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第十一話 上司への嫌がらせ?正当な批判?

大晦日と元旦は恒例として、元彼の日向と過ごしている。
日向と高校1年生から付き合い、同棲もしていた。
今は良きアドバイザーであり、親友だ。

私は中学から高専に進み、大学で二級建築士の資格を取得した。15歳から寮生活を送っており、実家に帰るつもりはない。

母は私を否定的に見ており、中学生時代のネットへの誹謗中傷にも私を庇ってくれなかった。

人を否定するような母に会いたくない。

『学校掲示板』へ有りもしない嘘を執拗に書き込まれたとき、母は私が悪いんじゃないかと娘の私を疑った。

高専へ合格したときは「不登校で家にいるのだから
高専に通るのは当たり前」
「近所の○○ちゃんは偏差値72のA高校へ合格し、
萌絵は家にいても偏差値67しかない」
建築士へ合格した折は「二級でしょ」

母は人を否定しないと生きていけないのかもしれないし、人の努力を努力と認められない。

中学時代に悩んで、思い切って母へ打ち明けたのを思い出した。

宿題を忘れて、先生から叱られた子が泣いていた。「大丈夫?」
声をかけたら、「立花さんはアタシを見て優越感に浸ってるんでしょ?」
ここから執拗なストーカー行為と誹謗中傷が開始された。

母へ聞いてほしかったのに私の話を途中で遮り、
相手の子には事情があると慮った。

どうせ萌絵のことだから、鈍感で萌絵が気づかないうちに相手の子を傷つけたに違いないと。

鈍感な娘を誰が産んだんでしょうね、お母さん。

「萌絵のためを思ってお母さんは言ってるの。
学校へ行きなさい」

たったネットに書き込まれたぐらいで学校へ登校しないのは甘え。学校に行きたくても行けない貧困の国の子どもたちへ悪いと思わないのかと言われた。

「萌絵のために言ってるのよ」と前置き。
それが後付けでも、論点がズレて話にならないので
聞く必要がないと思った。

母の体裁を繕うための自己満足や私が不登校になった罪悪感をかき消したいから「萌絵のために言っている」まやかしにしか思えなかった。

本当に私のためになるなら『萌絵のため』と言う必要がどこにあるのか。

中学生の私は学校にいる友達からLINEが来ても孤独で、家に居場所がなかった。

死のうと思い手首を切ったが、痛いだけで死ねず、
だから私は幸せな人がより幸せになれるように、ゼネコンやハウスメーカーや石材店へ就活し、
亡くなった人が最期へ帰る家。お墓を建立する仕事へ従事できたのは嬉しかった。


昼過ぎからうちのアパートに来た日向と近況報告をしながら、昼間からお酒を飲んで話し込む。

ゼネコンで働く日向は現場監督をしているせいか、学生時代より浅黒い肌で、服の上からも鍛えられている体躯が分かる。

「萌絵、元気ないね」

どうしたのかね〜、ヨシヨシとバックハグしてくれるのだが、新春5日から内野さんと事務所にカンヅメになると考えただけで気分が萎える。

「うん、元気が蒸発しちゃったの」
私の胸元にある日向の両手を掴み
「日向、どうすればいい?」
日向の顔を見上げる。

日向は私の手から自分の両手を抜くと、私の肩を揉みながら
「悩みがあるなら聞くよ、言ってごらん」

私は日向の方へ姿勢を変えて、膝の上に乗り
「仕事が出来ない人へパワハラは許される?」

日向は私の頰を両手で挟み
「まともな人が言うセリフじゃないよ」
「普通そうだよね」
「何があったか言って」

私は4月から社内で起こったことをなるべく冷静に
そして客観的に主観が入らないよう説明していく。
日向は頷きながら最後まで聞くと
「まずは、パワハラと現状を分けて考えよう」

日向は
「ハラスメントって嫌がらせやイジメだろう?
擁護できるものではないよ。犯罪じゃん。
萌絵の問いは
理由があればハラスメントしてもいいって、
そういうことじゃん。
○○だからという前提があるのが既にまともな考えから逸脱してるよ。
○○に『仕事が出来ない人』が入っても同じでしょ?
道を歩いていて、アイツは気に食わないって殴るのと同一の思考だよ。
ひょっとして、萌絵はパワハラされてる?」

