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前編【キャラ紹介ストーリー】届け、『共鳴』のメロディ!少女が「大好き」を叫んだ日。【結城 推華(ゆうき すいか)&カリスト】

どうも!「まる。」です!
最近、投稿できておらずすみませんでした。😅

実は、今回のキャラクター紹介ストーリーを何度も何度も作り直していて、なかなか他の記事に手を回せませんでした📗

その間、いただいた「スキ」への反応やフォローバックが遅くなってしまい、本当に申し訳ありません🙇‍♂️

でも、その分私がどうしても書きたかったお話を、全力で書き切ることができました!
今回はかなりの大ボリューム(前後編になるくらい!)ですが、
読み応え満点、そしてかなり面白い内容になったと自負しております😤

さて、今回登場するキャラクターですが、実はnoteのフォロワー様にお願いをしてモデルになっていただきました!

▼あさぎり 様

あさぎりさんは、個人クリエイターを支える投げ銭サービス「OshiPay」の開発をされている方です!

実は、私の『HorizonNotes』公式サイトにも、この「OshiPay」のサービスを導入させていただこうかと計画中なんです🤭
(公式サイトの大規模な更新が控えているので、皆さんにお披露目できるのはもう少し先になるかもしれませんが、お楽しみに!)

▼OshiPay

今回、物語の語り手となる女の子「結城 推華(ゆうき すいか)」ちゃんのお話はそんな自分の好きなもの、『推し活』を見つける物語です。

…色々、紆余曲折がありましたが
私自身にとっての『推し』という概念を改めて深く掘り下げて考えた結果…
「よし、私が100%満足いくまで、とにかく自由に楽しく書いちゃおう!」 という結論に達しました(笑)。

なので、めちゃくちゃボリュームがあって、私の熱量が入りすぎて少しマニアックになっている部分もあるかもしれませんが、
どうか私の思い描く『推し』への熱を、そのまま受け止めていただければ嬉しいです!

📗用語
本編を読む前に、少しだけ世界観の用語をご紹介します。

・アルカステラ
星をモチーフにしたカードの精霊たち。
プレイヤーは相棒となるアルカステラを集め、彼らを駆使して戦う「ステラバトル」に挑みます。
※普通の人たちは、18歳を迎えると彼女たちの声を聴いたり、姿を見たりすることができなくなってしまいます。

・WCS
「ワールド・チャンピオンシップ」の略称。
世界一のステラバトラー(カードプレイヤー)を決める、最高峰の大会です。





第一章:人と上手く付き合える魔法の呪文。「それな。」

Raspberry Sou /作(編)曲 : Kyatto
Raspberry Sour – KyattoWorks

「――それな。」

たった3文字。
この魔法の言葉さえ唱えていれば、私のスクールライフは平和で安全だ。

「だよねー! マジで昨日観たドラマのあのシーン、ヤバくなかった!?」
「ほんとそれ! 分かるー!」

教室の後ろの席。机をくっつけて盛り上がる友人たちの笑い声に合わせて、私も口角だけを上げて頷く。
私、結城 推華(ゆうき すいか)の日常は、
いつだってこんな風に誰かの意見の「コピー&ペースト」でできている。

流行りのスイーツ。人気のアイドル。クラスで話題のドラマ。

みんなが「好き」と言えば、私もとりあえず「好き」なふりをする。
みんなが「嫌い」と言えば、何となく距離を置く。

そうやって、集団からはみ出さないように、ずっと自分の意見を押し殺してきた。

その結果、私はクラスの中ではそこそこイケている友達に囲まれて何不自由のない学生生活をエンジョイしている。


でも、いつからだろうか。
私の心の中には、ぽっかりと穴が空いたような虚無感が居座っている。

自分だけの「本当に好きなもの」なんて、何一つ見つけられなくて。
ただ時間だけがモノクロに過ぎていく。

でも、それでいい。
私はグループの村人Aとして身の丈に合った地位を獲得している。
そんな退屈な放課後の教室で、スマートフォンの画面をスクロールしていた友人の一人が、唐突に声を弾ませた。

「ねえねえ、聞いた? クラスの一ノ瀬くんのこと!」

一ノ瀬くん。
成績優秀、スポーツ万能、おまけに少しミステリアスな雰囲気のイケメン。

スクールカースト上位の女子たちから常に熱視線を浴びている、
学校の有名人だ。

「一ノ瀬くんがどうかしたの?」
「実はね、彼『HorizonNotes(ホライゾンノーツ)』ってカードゲームをやってるらしいの!
しかも、休みの日はショップの大会で優勝するくらい、めちゃくちゃ強いんだって!」

