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後編【キャラ紹介ストーリー】届け、『共鳴』のメロディ!少女が「大好き」を叫んだ日。【結城 推華(ゆうき すいか)&カリスト】

こんばんは!「まる。」です。
こちらの記事は、前回のキャラクター紹介ストーリーの後編(完結編)となります。

まだ前編をお読みでない方は、ぜひこちらからチェックしてみてくださいね!

▼前編【キャラ紹介ストーリー】届け、『共鳴』のメロディ!少女が「大好き」を叫んだ日。【結城 推華(ゆうき すいか)&カリスト】

さて、後編はいよいよバトル開始です!
自作TCG『HorizonNotes』の対戦ルールを深く掘り下げた、最高に熱くマニアックな攻防を描き切りました。
(まだ、開発中の段階なので今後カードの内容が変わることもあるかもです。)

カードゲームに詳しくない方にとっては、少し専門的な用語も出てきますが、そこは「格闘シーンの臨場感」のように雰囲気と熱量で楽しんでいただければ幸いです!

カードゲーム初心者の推華と、相棒のカリスト。
果たして二人は最強のカードゲーマーに勝つことが出来るのか?
最後まで見届けてください。



第六章:決戦!私だけの戦術(セットリスト)

フリーBGM「情動カタルシス」/作(編)曲 : まんぼう二等兵
• DOVA-SYNDROME公式 作曲者 まんぼう二等兵

そして迎えた、運命の週末。
あの日、カリストと初めて出会った駅前のカードショップとは、何もかもが違っていた。

会場は、街で一番大きなイベントアリーナ。
そこは、休日を楽しむ一般客の喧騒とは無縁の、鋭く研ぎ澄まされた熱気が渦巻く「戦場」だった。

「うわぁ……広い、ね。人、何人いるんだろ……」

見上げるほど高い天井。
フロアを埋め尽くす数百卓の対戦デスク。
ARプロジェクターが放つ青白い光が天井を走り、スピーカーからは絶え間なく運営のアナウンスが流れている。

今回の大会は、『HorizonNotes』の公式大会――CS(チャンピオンシップ)
各地で開催されるこの「CS」や、さらに大規模な「GP(グランプリ)」で優秀な成績を収めた者だけが、世界一を決める最高峰の舞台「WCS(ワールド・チャンピオンシップ)」への出場権を手にすることができる。

つまり、ここにいるのは「ただの遊び」で来ている人たちではない。
人生を賭けて世界を目指す、本物のステラバトラーたちが集う場所なのだ。

(……つい勢いで言っちゃったけど、まさかこんなに大きな大会だったなんて。
会場がアイドルとかが使うアリーナだった時点で嫌な予感はしていたんだけど。
……本気で、帰りたい。)

「推華、あんた本当にこの大会に出るの……?
相手、一ノ瀬くんなんでしょ? そもそも、素人のあんたがいきなりこんな所にエントリーしちゃって大丈夫なの?」

後ろについてきた友人たちが、不安そうに私の袖を引っ張る。 無理もない。
周囲を見渡せば、真剣な眼差しでデッキをシャッフルする同年代の少年少女ばかり。

……あ、あの人、テレビやネットで見たことある有名プレイヤーだ。
あっちの人は、自分と年が変わらないのにスーツを着たスポンサーみたいな大人と難しい顔で話してる。

私と同じくらいの年齢なのに、彼らが背負っているものの重さが、肌を刺すようなプレッシャーとなって伝わってくる。

(…みんな、真剣なんだ。)

限りある時間の中で、自分の「好き」に命を懸けて向き合って、打ち込んでいる。

それなのに、昨日まで「村人A」として空っぽの毎日を過ごしてきた私なんかが、この場所に、彼らの領域に立っていいんだろうか。

私のような「普通の女子高生」は、どう見てもここでは異物でしかなかった。

(心臓が、バクバクとうるさいくらいに鳴ってる……)

