該非判定の罠 - 輸出令別表2の21-3項 麻薬及び向精神薬
サッカー漫画は何作か読んだ事がありますが
オフサイドのルールはよく理解出来ていません。
学生時代にオフサイドを理解せずプレイし、思わぬ反則を食らった経験があります。
貿易管理でもルールを理解せず輸出すると、思わぬ反則を食らうケースがあります。
株式会社ブラックトレード
※この物語はフィクションです
※生成AIを使用、編集しています
※登場人物
主人公:佐藤、上司:山田
論理より指示
とあるブラック企業の商社、株式会社ブラックトレードでは、今日も厳しい労働環境の中で社員たちが奮闘していた。
「佐藤。お前、今日から取引審査担当だ。」
低く冷徹な声が、背後から突き刺さるように降ってきた。
佐藤の背筋が瞬間的に強張る。この会社で何かを「任される」ということは、「断れない」「逃げられない」「失敗は許されない」ということを意味する。
デスクに投げつけられた書類を恐る恐る広げる。
塩酸を含む商品の仕様書。
「輸出の準備を進めろ。相手は急いでいる。」
佐藤は口を開くか迷った。知識は乏しいが、塩酸には何か規制があるはずだった。危険物扱いだったか?それとも…
「これ、規制品目じゃないですか?」
発した瞬間、空気が凍りつく。
山田がゆっくりと顔を上げ、佐藤を睨んだ。その目には明らかな苛立ちと、「余計なことを言いやがって」という攻撃的な色があった。
「何を言ってるんだお前は?そんな事を言ってるから仕事が終わらないんだ。」
罵倒とともに机を拳で叩く。
周囲の社員は一瞬固まるが、誰も佐藤を助けることはない。この会社では上司の機嫌を損ねることは、即座に自分に火の粉が降りかかることを意味していた。
「これが軍事に使われるはず無いだろう。いつも通りハンコを押しておけば問題ないだろう。」
そんなはずはない。
だが、佐藤は口を閉じた。ここでは論理よりも上司の指示が絶対だからだ。
「大至急準備しろ。時間をかけるな。営業第一だ。」
吐き捨てるような言葉とともに、佐藤は書類を握りしめた。指先が少し汗ばんでいる。
---
外為法違反への道
輸出申告手続きは取引先が選定した通関事業者に任せた。
「この商品、輸出の申告は問題ないですね?」
佐藤は慎重に確認するが、通関事業者の担当者は軽く頷くだけだった。
「非該当証明書はありますね?それなら問題ありません。」
それなら…大丈夫なのか?
時間がない。上司は急かす。疑問を持つ余裕すらない。
佐藤は見逃していた。
別表2の規制もチェックしなければならなかった事を。
この一瞬の判断ミスが、会社の運命を狂わせる事になるとは、まだ知る由もない。
---
迫り来る裁き
輸出から数週間後、社内の電話が鳴り響く。
「経済産業省から輸出取引について調査が入るそうです。」
佐藤は一瞬息を止めた。
オフィスの空気が張り詰める。山田の目が鋭く光り、佐藤を射抜くように睨みつける。
「なんの話だ?」
震える手で調査内容を確認する。
輸出貿易管理令別表2に該当するため、輸出承認が必要だったが、承認を得ずに輸出してしまった。
「別表…2?」
佐藤の思考が停止する。
確認していたはずだ。該非判定をやったはずだ。
だが、それは「別表1」だけだった。
上司の山田がゆっくり立ち上がる。
「お前、何やったんだ?」
「通関業者も問題ないって言ってましたし、社内でも検討して…」
「言い訳するな!!」
怒号とともに、机の上の書類が山田の手によって勢いよく撒き散らされる。
オフィスは沈黙する。
「お前のせいで、この会社が終わるかもしれないんだぞ!」
---
制裁と崩壊
ブラックトレードは、経済産業省の厳しい事後審査を受ける事になった。
「過去5年間の輸出履歴を精査します。」
記録管理は杜撰だった。ずっと「問題がない」と高を括っていた会社には、証拠となる書類がまともに保管されていない。
この会社は、本当のところ「運よく逃げていただけ」なのだ。
経済産業省の調査が進むにつれ、社内の空気はどんどん重くなり、口を開けば誰もが低く苛立った声を発する。
佐藤は、もう全てがどうでもよくなってきていた。
報告書を求める声、怒鳴りつける上司、焦燥と苛立ちが入り混じる社員たち――全てが耳障りだった。
そんな中、山田がゆっくりと佐藤の前に立つ。
「お前がちゃんと調べていれば、こんな事にならなかったんだ。」
その口ぶりはまるで、佐藤がすべての責任を負うべきかのようだった。
佐藤は、山田をじっと見つめた。