普段、カードゲームなんてオタクがする遊びだと笑う彼女たちも相手がクラスのイケメンならこの通り素敵な趣味に早変わり。

私たちは秋の空よりも移り変わりが激しい。


「えー! あのルックスでカードゲーム強いとか、ギャップ萌えヤバくない!?」
「でしょ!? だからさ、私たちも『HorizonNotes』始めない?
色々と教えてもらう口実で、一ノ瀬くんとお近づきになれるかも!」

キャーキャーと、女子特有の高い声で盛り上がる友人たち。
その熱量に少しだけ耳を塞ぎたくなりながらも、私はいつものように、完璧な笑顔を顔に貼り付けた。

「いいね! 私も気になってたんだ、そのゲーム!」

口からスラスラと、思ってもいない言葉が出る。

カードゲームなんてルールも知らないし、正直なところ、一ノ瀬くんにだって微塵も興味はない。

内心は「どうでもいい」と、完全に冷めきっていた。

「じゃあ決まり! 鉄は熱いうちに打てって言うし、今から駅前のカードショップに行ってみようよ!」

「賛成ー! 推華も行くでしょ?」

「うん、もちろん!」

友人たちに腕を引かれ、私は重い腰を上げて教室を後にした。
オレンジ色に染まり始めた廊下を歩きながら、小さく息を吐く。
どうせ今日も、みんなに合わせて適当にものを買って、
適当に笑って終わるだけの放課後だ。

いつもの日常。
私の『キラキラした』女子高生ライフ。

…この時の私は、まだ知る由もなかった。

ただ空気を読んで、適当に相槌を打っただけのこの寄り道が。
私の空っぽの世界を、あんなにも鮮やかに、そして激しく塗り替えてしまうことになるなんて。


第二章:運命は、カードショップの隅に

ぽえぽえやばやばちょうちょさん/作(編)曲 :さんうさぎ
ぽえぽえやばやばちょうちょさん(LOOP)

駅前の雑居ビル、その薄暗い階段を上った先にあるカードショップ。

自動ドアが開くと、紙とインクの独特な匂いと、熱気にあふれた男の人たちの声が一斉に押し寄せてきた。

「うわ、なんかすごい空気……」
「ちょっとアウェイかも。でも、一ノ瀬くんのためだもんね!」

友人たちは顔を見合わせてヒソヒソと笑い合いながら、店内の中央にある一番大きなショーケースへと向かっていく。

そこには『環境トップ』や『大会優勝デッキ必須』といった派手なポップと共に、目玉が飛び出るような値段のキラキラしたカードが並んでいた。

「見てこれ! 一ノ瀬くんが言ってた『ヘリオス』ってカードじゃない!?」

「ほんとだ! めっちゃ強そう! しかもイラスト超かわいい!」

「ねえ推華、どれがいいと思う?」

「うん、いいね。
せっかくなら一ノ瀬くんと同じやつにしてみよっか。」

私はいつものように『正解』の相槌を打ちながら、彼女たちの輪から半歩だけ後ろに下がった。

店内にひしめくプレイヤーたちの熱気も、ショーケースの中で威張っている高額カードも、私には別世界の出来事のように思えた。

どうせ私には関係のない、一時的な『流行り』の一つに過ぎないのだから。

少しだけ息苦しさを感じて、私は友人たちから離れ、店内の隅にある「ストレージコーナー」へと足を向けた。

そこは、ショーケースに並べてもらえなかった、所謂『ハズレ』や『価値の低い』カードたちが、無造作に箱へ詰め込まれている場所だった。

「……ん?」

ふと、微かな音が耳を掠めた。
店内の喧騒や、誰かがカードを弾く音に紛れて、消え入りそうなほど小さなメロディ。

妖精の庭/作(編)曲 :きりんちゃんねる
【作業用/フリーBGM】妖精の庭_Fairy Garden【ファンタジー】

――♪

それは、とても綺麗で、楽しげで透き通った歌声だった。

不思議なことに、周りの人たちは誰もその声に気づいていない。
私にだけ、直接胸の奥に響いているような感覚。

音のする方へ引き寄せられるように視線を落とすと、
ストレージボックスの端、他のカードの下敷きになりかけている一枚のカードが目に留まった。

『カリスト』。
それが、そのカードの名前だった。

3Dの映像が漏れ出ているのか、それとも私の目がどうかしてしまったのか。

カードの表面に、手のひらサイズの小さな妖精の姿が浮かび上がって見えた。

青を基調としたフリルの衣装に、キラキラと輝く羽。
彼女は、分厚いプラスチックケースにも入れられず、誰の目にも留まらないこんな薄暗い箱の中で――満面の笑顔で、一生懸命に歌って踊っていた。

(……どうして?)

