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【最終章:前編】勇者よ 何ゆえ もがき生きるのか?

こんばんは!まる。です。


創作小説『勇者よ 何ゆえ もがき生きるのか?』の最新話をお届けします。


いつも読んでくださる皆様、本当にありがとうございます!



さて、いよいよ時は8月6日の深夜から、運命の日・8月7日の夜へ。
世界を救うための最終決戦(前編)の開幕です!



「世界を救う」といっても、彼らは剣も魔法も使いません。
押し寄せる大量のアクセスまもののむれ
次々と発生するバグを、たった二人のプログラマーが泥臭く、
しかし圧倒的な技術力でさばき続けていく、電脳世界での防衛戦です。


(現実の開発や運用でも似たような修羅場があったりなかったり……😏)



無謀で、非効率で、でも「誰かを笑顔にしたい」という想いだけでキーボードを叩き続ける創助。


そして極限状態の中、彼のもとに届く一通のダイレクトメッセージの差出人は――。


クリエイターとしての一つの答えを込めた、
最高に熱い「最終決戦・前編」を、ぜひ最後まで見届けてください!


▼前回の話はこちら!



#11 永遠と絆のRPG

ーーー8/6 深夜23:00。

遮光カーテンを引いた部屋には、ノートパソコンのファンの音。
そして、秒針を刻む時計の音だけが静かに響いていた。



「……以上が、俺の導き出した『世界を救う唯一の方法』だ。
レビィ、何か聞きたい事はあるか?」



明日の作戦について一通りの説明を終え、
創助はモニターから視線を外した。


振り返った先にいるシューメーカー・レビィは、いつものように優しく微笑んでいた。



『……いいえ、特にありません。
勇者。よくぞ今日まで、精一杯戦い抜いてくださいましたね』



レビィの輪郭は、あの日の夜のようにノイズが走り、
ところどころが透明に透けて消えかかっていた。


世界を救う日まで、あと一時間。


それすなわち、創助が十八歳を迎え、
彼女の姿を永遠に失うまでのタイムリミットだ。
別れの時は、もう手の届くところまで迫っていた。



創助は、今日という日までずっと考えていた。
一度は空っぽになった自分に、再び創作の熱と楽しさを教えてくれた恩人。
この世界でただ一人の、大切な『相棒』にかける最後の言葉を。




