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掌編小説: サンタフル・ワールド



〈 ✨🎄サンタフル・ワールド 〉

 
 窓の外はもう、あの季節の光に満ちていた。
2025年12月20日。

 街の表面を覆う光は昨年と寸分違わず、画一的で冷たい光の粒子となって降り注ぐ。

 雪が舞い始め、街路樹の枝へ絡みつくように積もり、イルミネーションの赤と緑のLEDがその白いヴェールに反射して、巨大なクリスマスツリーの森のように輝いている。

 ショッピングモールのファサードは、巨大なサンタクロースのホログラムで飾られ、ヤツの笑顔が絶え間なく点滅し、通りすがりの人々のARグラスに「メリー・クリスマス!」のメッセージを投影する。

 カフェの窓辺にジンジャーブレッドマンのクッキーが並び、シナモンの甘い香りが外の無愛想な空気に混じって漂う。

 子供たちが雪だるまを積み上げ、その頭に赤いサンタ帽を被せ、スマホで撮影して即座に共有する姿が街のスピーカーから流れる「ジングルベル」のメロディに溶け込む。

 私の視界の隅、虹彩の裏に焼き付いたARのUIは、静かに点灯している。<共感係数:0.00>

 私はこの数値をゼロと呼ぶ。
周囲の人間はエール・スコアや共感度と呼ぶが、私にとっては外部情報との接続ノイズを示しているにすぎない。

 ゼロであることは接続が確立されていない、あるいは、私の思考が過剰な熱量を拒絶している状態。

 タバコに火をつける。メントール。
閑静な時間だけは、他者の騒音に侵されない。
  
 かつて私も、この光の中でほんの少しだけ温もりを感じたことがあった。
 日頃の淡々と聖書を読み上げる教会では、クリスマス・ミサだけ、牧師が配る蝋燭を片手にツリーの周りを、ゆっくりとした足取りで囲った。

 大袈裟なリボンと包装紙を破ったとき、値札のついた鉛筆と消しゴムが転がり出た。
そのとき初めて、プレゼントの光沢が他人の手間でできていることを知った。

 
 指先から立ち上る煙が、窓ガラスに曇りを生み、外のクリスマスマーケットの喧騒をぼやけさせる。

 キッチンカーでは、ホットチョコレートのスタンドが並び、マシュマロを浮かべたカップを手に、恋人たちが肩を寄せ合い、キャンドルの灯りに照らされた顔で笑い合う。

 街の中央広場は、巨大なクリスマスツリーが点灯式を終え、星型のトップライトがゆっくりと回転し、金色の光のシャワーを降らせている。
 ツリーの下で、合唱団が「きよしこの夜」を歌い、声が雪の粒子に絡まって柔らかく広がる。

 スマホの通知がデスクの上で小さな光を放った。クリスマスに因んだリリックを競う大会の通知に『愛』と『寄り添い』が共通テーマだと書いてある。
 このプラットフォームが、最も安全な感情の型を今年もまた選ぶ。

 それは街全体がサンタフル・ワールドという巨大なレコーディングスタジオになったかのような光景。

 誰もが赤いリボンでラッピングされたプレゼントを抱え、雪の積もった歩道を急ぎ、ショップのウィンドウに映る自分の姿を完璧なクリスマス・ファミリーとして撮影する。

 屋台からローストチェスナッツの香ばしい匂いが立ち上り、キャロルのBGMが絶え間なく流れ、トナカイの角付きヘッドバンドを着けた人々が互いのストーリーを「いいね」で交換する。

 誰もが決められた感情を、決められたビートに乗せて放出する。

 投稿が始まったばかりのクリエイターたちのリリックは、街のスピーカーから流れる山下達郎の均一なメロディと共鳴するように響き合う。

 雪の結晶が街灯に輝く中、彼らはクリスマスツリーの下でのキスや暖炉の前での家族の抱擁を、キャンドルの揺らめく光のように描写する。

 彼らは過去の恋や家族との温もりを、ときめきという強迫観念のもとに手渡す。

 雪化粧した公園はアイススケートリンクが開かれ、カップルたちが手をつないで滑り、転んで笑い合い、背景に流れる「ラスト・クリスマス」の歌詞を口ずさむ。

 知ってるか、それって失恋の歌だぜ。

 目に映る光景は、知性を排した思考停止資本主義の美しき具現化。
 主たる宗教観もないのに、なぜこうも必死に消費するのか。

 その滑稽さに、私はただ後ろへ下がり、観察者としての距離を取る。

 雪が積もり、クリスマスライトの反射で街全体が柔らかなピンクとブルーに染まる。サンタのソリを模したドローンが空を飛び、子供たちにキャンディを投下するイベントが始まる。