誰も見ていないのに。
値札には、ショーケースのカードたちとは比べ物にならないくらい、安い数字が書かれているのに。
彼女は信じられないくらい眩しい笑顔で、ただひたむきにステップを踏んでいる。

トクン、と。
心臓が、今まで感じたことのない妙なリズムで跳ねた。

(……綺麗。)

ボロボロのストレージを、まるで広大なコンサートホールに見立てて踊るこの小さな妖精の姿から、私は何故か目を離せずにいた。

周りを見渡しても、こんな風に動いて声を出しているのは、このカードだけみたいだ。
観客のいないコンサート。
傍から見ればこれほど滑稽なものはないだろう。

なのにこの、内側から湧き上がってくる熱い気持ちはなんだろうか。

「……ねぇ。」

私は思わず、小声でその小さな妖精に話しかけた。
すると、妖精は驚いたようにピタッと動きを止め、パチパチと瞬きをした。

『わっ! ビックリしたぁ。……お姉ちゃん、わたしのこと見えるの?
久しぶりに人間さんに話しかけられちゃった!』

妖精さんは、花が咲いたようなはにかんだ笑顔をこちらに向ける。

「……あなたは、ここで何をしてるの?」
『何って、歌と踊りの練習をしていたの! 』

歌って踊ってって…何かの宣伝とかだろうか?
だったら、こんなボロボロの箱の中じゃなくてあそこの綺麗な場所でやれば良いのに。

それにしてもよく出来た映像だ。

試しに私はこの小さな妖精さんに「あなたは誰?」と問いかけてみる。

『わたしは星の精霊、アルカステラのカリストだよ!』

妖精さんはくるりと楽しそうにその場で一回転して見せた。
…星の精霊、アルカステラ。

まだ事態がよく飲み込めない私は、心の中で密かに彼女を「妖精さん」と呼ぶことにした。

「こんな所で歌ったり、踊ったりしていたら誰かに気付かれそうだけど…
誰もあなたに話しかけてこなかったの?」
『うん……。
わたしたちの声はね、夢や希望でキラキラしてる人間にしか届かないんだって。』

妖精さんは少しだけ俯き、寂しそうに笑った。

(夢や希望……)

今の私には、一番縁遠い言葉だ。
なら、どうして私にはこの子の声が聞こえたのだろう。

心に空いた穴の奥底に、まだほんの少しだけ、何かを「好き」になりたいという燻った気持ちが残っていたからだろうか。

そんな私の葛藤を知ってか知らずか、
妖精さんはすぐに顔を上げ、えへへと照れくさそうに笑い直した。

『でもね、わたしはみんなを笑顔にしたいの!
キラキラの夢がある小さい子も、疲れた顔をしてる大きな人たちも、みーんなわたしが元気にするの!』

「大人も……?」

『うんっ! それがわたしの夢!
今はまだ、この声が届かないかもしれないけど……。
ずっと諦めずに歌い続けていれば、いつか絶対にみんなに届くんだって信じてる!』

誰も見ていない、薄暗いストレージボックスの中。
それでも彼女の瞳は、どんな高額カードよりも、どんなクラスの人気者よりも、真っ直ぐで力強い光を宿していた。

「推華ー? 何やってるのー? 私たち、買うの決めたよ!」

遠くから友人の呼ぶ声がして、私はハッと我に返った。
振り返ると、彼女たちの手には「一ノ瀬くんとお揃い」だという、強くて人気のあるカードが握られている。

「推華も早く適当なの手にとって、お会計しよ!」
「あ、うん……」

私は視線をもう一度、手元のストレージボックスへと戻した。
誰かの真似をして、適当に選んで、みんなと同じ色に染まるだけの私。
でも、今だけは。

「……私、これにする」

気がつけば、私の手はそのカードを――カリストを、そっと掬い上げていた。


第三章:私だけのアイドル

フリーBGM「楽しい帰り道」/作(編)曲 : GANO
• DOVA-SYNDROME公式 作曲者 GANO

「じゃあね推華、また明日! 明日はいよいよ一ノ瀬くんに声かけるからね!」
「うん、バイバイ! 楽しみにしてる!」

駅の改札前で友人たちと別れ、私は一人、夕暮れの道を歩いていた。

(……買っちゃったな)