手が微かに震え、指先が冷たくなっていくのが分かった。

逃げ出したい。怖い。
いつもの私なら、適当な理由をつけて絶対にこんな場所には来なかった。

自分には関係のない、遠い世界の出来事だと思って、愛想笑いでやり過ごしていただろう。

だけど、私のカバンの中では。
小さなカードが、確かな熱を持って私の心臓をノックしてくれていた。

『お姉ちゃん、大丈夫! わたしがついてるよ!』

カリストの声が聞こえた気がして、私は深く深呼吸をした。

肺いっぱいにアリーナの熱気を吸い込み、冷たくなった両頬をパチンと叩く。

…あれだけ練習したんだ。
大丈夫。

私の「推し」は価値があるんだってことを、
一ノ瀬くんに証明するために、ここまで頑張ってきたんだから。

やがて、会場の巨大モニターに第一回戦の対戦表が映し出された。

名前が並んだその瞬間、アリーナの空気が一気に変わった。

私はデッキをぎゅっと握りしめ、光り輝くメインステージへと歩き出した。

【 第1テーブル: 結城 推華 VS 一ノ瀬 悠 】

……まさかの、初戦。
運命の悪戯か、それともシステムが空気を読んだのか。
私の最初の相手は、目標である一ノ瀬くんその人だった。

「……来たね。」

第1テーブル。
すでに席についていた一ノ瀬くんが、静かに私を見据えていた。

その目は、いつもの教室で見せる涼しげなものではなく、
純粋な「カードゲーマー」としての鋭い光を放っている。

「本当に逃げずに来るとは思わなかったよ。
でも、言ったはずだ。
手加減は一切しないって。」

「……望むところだよ」

私は震える足を必死に前に出し、彼と向かい合う席に座った。
カバンから、一晩中カリストと一緒に考え抜いたデッキを取り出す。

「お互いのデッキをシャッフル。
そして、3人のアルカステラをフィールドに配置。」

一ノ瀬くんの淡々とした声に合わせて、お互いにカードを裏向きに伏せていく。

最新のARデバイスが組み込まれた対戦テーブルが、カードのIDを読み込み、青白い光と共に仮想のバトルフィールドをテーブルの上に展開し始めた。

「オレのリーダーは、当然『ヘリオス』だ。」

一ノ瀬くんがカードを表に返すと、テーブルの上に紅蓮の炎が巻き起こり、その中から凛々しい精霊の姿が浮かび上がった。

「私のリーダーは……『カリスト』!」

私も負けじと、中央のカードを表に返す。
淡い光の粒子が舞い散り、ヘリオスとは対照的な、手のひらサイズの小さなアイドルの妖精がふわりとフィールドに降り立った。

「……ふーん。
やっぱり、そのカードを外さなかったんだ。
無駄な愛着は身を滅ぼすだけなのに。」

「無駄じゃない。カリストは、私が輝かせる!」

ARの光に照らされたカリストが、私の方を振り向いて、ニコッと最高の笑顔を見せてくれた。

…大丈夫。
特訓の成果を信じれば、絶対に勝機はある。

「先行はオレだ。
……ルール通り、デッキからカードを5枚ドロー。」

一ノ瀬くんが山札から流れるような手つきでカードを5枚引き、手札に加える。
私もそれに倣って、後攻のボーナスである『2エーテル』を受け取り、初期手札の5枚をゆっくりと引いた。

「「ーーーバトル!!!」」


1ターン目 チャージフェイズ【一ノ瀬のターン】

「オレのターン。
…メインフェイズに入る前に、まずは『チャージフェイズ』だ。」

一ノ瀬くんの言葉と共に、ARフィールドのシステム音が短く鳴る。
私は猛特訓を思い出しながら、小さく息を吐いた。

(チャージフェイズ。
お互いに手札のカードを選んで『エーテルエリア』に送ることで、
スキルやカードを使うためのコスト…『エーテル』を生み出す重要なフェイズ。)

ここでどれだけエーテルを準備できるかが、このターンの行動回数に直結する。
一ノ瀬くんは初期手札の5枚から迷いなく一枚を引き抜き、ARフィールドの手元――エーテルエリアへと滑らせた。

「オレはコスト2のスペルカード、
『楽園の女神』をエーテル変換。
これで2エーテルを獲得する。」

フィールド上に、美しい女神のホログラムが一瞬だけ浮かび上がり、
光の粒子となって一ノ瀬くんのエーテルエリアに吸い込まれていく。

「さらに、変換と同時に『楽園の女神』の《エーテルエフェクト》を発動。
山札からカードを2枚ドローする」

一ノ瀬くんが流れるような手つきで山札からカードを2枚引き、手札に加えた。

(《エーテルエフェクト》……!
カードをエーテルに変換した時にだけ発動できる、特別な追加効果だ。)

本来、手札をエーテルに変換すれば、手札はその分減ってしまう。

しかし一ノ瀬くんは、この『楽園の女神』のエーテルエフェクトを使うことで、
手札の枚数を減らすことなく2つのエーテルを確保してみせたのだ。

「さて、次は君の番だよ。」

「っ……」

余裕の表情を崩さない一ノ瀬くん。
チャージフェイズは、お互いが「パス」を宣言するまで交互に行うことができる。

一ノ瀬くんのターンでも。
私にも、手札をエーテルに変換する権利があるのだ。

(落ち着いて。一ノ瀬くんの動きは完璧だけど、焦る必要はない。
私には私の、カリストを輝かせるための『セットリスト』があるんだから。)

私は手札の5枚を広げ、昨晩カリストと一緒に考え抜いた作戦を頭の中で反芻した。

「……私のチャージフェイズ。
コスト3のニュートラルカード、『ワイルド・ハント』をエーテル変換!」

私はカードを引き抜き、ARフィールドの手元――エーテルエリアへと力強く滑らせた。

後攻ボーナスの2エーテルと、このカードのコスト3。
これで私のエーテル残量は一気に『5』になる。

「そして、変換と同時に『ワイルド・ハント』の《エーテルエフェクト》を発動!
対象は、一ノ瀬くんの場のすべてのアルカステラ!」

私の宣言と同時に、ARフィールドの空が擬似的な夜空へと変わり、「狩人」の星座が輝き出した。

そこから放たれた星々の猟犬が、一ノ瀬くんのアルカステラたちに向かって一直線に駆け抜けていく。

「ダメージは1d6(6面ダイス1つ)プラス、固定ダメージの3点…!」

ARフィールドの中央に仮想のダイスが転がり、出目『4』の数字を弾き出した。

「合計、7点のダメージ!」

「…へぇ。やるね。」

星の猟犬の牙が一ノ瀬くんのアルカステラを切り裂きHPをガリッと削り取った。

『わぁっ! お姉ちゃん、すごいすごい!』

盤面でカリストが嬉しそうに飛び跳ね、私に向かってパチパチと拍手を送ってくれる。

(カリストは、サポートに特化している分、自分から攻撃する力がまったくない。
なら……足りない火力は、私がスペルカードを駆使して直接補えばいい!)

