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DOACに痛み止め、どうしても使うなら何を選ぶ?

ある日、
「この人、痛み止め足したいんだけど」と主治医から相談される。

カルテを開くと、抗凝固薬(DOAC)の名前。

「できればNSAIDsの併用は避けたいです」
——そう言うのは簡単だけど、
回復期リハ病棟はリハを行って身体の機能を回復させる場所。
痛みでリハが進まないんじゃ、本末転倒だ。

さて、どう答えるのが、この患者さんにとって一番いいんだろう。

DOAC+NSAIDsと聞くと、
反射的に「危ない」とブレーキを踏んでしまう。

思いっきり踏んづけてますね💦

これはある種、
薬剤師としては正しい反応だと思います。

でも、ブレーキを踏んだその先に、
「じゃあ、どうするか」の引き出しがどれだけあるか——そこで薬剤師の価値が分かれる気がするんです。

今回は、"避けたいけど、避けきれない"この組み合わせについて、どう考えたらいいのかを、
一つの論文をもとにHONOなりに考えてみました。

そして、同じく回復期のリハ医である暮らしのリハ医K先生からコメントをいただくことができました✨

薬剤師の私とは少し違う、
医師ならではの引き出しがたくさんあったので、
あわせてご紹介したいと思います。


💡暮らしのリハ医K先生について

K先生は、回復期リハビリテーションに関わる医師。
脳卒中・脳外傷後のリハ、嚥下障害、高次脳機能障害、運転再開支援、就労支援——「病気があっても暮らしを続けるために」を信条に、現場の知見を発信されています。

病棟で薬を準備しながら、その先の暮らしまで見えている薬剤師でありたい——そう思わせてくださる先生です。

今回、私の論文解釈に快くお付き合いくださいました。本当に、ありがとうございます😌

さあ、本題にもどりましょう!

この記事は、「医療者どうしの考え方の共有」であって、特定の治療を約束するものではありません。
読んでくださった患者さん・ご家族の方には、
ぜひ目の前の主治医とご相談いただきたいと思います。


① 先週、こんな患者さんがいた

心房細動でDOACを内服している80代の患者さん。
変形性膝関節症の痛みが強く、夜も眠れず、日中のリハの意欲もすっかり落ちていました。アセトアミノフェンは使っているけれど、痛みは取りきれていません。

痛みを取ってあげたい。
でも、DOACに痛み止めを足すとなれば、
まず浮かぶのは「出血が怖い」という反射的なブレーキです。

かといって、痛みでリハが進まないのも、
その人にとっては明らかな不利益。

"使わない"以外の引き出しを、自分はどれだけ持っているだろう——そんな疑問が残りました。

🩺 医師の視点(K先生)
変形性膝関節症だけなら、荷重しなければそこまで痛くないかもしれません。ベッドで寝ている時は、もしかしたらそこまで痛くないのかなと・・・。

もし荷重していない状況で痛いのなら、
偽痛風や感染も疑います。

荷重時痛なら、薬物療法のほかに
膝装具や足底板によるアライメントの調整も検討しますよ。

——夜も眠れない膝の痛み、
と聞いて私は反射的に鎮痛薬を考えました。

でもK先生は、
「それ、本当に変形性膝関節症だけ?」と考える。

非荷重時に強く痛むなら偽痛風・感染を疑う。

薬を考える前にこそ、
大事な思考の分岐点があると気づきました💡

思考の幅がひろい!

ある日、
DOAC併用下のNSAIDsを比較した論文を目にしました。

「どうしても使うなら、何を選ぶか」に、
ひとつの材料をくれる研究です。

  • 原著論文はこちら⇩


② この論文の要点(PICOで1分)

P(患者):非弁膜症性心房細動でDOACとNSAIDsを併用開始した成人30,240例(平均72.1歳、男性56.7%)。英国とカナダ・ケベックのリアルワールドデータ。

I(介入):COX-2選択的NSAIDs(セレコキシブなど)の併用。

C(比較):非選択的NSAIDs(イブプロフェン、ナプロキセンなど)の併用。

O(アウトカム):消化管出血。

結果は、COX-2選択的NSAIDsで消化管出血リスクが低下(統合ハザード比0.63、95%CI 0.46–0.87)。相対的に約37%低いという結果でした。女性ではより明確(HR 0.50)で、男性は控えめ(HR 0.85)。年齢や個別のDOAC種類で結果は大きく変わりませんでした。

ひとことで言えば、「DOACに併用しても、COX-2選択薬の "胃にやさしい" 性質は(少なくともこのデータでは)保たれていた」ということです。

やっぱりCOX2阻害薬がいいのか??