私のカバンの中には、たった数十円で買えたボロボロのストレージのカード。
元々、カードなんて買うつもりはなかった。

買っても邪魔になるだけだ。
どうせ、みんなが飽きたら捨てるか、適当に売ってなかったことにするだけ。

でも、どういう訳かこのカードはまるで自分に意思があるみたいに振る舞う。

(……捨てづらい)

正直、捨てづらい。かと言って、真剣にカードゲームを始める気なんてさらさらない。

……適当にそこら辺の小学生とかにあげるか。
でも、わざわざカードをあげるにも言い訳を考えないといけないし。

「はぁ……」

大きなため息を一つ吐く。

めんどくさい。ただただ、面倒くさい。
こんなことになるなら、適当に用事がある振りをして抜け出して来ればよかった。

そんな私の苦悩もつゆ知らず、妖精さんは私に話しかけてくる。

『ため息したら幸せが逃げちゃうよ! 笑顔、笑顔♪』
「……うん、おうちに帰ったらいっぱいお話しようか」

最悪だ。
妖精さんは自分を選んでくれたのがよほど嬉しかったのか、ずっとこんな感じで話しかけてくる。

外の世界が珍しいのか、道行く犬に声を掛けたり、
「あれは何? これは何?」と絶え間なくはしゃいでいる。

私は、それを周りに悟られないように、それとなく躱している。

街中で目に見えない妖精さんと会話しているなんて、それこそ変な人だ。

出来れば大人しくしてて欲しい。 かといって、この良く分からない生き物に対しても、私は強く言うことが出来ない。

私は今日ほど、自分の優柔不断な性格がこれほど恨めしく思ったことはない。

……正直、勢いで買ってしまった事はちょっぴり後悔している。

***

フリーBGM「SAD」/作(編)曲 : オオヒラセイジ
• DOVA-SYNDROME公式 作曲者 オオヒラセイジ

ようやく帰宅して自室のドアを閉め、ベッドにゴロンと横になる。

「……疲れたぁ!」

カバンを置いて、私は一人愚痴る。
カバンからそっと『カリスト』のカードを取り出し、机の上の写真立てに何となく飾ってみた。

『ここがお姉ちゃんのお部屋なんだね!』

ぽわん、とカードから光の粒子が溢れ出し、手のひらサイズのカリストが再び姿を現した。
彼女は羽をパタパタと動かして、私の顔のすぐ横、枕の上にふわりと着地する。

「そうだよ。自分の家みたいに好きにくつろいで良いからね」

『うんっ! えへへ、暗い箱の中から出してくれてありがとう! お姉ちゃんのお部屋、すっごく居心地いいよ!』

ニコニコと無邪気に彼女は笑う。

どうして、この子はこんなに無邪気に楽しそうに笑うのだろう。
…色々と振り回された気はするけど、不思議と悪い気もしなかったのは事実だ。

この笑顔を見ていると、さっきまでの友人たちとの窮屈な時間が嘘のように、不思議と心がスッと軽くなる気がする。

『……でもね、お姉ちゃん。わたし、さっきお店の中で見てて、ずっと不思議だったの』

「え? 何が?」

妖精さんはコテンと首を傾げ、大きな瞳で私を真っ直ぐに覗き込んできた。

『お姉ちゃん、お友達と一緒にお話ししてる時、どうしてあんなに苦しそうなお顔で笑ってたの?』

「……なにが?」

妖精さんはまるで私の心を見透かしたように、吸い込まれそうな瞳でじっとこちらを見つめる。

『本当は、お友達と一緒に買ったカードも、男の子のお話にも、全然ワクワクしてなかったでしょ?
なのに、どうしてみんなに合わせて、好きでもないものを「好き」って言うの?』

痛いところを突かれた。

純粋な妖精の目には、私の処世術はどう映っていたのだろうか。
嘘つきで、臆病で、滑稽に見えたかもしれない。

――そんなことないよ。私は、みんなとカードで遊ぶのが楽しみなんだよ。

心の中のモノクロが、私に都合の良いセリフを教えてくれる。

――私も、みんなと同じでカッコいい一ノ瀬くんが大好きなんだよ。

いつも通り、私はこの声に従って言葉を紡ぐだけだ。 だけど。

『お姉ちゃん?』

……この純真な瞳を見ていたら、どうしてか口が動かなかった。
きっと、自分の部屋にいるから油断していたのだろう。
或いはこの純粋な存在には、別に喋ってしまっても問題ないと高を括っていたのだろうか。

