ペールギュント殺人事件⑧
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警視庁から土居と椎名は新橋まで歩き、
ここに本社がある専務は取り巻きの一人。
氷室奏一は世界的に有名だが、この企業も世界的に名が知れている。世界的には世界的、類は友を呼ぶのかもしれない。
気が抜けるほどあっさり専務へ会えることになり、40代前半に見える専務の田中祐輔は50代と来たもんだ。
「警察の方々が何かと思えば氷室奏一さんのことでですか。私のところへですか?摂津さんが亡くなって私ですか? 彼、帰国していますけど、順番が違いませんか」
田中は笑みを浮かべていたが、アグレッシブな物言いだ。
一瞬、ムッとした表情の土居へ椎名はフォローし
「氷室さんとまだアポが取れてないんですよ。
田中さん、単刀直入にお伺いしますが、あなたは亡くなった摂津さんと氷室さんのご関係を知っていましたか?」
なんだよ、消えるような小声を吐いた田中は
「知っていますよ。私たちは氷室さんのスポンサー、パトロンですよ」
「摂津さんと氷室さんには何かトラブルがあったと調べが出ていますが、ご存知ですか?」
こういう時はコミニュケーション能力が高い椎名が流暢に受け答えするのが合っている。
「トラブル、ああ。摂津さんが臍を曲げて氷室さんを避けるようになったんです。理由は私にも分からないですね、他人のことは深く介入しないんで。
私より、ほら、ここから見えるマンション。
あそこの35階に渡辺健司って男が住んでいますので、渡辺くんが詳しいんじゃないですかね。
ここから歩いて10分くらいですよ」
田中が指差す先へは東京タワーが見えた。
「ほらほら、怖い顔は反社の皆さんへしなさいよ」
土居へ嗜めるように椎名は言う。
「さっきの男みたいなのは好きじゃない」
「分かった、
土居ちゃんの気持ちはよ〜く分かりました」
そんなやり取りは10分もかからないマンションで終わり、コンシェルジュへ渡辺健司が在中しているか確認した。
左を向けば海、右を見れば東京タワー。一面ガラス張りの35階は非日常で景色に見とれそうになる。
土居は、仕事じゃなければ写真に収めたかった。
渡辺健司はAI企業の社長。普段はマンションにおり、株をやっている。
小柄で細身の渡辺は人懐っこい、43歳。
「奏ちゃんのことで?摂津さんが亡くなったから、奏ちゃんが疑われたのかな。
アイツはまじでいいヤツっすね、中高の同級生なんっすよ、オレら」
「渡辺さん、氷室さんと摂津さんのトラブルをご存知ですか?」土居が謎の凄味を利かせる。
「奏ちゃんが振られたこと?」
「振られた?」土居と椎名の声がユニゾンした。
「刑事さんたち、ご存知ない?あっ!
じゃ、オレが言ったと言わないでくださいね」
土居はすかさず「氷室さんが振られたとは?」
「奏ちゃんがパリへ留学中に摂津さんの夫婦と知り合ったんですよ。死んだ綾子さんが奏ちゃんに一目惚れしたみたいで、押し活というか。
20年前かなぁ、ストラディバリウスを買い与えるほど熱を上げましてね」
「はぁ、ストラディバリウスですか」
「ここだけの話にしてもらえます?
奏ちゃんと綾子さん、男女関係になったんです。
母親より歳上の女に沼っちゃって、熟女すげ〜と思いましたよ。
だけど、オレらが40になった頃かなぁ?
綾子さんが奏ちゃんを振ったんです。奏ちゃんからじゃないんですよ『彼女の気持ちが分からない』とヤケ酒に付き合いました。
ところが去年、奏ちゃんから
『知りたくなかったことを知った』とかって、その頃は綾子さんの旦那さんが亡くなった時期なんですよね、何があったか分かりません」
女性誌にあるようなスキャンダルを聞くなんて。椎名は思ってもいなかった。
つづく