これこそが、昨晩カリストと一緒に見つけた私たちの基本戦術。
一ノ瀬くんは「カリスト単体の性能」しか見ていなかった。

けれど、デッキは30枚のスペルカードと組み合わせて初めて完成するのだ。

カリストが歌で盤面を整え、私がスペル(応援)で敵を叩く。
それが私たちの二人三脚。

「……なるほど。」

一ノ瀬くんは少しだけ目を細め、削られたヘリオスのHPを確認した。

「アルカステラの攻撃力不足を、火力スペルカードで補うつもりか。
初心者にしては、理にかなった選択だ。

…愛着だけで勝とうとする無能なファンデッカーよりは、少しは骨がありそうだな。」

先ほどまでの「ハズレカードを嘲笑う」ような冷たい視線が、
微かに「対戦相手を推し量る」プレイヤーの目つきへと変わる。

その後、互いにカードをチャージしていきーーー

「オレはこれ以上のチャージはパスだ」

「私も、パス」

「それじゃあ、ここからが本番だ。――メインフェイズに移行する!」

一ノ瀬くんの鋭い声と共に、フィールドの空気が一段と張り詰めた。


メインフェイズ【一ノ瀬のターン】

Rapid4/作(編)曲 : PeriTune®
【無料フリーBGM】疾走感のあるサイバー戦闘曲「Rapid4」

「メインフェイズ。
…まずは小手調べだ。
オレはコスト1で、アウラ・コンポルタクラスのスペルカード『コンセントレイト』を発動する。」

一ノ瀬くんの宣言と共に、ヘリオスの背後に意識を研ぎ澄ませた少女のホログラムが浮かび上がる。

「自分の共鳴値をプラス1し、さらに共鳴値が2に達していればカードをドローできる効果だ。」

「――させない! カウンタータイミングで、スペルカード『対抗魔術』を発動!」

私は間髪入れずに手札を突き出した。

「手札のカードを1枚デッキに戻し、コスト2を支払う。
そうすることで、相手のスペルカードの効果を【無効】にする!」

ARフィールド上に魔法陣が展開され、一ノ瀬くんの『コンセントレイト』の術式をパチンと弾け飛ばして霧散させた。

『ふぅっ、あぶないあぶない! お姉ちゃん、ナイス!』

盤面のカリストがホッと胸をなでおろす。私も同じ気持ちだった。
(作戦その2。相手の『共鳴値』を絶対に溜めさせないこと!)

アウラ・コンポルタ同士の戦いは、いかに自分のライブ(共鳴)を盛り上げ、相手のライブを妨害するかにかかっている。

厄介な共鳴の起点となるカードを初手で潰せたことに、私は小さく安堵の表情を浮かべた。

……しかし。

「……なるほど。
確かに初心者が考えそうな素直な妨害だ。
ーーーでも、甘いよ」

一ノ瀬くんの表情には、焦りどころか、まるでこちらの動きを見透かしていたかのような余裕の笑みが浮かんでいた。

「オレの本命はこっちだ。
――コスト0、アウラ・コンポルタのスペル『チェーン・ライトニング』を発動。」

【加重】次の自分の番までに発動した回数分だけコストが増えてしまうデメリット効果

一ノ瀬くんの手から放たれた一筋の稲妻が、フィールドを駆け抜け、無防備なカリストに直撃する。

『きゃあっ!』

「カリスト!」

「効果でカリストに1ダメージ。
さらに、デッキから同名カードを手札に加える。
…そしてそのまま、2枚目の『チェーン・ライトニング』を発動。」

バチィッ!と、再び無慈悲な稲妻がカリストを打ち据える。

(しまっ……対抗魔術をさっき使っちゃったから、止められない……!)

「続けて、ニュートラルのスペル『プライマリー・ゲート』を発動。」

一ノ瀬くんは休むことなくカードをプレイする。

「デッキの上から3枚を見て、その中の1枚をエーテルに変換。
これで減ったエーテルを加速(ブースト)させる」

一ノ瀬くんのエーテルエリアに、再び潤沢なマナが供給される。
そして彼は、手札から切り札とばかりにそのカードを叩きつけた。

「これで俺の《共鳴値》は『3』。
さらにコスト2を支払い、アウラ・コンポルタのスペル『ソング・オブ・マナ』を発動。」


「そのカードは……!」

私がカリストと何度も効果を確認した、強力なドロー&エーテル回復ソース。

「『ソング・オブ・マナ』の効果で2枚ドローし、1枚をデッキに戻す。
そして《共鳴:3》の追加効果により、セメタリーにあるカードを1枚エーテルに変換する。」

「あ……っ」

手札が補充され、エーテルも回復していく一ノ瀬くんの盤面。
アウラ・コンポルタクラスの最大の弱点である「手札の枯渇」と「エーテル不足」を、流れるようなコンボで完全に解消してしまった。

「アウラ・コンポルタは、カードを切る順番(プレイング)が全てを決めるクラスだ。
いかに本命を通すために、相手が無効を使いたくなるようなカードを先打ちして、妨害を『誘発(ベイト)』させるか。
…それがこのテクニカルなクラスの定石だよ。」

一ノ瀬くんは、完全に整った自分の盤面と、私の盤面を冷たく見下ろした。

「貴重な確定妨害札(カウンター)を、相手の囮(コンセントレイト)に早々と切ってしまったね。
…カードゲーマーにとって、その軽率なプレイミス(プレミ)は致命傷だよ、結城さん。」

一ノ瀬くんの冷徹な声が、圧倒的な実力差という現実と共に、突き放すように私の耳に響いた。


「さて、そろそろ動こうか」

あの後、カウンターという防ぐ手段を失った私はただ見ていることしかできず、
流れるようなコンボによって一ノ瀬くんの『共鳴値』はついに5まで到達してしまった。

(……これが、一ノ瀬くんのプレイング。
環境トップに君臨するプレイヤーの力……)

圧倒的なプレッシャーに、息が詰まる。
やっぱり一朝一夕の特訓で叶うような相手ではなかったのかもしれない。

「――バトルだ。
まずは俺の盤面の『プルート』の攻撃スキルを発動。
対象は、キミの『イアペタス』だ。」

一ノ瀬くんは、こちらのリーダーであるカリストではなく、横に並べていた私のアタッカーを狙ってきた。

カリスト自身に攻撃力がない以上、アタッカーを崩してしまえば私のデッキは決定打がなくなると、冷静に計算しているのだろう。

「――『セレーネ』でブロック!」

そうはさせないと、私はもう一体の味方アルカステラを前に出し、アタッカーへの攻撃を身代わりとなって受け止める。

セレーネは攻撃を防ぎきったものの、行動済みの【タップ状態】となり膝をついた。

「……読んでいたよ。本命はこっちだ。
ヘリオスの攻撃スキル、『閃光』!!」


ヘリオスが剣を天に掲げると、ARフィールド全体を焼き尽くすような、目を射るほどの強烈な光が収束していく。

「ヘリオスの『閃光』は、現在の《共鳴値》の数×2の分だけダメージを加算する。
今のオレの共鳴値は5……つまり、基礎ダメージに【+10】の追加ダメージだ!」

(追加ダメージだけで10…!? そんなの、まともに受けたら!!)

確実に私のアタッカーを追い詰めるための、大いなる一撃。

でも、そんな定石通りの動きをしてくることくらい、昨晩の特訓で織り込み済みだ……!

