コアメンバーで情報共有・相談を重ねて計画を詰めていきました。


高尾山に着いてからは、参加してくださったご高齢のご主人とご友人の安全にも注意しました。
高尾山登山を成功させるためには、全員が無事に登ることができ、楽しい思い出となることが不可欠です。

現場で柔軟な対応ができるよう、役割分担については、あまり細かく決めて行かなかったそうですが、介護職の飯野さん・熊坂さんで先導し、中間にケアマネジャーの野口さん、後方に看護師の山北さんという配置になり、自然と連携が取れていました。日頃からコミュニケーションを取って業務に当たっているからこそ、その場で必要なことを考えて動くことができたと言います。

ケーブルカーの乗降もばっちりです。
車椅子は後輪だけにしかブレーキがないリクライニング車椅子だったため、ブレーキをしていても、グルーっと回転してしまう危険性がありました。道中はずっと上り坂なので、常に車椅子を手放せない状況ではありましたが、介護職の飯野さん・熊坂さんでしっかり支えて登りました。
横から見た再現(小林施設長とAさん)

楽しく、安全に、笑顔で

Aさんは本格的な登山経験をお持ちで、高山植物がお好きな方です。
お友達が「ここにウラシマソウが生えているよ」などと話しながら、草花を見て楽しくゆっくり登るAさんはとても良い表情で、昔の登山の記憶も呼び起こされているようにも見えたそうです。

登山道で咲いていた植物(アヤメ科アヤメ属のシャガ)
登山道で咲いていた植物(サトイモ科テンナンショウ属のウラシマソウ)

どこで折り返し下山するかは、全員の体調をよく確認して決めました。
下山する際は、車椅子を後ろ向きにして平行に保ち、角度や姿勢など、安全への配慮は最後まで抜かりなく。

下山後は、高尾山ふもとのお蕎麦屋さんで昼食を食べました。

Aさんは、山の道中にあるお店でソフトクリームを召し上がっていたので、 ここではとろみをつけたそば湯だけを召し上がりました。

食事も楽しみ、残すは無事、施設に帰るのみ。
(帰るまでが、高尾山登山です!)
(お留守番の小林施設長も、皆の帰りをソワソワしながら待っていたそうです。)

帰りの車内は達成感と疲労感があり、行きより静かでしたが、ご家族やご友人からもあたたかい言葉がこぼれました。
「とっても疲れたけど、よかった。」
「昔、Aさんにお世話になったから、こうして一緒に来られてよかった。」

Aさんの目も輝いていて、スタッフの「楽しかった?」の声掛けに「楽しかった」と。「どこに行ったか分かる?」と聞いたら「分かる」と。今までの中で、一番発言が多く見られました。

思い出が重なる山の空気の中で、“行けた”という事実以上に、Aさんの人生に触れられた時間となりました。

後編では、準備段階や当日について、コアメンバーに振り返ってもらいました。”楽しかった”だけではなく、無事に終わった今だから思うことをお届けします。


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