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俺の悲しみはお前の幸せ No.3

〈俺の悲しみはお前の幸せ No.3〉

著者 七海 文〈ななみ あや〉


僕は、〈俺の子〉。

〈捌けた女〉と〈俺〉の間の子供。

〈捌けた女〉の腕の中にいた息子です。

僕は、お母さん、おじいちゃん、

おばあちゃんの4人で、

暮らしています。

僕達の暮らしている家は、

貧しくもなく、豊かすぎてもいない。

僕には、お父さんがいません。

僕から、お父さんを、

何が奪ったのだろうか。


僕は想像のなかで、

お父さんに会っています。

いろんな絵本の中や、

おともだちのお父さんの話を聞いて、

お父さんという存在が、

どういうものなのかを、

知ったり、聞いたりしています。


僕には、

お父さんがいないというのが、

僕は不思議です。


それが、これから、

先も、ずっと、僕の不思議さと、

なっていくんだと思います。


僕は、

この家の中で、

一番、苦手なのは、

おじいちゃんです。


いつも、僕を見る目が、

とても優しく、少し、怖いのです。


僕と話すことに、

迷いが見られるから、

怖いのです。


そして、すぐに、

忘れてしまってもいい話だけを、

語り掛けてきます。


時々、退屈だけど、

そんなおじいちゃんの話を、

聞くのは嫌いではない。


おばあちゃんは、

そんな、おじいちゃんとの、

ぎこちなさから、

助けてくれる人。


おばあちゃんは、

いつも、どんな事も、

笑い飛ばしてくれる、

明るい人だ。


きっと、お母さんも、

そんなおばあちゃんの事が、

とても、大好きだと思う。


僕のお母さんは、

一生懸命、

僕のそばに、

いようとしてくれています。


そして、いつも、

僕を抱き締めながら、

笑っていてくれている。

僕はお母さんの笑った顔が大好きだ。

いつも、笑っていて欲しいと思います。


ある日、やっぱり、

僕は、おともだちのお父さんが、

欲しくなってしまいました。


おともだちのお父さんは、

いつも、力持ちで、

大きな荷物も、

簡単に運んでしまいます。


お母さんも、

大きな荷物を運ぶけれど、

あんなに簡単そうではありません。


僕にもお父さんがいたら、

良いなと思うようになりました。


そして、僕は、

お父さんがいたら良いねと、

お母さんに言いました。


その言葉で、

お母さんの顔が、

固まってしまいました。


そして、大きな息を吐いた後、

僕に言いました。


あなたのお父さんは、

私の手の届かない、

遠い人になってしまったのよと、

言いました。


天国に行ってしまったということなのだろうか。

それとも、

遠い国の人なのだろうか。


僕には、さっぱり、わからない。


いつか、

僕のお父さんに会えるだろうか。


おともだちのお父さんみたいに、

力持ちな、お父さんなのだろうか。

僕のお父さんは、

どんな人なのだろうか。


そうやって、

僕のお父さん探しが、

僕の心の中で、

始まりました。


お母さんは、

お父さんがいたら良いねと、

言った時から、

元気が無くなったみたいです。


僕は、言っては、いけないことを、

言ってしまったのだろうか。


しかし、お母さんは、

そんな僕を、

怒ることはしてこなかった。


もう一度、お父さんのことを、

お母さんに聞いてみようと、

思っていたけれど、

元気になるまでは、

言わないでおこう。


僕のお父さんは、

僕の手も届かない、

遠い人なのだろうか。


いつか、

お父さんに、

会える日がくるかもしれないと、

僕は願っている。


僕から、

お父さんに、

会いに行けるには、

どうしたら、良いんだろう。


おばあちゃんに、

お父さんのことを、

聞いてみよう。


そして、僕は、

おばあちゃんに、

僕のお父さんは、

どこにいるのと聞いた。


おばあちゃんは、

悲しそうな顔で笑い、

おばあちゃんも、

知らない人なのよと言った。


おばあちゃんも、

知らないなら、

おじいちゃんも知らないだろう。


本当に、

どこにいるのだろうか。


そう言えば、

お母さんの友達が、

僕が誰かに似ていることを、

騒いでいた事があった。


あの人に聞いてみようか。


しかし、お母さんは、

その騒いだ友達のことが、

好きではないようだったから、

聞かないほうが良いだろう。


お母さんが、

男の人に会って、

爽やかに笑っていたことがあった。


しかし、男の人は、

少しも、笑っていなかった。


あの人が、

僕のお父さんなのではないだろうか。


僕は鏡の中の僕を見た。


やっぱり、あの男の人に、

僕は、少し、似ていた。


どこか、陰りのある目をした、

あの人が、僕のお父さんなのかな。


僕の目は、あんなに、

曇ってはいないよと、

僕は余計なことを思った。


何故なら、お母さんは、

僕の目は、吸い寄せられるような、

綺麗な目をしていると、

いつも、褒めてくれていた。


考えたいだけ、考えて、

僕の、心の中の、

お父さん探しは、休んでいた。


