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羞恥スコアが振り切れた、ママ薬剤師の「攻める」一日

回復期病棟で働く病院薬剤師として、
昼は腎機能とにらめっこしながら投与量を調整している。

腎機能を確認して、
薬を削るか、増やすか、タイミングをずらすか。
毎日、患者さんの体を守るための地味で地道な調整の繰り返し。

そんな私は、夜は4歳児に
「もっと積極的にバブバブして!」と要求されている。

これは、毎日繰り広げられている
『白衣を脱いだ後の、ママ薬剤師の戦いの記録』です。


ある日の回診後、主治医に声をかけられた。

この薬、しっかり効かせたいんだよね。
もうちょっとだけ、攻めてもいい?どう思う?

こういうとき、私の頭は自動的に動き出す。
腎機能、年齢、体重、併用薬、直近の検査値・・・。
そして、こんな感じで返答した。


「ここまではいけます。
ただ、ここから先はリスクが跳ね上がるので……」

主治医は少し考えて、「じゃあそこで」と言った。

攻めたい主治医と、副作用リスクの間での綱引き。
どこまで攻めて、どこで引くか。
その攻め具合の調整が、
昼間の薬剤師としての仕事のひとつだ。


定時に仕事を終えて、急いで保育園に迎えに行く。

帰り道に「今日何した?」と聞くと、
「ひみつ!」と言われる。
娘の日中の行動は、守秘義務があるらしい。

家に帰れば、保育園バッグを放り投げ、
娘はすでに次のミッションに向かっている。

「ママ、赤ちゃんになって!」

……きた。

日中は主治医から「もっと攻めた処方にしたい」と言われ、
夜は子どもから「もっと積極的にバブバブして!」と言われる。

私の一日は、攻め具合の調整で終わっていく。


娘が突然、背筋を伸ばした。

「バブちゃん、行ってくるわね」

……誰? バブちゃんって誰?

「はい! やって!」

有無を言わさぬ目だった。
設定もキャラクターも何もわからないまま、
私はとりあえず口を開いた。

「ば、ばぶー……」

娘は一瞬、私を見た。
そして静かに言った。

「ダメよ。いってくるわね」

去っていった。
……採用されなかった。
医師に検査提案をして、採用されなかったときを思い出す。

気を取り直して、次のオーダーを待った。

「ママはこっちよ~」

今度は私が呼ばれる側らしい。
いつもの癖で「ばぶー」と適当に返すと、娘が言った。

「ないて!」

……泣くの?

理由もわからないまま「えーん」と泣いてみると、
娘は立ち上がり、実演し始めた。

「こうやって、追いかけながら泣くの!」

見本があった。
丁寧な実技指導だった。
『今度病院で研修するときの参考にしよう』
と、そんなことを考えていた。

しばらくして、また娘が聞いてきた。

「ばぶちゃん、これ食べる?」

「食べるバブー」

「これは大人のビールだからダメよ」

……娘の手にあったのは、ぬいぐるみだった。
ビールでもなく、食べ物ですらなかった。

めんどくさくなってきて、
「わかったばぶよー」と返した。
娘の目が光った。

「わたしもやる!」

突然、役が入れ替わった。
何がよかったのかわからない。
でも、娘の心には響くものがあったんだろう。

昼は腎機能を見ながら至適投与量を探り、
夜はバブバブの至適投与量を探っている。
どちらも正解がわからないまま、今日も調整を続けている。


その日も、バブバブ劇場は続いていた。
娘のオーダーに応えるべく、
私は床に這いつくばり、渾身の「ばぶばぶ……」を披露していた。

いつまでたっても終わらない役割。
私は振り切って、今の自分が持てるすべてのバブを放出した。

ふと、気配を感じた。

「パパ、きてくれたバブねー♡」

と振り向くと、そこには姑。

お盆にお茶を載せたまま、完全にフリーズしていた。
私もフリーズした。

そう、ここは義実家だった。
凍り付くわたしに向かって、娘だけが
「ちがう!もっと赤ちゃんっぽく!」とダメ出しをしていた。

数秒の沈黙のあと、
姑は何事もなかったかのようにお茶をそっとテーブルに置き、

「……冷めないうちに飲んでね」

とだけ言って、静かに部屋を出ていった。

触れない優しさ、というやつだと思う。

病棟では「せん妄リスク」を評価しているのに、
自宅では「姑に見られた羞恥心による精神的ダメージ」を
評価している気がした。

その時の羞恥スコアは、体感NRS(痛みの10段階評価) 8/10。 起き上がれないレベルだった。


昼の私は、薬の「効いてほしい」と「副作用が怖い」の間を調整しながら、処方の攻め方を考えている。
数字を見て、リスクを読んで、どこまで踏み込むかを判断する。 正解は、後からしかわからない。

夜の私は、娘の「もっとバブバブして」という謎の要求と、
自分の羞恥心と体力の間で、
甘やかし方の攻め方を調整している。
設定もわからないまま、とりあえず「ばぶー」と言ってみる。
こちらも、正解は後からしかわからない。

どちらも、目に見えない不安やしんどさがある。
少しでも効いてほしいと願っている点では、
同じなのかもしれない。

患者さんも。 娘も。 そして多分、姑も。


今日も私は、診療報酬にも育児スコアにも載らない
『中途半端に攻めたバブバブ処方』を、
家族というたった一人の患者に出している。

娘が大きくなっとき
「あのときのバブ、効いたよ」と言ってくれたらうれしい。
…できれば姑の前以外で。

皆さんも、子どもからの謎の要求で大火傷した(または誰かに見られてフリーズした)経験はありませんか? よかったらコメントで教えてくださいね!


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夜はバブバブの至適投与量を見誤って大火傷している私ですが、
昼の病棟では大真面目に「薬の至適投与量」と「引き算」を考えています。
専門医不在の回復期病棟で、腎機能と退院後の生活を見据えてどう薬を調整したか。プロとしてギリギリを攻めた臨床エッセイはこちら。


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