私はぽつり、ぽつりと、全く違う言葉を紡いだ。

「……合わせないと、ひとりぼっちになっちゃうからだよ。」

私は天井を見上げたまま言った。

「私がいるグループは、みんな流行りに敏感で、キラキラしてるの。
その中で『私はそれに興味ない』なんて言ったら、空気を悪くしちゃうでしょ。」

そう、これはみんなが当たり前に守っているもの。
仲のいいグループであり続けるために必要な嫌われないための処世術。

「だから、みんなが好きって言うものを好きになるの。
村人Aみたいに目立たずやり過ごすの。
それが一番安全で、賢い生き方なんだよ」

『村人A……?』

「そう。自分の言葉じゃなくて、誰かが用意してくれた台本に従うの。
でもね、そうやって誰かの真似ばかりしてるうちに…私、自分が本当に『好き』って言えるものが、何一つなくなっちゃったんだ。」

空っぽな胸の内。
心から熱中できる夢も、愛せるものもない。
ただ時間だけがモノクロに過ぎていく毎日。

自嘲気味に笑った私の頬に、ふわりと、柔らかな小さな光が触れた。
妖精さんの両手が、私の頬を包み込もうとしていた。
質量はないはずなのに、不思議と温かかった。

『お姉ちゃんは、空っぽなんかじゃないよ』

「え……?」

『だって、あんなにたくさんカードがあった中で、わたしを見つけてくれたでしょ? わたしの歌を「綺麗」って言ってくれたでしょ?』

カリストはベッドから飛び立つと、机の上に置いてある自分のカードの上に降り立った。

『お姉ちゃんに心から「好き」って言えるものがないなら――』

妖精さんは、大きく息を吸い込んで、弾けるような声で言った。

『わたしが、お姉ちゃんの「大好き」になるよ!』

そう宣言すると、カリストは満面の笑顔で、ステップを踏み始めた。
誰もいない静かな夜の部屋が、彼女にとっては最高のステージだ。

『お姉ちゃんが退屈しないように。
お姉ちゃんが、毎日キラキラした気持ちになれるように!
わたしがお姉ちゃんのことを想って、一生懸命、歌って踊るの!』

クルクルと回りながら、彼女の背中の羽から星屑のような光がキラキラと舞い散る。

ショーケースに並べてもらえなかった、小さな小さな妖精さん。
でも、今の私にとっては、どんなトップアイドルよりも眩しくて、どうしてか目が離せない。

『わたしは、みんなにキラキラを届けるアイドルだから!
だから、もう一人で寂しい顔しないで!』

一生懸命に私を励まそうと、小さな体で全力のパフォーマンスをしてくれる彼女を見ていたら。
胸の奥で固まっていた冷たい何かが、じんわりと溶けていくのを感じた。

「……ふふっ」

『あ! お姉ちゃん、今笑った!』

「だって……観客が私一人だけのアイドルなんて、バカみたい」

口ではそんな憎まれ口を叩きながらも、私の視界は少しだけ滲んでいた。

どうでもよかったはずのカードゲーム。
でも、この小さな『推し』の笑顔をずっと見ていられるのなら。
もう少しだけ、このゲームに真剣に向き合ってみるのも悪くないかもしれない。