その事を、

忘れかけていた僕と、

お母さんは、

町の中を2人で歩いていた。


そして、

僕に似ていた、

あの男の人も、

町の中を歩いていた。


僕はお母さんの顔を見た。


少しだけ、固まっていたけど、

また、笑顔を取り戻していく。


あの男の人は、

お母さんに向かって、

歩いてきた。


そして、男の人は言った。

似ている……、

まさか、

俺の子じゃないよねと聞いてきた。


お母さんは、

この子は私だけの子供よと言った。

私だけのという所だけ、

お母さんは、厳しく強く言った。


あの男の人は、

お母さんを強く睨んでいた。

君は、本当に、自分勝手だよと、

言い放った。


お母さんは、負けずに、

あの男の人を、強く、

見つめ返していた。


あの男の人は、

見つめ返されたこと、

いや、睨み返されたことに、

怖じ気づいていた。


しかし、

お母さんは、

そんなことを、

責めようとはしなかった。

きっと、それも、

お母さんの優しさなのだろう。


そのお父さんらしき人は、

もう、諦めて、何も言わずに、

僕とお母さんの傍らを、

振り返ることなく、

通り過ぎていった。


お母さんは追いかけなかった。


あの男の人が、

やっぱり、

僕のお父さんなのではないだろうか。


想像の中のお父さんとは、

全く違っていた。


僕の想像の中のお父さんが、

綺麗すぎていたことを

思い知った。


あの男の人は、

あまりにも、

人間臭かった。


あんなに、

人間臭い人を、

お母さんは、

好きになったのだろうか。


どうして、

お母さんは、

お父さんと、

暮らそうとしなかったのだろうか。


お父さんは、

お母さんが、

嫌いなのだろうか。


お母さんは、

お父さんのこと、

今でも、

好きなのではないだろうか。


お父さんを見つけた時の目は、

あまりにも、

優しい目をしていたのだから。


しかし、お母さんも、

黙ったまま、すれ違うように、

通り過ぎた。


僕が、

お母さんだったら、

一緒に帰ろうと、

声を掛けていたはず。


自分勝手とは、

どういう意味なのだろうか。


僕には分からない。

僕には分からなくても、

良いのかもしれない。

僕には関係の無い話なのだろう。


それでも僕は知りたいのだ。


あの人が、

お父さんなら、

僕の事を、

本当は、

どう思っているのかを知りたい。


お母さんは、

いつだって、

僕を、

強く抱きしめてくれてはいるけれど、

答えるのが難しいことは

教えてくれない。


この難しいことで、

僕を、

悲しませてしまうかもしれないのが、

怖いのだろう。


僕は本当のことが知りたいだけ。


ねえ、お父さんは、

僕のことが嫌いかな。

いつか、お父さんに、聞いてみたいよ。


僕は思う。

お母さんのほうが、

お父さんの、

手の届かない遠い人に、

なってしまったのではないかと思う。


お父さんは、きっと、

お母さんは、

どこにも行かない人だと、

甘んじていたのではないだろうか。


そして、お母さんは、

僕の命を救うために、

お父さんにとって、

遠い人になるしかなかったのだろう。


そんなことが、

僕には見えてきた。


あのお父さんの陰りのある目から、

そんなことが、

僕に伝わってきたのだ。

その奥が、とても、

優しいことにも、

僕は気付いてしまった。


こんな事を、

考えてしまっている僕のことを、

お母さんは気付いていないだろう。


何も知らない、

純粋無垢な子供だと信じているだろう。


でも、僕は知っていた。

知らない振りをするのも、

優しさだということを、

僕は生まれた時から知っていた。


お父さんは、

お母さんに、

連れられて、

歩いていた僕の事を、

あの時、どんな思いで、

僕を見てくれていたのだろうか。

僕が生きていることを、

憎んでいてはほしくない。


僕とお父さんは、

一緒に暮らすことはないだろう。


お母さんの強がりが、

僕から、お父さんを、

奪ってしまっていたのだ。


それでも、僕は、お母さんを、

責めることはしないだろう。


僕はお母さんにとって、

なるべくは、

物分かりのいい子供でいたいのだ。


いつも、元気なお母さんが、

夜に限って、

一人で泣いているのを、

見たことがある。


僕が眠っていると、

信じ切っている時間に、

おじいちゃんに、

責められながら、

泣いているお母さんの横顔を、

見たことがある。


子供が聞いてはいけない話をしているという事だけが、わかっていた。


また、泣いているなと思うだけ、


だって、僕は、子供だし、

何も出来ない、無力な存在。


僕はそんなお母さんを、

知らない振りをしながら、

今日も、見守りながら、

そんな風に、暮らしているのです。


幸せかと聞かれたら、

そこまで、

悪くはないでしょうと、

答えるでしょう。


〈完〉


七海 文

〈ななみ あや〉



























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