この男は何も知らない。知らないくせに、責任だけは押し付ける。
この会社は、この男のような無知と横暴で成り立っている。
佐藤は静かに、自分の席に戻り、手帳を開いた。
そこには、数か月前から記していたメモがあった。
『退職する日まで、あと何日』
佐藤はその数字をひとつ減らし、深く息を吐いた。
「ここにいる時間は、もう限られている。」
佐藤の中で、その決意は揺るぎないモノとなった。

経産省の違反事例スライド1枚を参考にしました。
物語の原案はこちらです。
(2)貨物別の事例 ⑥麻薬等原材料
違反事例:
海外の会社から塩酸を含む商品の引き合いがあった。当該者が社内で検討した結果、自ら製造することが可能との結論となり、初めて輸出することになった。輸出貿易管理令別表1の該非判定は実施したが、別表2についても該非判定を実
施すべきとの認識がなく、輸出承認が必要だったにもかかわらず、承認を得ることなく輸出してしまった。また、取引先が選定した通関事業者の指示に従い輸出手続き等を実施していが、輸出承認が必要との指摘がなかったため気づくことが
できなかった。
---
違反事例の多くは、法令知識の欠如(輸出規制があることを知らず、成分の把握や該非判定を行っていなかった)によるものです。輸出者が認識していなくても、貨物に麻薬等原材
料に指定されている成分が含まれていることがあります。
• 新たに輸出を始める製品には、規制貨物ではないか(規制物質が含有されていないか)、メーカー等から製品の情報(SDS等)を入手し、確認することが重要です。
• 規制の概要、手続きは「貿易管理HP 麻薬又は向精神薬の原材料等の輸出」を参照。
• なお、麻薬等原材料の場合、麻薬及び向精神薬取締法により、別途、輸出入を業として行う旨の届出や、貨物によっては輸出入の都度の手続が必要な場合がありますので、注意が必要です。
(参考)「厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部 麻薬取締官」Webサイト
【本編】
■輸出管理の落とし穴 - 別表2
ブラックトレードのような失敗を繰り返さない為に、企業は以下の対策を講じましょう。
① 規制の理解
- 別表1だけでなく、別表2の該非判定も慎重に行う。
- 法規制の変更を常に確認し、専門知識を持つ担当者を配置する。
CISTEC認定試験にも落ち度はあると考えます。
学習範囲に別表2の規制が入っていません。
それ故に別表2は独学が必要ですが、Advancedを取得して別表2にはノータッチという方も多いのではないでしょうか。
② 通関業者への依存リスクの認識
- 通関事業者に確認を任せるだけでなく、社内でも最終判断を行う。
- 「業者がOKと言ったから問題なし」という感覚を排除する。
通関業者の専門領域は通関業法と関税3法です。
通関の道に進んだ知人に聞いたところ、該非判定は多少知っているレベルでした。
通関業者が必ずしも輸出規制を指摘してくれるとは限りません。
該非判定は荷主側が責任を持って実施しなければなりません。
③ 事後審査に対応できる体制の整備
- 記録管理を徹底し、輸出履歴を適切に保存する。
- 内部監査を定期的に実施し、コンプライアンスを強化する。
当たり前の事だと思われますが、その当たり前が出来ていない企業は存在します。
例えば、ブラック企業なら高頻度で人が辞めるので記録保管は適当です。
精神を病んで急に来なくなる事もあり、書類が適切に保管出来ているかは怪しいです。
■輸出令別表2-21-3項 麻薬向精神薬原料
▶含有可能性はある
導入物語では、21-3項で規制される塩酸が登場しました。
この項番の違反事例では、法令を認識出来ていなかったケースが多いとされています。
というのも、工業用途では使われる物質が多いからです。
例としてこの項番で規制されるトルエンを見てみます。
トルエンは溶媒として一般的に用いられ、ペンキ、塗料用シンナー、多くの化学物質、ゴム、印刷用インク、接着剤、マニキュア、皮なめし、殺菌剤等、様々なものを溶解することができる。フラーレンの指示薬としても用いることが可能である。
このように一般的に工業用途に用いられており、製品に含有されている可能性は大いにあります。
該非判定の際、別表1のマトリクス表を見るだけでなく、別表2の規制物質も確認する必要があります。
トルエンなんてどこでも簡単に手に入ると思うのですが、何故規制されているのですか?