「カリストの支援スキル、『偶像崇拝』!!!」

私はエーテルエリアの残量から1コストを支払い、高らかに宣言する。

カリストがフィールドの中央でステップを踏み、透き通るような声で歌い始めた。


「効果発動!
攻撃スキルの発動に対し、カウンタータイミングで味方のアルカステラ1体に強制的にブロックをさせる!
この効果は、すでに行動済みの【タップ状態】でも発動できる!」

(支援スキル…各アルカステラが1ターンに1度だけ使えるサポート能力。
私は、絶対にアタッカーを死なせない!)

カリストの歌声(エール)を受けたセレーネが、力を振り絞って再び立ち上がり、ヘリオスの放った極太のレーザーの前に立ちはだかる。

凄まじい閃光がフィールドを包み込み、セレーネのHPゲージを大幅に減らした。

「くっ……」

ダメージは大きい。
けれど、一番守りたかったアタッカーの『イアペタス』は、無傷で盤面に残っている。

「……へぇ、やるじゃん。」

光が収まったフィールド越しに、一ノ瀬くんが私を真っ直ぐに見据えていた。

その瞳にはもう、初心者を嘲笑うような色は微塵もない。

確実にこちらのプレイングを値踏みし、一人のプレイヤーとして警戒している目だ。

「ターンエンド。
…さあ、次はキミの番だよ。」


第七章:新たな可能性と高まる『共鳴の歌』。

フリーBGM「悲しい物語」/作(編)曲 : SEASIDE STUDIO
• DOVA-SYNDROME公式 作曲者 SEASIDE STUDIO

それから、息もつかせぬ激しい攻防が数ターンにわたって続いた。

「――そこだ、ヘリオス。『閃光』!」

「くっ……!」

ARフィールドに無慈悲なレーザーが降り注ぐ。

私のアタッカーを守るために身を挺し続けてくれた『セレーネ』は、ついに限界を迎え、光の粒子となって消えていった。

そして迎えた、後攻の私の第5ターン。

私の盤面に残っているのは、満身創痍のアタッカー『イアペタス』と、リーダーである『カリスト』だけ。

対する一ノ瀬くんの盤面は、ヘリオスを筆頭に強力なアルカステラがズラリと並び、圧倒的なまでの戦力差を見せつけていた。

(……やっぱり、ダメなのかな。)

手札を握る手が、小刻みに震える。

私がどんなに必死に共鳴値を稼ごうとしても、
一ノ瀬くんはその上を行く圧倒的な火力と妨害で、私たちのライブ(戦術)を徹底的に叩き潰してきた。

これが、環境トップ。これが、本物のカードゲーマー。

「……諦めることだね、結城さん。」

盤面越しに、一ノ瀬くんが静かに告げた。

「君のプレイングは初心者にしては見事だった。
でも、カードの地力が違いすぎる。
『カリスト』というサポート特化のリーダーを選んだ時点で、君に勝ち筋は最初からなかったんだよ。」

その言葉が、冷たい現実として胸に突き刺さる。

…そうだ。いつもの私なら、ここで愛想笑いを浮かべて、
「あはは、やっぱり一ノ瀬くんには敵わないや! さすがだね!」と、開き直って降参していただろう。

波風を立てず、負けを認めるのが一番「賢い」生き方だから。

「……おねえ、ちゃん」

ふと、視線を落とした先。
ARフィールドの中央で、カリストが膝をつき、肩で荒い息をしていた。

度重なる全体攻撃の余波を受け、その青いフリルの衣装は煤け、ホログラムの体には痛々しいノイズが走っている。

…一ノ瀬くんの言う通りだ。
カリストには戦う力なんてない。

こんなボロボロになってまで、私の無謀な勝負に付き合わせるなんて、可哀想だ。

「ごめんね、カリスト。もう、休んで――」

『……まだ、だよ』

カリストが、ふらつく足でゆっくりと立ち上がった。

マイクを両手でギュッと握りしめ、ボロボロの羽を震わせながら、真っ直ぐに私を見る。

『まだ、ライブは終わってないよ! わたし、まだ歌える! だって……』

彼女は、あの日カードショップの薄暗い箱の中で見せてくれたのと同じ
とびきり眩しい満面の笑顔を私に向けた。

『だって、わたしには…世界で一番の大好きなお姉ちゃんが、ついててくれるから!』


トクン、と。 あの日のように、心臓が大きく跳ねた。

…そうだ。私は、村人Aをやめたんだ。

みんなの正解じゃなくて、
私だけの「好き(推し)」を見つけたんだ。

どんなにボロボロになっても、たった一人のファンのためにステージに立ち続けようとする小さなアイドル。

カリストをこのままここで終わらせて、たまるか。

「……うん。そうだね、カリスト!」

私が震える手を抑えて前を向いた、その瞬間だった。

『――システム、条件クリアを確認。
アルカステラ【カリスト】の、インクルード(レベルアップ)条件を開示します。』

ARデバイスから無機質な電子音声が鳴り響き、
テーブルの上に置かれたカリストのカードが、突然、眩いほどの星の光を放ち始めた。


「なっ……インクルードだと!?」

常に冷静だった一ノ瀬くんが、初めて目を見開いて声を荒らげた。
戦闘中に条件を満たすことで、アルカステラが劇的な進化を遂げるシステム、『インクルード(レベルアップ)』

空中に浮かび上がった光のパネルに、カリストの進化条件が表示される。

【 レベルアップ条件 】
1.後攻プレイヤーの5ターン目以降
2.《共鳴値》が『7』以上

「……5ターン目。今のターンだ!」

一つ目の条件は、クリアしている。
残るは二つ目。
現在の私の共鳴値は、ターンが開始されて『0』の状態だ。

「1ターンで、共鳴値をゼロから『7』まで引き上げる……?
無理だ。
いくら手札があっても、エーテルが足りるはずがない!」

一ノ瀬くんが叫ぶ。

常識で考えれば、彼の言う通り不可能だ。
だが、今の私の目には、昨晩カリストと一緒に何度も何度もシミュレーションした『完璧なセットリスト』のルートが、ハッキリと見えていた。

「無理じゃない。
…見せてあげる、一ノ瀬くん!
これが、私とカリストが作り上げる最高のステージだ!」

私は、エーテルエリアの残量を確認し、手札からカードを勢いよく引き抜いた。

「いくよ、カリスト!
メインフェイズ、私はコスト0のスペルカードから発動する……!!」

ここから、共鳴値『7』へ到達するための、私の怒涛のプレイング(コール&レスポンス)が始まる――!