「……なぁ、レビィ」




創助は椅子から立ち上がり、消えかかっている赤い髪の精霊と真っ直ぐに向き合った。




「初めてお前に会った時、俺は『お前との会話は無駄な負荷オーバーヘッドだ』って言ったよな」

『はい。私はその言葉の意味が分からなくて、魔法使い様に教わりました』





「……ああ。でも、俺は間違ってた。
効率ばかり追い求めて、最適解に逃げて……
その結果、俺の作ったアプリからは…その、『勇者の心』ってやつが抜け落ちてたんだ」



創助は、机の上に置かれた自分のスマートフォン――かつて気まぐれに作り、放置していたあの「ビールを注ぐアプリ」が入った端末にそっと触れた。



「非効率で、無謀で。
でも……お前と一緒にアプリを組んでたこの数日間は、俺の人生で一番、最高に楽しかった」



レビィの赤い瞳が、ほんの少しだけ見開かれる。
創助は小さく息を吸い込み、決して目を逸らさずに言葉を紡いだ。




「お前は俺を勇者って呼ぶけど、俺を勇者にしてくれたのは、他の誰でもない……お前だ。

俺の、たった一人の大切な相棒だ。

だから……たとえ明日、俺の目からお前が消えて、姿が見えなくなったとしても。
俺がコードを書き続ける限り、俺が作ったすべてのアプリの中で、お前を見続ける」



創助は、ほんの少しだけ震える声で、それでもはっきりと告げた。




「……ありがとう、レビィ。俺の隣に降りてきてくれて」







※本楽曲はSunoAIを使って作成しております。

ジッ、と細かな電子音が鳴り、レビィの身体が深いノイズに塗れて透き通っていく。
だが、その表情はこれ以上ないほどに美しく、幸福な笑顔だった。




『私も……あなたという勇者……いえ、『創助』に出会えて、本当に良かったですよ』




二人の間に、もう言葉はいらなかった。
時計の針が、ゆっくりと、しかし確実に、明日という運命の日へ向かって進んでいく。



創助は再び椅子に座ると、『湯間ガーデンタウン』を起動し、
レビィのログデータを確認した。



……大丈夫だ。 レビィは確かに、『ここにいる』。



触れられないかもしれない。声が聞こえないかもしれない。
でも、この液晶の向こうで、電子の海を通じて、創助とレビィは確かに繋がっていた。




『……創助。最後に一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?』

「……なんだ?」




創助はモニターに向かい、PCのキーボードを叩きながら背中越しに答える。




『創助は……その、なぜ今回の作戦で、世界を救おうと思ったのですか?』




背中越しに、レビィの柔らかな視線を感じる。
きっと、真珠のように大きな赤い瞳で、いつものようにきょとんと首を傾げて尋ねているのだろう。





「なんだ、そんなことか」





創助は、少しおかしくなってふっと息を漏らした。
そして、カタカタとキーボードを叩く音に重ねて、静かに口を開く。






「――『トム・ソーヤ効果』って知ってるか?
罰としてやらされた退屈なペンキ塗りを、『限られた人間だけが楽しめる最高の遊び』に偽装して、まんまと他人にやらせたって話だ」



それは、すべてを諦めかけていたあの夏の日、親友に向けて零した自嘲の言葉だった。
けれど今の創助の声には、確かな熱と、クリエイターとしての揺るぎない誇りが宿っている。




「……どんなに完璧で無駄のないシステムを組んだところで、
人間は『やれ』と強制されたら絶対に動かない。
だけど、そこに最高の『ワクワク』があれば、人は喜んで奇跡だって起こす。
世界を救うのは、義務や効率じゃない。いつだってそれを楽しむなんだ。
……なぁ、そうだろう? レビィ」












背後からは、もう返事はなかった。



カチリ。 部屋の中に響き続けていた秒針の音が、十二時の位置で重なる。 八月七日、午前零時。
世界が滅びる日であり――創助が、十八歳を迎えた瞬間。



創助は、振り返らなかった。
ただ、モニターの青白い光に照らされながら、俯き、静かに泣いた。


#12 星をみるひと

閑静な住宅街にある公園。
ジリジリと肌を焼く真夏の日差しにも負けず、子供たちが汗だくになって駆けまわっている。


そんな喧騒から少し離れた木陰のベンチに、大人しい雰囲気の男の子が一人で座っていた。
彼は膝を寄せ、一心不乱にスマートフォンの画面を操作している。



「なぁ、何やってんだ?」




泥だらけになった活発な男の子が、不思議そうに覗き込んで話しかけた。
大人しい男の子は、少しおどおどした様子で画面を見せながら答える。



「えっと……『湯間ガーデンタウン』っていうアプリで遊んでいるんだよ」




『湯間ガーデンタウン』。
それは三日前の夜、文字通り彗星のようにネットの海へ現れ、
瞬く間に世界中へ拡散された謎のアプリだ。


制作者は不明。


全世界規模の同時接続が起きても、ただの一度もサーバーが落ちることなく動き続ける、異常なほど堅牢な巨大プラットフォーム。



だが、その中身は驚くほど「くだらない遊び」で溢れていた。


『ビールを黄金比で上手く注ぐだけのゲーム』
『コーラ作りにすごろくの要素を足した謎のゲーム』
『焼き鳥をただ美味しそうに焼くゲーム』――。



効率や利便性とは無縁の、一見無駄とも思える手作りのミニゲームたちが、広大な仮想空間のあちこちに散りばめられているのだ。


そして何より、世界中の少年少女を熱狂させている目玉の機能があった。


それは、自分の相棒である星の精霊アルカステラと一緒にその世界を冒険し、共に他愛のないミニゲームで遊べるという機能だ。


本来、アルカステラは現実世界では実体を持たない精霊であるため、直接触れ合うことはできない。
だが、この魔法の箱の中の世界アプリでは、彼女たちと確かに触れ合うことができるのだ。




