ICU㉑|家族の時間
(ダメなのか…)
モニター上で、僅かに感知しているものの、「0」に向かっていく血圧…
受け入れざるを得ない現実。
宿していた意志や炎も完全に消え、呆然とその場に立ち尽くす私たち…
しかしながら、悲しい、辛い、苦しい… そういった感情は一切なかった。
「無」… 何も考えられなかったのだ。
“治療終了” を宣言した医療チームは、「お看取り」の準備に入る。
医療チームからも、
「最期に抱いてあげて下さい」
と促され、ベッドのそばに椅子も用意してもらい、夫婦で腰掛けながら準備を見守った。
アラートが鳴らぬようモニターの音は消され、周りの機材も下げられていき、息子についている無数の管も順番に外されていった。
「凰理くんよく頑張ったね~」
「今楽にしてあげるからね~」
「お母さんに抱っこしてもらうの嬉しいね~」
「久しぶりの抱っこだね^^」
小児科医は涙をぬぐいながら、息子に声をかけてくれていた…
いつもなら微笑ましいはずの光景…
だが、この時ばかりは微笑むことは出来なかった。
そんな中、数分ほどで準備も終わり、息子は人工呼吸器以外のほとんどが外された姿となった。
しかし、息づかいにも似た音が、管から微かに聞こえる…
自発的な呼吸かどうかはわからない… だが、夫婦共々、
“まだ生きている”
“まだ凰理はここにいる”
とはっきりと感じていた。
そして、看護師が息子を抱きかかえ、ベッドから妻の元へ…
「あったかい…」
抱いた瞬間、妻は小さな声でそう呟いた。
その姿を見届けて、医療チームは静かにベッドから捌ける…
そして、最期の時を家族と過ごす… 本当の「お看取り」の時間を迎えた。
妻は優しく息子を抱え、涙と笑顔が混ざった顔で話しかける…
「凰理、やっと抱っこだね~」
「ずっと頑張ってたね」
「お医者さんもみんな頑張ってくれて感謝だね」
「じいじもばあばも、おじもみんな来てくれたね~」
「みんな凰理のこと大好きだからね…」
辛い気持ちを押し殺し、息子に笑顔で話しかける妻は本当に偉大な母親だ。
妻が我が子を抱く姿ほど、温かく愛らしいものはない。
それだけに、涙ながらに息子を抱く妻を見て、私は崩壊した…
涙が止まらない…
失っていた全ての感情が蘇ってきてしまった。
妻と息子という “この世で最も愛する存在” …
2人のこんな姿を、夫として、父として、見たくなかった。
2人にはずっと笑っていてほしかった。
幸せでいてほしかった。
あまりにも無情過ぎる…
妻だけには、どうしても報われてほしかった…
あれだけの激動の日々を過ごし、自らの身体を危険に晒し、命懸けで産んだ「母親」なのだ。
“母親だけは、報われなければならない”
実際、そう言っても過言ではないだろう。
本当に、夫としてやるせなかった…
そして、私も最期の抱っこさせてもらうことに。
もう感情はぐちゃぐちゃだった…
「凰理…」
名を呼んだものの、嗚咽で言葉が詰まる…
「本当に… よく頑張ったな…」
振り絞って出てきた言葉は “労い” だった。
もはや原形をとどめてすらいない顔… 傷だらけの肉体…
(こんなになるまで…)
ボロボロの肉体は、改めて闘いの壮絶さを物語る。
本当に最期の最期まで、命を懸けて闘っていた息子は誇らしくもあった。
しかし、そんな姿をしていながらも、“まだここに息子がいる” ということを感じていた。
“温かさ” だけではない。
「魂」が、まだ息子の肉体に宿っている感じだった。
だが、残された時間はもう僅かだった…
息子には本当に「感謝」しかない。
「生まれてきてくれてありがとう…」
「俺を父親にしてくれてありがとう…」
涙で息子の顔も見えなくなりながら、最期の言葉をかけていく…
そして、私たち2人の抱っこが終わり、医療チームも “最期のつとめ” に入ろうとしていた。
「死亡宣告」である。
この宣告によって、本当に全てが終わる。
だが、それに対し、私はひとつだけお願いをした。
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