「私はパワハラされてないよ。
さっきも話したように、山下さんが感情的になって声を荒らげてしまって。
私、内野さんの言動を見ているから同情しちゃったんだよ」

「山下さんの気持ちも分からなくはないよ。
仕事が出来ない人は本当に出来ない。
だけど適材適所にいないだけで、その人に合う仕事や部署はあると思うんだよね」

「日向。なんかね、ハラスメントを受けていたのって、山下さんじゃないかと思うのよ。
社会的問題になっているのは、上司や先輩が部下や後輩、いわゆる弱者へのハラスメントでしょう。
でも、このケースは部下が上司にハラスメントするって意味分かる?
部下なら上司の私的な時間に電話をして、愚痴や暴言や罵倒していいの?
質問を変えるね。
部下は上司へハラスメントしていいの?」

「立場を逆にしてもダメっしょ」

「私から見ると内野さんは仕事が出来ない人ではなく、仕事をする気がない人。
仕事が出来ない人は山下さんだったんじゃないか、
そう思うのよ」

「萌絵が思う、仕事が出来ない人って?」
「そうだなぁ」

頭へは、この数ヶ月間がショート動画のように
スクロールすると様々な場面が目に映る。
仕事が出来ない人、どんな人か。



なぜか、山下さんより内野さんが浮かぶ。

内野さんと誰かの会話を耳にして、引っ掛かりがあった。
内野さんは相手にマウントを取ることが対話だと勘違いしている。

相手を言い負かすことが目的化されて、論点から外れていき、建設的な話し合いになってないと感じた。

学生時代にも、こういう人がいて、
既存の在り方や新しい提案へ毎度水を差し、
悲観的な批難して、どうしたら良いかの提案を示さないシーンを見てきた。

既存の在り方は先行きが大まかに分かって、その通りにやれば失敗は少ないのに、やりたくないからか
否定的な意見を出して進捗を邪魔してくる。

そして、新しいことへも悲観的に捉えて最初から放棄し、やろうとしない。

やってもマニュアルや教えたことを無視して、独断でやってしまうから
「この人には任せられない」 
無意識に避けるようになっていく。

他にはなんだろう。

内野さん、パートさんへ言えることだが、
報告と連絡は聞こえてこないが相談はしてきた。

批難ばかりして自分で何も考えないだけではなく、私へ社長へ直訴してなど、人任せ。

愚痴や悪口ばかりで改善策を考えた結論や途中までの筋道がないので、話を聞いた私が問題点を一から解くことになり、解決に程遠くなる。

業務に関してもそう。
分からない漢字や読めない書類を相談しないと、勝手な判断からの失敗は巻き返しがマイナスになる。

分からないことをそのままにして、業務の遅延や間違えた結果を成果と、内野さんは見做していた。
……成果って会社への拘束時間を意味してない。

自分が作って自分が食べる料理なら誤魔化しが通用し、それはそれでよい。

しかしこれだけネット社会が発達し、作業工程のトレースを可視化された現代社会は厳しく、
結果により何かが起きれば問題を解決しやすいように細かく手順を分けておかなければならない。

やることをやらずに「暇〜」など抜かし、
仕事の目的、課題を見ない、考えない。
それ以前に仕事を覚えようとしない。

社内は別々の部署になっているが、全ては連動されており、仕事を覚えようとしない個人がいると全体の士気が低下する恐れもある。
ヤル気がある社員や優秀な社員は見切りをつけて退職する。

上司も人間。
自分と部下の至らなさでネガティヴになり、指揮系統の乱れから雰囲気の悪さが他へ伝播していく。

とても悲しいことに、注意すべき立場の役職たちが、内野さんの考査を正しく評価しないため、
社内全体へ不満分子が飛び散る結果が現れてしまい、役職以下の人材では対策が打てないまで悪化する。


もちろん、私はひよこ社会人。
偉そうな評論はできず、自己研鑽する日々だ。

やはり、こうして振り返ると、
ハラスメントとは称さないまでも、部下が上司へ嫌がらせに似た事象が横行しているのではないかと思ってしまう。