③ この数字を「私の現場」に当てはめてみる

HR 0.63は「相対的に37%減」であって、
「誰でも37%安全になる」ではありません。
元々の出血リスクが低い人では、減る絶対量はわずかです。

そこで、全国の数字より自分の働く現場で考えてみたいと思います。仮に、回リハ病棟でDOACを飲んでいる患者さんが十数人いるとして、そのうち「痛みでどうしてもNSAIDsが要る」人は、少なく見積もってその半分といったところでしょうか。

その方たちについて、非選択薬を漫然と選ぶか、COX-2選択薬を意識して選ぶかで、出血の起こりやすさが変わってくる。

数としては多くないけど、消化管出血は一度起きればDOAC中断・輸血・リハ中断へと連鎖します。
「数人のうちの1件」を避ける価値は、決して小さくありません。

「相対37%減」を、"自分の受け持ちの、顔が浮かぶ数人" の話に置き換える——こうやって見ると、選択の意味が "自分ごと" になります。


④ 限界とバイアス(薬剤師の目で)

今度は冷静に論文を見てみたいと思います。

今回は、真面目HONOです
  • 日本人データではない:英国・カナダのデータで、体格・用量・併用薬の文化が違う。日本の高齢者にそのまま当てはまるかは留保が必要。

  • 観察研究である:傾向スコア(IPTW)で調整しているとはいえ、「COX-2選択薬を選ばれた人」と「非選択薬の人」の背景差を完全には消せない(適応による交絡)。

  • アウトカムは消化管出血に限定:COX-2選択薬は心血管リスクや腎機能への懸念が別にある。「出血が減る=安全」と単純化はできない。

  • そもそも論:この研究は「NSAIDsを使う前提での比較」。DOAC+NSAIDs併用そのものが出血リスクを上げる、という大前提は変わりません。

K先生に、医師としてNSAIDsを『使わない、もしくはより安全に使う』の境目があるのか、伺いました。

🩺 医師の視点(K先生)
——「使わない/より安全に使う」の境目は腎機能

その境は難しいですね。
腎機能障害の程度が問題になります。

eGFRがどれくらいと具体的には言えませんが、少なくとも投与後の痛みの改善と、その後の採血で腎機能障害の悪化がないかを確認します。
悪化したら中止しますし、腎障害がある方なら、投与後1週間程度で採血を入れますね。

——「腎機能で線を引く」けれど、
その線は数値で固定するより "投与後にモニタリングして判断する" というもの。

『腎障害がある方は投与1週間後に採血』という具体的なフォロー間隔も、薬剤師がモニタリング計画を立てるうえでとても参考になりました💡

K先生のコメントは、具体例がいっぱい✨

⑤ 明日からの実務に役立てるには?