それは、世界中のステラバトラーたちがずっと心に描き続けていた、ひとつの夢の景色だった。

あらかたアプリの内容と面白さを伝え終わると、活発な少年は目をキラキラと輝かせた。




「マジで!? なにそれ、そんな神ゲーがあるの!? だったら、オレも遊んでみたいぜ!」

「う、うん……。あと、今夜アプリの中で『特別なイベント』があるらしいから、始めるなら今のタイミングが一番良いかも……?」

「マジか! なら、みんなでやらないとな! おーい、みんなー! めっちゃ面白いの見つけたぞ!!! 一緒に遊ぼうぜ!!!!」




少年のよく通る声が、青空に向かって響き渡る。
わあっと歓声を上げて、スマートフォンを取り出しながら集まってくる子供たち。


夏の昼下がりの公園には、けたたましい蝉時雨せみしぐれ

――今夜自分たちが世界を救うことになるとは欠片も知らない子供たちの、無邪気な笑い声だけが心地よく響いていた。


#13 パワーをメテオに

🎵アルカステラ・サガ〜100日後に滅びる世界と12の勇者たち〜 最終決戦BGM

※本楽曲はSunoAIを使用して作成しています。

――8月7日 夜 19:50。

創助の部屋に、須野尾と京が集結していた。


20:00から21:00にかけて開催される、
『湯間ガーデンタウン』内での特大イベントの運営。
それが、彼らにとっての「世界を救うための最終決戦」だ。




「……それじゃ、手はず通りに始めるぞ。やることは共有した通りだ」




創助が告げると、須野尾がいつもの気だるげな様子で、しかしどこかワクワクした面持ちで応じた。



「ああ。俺はバックエンド……DBの監視と、セキュリティ周りの防衛だな」

「そうだ。『湯間ガーデンタウン』は今や一億DL間近の巨大プラットフォームになった。
……いきなりそんなバズったアプリが、一斉参加型の特大イベントをやるとなったらどうなると思う?」

「面白がって、世界中のクラッカーどもがちょっかい出してくるかもな」



須野尾は首をコキリと鳴らし、ニヤリと悪戯っぽく笑った。



「いいねぇ。俺とお前、二人だけのサーバー防衛戦最終決戦って訳だ」

「俺はクライアント側の挙動監視と、
リアルタイムのQA(バグ修正)をやる。
落ちたら終わりだ、絶対に持ちこたえるぞ」




二人のプログラマーは、互いの顔を見合って力強く頷いた。



「えっと……あたしはSNSでの拡散だよね?」




京が、床にずらりと並べた二十台近いスマートフォンを見下ろして言った。

無理を言って家族や友達、知り合いに頭を下げ、この夜のためだけに一時的に借り集めてきたものだ。



「そうだ。エーテルは多いに越したことがない。
イベント中、このアプリの宣伝を複垢を使って常に拡散し続けてくれ。
……やれるか?」



京は、呆れたように肩をすくめる。





「……アニキの無茶ぶりは今に始まった事じゃないしね。
やるわよ。念のため、スパムの判定を受けてシャドウバンされないように、
間隔を空けて連投は避けてポストしていくよ」

「頼んだ。あと、もしSNS上で不具合報告や、進行に関する気になるコメントを見つけたら、すぐ俺に投げてくれ」




創助は、三枚のモニターを立ち上げ、ターミナルと監視ツール、そして開発環境を同時に展開する。
四畳半の狭い部屋の中を、PCの排熱ファンが回る重低音が満たし始めていた。