第八章:駆けあがれ! 栄光のステージへ

The Braver /作(編)曲 : Ucchii0-うっちーぜろ-
【フリーBGM】The Braver【ピアノが彩る逆転勝利風BGM】No Copyright Music

「いくよ、カリスト! メインフェイズ、
私はコスト0のアウラ・コンポルタのスペル『フェアリーソング』を発動!」

(本当は発動する度に必要コストが増える【加重】のデメリット効果があります…!)

私の宣言に合わせ、ボロボロだったカリストの周囲に淡い光の音符が舞う。

「対象はカリスト。HPを1d6点回復する!
…このカードは使うたびにコストが増える【加重】のデメリットがあるけど、最初の1回ならコストは0。
これで、《共鳴値》は『1』!」

『えへへ、ちょっと元気出たかも!』

息を吹き返したカリストが、マイクを握り直す。

「続けて、コスト1のニュートラルスペル『出発の準備』!
手札を1枚デッキに戻し、カードを1枚ドロー。
手札を整えて……《共鳴値》は『2』!」

「……無駄な足掻きだ。そんな細いカードを何枚切ったところで、ひっくり返る盤面じゃない」

「…それはどうかな?
次はこれ! コスト2のニュートラルスペル『エーテル・リフレッシュ』!」

一ノ瀬くんの冷たい言葉を遮るように、私はキーカードを盤面に叩きつけた。

「効果発動! 自分のエーテルゾーンにあるカード1枚と、手札のカード1枚を入れ替える!
私がエーテルから回収するのは……『ソング・オブ・マナ』!」

「っ……! リソース回復の要であるそのカードを、あえてエーテルゾーンに逃がしていたのか!」

「これで、《共鳴値》は『3』!」

一ノ瀬くんの顔色が変わる。
アウラ・コンポルタの生命線であるドローソースが手札に加わったことで、彼はこのコンボの危険性を瞬時に悟ったのだ。

「――させない! カウンタースペル、『ジャミング』!
『エーテル・リフレッシュ』を【無効】にする!」


一ノ瀬くんが即座に妨害札を切る。
彼の手から放たれた静寂の波が、私のスペルカードを掻き消そうと迫る。

でも、その動きすらも、私とカリストが想定した「セットリスト」の範囲内だ!

「読んでいたよっ!
さらにカウンター!
コスト2のスペル『ブレイン・シェイク』!!」

「なにっ!?」

「一ノ瀬くんの『ジャミング』を【無効】にして、『エーテル・リフレッシュ』を通す!
さらにこのカードの発動で、《共鳴値》は『4』に到達する!」

ブレイン・シェイクの衝撃波が、一ノ瀬くんの静寂を粉々に打ち砕く。

「《共鳴:3》の状態で発動した『ブレイン・シェイク』の追加効果!
『次に相手が発動するスペルカードの発動を無効にする』!
これで一ノ瀬くんは、もう私を妨害できない!」

「……っ! ここまで完全にルートを構築していたというのか……!」

完璧なカウンター返し。
そして、相手の妨害を完全にシャットアウトするロック状態の完成。

驚愕に目を見開く一ノ瀬くんを置き去りにして、私たちのライブは一気に加速する。

「ここから一気に駆けあがるよ!
カリストの支援スキル『ステージ・イン!』を発動!
これで《共鳴値》は『5』!
《共鳴:3》の追加効果で、味方全員のステータスに+3の補正!」

『みんな、いくよーっ!』

カリストの掛け声と共に、ステージのボルテージが爆発的に跳ね上がる。

「まだだよ!これが私の切り札!!!
コスト2のスペル『ソング・オブ・マナ』を発動!」

「山札から2枚ドローして1枚戻す!
《共鳴:3》の効果でセメタリーのカードをエーテルに変換してコストを回復!
さらに《共鳴:5》の効果で追加ドロー!!」

「くっ……!」

「これで、《共鳴値》は『6』!」

手札が潤い、エーテルが回復し、ライブの熱気は最高潮へ。
そして、私は手札から「最後の一枚」を引き抜いた。

「これで……最後!!!
コスト2のスペルカード、『アウェイクン』を発動!!」

祈るような少女のイラストが描かれたカードが、ARフィールドで眩い光を放つ。

「《共鳴:4》を超えていることで、追加効果が発動する。
戦闘脱落したアルカステラ1体を、HP1の状態で盤面に復帰させる!
――お願い、もう一度力を貸して! 『セレーネ』!」

「なにっ、アルカステラを蘇生させただと!?」

光の柱の中から、先ほど私のアタッカーを守って散っていったセレーネが、再びフィールドに舞い戻る。

「そして! このスペルカードの発動で、ついに《共鳴値》は――『7』に到達した!!」

ピーーーンッ! というシステム音が、高らかにフィールドに鳴り響いた。

【 条件達成。アルカステラ『カリスト』、インクルードを実行します 】

「やった……! 行けえええええっ、カリストォォ!!」
『――最高のステージをありがとう!
わたし、もっともっとキラキラに輝くよ!』

光の奔流がカリストを包み込む。 青いフリルの衣装はより華やかに、背中の羽は星空のように煌めき、彼女の姿が次なるステージ(Lv2)へと覚醒していく。

「『ーーーインクルード!!!』」

「馬鹿な……たった1ターンの間に、共鳴値を7まで引き上げただと……!?」

環境トップの王者が、初めて焦燥に顔を歪ませた。
ルールすら知らなかった私が、最高の『推し』と共に、
定石を覆した瞬間だった。

「まだ終わってないよ!
『HorizonNotes』はデッキ(山札)がゼロになって再構築された時、
アストラルコード……必殺技が使えるんだ!!!」

「……っ! まさか!」

一ノ瀬くんがハッとして私の山札置き場を見る。

アウラ・コンポルタの怒涛の共鳴連鎖。
カードを引き、エーテルを回し続けた結果……気が付いた時には、私の初期デッキ30枚は完全に一巡(ライブラリアウト)し、
必殺技の使用権(チャージ)が完了していたのだ。