胸の奥に灯った、確かな温もりを抱きしめながら。
私は『カリスト』の初めてのステージに小さな拍手を送った。



第四章:「ハズレ」なんて言わせない

空飛ぶクジラは夢を見る /作(編)曲 :町田キリコ
「空飛ぶクジラは夢を見る」 | キリコノオト

翌日の昼休み。
教室の後ろの席で、友人たちがキャーキャーと黄色い声を上げていた。

その中心には、涼しげな顔つきでスマートフォンをいじっているクラスの有名人――一ノ瀬くんがいる。

「一ノ瀬くん、『HorizonNotes』やってるんだよね? 私たちも昨日から始めたんだー!」

「へえ。そうなんだ」

一ノ瀬くんは画面から目を離し、少しだけ興味深そうにこちらを見た。

「どんなカード買ったの? デッキ見せてよ」

「うんっ! 私はこれ!」

友人が得意げに見せたのは、昨日ショーケースに飾られていた高額カードだった。

「『ヘリオス』か。
今の環境トップだね。
扱いやすいし、汎用性の高さは申し分ない。
いいカード選んだね。」

「やったー! 一ノ瀬くんに褒められちゃった!」

一ノ瀬くんに「正解」の太鼓判を押され、友人たちはさらに盛り上がる。

「推華のも見てもらいなよ! ほら!」

「え、あ、うん……」

急に話を振られ、私はカバンの中からスリーブに入れた『カリスト』のカードを恐る恐る取り出した。

一ノ瀬くんは私のカードを受け取ると、ふむ、と少しだけ眉をひそめた。

「……『カリスト』?」

「う、うん……」

「悪いけど。これ、デッキから抜いた方がいいよ」

その、あまりにも冷たく、迷いのない言葉に、私は息を呑んだ。

「サポート特化のアルカステラだけど、単体の性能は低過ぎる。
おまけに自身は攻撃性能ゼロだから、盤面に干渉する力もない。
…ハッキリ言って、観賞用にしかならない『ハズレ』カードだよ。
初心者が使うならもっと使いやすいカードにしないと。」

淡々と、ロジカルに。
一ノ瀬くんはカードの『強さ』という純粋な基準だけで、カリストをバッサリと切り捨てた。

「えー! そうなんだ。推華、ドンマイ!」

「今日またお店に買い直しに行こ! 私の余ってる強いカードあげよっか?」

友人たちが悪気のない言葉で、私を慰める。

――そうだね。一ノ瀬くんの言う通りだよ。
――買い直そっか。教えてくれてありがとう!

いつものように、私の心の中のモノクロが自分に都合の良いセリフを導き出してくれる。

大丈夫、いつも通りそれとなく躱せばいい。

そうやって笑って、カリストを机の引き出しの奥底にしまい込んで、すべてを無かったことにする。

…あとで、カリストにはコッソリ私の方でフォローすればいい。

ーー大丈夫。私はあなたの歌と踊りが大好きだから。
ーー一ノ瀬くんも悪気があっていったわけじゃないんだよ。カリストにはカリストの良さがあるよ。

そう、私が二人の間を取り持って言葉を紡げばそれで円満解決だ。

誰も不幸にならない。
きっとそれが一番賢くて安全な立ち回りなんだ。

…でも。
私の頭の中に、昨日の夜、私のためだけに満面の笑顔で踊ってくれたカリストの姿がフラッシュバックした。

『わたしが、お姉ちゃんの「大好き」になるよ!』

誰にも見られず、ストレージの箱の底で、ずっと一人で歌っていた小さな妖精。

彼女を「ハズレ」だと認めてしまったら。
それは、私自身がやっと見つけた、初めての「好き」という気持ちごと、ゴミ箱に捨てるのと同じだ。

「……ちがう。」

ポツリと、声が出た。

「え? 推華、なんか言った?」

「ちがうっ……!」

私は、一ノ瀬くんの手からカリストのカードを奪い返すように、ギュッと両手で握りしめた。

沈黙の螺旋 /作(編)曲 :甘茶の音楽工房
フリー無料のBGM素材・音楽素材「甘茶の音楽工房」

「カリストは……ハズレなんかじゃないっ!」

自分でも驚くくらい、大きな声だった。
突然大声を上げた私に、友人たちも、周りにいたクラスメイトたちも一斉に静まり返り、ポカンと口を開けてこちらを見ている。

手が震える。
心臓がうるさいくらい鳴っている。

みんなの視線が痛い。
怖い。
でも、カリストのカードを握る手だけは、絶対に緩めたくなかった。

「……カードゲームには、弱いカードと強いカードがある。」

静まり返った教室で、一ノ瀬くんだけが冷静な声で返してきた。

「ゲームである以上当たり前のことを言っただけだ。
確かに、世の中には『ファンデッカー』と呼ばれる、自分の愛着があるカードで戦うプレイヤーもいる。
でもさ…正直、オレはそういう連中が嫌いなんだよね。」

一ノ瀬くんは冷たいまなざしのまま言い切る。

「勝てる手段を切り捨てて、好きだからという理由だけで弱いカードを使うのは、真剣にやってる相手を舐めてるとしか言えない。
弱いカードに価値なんかないんだよ。」

ーーー一ノ瀬くんの言う通りだよ。

胸の中のモノクロが木霊する。

ーーー可愛かったから買ったんだけど、確かに可愛いだけならカードである必要なんてないよね。

何度も何度も、私に都合の良いセリフを教えてくれる。

ーーー一ノ瀬くん、物知りだね。だったら私もカリストじゃなくてヘリオスっていう子にしてみようかな?