「しかし、世界の命運を賭ける舞台にしちゃ、ずいぶんと質素な場所だよな」




須野尾が、キーボードに指を置きながら冗談めかして言った。
創助は、『世界の命運』という言葉にピクリと反応する。






(……不思議と、不安はないな)




創助は、胸の上にそっと手を当てた。 かつての自分なら、重圧で押し潰されていたかもしれない。
けれど今は、胸の奥底からとめどない『勇気』が湧いてくる。




(レビィ。……見ててくれよ。お前が俺にくれた勇気で、俺は世界を救ってみせる)





19:59。 時計の秒針が、残酷なほど正確に時を刻んでいく。
世界の夜空の果てで、破滅の彗星がその赤い尾を引いて地球へと迫っているはずだ。


だが、この部屋にいる三人の視線は、上空ではなく目の前の液晶画面へと真っ直ぐに注がれていた。




「……スタンバイ」




創助の低く、静かな声が響く。





「イベント開始まで、あと十秒」





京が、二十台のスマホの画面を一斉に操作し、
投稿ボタンの上に指を構えた。
須野尾が、鋭い目でターミナルを睨みつける。







「五、四、三、二、一――」







創助は、世界を救うための魔法の引き金――エンターキーを、力強く叩き込んだ。







「――イベント、開始ローンチだッ!!」



#14 まもののむれ が あらわれた!

最初に異変に気づいたのは、バックエンドの監視を任されていた須野尾だった。


彼の目の前にあるモニターで、トラフィックの波形が異常な角度で天を突く。





「……おいおい。アクセス数、開始一秒で六十億?」





須野尾は、画面の数値を眺めながら乾いた笑いを漏らした。
隣でUIの挙動を監視している創助が、わずかに眉をひそめる。




「サーバー、落ちるか?」

「人類の総人口が同時にログインボタンを押したってならともかく、どう見ても偽装トラフィックだ。

中国、ロシア、それに南米……十中八九、面白半分でちょっかいを出してきた、世界中のクラッカーどものボットネットだな。
全く、暇な連中だぜ」



焦る様子もなく、須野尾はコーヒーを一口すすると、キーボードに指を這わせた。





その瞬間、彼の目つきが、気だるげな高校生のものから、
冷徹なシステム管理者のそれへと切り替わる。




「さあて、準備運動といこうか」



タタタタタタタタタタ……ッ!!




須野尾の指先が、流れるような速度でコマンドを打ち込んでいく。



▶しらべる



「世界中から一斉に飛んでくる異常なPing要求に、ボット特有のヘッダー偽装。
……雑だなぁ。
こんな単調なSYNフラッド攻撃で、俺の組んだインフラが落ちると思ってるのか?」




画面上に赤いアラートが次々と点滅するが、
須野尾は瞬き一つせず、迫り来る魔物パケットの群れを冷静に切り伏せていく。





「怪しいIP帯域は、AWSのWAF(ファイアウォール)で自動ブロック。
悪意のあるトラフィックは全部CDNのエッジサーバーで弾き落として、
正規のユーザーデータだけを裏のDBに流し込む。
……ほらよ、ルーティング完了だ」





▼ まほうつかい は じゅもん『ファイアウォール』を となえた!!!
まもののむれ に とくだいダメージ !!!

ものの数十秒。
天を突いていた異常なアクセスの波形が、須野尾の放ったカウンター(防御設定)によって、スッと綺麗な放物線へと落ち着きを取り戻す。




「よし、ゴミ掃除は終わりだ。正規のトラフィックは現在三千万。
……まだまだスケーリングには余裕があるぜ」

「助かる。……だが、気を抜くなよ。クライアント側のUI(フロント)の方にも、変な挙動がいくつか出始めてる」




創助の言葉に、須野尾はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。





「当然だろ。世界規模のレイドバトルなんだ、
この程度の雑魚戦クラックはまだまだ序の口だぜ」




四畳半の部屋で、二人のプログラマーの戦いは熱を帯びていく。
仮想空間アプリの中で、世界中の少年少女たちが星の精霊アルカステラと共に楽しげに遊んでいる。
――その美しい庭を守るための、泥臭くも圧倒的な防衛戦が幕を開けた。


#15 やみのころもを はぎとった!