 私は過去の優勝者が綴ったリリックを読み進めるが、共感の扉は閉じたまま。

 以前は熱を持っていたであろう、彼らの感情の痕跡も、今はただの文字の羅列として目に映る。

 ミッテル・欧州風のクリスマスマーケットに木製のオーナメントが並び、グルーワインのスパイシーな香りが人々を包むが、私の心には届かない。

 優勝者へは遠い雪景色を眺めるように、祝福と労いの念が静かに湧き起これど、それだけ。

 出来事として受け取り、「まあ、こんな時もあるんじゃないの」と、コートの襟を立てて立ち去る。雪がコートの肩に積もり、溶けて冷淡な水滴となる。

 スマホに届いたリリックを読めば読むほど、私の共感係数はゼロに固定される。

 人との視点のズレは、夜空に浮かぶ孤独な星のように明確で。街の屋根は雪で白く覆われ、煙突から立ち上る煙がクリスマスの暖かさを演出するが、それはすべて表層の幻影。

 「これでは、なんらかの受賞は無理だな」とひっそり確信する。

 私は彼らの求める共感の温もりではなく、構造的な不条理にしか関心がない。

 外の広場では、カウントダウンイベントの予行で、花火がクリスマスツリーを背景に打ち上げられ、緑と赤の照明が雪を彩る。

 昨年の記憶が、冬の湿気のように蘇る。
私の作品は共感という名の雑音に適合しなかった。クリスマスイブの夜、街がキャンドルサービスで埋め尽くされる中、私の言葉はただの影として残った。

 アクセス数も人々の歓声も、私の作品だけを避けて、内輪の、閉じられた光の輪の中で交わされた。ツリーのオーナメントのように、均等に輝く投稿たちの中で。

 その不条理は私に怒りではなく、すべてを見透かした呆れに近い静寂をもたらした。

 街ゆく人は喧噪を一瞥し、スマホへ視線を落とす。それは、何を言っても敵に回すような状況とクリスマスという神聖な日を信じて裏切られた表情に思えた。

 今回、システムはバラードかR&Bの形式を要求している。

 私の観測記録は、彼らの求める愛というぬるま湯の中に、最も清閑な異音として混ざり込むだろう。雪の降る街で、誰もがギフトを交換する中、私の言葉はただの冷酷な風。

 窓ガラスに映る自分を見る。表情はない。
世界を観察するためだけに存在する機械のようだ。外では、雪だるまの行列が通りを練り歩き、クリスマスソングの合唱が響く。

 もし私がこの大会に作品を投じるのなら、それは選ばれないことの光栄を、静かな冬の光の下で証明するため。イルミネーションの海の中で、ただ一つの暗い影を。

 ペンを持つ。この記録こそが私の唯一の抵抗。書くのならそれは誰のためでもない、私自身の美学のための記録。

 不条理を観察する眼差しの奥には、雪の下でおとなしく息づく種のような、小さな願いや祈りがある。クリスマスライトの輝きがすべてを覆う中、それだけが本物。

 それは極彩色のサンタフル・ワールドの中で、ただ一つだけ真実の影を刻むことへの冷えた、孤高の願い。

 <共感係数:0.00> ノイズは続く。

 そしてゼロの世界での、静寂な記録もまた続く。雪が止むことなく、クリスマスの夜を白く染めてゆく。

・ ✨🔔 あとがき 🔔✨


 私ね、18歳の頃、第一志望の大学に落ちて。
偏差値66の学部だったのだけど、受かると自信があったわけさ。

 そのときの状況と心境を重ねてみました。

 創作と受験は違うかもしれない。
だけど、頑張った自負はあるのよ。
(リベンジ成功しました😤)

 この作品は創作大賞の発表があった夜に書き上げました。タイムラインにある哀しみを拾い上げ、わたしはエールを送りたい。
 
 傷ついた心にだけ、デストピアは見える。
やるせない気持ちを訴えていく場所がない。

 彼、彼女らはどんな想いなのだろう。

 
 Re:クリスマスの世界で、愛とエールを拒否し、沈黙の中、観測し続ける主人公への唯一の愛と寄り添いの記録として残したい。

インスパイアしたのは自作です

#花邑灯火さん
#灯火杯5th
#Re_クリスマス