…うるさい。

ーーー私、カードゲーム強くなりたいなぁ。
ねぇ、一ノ瀬くん。カリスト抜いたら何か他にオススメのカードはないかな?

カリストより強いカードはたくさんあるかも知れない。

カードが強い人にとって、カリストは価値がないのかも知れない。

でも…私にとってカリストは

「じゃあ、証明する……!」

私は震える顔を上げ、一ノ瀬くんを真っ直ぐに睨みつけた。

「私が、この子の価値を証明する。
…来週の大会、一ノ瀬くん出るんだよね?
そこで私と勝負して!」

「推華!? あんたルールもまだ分かってないのに……!」

「カリストは、誰がなんと言おうと私の『推し』なの!
この子がどれだけ凄いか、私が絶対に見せつけるんだから!」

静寂。
一ノ瀬くんは、まるで未知の生物でも見るかのように私の目をじっと見つめ返し…やがて、小さく鼻で笑った。

「……へえ。言うね。」

彼はつまらなそうにしていた先程までとは違い、微かに挑戦的な光を瞳に宿していた。

「いいよ、受けて立つ。
ただし、手加減は一切しない。
君の言う『推し』がどれだけ通用するか、バトルの中で証明してもらうからな。」

こうして、ルールすらまともに知らない私が。
大会優勝常連の強豪プレイヤーに、クラスの前で宣戦布告をしてしまったのだった。



第五章:ふたりきりの秘密のレッスン

フリーBGM「The Window Overlooking All Things」/作(編)曲 : brightwaltz
• DOVA-SYNDROME公式 作曲者 brightwaltz

「えーっと、アルカステラ3人とスペルカード30枚でデッキを組む。
リーダーのアルカステラのHPが0になるか、山札がなくなった時に行う再構築(ライブラリアウト)を8回やっちゃったら負け……」

その日の夜。
私の部屋の机の上には、買い集めたばかりのカードの束が山積みにされていた。

私はスマートフォンの画面をスクロールしながら、ブツブツと呟く。
見ているのは、「note」というサイトで公開している、初心者向けのルール解説記事だ。

「自分の番が来るたびにまず手札が5枚になるまでカードを引けて、
手札のカードを『エーテルエリア』に送ることで、カードを使うためのコスト(エーテル)になる……。

カードや技を使うにはこのエーテルが必要。

なるほど、手札をガンガン使ってエーテルをやり繰りするゲームなんだね。」

『うんっ! 大正解! お姉ちゃん、覚えるのすっごく早いね!』

机の上のスマートフォンスタンドを即席の「お立ち台」にして、
カリストがパチパチと小さな手を叩く。

一ノ瀬くんにあんな大見得を切ってしまった以上、絶対に負けるわけにはいかない。

とはいえ、私はカードゲームの「カ」の字も知らない正真正銘の初心者だ。

まずはネットの記事とカリストのレクチャーを頼りに、基礎中の基礎を頭に叩き込んでいるところだった。

「基本のルールは分かったけど……問題は、どうやって一ノ瀬くんに勝つかだよね。
彼の相棒の『ヘリオス』は、単体ですごく動いてきて、火力の高いカードらしいし。」

『うーん……。
わたしは自分から攻撃するのはすっごく苦手なの。
その代わり、魔法の歌でみんなをサポートするのが得意なんだけど…』

カリストは少しだけ困ったように眉を下げる。

「そう言えば、クラスというのがあったよね。
アルカステラやスペルカードにはこのクラスが設定されていて、
個別の能力があるとか。
えっと…カリストのクラスの
アウラ・コンポルタの固有能力……『共鳴(きょうめい)』だね」


私は手元のカードの束から、カリストと相性の良いスペルカードを一枚抜き出して、じっと見つめた。

カードの名前は『ソング・オブ・マナ』。

綺麗なドレスを着た少女が、祈るように歌っているイラストが描かれている。


「…この記事によると、このクラスのアルカステラがスペルカードを使うたびに『共鳴値』っていうのが加算されていく。
そして、その数値に合わせてカードの効果がどんどん追加されていく…」

