ICU㉕|星空の下で
少しして、私の携帯が鳴った。
相手は、ICUの看護師からであった。
(閉胸処置、終わったか…)
と思い、いざ電話に出てみると、想定外のことを尋ねられた。
「今日この後、凰理くんがご自宅に帰られる際に着る『お洋服』と『おくるみ』は持ってきていますか?」
この電話で、息子は私たちと一緒に自宅に帰るということに改めて気づく…
(あぁ… そうか、一緒に家帰るのか今日…)
考えてみれば当然だが、放心状態であった私には、そこまでの意識が向く余裕はなかったのだ。
しかしながら、
(持ってるわけないだろ…)
と、元々お看取り前提で病院に来ていない私は、一瞬頭に血が昇りそうになったが、病院は “親を呼んだ時点でお看取り” だということを思い出す。
(まぁ… そういうことだもんなぁ…)
(持ってくるのが “普通” なのか…)
と、少しばかり切ない気持ちになりつつ、持ってきていないことを伝える。
だが、病院では準備が出来かねるということだったため、急遽近くのイトーヨーカドーに私の両親と義母が買いに行ってくれることになった。
そして、その間は私たち夫婦と長弟の3人で待機することに。
時刻は20時30分を超え、院内はより一層、無機質で暗い空間へと移り変わっていく…
だが、悲しみの感情が蘇ってきている私にとって、この静けさは “気が狂いそう” になる…
それは妻も同じようで、
「無理だ、気が狂う。 ちょっと外出よう…」
と、荷物を弟に預け、夫婦で一旦、外の空気を吸うことにした。
奇しくも、この日は “綺麗な星空” だった。
だがそれも、今の私たちにとっては儚く映る…
湿気を含んだ生暖かい風が吹く中、私たちは病院の入口でひとしきり泣いた。
「私の可愛い凰理が…」
「なんでだよ…」
これまで無意識に抑え込んでいた感情が一気に溢れてくる…
しかしながら、夫婦共に、
“最期は、凰理自身が「旅立つ」ということを選んだ”
ということを、なんとなく感覚として持っていた。
きっと「魂」としては、最善の選択をしたのであろう…
息子が、己の意志で決断したこと… これは尊重するほかない。
だが、私たちは、“今この世を生きる人間” だ。
親として、ひとりの人間として、ただただ辛く悲しい。
本当に、底知れぬほどの “喪失感” だった。
「凰理、自分で選んだんだよな…」
「でも、わかってるけど、お父さんもお母さんも辛いんだよ…」
“旅立つ” という決断を息子にさせてしまったこともまた、胸が締め付けられる。
「お父さんとお母さんのことを考えてくれたのかな?」
「それとも一緒に暮らすの嫌だったのかな…?」
「ハンデがあることに負い目を感じたのかな…?」
私たちが親として不相応だったのかと投げかけたりもした…
「でもな… 親より先逝っちゃダメなんだよ…」
「凰理… それはお前… 親不孝者だよ…」
息子に対して、後にも先にもない “叱り” の言葉も放った。
怒りも、悲しみも… “心の叫びの全て” をぶつけずにはいられなかった。
「凰理… 戻ってきてよ…」
ずっと涙は止まらない。
そして、どれだけ泣こうが、気持ちが晴れることはなかった…
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