「これで、最後!!!! アストラルコードを発動!
いけっ、カリスト! 『ファンタスティック・ビート』!!!」

『みんなのハートに響けっ! いっけぇええええええ!!!』


覚醒したカリストが、マイクスタンドを力強く握りしめ、ARフィールド全体を震わせるほどの超高音(ハイトーン)ボイスを響かせる。

「『ファンタスティック・ビート』の効果!
まず、自身の《共鳴値》をプラス3する!」

「共鳴値が、3プラス……だと!?」

「もともとの『7』に3が足されて、これで共鳴値は『10』!
つまり、カリストのライブは最高潮(テンションMAX)!!」

フィールドの空気がビリビリと震え、カリストの歌声が実体を持った衝撃波へと変わっていく。

「そして! 相手のすべてのアルカステラに、『共鳴値×3』のダメージを与える!」

「共鳴値10の、3倍……全体に、30ダメージだとッ!?

カリストから放たれた極彩色の音波の嵐が、一ノ瀬くんの盤面を容赦なく蹂躙する。

悲鳴と共に、一ノ瀬くんの周りを固めていた強力な味方アルカステラたちが次々と光の塵となって吹き飛ばされていく。

「ヘリオスッ!!」

一ノ瀬くんが叫ぶ。

爆風が晴れた後、フィールドに立っていたのは、一ノ瀬くんのリーダーであるヘリオスただ一人だった。

HPは極限まで削られ、真っ赤に点滅している。

私とカリストが生み出した共鳴。
そして、私の『推し』の誰も知らない新しい可能性インクルード。

その二つが合わさって、私たちはここまで一ノ瀬くんを追い詰めた。

「はぁっ、はぁっ……」

私は肩で息をしながら、ARフィールドを見つめた。

やり切った。初心者の私が出せる、本当に限界の、120パーセントのプレイング。

(勝てる……。
一ノ瀬くんの盤面はボロボロ。
次のターンで一押しすれば、私とカリストの勝ちだ……!)

「……ははっ」

不意に。
静まり返ったテーブルの向こう側から、乾いた笑い声が聞こえた。

「――驚いたよ。
まさか、デッキを一周させて必殺技まで繋げてくるとはね。
君を『無能なファンデッカー』だと侮っていた、オレの完全な落ち度だ」

一ノ瀬くんが、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳には、焦燥も、余裕もなかった。

ただ、純粋な強敵(ライバル)を前にしたカードゲーマーとしての、
底知れない闘志の炎だけが燃え盛っていた。

「認めるよ、結城さん。
君とカリストのステージは、最高だった。」

彼が、自身のリーダーカード――瀕死のヘリオスに手を伸ばす。

「だからこそ。オレも『王者』として、全力で君たちのライブを叩き潰す!」


迎えた、一ノ瀬くんのターン。
彼は自らのリーダーカードであるヘリオスへ、ゆっくりと手をかざした。

すると、瀕死だったはずのヘリオスの身体が、ARフィールドを真昼のように照らすほどの強烈な光に包まれ、その姿を劇的に変えていく。

背後には、まるで本物の太陽のような巨大な火球が燃え盛っていた。

「……まさか!!」

『――システム、条件クリアを確認。
アルカステラ【ヘリオス】の、インクルードを実行します』

私がカリストを覚醒させた時と同じ、無機質な電子音声。
一ノ瀬くんのヘリオスもまた、
進化の条件――
『後攻の5ターン目以降』、そして『アストラルコードが使用可能であること』を満たしていたのだ。

「初心者相手に、インクルードを使うつもりはなかったんだ。
インクルードはアルカステラとの絆の証。
一朝一夕で出来ることじゃないからね。」

一ノ瀬くんの声から、いつもの見下すような冷たさが完全に消えていた。

真っ直ぐに私を見るその目は、同じ盤面(ステージ)に立つ、
一人の対等なカードゲーマーに向けられる熱を帯びている。

「結城さん。
キミはよくやったよ。
『HorizonNotes』を始めてまだ間もないのに、オレをここまで追い詰めた。
……だから、オレも一人のステラバトラーとして、キミに最大の敬意を示す」

一ノ瀬くんが、天高く右手を突き上げた。

「これがオレの全力だ…… !
燃え上がれ、ヘリオォォォォォス!!」

「『ーーーインクルード!!!』」

凄まじい熱波と共に、覚醒したヘリオス(Lv2)がフィールドに君臨するーーー!