「……おかしい。DL数に対して、アクティブユーザーの伸びが想定を大きく下回っている」


創助は、モニターに表示されたリアルタイムのグラフを見つめて眉をひそめた。



「多分、アンチコメントの影響ね」




床に並べた二十台のスマホを操作しながら、京が忌々しそうに舌打ちをする。



『なんか裏がある』とか『ウイルス入りじゃないか』とか、適当なデマを流してる連中がいるの。
それに便乗した荒らしが、イベント用のハッシュタグをグロ画像や暴言で埋め尽くしてる。
……これじゃあ、様子見してる一般のユーザーは怖くてログインできないわ」



悪意の連鎖が作り出した、分厚くどす黒い空気。
それが『湯間ガーデンタウン』という新しい遊び場を覆い隠し、無垢な子供たちの足を遠ざけていた。




「……須野尾、DB側からそいつらのアカウントを弾けるか?」
「アプリ内ならIPごとBANできるが、外部のSNSとなると俺の管轄外だ。手が出せねぇ」



苛立ちを隠せない創助と須野尾。 だが、その時。



「……アニキたちは、アプリの中を守ることに集中して」




京の声は、剣道の試合で面を打つ直前のような、鋭く冷ややかな熱を帯びていた。




外の連中外野は、あたしが引き受ける」




タタタタタタタッ! 京の指先が、ピアノの鍵盤を弾くように二十台のスマホの画面を滑っていく。




▶ とくぎ:かばう




「荒らしに直接反論しても、アルゴリズムに乗って向こうのインプレッションを稼がせるだけ。
だから、真っ向勝負はしない」




京の目が、恐ろしいほどの集中力で画面のタイムラインを追う。
彼女が探しているのは、ノイズに埋もれかけている、純粋にアプリを楽しんでいる子供たちの「本物の声」
――エーテルを帯びた輝くようなポストだ。



▶ とくぎ:はやぶさぎり



「本気で楽しんでるポジティブに、複垢を使って一斉に『いいね』と『リポスト』を集中投下する。

トレンドのアルゴリズムを利用して、悪意のあるノイズを、純粋な熱量で物理的に押し流す……!」



彼女が放った無数の「いいね」が起爆剤となり、
本物のプレイヤーたちの楽しげなスクショや動画が一気に拡散され始める。


それはまるで、分厚い暗雲を内側から食い破る光のようだった。
荒らしの投稿はまたたく間に勢いを失い、タイムラインの下層へと追いやられていく。




嘘の悪意が、本当の笑顔の力によって浄化されていく瞬間だった。




▼ せんし は タイムライン に ひかり を もたらした!!!
やみのころも を はぎとった !!!




「よし……トレンドのトップ、完全に正常化した!
ハッシュタグの関連ポストも、遊び方の共有とスクショで埋まったよ!」

「マジかよ、あの数のネガキャンを人力で押し返したのか……?」



須野尾が目を丸くして感嘆の声を漏らす。



「ふん。剣道部の動体視力と精神力、舐めないでよね」

額に滲んだ汗を手の甲で拭いながら、京は誇らしげにふんす、と胸を張った。



「……助かった、京。アクティブユーザーの数値、再上昇リバウンドし始めたぞ」




創助のモニターの中で、停滞していたアクセス数のグラフが再び力強く上を向き始める。
外堀の脅威は、戦士の機転によって完全に払拭された。


#16 ゆうしゃ

タタタタタタタタタタ……ッ!!