日本にいると簡単に手に入りそうですが、世界的に見ると意外とそうでもありません。なかなか手に入らない物質も多くあります。当たり前のように見える物質が規制されている場合は、そのような事情があると考えて下さい。
▶注意点
濃度
21-3項 輸出承認の対象物となるかは、規制物資を濃度50パーセント(塩化水素の水溶液、過マンガン酸カリウム、硫酸については濃度10パーセント)を超えて含有するかが基準です。
別表1該非判定10%ルールでは初期製造価格に基づく価格比となりますが、ここでは濃度が基準です。
少額特例
契約額が30万円以下のアセトン、エチルエーテル、エチルメチルケトン(別名:メチルエチルケトン)、塩化水素の水溶液(別名:塩酸)、トルエン、硫酸の輸出は、輸出承認申請は必要ありません。
別表1と上限金額が異なります。
また、21-3項の規制物質全てに少額特例が使える訳ではなく、列挙されている物質のみです。
以下の経産省リンクを熟読し、慎重に該非判定を行って下さい。
経済産業省 : 麻薬又は向精神薬の原材料等の輸出
■麻薬等原料の業務届出
無条件に輸出が出来る訳ではありません。
業として麻薬等原料を輸入(輸出)する場合には、届出が必要となります。
業として麻薬等原料を輸入(輸出)する場合とは、複数回にわたり麻薬等原料を輸入(輸出)する可能性がある場合です。
この場合、法人、個人を問わず、麻薬等原料輸入(輸出)業者業務届の提出が必要です。
番号 麻薬等原料
1 アセトン(50%を超えるもの)
2 トルエン(50%を超えるもの)
3 メチルエチルケトン(50%を超えるもの)
4 エチルエーテル(50%を超えるもの)
5 アントラニル酸(50%を超えるもの)
6 ピペリジン(50%を超えるもの)
7 硫酸(10%を超えるもの)
8 塩酸(10%を超えるもの)
また、特定麻薬等原料を輸入(輸出)する場合は、麻薬等原料輸入(輸出)業者業務届の届出をした上、さらに輸入(輸出)の都度、届出が必要です。
番号 特定麻薬等原料
1 N-アセチルアントラニル酸(50%を超えるもの)
2 4-アニリノピペリジン(50%を超えるもの)
3 4-アニリノ-1-フェネチルピペリジン(50%を超えるもの)
4 イソサフロール(50%を超えるもの)
5 エチル=2-メチル-3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)オキシランー2-カルボキシラート(50%を超えるもの)
6 エルゴタミン(50%を超えるもの)
7 エルゴメトリン(50%を超えるもの)
8 過マンガン酸カリウム(10%を超えるもの)
9 サフロール(50%を超えるもの)
10 1,1-ジメチルエチル=4-アニリノピペリジン-1-カルボキシラート(50%を超えるもの)
11 1,1-ジメチルエチル=ピペリジンー4-オンー1-カルボキシラート(50%を超えるもの)
12 1,1-ジメチルエチル=2-メチル-3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)オキシランー2-カルボキシラート(50%を超えるもの)
13 ピペリジン-4-オン(50%を超えるもの)
14 ピペロナール(50%を超えるもの)
15 N-フェニル-N-(ピペリジン-4-イル)プロパンアミド(50%を超えるもの)
16 1-フェネチルピペリジン-4-オン(50%超えるもの)
17 ブチル=2-メチルー3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)オキシランー2-カルボキシラート(50%を超えるもの)
18 プロピル=2-メチルー3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)オキシランー2-カルボキシラート(50%を超えるもの)
19 無水酢酸(50%を超えるもの)
20 1-メチルエチル=2-メチルー3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)オキシランー2-カルボキシラート(50%を超えるもの)
21 1-メチルプロピル=2-メチルー3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)オキシランー2-カルボキシラート(50%を超えるもの)
22 2-メチルプロピル=2-メチルー3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)オキシランー2-カルボキシラート(50%を超えるもの)
23 メチル=2-メチル-3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-オキシラン-2-カルボキシラート(50%を超えるもの)
24 2-メチル-3-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-オキシラン-2-カルボン酸(50%を超えるもの)
25 3,4-メチレンジオキシフェニル-2-プロパノン(50%を超えるもの)
26 リゼルギン酸(50%を超えるもの)
また、業としないで麻薬等原料を輸入(輸出)する場合にも届出は必要です。
一回に限って麻薬等原料を輸入(輸出)する場合(公的機関の研究者が研究目的で輸入する場合)であり、手続き方法も異なるので詳しくは厚労省に問い合わせて下さい。
届出には有効期限もあり、定期的な更新も必要です。
該非判定に加えて、当該届出についても確認しましょう。
厚労省リンク: 麻薬等原料の業務届出
■まとめ
輸出管理の軽視は、企業の信用を失墜させ、制裁の対象となります。
物語のブラックトレードのように、無知と強引な経営判断の結果、企業が崩壊する可能性があります。
このような悲劇を防ぐためにも、企業は輸出管理の重要性を理解し、慎重に対応を進めなければなりません。
2025/5/28 別表1改正に向けて該非判定を各社行っている時期に入りました。
化学品は輸出令別表2の存在も忘れず該非判定を行いましょう。
勝手にご紹介コーナー
貿易関連の発信者をご紹介します。
まこと課長さん
ジータさん
通関のリアルな経験談を興味深く拝見しています。
■注意事項
掲載する記事は個人の趣味として記載したものです。
記載した情報は全ての読者の方々にとって適切であるとは限りません。
紹介している貿易管理方法においては全て自己判断、自己責任でお願いいたします。
いかなる損失が出た場合でも責任を負うことはできません。
いいなと思ったら応援しよう!
貿易管理の現場で拾った学びと実務のリアルを発信しています。個別のお問い合わせはnoteの「クリエイターへのお問い合わせ」にてご連絡下さい。