カリストの全力のステージを前にしても、王者は決して膝をつかなかった。

「そして、結城さん。キミは一つ見落としていたね。」

「見落とし……?」

「オレのデッキもすでに一巡し、アストラルコードのチャージが完了していることを。

「えっ……!?」

私はハッとして、彼の手元のシステム表示を見た。

確かに、激しい攻防の中で互いにカードを引き続けた結果、
彼もまたライブラリアウトを経験し、必殺技の使用権を得ていたのだ。

「さらに、ヘリオスは君のあの苛烈な攻撃を耐え抜く過程で、
固有リソースである【ソーラー・エネルギー】を極限まで溜め込んでいたんだよ」

だから、あの全体30ダメージという致死量の攻撃を受けても、ヘリオスはギリギリで立っていられた。

ダメージと引き換えに蓄積された太陽の力は今、限界まで膨れ上がっている。

「これで終わりだ! オレのすべてをこの一撃に込める!
アストラルコード発動!!」

一ノ瀬くんの宣言と共に、ヘリオスが背後の巨大な太陽を両手で掲げた。

「蓄積した【ソーラー・エネルギー】をすべて消費!
『ソーラー・ストーム』!!!」

放たれたのは、もはやレーザーなどという生易しいものではなかった。

太陽そのものが降り注ぐかのような、圧倒的な光と熱の嵐。

消費したエネルギーの数だけ威力が倍増する、
防ぐことすら許されない【消失】ダメージの奔流。

『お姉ちゃんっ……!』

「…!!!カリストっ!!」

私の悲痛な叫びを掻き消すように、
ソーラー・ストームの光がARフィールド全体を白く染め上げた。

「――っ」

やがて光が収束し、フィールドに静寂が訪れる。

私の目の前で、最後まで笑顔を見せようとしてくれたカリストのホログラムが、ふわりと光の粒子になって消えていった。

ピーーーンッ……。

【 リーダーアルカステラのHPゼロを確認。勝者――一ノ瀬 悠 】

システムのアナウンスが、ゲームの終わりを告げた。


第九章:初めての涙

ピーーーンッ……。

【 リーダーアルカステラのHPゼロを確認。勝者――一ノ瀬 悠 】

光が収束したARフィールドに、システムのアナウンスが静かに響き渡った。

私の目の前で、最後まで笑顔を見せようとしてくれたカリストのホログラムが、ふわりと光の粒子になって消えていく。

周囲を取り囲んでいた観客たちから、どよめきと、やがて割れんばかりの拍手が巻き起こった。

名勝負だった。あわや環境トップが初心者に喰われる大番狂わせ。
ギャラリーが興奮するのも無理はない。

「……負け、た。」

手札からカードがパラパラと机に滑り落ちた。
全身から、一気に力が抜けていく。

カリストはあんなにボロボロになってまで頑張って歌ってくれたのに。
あと一歩、本当にあと一歩だったのに。

「結城さん。」

ハッと顔を上げると、いつの間にかARデバイスの電源を落とした一ノ瀬くんが、
私の目の前に立っていた。

「……素晴らしいプレイングだった。
君のカリストは、間違いなくハズレなんかじゃなかったよ」

彼が、私に向かってスッと右手を差し出す。
それは、彼が普段見せていた冷たい優等生の顔ではなく、
ゲームの勝敗を越えて、互いの健闘を讃え合うプレイヤー同士の純粋な握手だった。

「一ノ瀬、くん……」

その真っ直ぐな手を見て、私は……

「……あはは。やっぱ、勝てなかったかぁ」

私は、空いた手で照れくさそうに頭を掻いた。

「うーん、私なりに勉強して頑張ってみたんだけど、
やっぱ一ノ瀬くんは強いね。
あんな大見得切ったのに恥ずかしいというかなんと言いますか……」

ーーー大丈夫。ただ、カードゲームに負けただけだ。
ーーーこんなのただのお遊びなんだ。
ーーー元々、カードゲームなんてやるつもりなんてなかったし。

……そうやって波風を立てずに笑うのが、一番賢い生き方なんだから。

「あー! 初めて大会に出たから緊張して疲れちゃった。
もう、私帰るね。一ノ瀬くん、ありがとう! 凄く楽しかった」

私は彼の差し出した手を握ることもなく、
逃げるように立ち上がり、カードをカバンに詰め込んで会場を後にした。

***

家の近くの誰もいない公園。
そのブランコに力なく腰を掛けた私は、カリストと二人でお話をしていた。

「ごめんね、カリスト。
…せっかくあんなに一緒に頑張って練習したのに、私、ヘタクソで……」

『そんなことないよ! お姉ちゃん、すっごくすっごく格好良かった!』

画面の中のカリストが、慌てたように首を横に振る。

『わたしね、あんなにたくさんのお客さんの前で歌えたの、初めてだったの。
お姉ちゃんが応援を届けてくれたから、わたし、最後まで笑顔でいられたんだよ!』

「カリスト……」

『だからね、謝らないで?
わたし、お姉ちゃんがわたしのプロデューサーさんで、本当に良かったって思ってるの!』

とびきり眩しい、太陽みたいな笑顔。
その屈託のない温かい言葉が、私が必死に蓋をして隠そうとしていた感情を、いとも簡単に溶かしていった。

空っぽの毎日をやり過ごしてきた私が。
ずっと傷つくことから逃げ続けてきた私が。

『私はとっても楽しかったよ。お姉ちゃんは、楽しかった?』

「……っ、私は……っ」

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛い。
痛くて、熱くて、どうしようもない。

つないだ手 /作(編)曲 :音楽の卵
ピアノ-暗い・しっとり | フリーBGM(mp3・ogg)

「悔しいっ……!
悔しいよ…カリストと一緒に、勝ちたかった……!
勝ちたかったよぉ……っ!」

私はデッキを胸に抱きしめ、
人目もはばからずに、子供のように声を上げてワンワンと泣いた。

思いっきり戦って、思いっきり負けて。
こんなにも悔しくて、悲しくて。
でも、胸が熱くてたまらない。

それは、本気になったからこそ流せる、生まれて初めての涙だった。

『……うん。うんっ!
次はいーっぱい特訓して……絶対、絶対に勝とうね! ……お姉ちゃん!』

いつの間にか、カリストの大きな瞳からもホログラムの涙がポロポロとこぼれ落ちていた。

私は泣きじゃくりながら、
胸に抱いたデッキ越しに彼女の温もりを感じていた。

夕闇が降りてくる公園で、時間を忘れて。
私たちはただただ、抱き合うようにして一緒に泣いた。

***

「……あー。オレ、また悪いことしちゃった感じ?」

公園の入り口から少し離れた木陰。
一ノ瀬は、ブランコで泣きじゃくる少女の姿を静かに見つめていた。

実体化した、燃えるようなマントを羽織った相棒が、隣で呆れたように肩をすくめる。

『悠が女の子を泣かせることなんて、今に始まったことじゃないじゃないか。』

「しょうがないだろ。オレだって手加減するつもりはなかったんだから」

一ノ瀬は小さく苦笑して、手元のカードデッキに視線を落とした。

『しかし、キミらしくないよね。
なんで、初心者の女の子相手にあんなにムキになって勝負を受けたのさ?』

ヘリオスが揶揄うように笑う。

「それは――」

(……オレたちは、大人になったらお前たちとさよならをしなくちゃいけない。)