排熱ファンが悲鳴を上げる四畳半の部屋で、キーボードを叩く凄まじい打鍵音だけが響き渡っている。


創助はたった一人で、滝のように流れ込んでくる大量のQA(ユーザーからの問い合わせ)と、未知のバグに対応し続けていた。



「アイテム増殖バグの報告!
トランザクション処理に割り込みをかけて、
状態ステートをロールバックさせる……!」



▼ ゆうしゃ は じゅもん『ベホマ』を となえた!!!
ユーザーの もんだい は かいけつした!



「次はUIの重なりエラーと、非同期処理のデッドロックか……!
依存関係のコードごと、まとめてメモリから消し飛ばす!」



▼ ゆうしゃ は とくぎ『ギガスラッシュ』を はなった!!!
バグA を たおした! バグB を たおした! バグC を たおした!




額から大粒の汗がにじみ落ち、視界がかすむ。
脳はとうにオーバーヒートを起こし、腕は痙攣する一歩手前。
既に体力も集中力も限界を超えていた。



だが、キーボードを叩く手だけは、決して止めなかった。




「……大変そうだな。少し手伝おうか?」



後ろから、須野尾がモニターから一切目を離さずに声をかけてきた。
だが、その声音には、いつもの彼らしい気だるげな余裕は欠片も残っていない。
須野尾の額にもまた、べっとりと汗が張り付いていた。




「……いや。お前はクラッカーの相手に集中しろ」




創助は、充血した目でコードの羅列を睨みつけたまま答えた。




「俺の手が止まってUIが崩れても、最悪再起動リロードで持ち直せる。

だが、お前バックエンドが抜かれたら、
エーテルは全部霧散して……一巻の終わりだ」





「……違いねぇ。了解だ、勇者様。
自分の正面フロントくらい、自力で守り抜けよ」



須野尾はふっと息を吐き、再び苛烈なサイバー攻撃の迎撃へと没入していく。

互いに死力を尽くし、互いの背中を完全に預け合う。
それが、彼らなりのスマートな連携だった。



「アニキ! イベント終了時刻の21:00まで、あと五分だよ!」



京が、二十台のスマートフォンを操作しながら叫んだ。
その声は、かつてないほどの興奮で上ずっていた。



「参加ユーザー数、8,000万人を突破!
ハッシュタグも世界トレンドぶっちぎりの1位!
アプリ内の『願い』のゲージが……もう、とんでもない勢いで跳ね上がってる!」

「……ああ。俺のモニターからも見えてる」



創助は、息を荒げながら画面の片隅に表示されたパラメーターを見つめた。
ユーザーの関心度エンゲージメントを数値化した、エーテルの集積ゲージ。


それが今、システムが許容できる限界値カンストに向かって異常な速度で膨張している。



――その時だった。





ピロンッ。




異常なトラフィックの波を縫うようにして、
創助の管理者アカウントに一通のダイレクトメッセージが届く。




表示された差出人の名前に、創助は息を呑んだ。



ーーー『ロマン・ウェッブ』博士。
トレーディングカードゲーム『HorizonNotes』の生みの親にして、
すべての星の精霊アルカステラを創造した天才科学者だ。





「『HorizonNotes』の開発者!? なんでそんな大物が、お前のDMに……ッ」




異変に気付いた須野尾が、驚愕の声を上げる。
創助は、そのメッセージを見つめたまま、静かにキーボードから手を離した。




「……少し、湯間ガーデンタウンのプライベートサーバーの方を使わせてもらう」

「創助……?」

「須野尾、悪いが引き続き表のサーバーの防衛を見ていてくれ。京は、イベント終了の告知とタイムラインの維持を頼む」





創助は、限界まで共に戦い抜いてくれた二人の仲間に向かって、深く頭を下げた。




「ここまで、俺について来てくれて……本当にありがとう」




それは、現実世界リアルの防衛線を二人に託し、勇者が最後のダンジョンへと一人足を踏み入れるための別れの言葉だった。











世界を救うための本当の、そして最後の戦いが、今静かに始まろうとしていた。


▼さいごの たたかい




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