『そう! お姉ちゃんが応援(スペルカード)を届けてくれるたびに、
わたしの歌の力がどんどん強くなっていくの!』

カリストの言う通り、カードのテキスト欄には複雑な条件が書かれていた。

・効果: あなたは山札の上からカードを2枚ドローする。その後、手札のカードを1枚デッキに戻す。
《共鳴:3》 セメタリーにあるカードを1枚エーテル変換する。
《共鳴:5》 山札の上からカードを1枚ドローする。


「なるほど。
最初はただのカードを引いたりする効果だけど、
前に別のスペルを使って『共鳴値』を3や5まで溜めてから使えば、失ったエーテルを回復したり、追加でカードを引けたりする。
…上手く繋がれば、連鎖的に凄い効果を発揮する爆発力があるんだね。」

『うんっ! ライブ会場で、みんなのコール&レスポンスがどんどん大きくなっていくみたいに、歌の熱気が最高潮に達するの!』

カリストは嬉しそうにクルクルと回りながら説明してくれた。

確かに、決まれば物凄いポテンシャルを秘めている。
でも――私は記事の続きと他のアウラ・コンポルタクラスのカードのテキストを見比べながら、小さく息を吐いた。

「……これ、すごく難しいね」

『……えっ?』

「どの順番でカードを切っていくか、多分すごく頭を使う。
それに、もし一ノ瀬くんが妨害カードを使ってきてこちらのスペルを無効化されたり、テンポを崩されたりしたら…
こっちのプランが全部崩れちゃう。」

初心者なりに、このクラスの弱点が見えてきた。

相手の妨害を予測し、完璧な順番でカードをプレイし続けなければならない、極めてテクニカルで脆い戦術。

…それに、一ノ瀬くんが言っていた「扱いづらい」という理由も、カリスト自身の能力テキストを読んでようやく理解できた。

「カリストのリーダースキル『ボルテージ』。
ターン終了時に共鳴値が2以下……『ローテンション』だと、次のターン、味方全員の攻撃力と防御力が0になっちゃうんだね」

『うぅ……ごめんなさい。
わたし、ライブが盛り上がらないと、周りのみんなの足まで引っ張っちゃうの……』

しゅんと羽を落とすカリスト。
一ノ瀬くんが「初心者が使うと何もできない」と言い切ったのは、この強烈なデメリットのせいだ。

「……お姉ちゃん。
やっぱり、わたしじゃ……ヘリオスには勝てないかな。
わたし、難しいことよくわかんないし、一人じゃ戦えないし……」

「何言ってるの。勝てるよ。」

私は、不安そうに見上げてくる彼女の小さな頭を、指の腹でそっと撫でた。

「一ノ瀬くんは、カリストを『盤面に干渉できないハズレ』って言った。
それは彼が、カード1枚の強さしか見てないからだよ」

私はカリストのカードの、その先のテキストを指差した。

「この『ボルテージ』、共鳴値が6以上の『テンションMAX』までいけば、
味方全員のステータスがプラス10されて、毎ターンカードを追加で2枚も引けるようになる。

支援スキルの『ステージ・イン!』も味方を強化できる……カリスト、これって凄いことだよ。」

『え……?』

「共鳴は、カリスト一人の力じゃない。
私が完璧なタイミングでコールを届けて、カリストがそれに応えて、他のアルカステラたちに最高のパフォーマンスをする。

プレイヤーとみんなが二人三脚でステージを作り上げるためのシステムでしょ?」

私は机の上に散らばったスペルカードと他のアルカステラを、
一つ一つ、カリストの周りに並べていく。

「それに、相手のヘリオスも奇しくも同じアウラ・コンポルタクラスだ。
つまり、カリストの弱点の一部はヘリオスの弱点でもある」

『お姉ちゃん……』

「一ノ瀬くんに、カリストの『歌』を途切れさせたりなんかしない。
私が絶対に、カリストが一番輝く完璧なセットリスト(戦術)を作ってみせるから」

そうだ。強いカードを一枚ポンと出すだけの戦い方じゃない。

カリストを深く理解し、彼女のサポートを信じて、最高のタイミングでコール(応援)を送り続けること。

それこそが、一ノ瀬くんの冷徹な定石を打ち破る、私たちだけのプレイングになるはずだ。

「よしっ、そうと決まれば特訓だ!
共鳴のルート、妨害された時のパターンも含めて一晩中考えよう!」

『うんっ! わたし、お姉ちゃんのためなら、頑張るよ!』

夜はまだ長い。
これは、ルールすらまともに知らない初心者の私が、私だけの「推し」を世界で一番輝かせるための、秘密のレッスンだ。



後半へ…続く!

▼後編

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