見えなくなる。聴こえなくなる。

どんなに大切に思っていても、大人になるというだけで、この絆は一方的に断ち切られてしまう。

だから、少しでも。

(だから少しでも、ヘリオス。
お前と駆け抜ける今この瞬間を、最高のものにしたいんだ。
負けて終わる思い出なんて、一つもいらない。
お前と一緒に、最強の景色だけを見ていたいんだよ。)

手に力が込められる。

それは、心の奥底に秘めた一ノ瀬だけの誓い。

もちろん、相棒に面と向かって言うつもりはない。

「……どうでもいいだろ、別に。
そんなことより、帰ったら早速環境分析のやり直しだ。
noteの記事を片っ端から読み漁るぞ。
…今回は途中で負けちまったが、次のCSでは勝つ。

照れ隠しのように突き放した一ノ瀬に、
ヘリオスはすべてを察したように微笑み、その拳を突き出した。

『ははっ、同感だよ。ボクも、キミとまだまだ上を目指したいからね』

二人の拳が、夕闇の中で小さく交わされる。

(……しかし、驚いたな。
まさかオレが、たった数日でここまで成長した初心者に、本気で冷や汗をかかされる日が来るなんて)

一ノ瀬は公園のブランコで泣きじゃくる少女の背中をもう一度だけ見つめ、そして、小さく口角を上げた。

「結城推華……か。
面白れぇ女。」

夕暮れの風に前髪を揺らしながら、環境トップの王者は、嬉しそうに呟く。

敗北を認めたくない悔しさよりも、好敵手(ライバル)を見つけた喜びが、彼の胸を熱くさせていた。

「次は、もっと面白くなりそうだ。……またやろう、結城さん。いつでも相手になるよ」

誰に聞かせるでもないその呟きは、真っ赤な夕焼けに溶けて、静かに消えていった。


エピローグ:色づく世界と、次なるステージ

フリーBGM「君の手のひら」/作(編)曲 : G-MIYA 作曲者プレイリスト
• DOVA-SYNDROME公式 作曲者 G-MIYA

大会から数日後の、昼休み。

教室の私の机の上には、以前のように隠すこともなく、
『HorizonNotes』のカードたちが堂々と広げられていた。

「推華、またそのカードのデッキ考えてるの?」

「うんっ! ここのコスト回しが難しくて……あ、でもこのニュートラルスペルを挟めば、もっとスムーズに共鳴が繋がるかも!」

私が目を輝かせてカードを組み替えていると、
友人たちが顔を見合わせてクスクスと笑った。

「推華、あの大会からすっごく楽しそうだよね」

「うん。前は『なんでもいいよー』って感じだったのに、最近はなんだかキラキラしてるっていうか」

「えっ、そ、そうかな……?」

照れくさくて頬を掻く。

確かに、以前の私なら「目立つから」と、教室でカードを広げるようなことは絶対にしていなかった。
波風を立てない「村人A」としての処世術は、あの日、カリストと一緒に流した涙と一緒に、全部どこかへ置いてきてしまったらしい。

『お姉ちゃん! このカード、前の一ノ瀬くんのコンボみたいで強そうだよ!』

カリストがカードの一枚を指差して元気にアドバイスをくれる。
あの敗北から、私たちは次の大会に向けて、二人三脚で猛特訓の毎日だ。

「……結城さん。その構築だと、中盤でエーテルが枯渇するよ」

ふいに、頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。
見上げると、いつもの涼しげな優等生の顔を作った一ノ瀬くんが、私の机の上のデッキを覗き込んでいた。

「一ノ瀬くん!」

「カリストの『ステージ・イン!』を活かしたいのは分かるけど、そこはドローソースを多めに積んで、デッキの回転率を上げた方がいい。
……たとえば、これとか」

一ノ瀬くんは、私のストレージボックスからスッと一枚のカードを抜き出し、デッキの横に置いた。
的確すぎるアドバイスに、思わず感嘆の声が漏れる。

「ほんとだ……! これなら、手札事故も減るかも!
ありがとう、一ノ瀬くん!」

「……別に。またあんな大味なプレイングで自滅されても、つまらないからね」

一ノ瀬くんはフイッとそっぽを向いたが、その耳が少しだけ赤くなっているのを、私は見逃さなかった。
彼も彼で、どうやら「強敵(ライバル)」への接し方に少し戸惑っているらしい。

「そうだ。一ノ瀬くん、今週末のショップ大会も出るの?」

「当然だ。オレとヘリオスは、常に環境のトップであり続けるからね。
……君も、もちろん来るんだろ?」

一ノ瀬くんが、挑戦的な、けれど楽しそうな瞳で私を見下ろす。
私は机の上のカリストのカードを手に取り、真っ直ぐに彼の目を見返した。

「うん! 私とカリストの最高のステージ、また見せてあげる。
今度こそ、絶対に勝つから!」

「……ふっ、言うね。受けて立つよ」

一ノ瀬くんは短く笑い、自分の席へと戻っていった。

『お姉ちゃん、次こそ絶対リベンジだね! わたし、もっともっといっぱい歌うから!』

「うんっ! いこっか、カリスト。私たちだけの、次のステージへ!」

窓から差し込む光が、カリストの青いドレスをキラキラと照らしている。

もう、私の世界はモノクロじゃない。
悔しくて、楽しくて、心がちぎれそうなくらい熱くなれる。
そんな、鮮やかな色に満ちている。

これは、ルールすら知らなかった初心者の私が。 私だけの「推し」と一緒に、定石を覆してトッププレイヤーへと駆け上がっていく。
まだほんの始まりの物語。



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
前後編にわたる大ボリュームとなりましたが、
推華とカリストの物語、少しでも楽しんでいただけたでしょうか?

推華が自分だけの「推し」を見つけて熱い涙を流したように、『HorizonNotes』の世界には、まだまだたくさんの星(アルカステラ)とプレイヤーたちの出会いが待っています。

現在『HorizonNotes』では、皆さまからの「キャラクター案」を大募集しております。

「こんな熱いプレイヤーをこの世界に登場させたい!」など、
皆さまの頭の中にあるアイデアがあれば、ぜひ以下の記事を参考にご応募ください!

▼キャラクター案募集

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皆さまからの素敵なアイデアと熱い想いを、心よりお待ちしております!

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