がんサバイバー | 『18年生きた』と聞いた日
【第12話】
おとんとおかんに病気の説明を簡単に済まし、
翌日、家に帰った。
よもぎ
「やっとおわったわあ。
案外すんなりおわったで。
さすがに“がん”とは刺激が強いから
ゆわんかったけどな」
ばせおくん
「そやなあ。
さすがに病気知らずの高齢者に
『がん』とかいうたら、
どうなるかわからんよなあ」
よもぎ
「ん。
とりあえず、
どうしてもいわなあかんように
なってからにしよ思てるから」
ばせおくん
「それがいいなあ。
両親にとっても、
よもぎにとってもな」
そう。
両親には、
まだ『がん』とはいっていない。
病気で入院も手術も、
家族の誰ひとり経験したことがない、
健康一家だった。
だから“大病”というだけでも、
もう十分大騒ぎなのだ。
『がん』なんていったら
どうなるかわからない。
きっと、
もっと大騒ぎになる。
(どうしてもいわなあかん時まで、
なるべくいわんようにしとこ。
そのほうがお互い、
ストレスたまらんもんなあ。
……けど、
さすがに抗がん剤で坊主なったら、
ばれるかなあ~)
ふふっ。
ちょっとだけ、そんなことを考えた。
とりあえず今回は、おとんとおかんには
内緒にしとくことにした。
その日の午後、
歯医者へ向かった。
まだ入院日は決まっていないが、
手術前に、歯石の除去や歯槽膿漏、ぐらつく歯
などの確認と治療をしておかないといけないらしい。
なんや病気になったら
歯まで心配せなあかんのか。
忙しいなあ。
そこの歯医者さんは、
2か月に1回、
歯の掃除で通っている病院だった。
担当は、
やさしくてかわいい女性の先生。
よもぎ
「急にがんが発覚して、
手術することになったので、
歯の診察お願いします」
先生
「えっ……がんですか……
わかりました。
ほしのさんの歯、一本、虫歯で
半分だけ残している歯があるので、
それ抜きますね。
父がなんで半分だけ残してたのか、
ちょっとわからないんですが……」
先生のお父さんは、
以前この歯医者さんをしていた先生で、
今は娘さんが後を継いでいる。
よもぎ
「たぶん、
まだ使えるからやったような……
なんか歯医者さんにも
“抜く派”と“残す派”があるって
昔きいたことあるんですよ。
ここの病院は
残す流派っていうてたような……
かなり前なんで、
あんまり覚えてないですけど……
じゃあ抜いてください」
先生
「わかりました。
実は……うちの父も、
がんだったんです。
がんになって、
18年生きたんですよ」
よもぎ
「えっ!!!
18年ですか!!?
そんなに
長生きできるんですね!!」
衝撃だった。
がんになっても、そんなに生きられるんや。
がんが発覚してから、ずっと沈んでいた心が、
少しだけ軽くなった。
しかもこんな近くに、
18年もガンと向き合ってた人がいたなんて。
なんか、
ちょっと希望をもらった気がした。
……わたしも、
がんばってみよかなあ。
まあ、
なにがんばるんかようわからんけど。
とりあえず歯みがきだけはちゃんとしよ
と思いながら、
その日は家に帰った。
【第13話】へつづく
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