この論文を、現場の言葉に置き換えてみます。

ただ、これは「私だったらこう考える」という一つの整理であって、唯一の正解ではありません。
施設の方針や患者さんの状態によって、
最適解は変わると思います。

まず順番を意識したい。DOAC患者の痛みには、

  1. まず非薬物療法・アセトアミノフェンなど、NSAIDs以外も十分に検討する

  2. それでもNSAIDsが必要なら、COX-2選択薬を候補のひとつとして検討する

  3. 使うなら短期・最少用量+(必要に応じて)PPI併用、出血徴候のモニタリングをセットで考える

薬剤師が医師に対してCOX2選択阻害薬を提案すること、そしてNSAIDsを使わない判断はあるのか、についても伺ってみました。

🩺 医師の視点(K先生)
——NSAIDsを「使わない判断」は基本ない

痛みに対して薬剤師さんからセレコックスを提案されて、気になることは全くありません。ロキソニンやセレコックスは最初の選択薬になると思います。

もちろん痛みの種類にもよりますが、
神経障害性疼痛ならリリカを選択します。

NSAIDsを使わない判断は、基本的には『ない』ですね。

——薬剤師はつい「まず避ける」から入りがちですが、医師側は「痛みの種類で適切な鎮痛薬を選ぶ」という発想がベース。

NSAIDsか/非NSAIDsかの二択ではなく、神経障害性疼痛ならプレガバリンへ、という "痛みのタイプで分ける" 軸も、改めて意識したいと思いました。

視野が広すぎる・・・さすが医師✨

そして、出血リスクについての医師の考えも伺ってみました。

🩺 医師の視点(K先生)
—ほぼ全例にPPI/H2blockerを検討する

私の場合ですが、過去に嫌な経験を複数回しているため、ほぼ全例にPPIやH2blockerを入院後に投与しています。
リスクはないだろうと思っていた患者さんでも、下血や吐血されており、おそらく入院自体がストレスをかけているのかと考えています。

——私は「必要に応じてPPI」と書いていましたが、"入院というストレス環境そのものをリスクと捉えて先制する" という発想は、薬剤師としても持っておきたい視点でした💡

患者さんをリスクから徹底防御!!

ここからは、私なりに、こんな風に言葉にしてみたらいいんじゃないかという一つの案です。

★疑義照会・処方提案の例

「DOAC併用中ですので、消化管出血リスクの観点から、非選択的NSAIDsよりセレコキシブなどCOX-2選択薬のほうがリスクが低いというデータがあります。使用は短期・最少量で、PPI併用もご検討いただけますか?」

ここで大事なのが「伝え方」です。
同じ内容でも、言い方ひとつで受け取られ方が変わる——これは医師側の本音としてとても貴重なものでした。

🩺 医師の視点(K先生)
——"ありがたい伝え方/困る伝え方"

同じ内容を伝えるにしても、提案型のほうがありがたいです。
どの職種でも同じだと思いますが、強い口調で言われると良い気はしませんよね。

例えばフェブリクを2錠2Xで処方してしまった場合に、『1日1回の薬なので、2錠1x朝にしても良いですか』と言われれば、『よろしくお願いいたします』と答えやすいと思います。

——これは疑義照会のすべてに通じる金言だと思います。
「間違っていますよ」ではなく「こうしても良いですか?」
同じ事実でも、提案型にするだけで関係性が変わります。

相手が気持ちよく動ける言葉を選ぼう!

★服薬指導の例

「血をサラサラにする薬と痛み止めは、一緒だと出血しやすくなることがあります。黒い便、いつもより強いあざ、血の混じった嘔吐があればすぐ連絡してください。市販の痛み止めは自己判断で足さないでくださいね」

★多職種共有(リハ・看護)の例

「この方はDOAC+NSAIDs併用中なので、消化管出血のサイン(便の色・貧血の進行・ふらつき)を一緒に見ていきたいです。痛みが理由でNSAIDsを使っているので、リハの痛みコントロールがうまくいけば中止も検討できると思います」

どうでしょうか?
あくまでもHONOの一案なので、
もっといい案があったら教えてください😊


⑥ 私ならこう動く

私は、DOAC患者に痛み止めの相談が来たら、
まず「NSAIDs以外で対応できないか」を一度考えてみたい。

そのうえで、NSAIDsが必要なら、COX-2選択薬・短期・最少量・PPI併用・出血モニタリングをワンセットで提案する。

K先生は、COX-2選択薬・短期・最少量・PPI併用・出血モニタリングについては「一緒です」としたうえで、こんな風に教えてくれました。

🩺 医師の視点(K先生)
——リハ医ならではの非薬物療法の引き出し

私はリハ医ですから、必要に応じて非薬物療法も検討します。
痛みの場所にもよりますが、例えば麻痺側肩の痛みなら、日頃のベッドや車いすでのポジショニングの確認、筋緊張が高ければ抗痙縮薬や振動刺激、リハ処方として温熱療法(ホットパックや赤外線)や持続ストレッチ指導などですね。

痛みの原因がどこからきているのかを考えることが大切です。

場合によっては薬だけで良くなるものではなく、日ごろの生活や筋緊張低下が重要なことも多くあります。
ポジショニングが不十分だと、いくら治療しても良くなりませんので、そこを大事にしています。

骨関節疾患の痛みは、非薬物療法も効果的だと思っています。

——私が「NSAIDs以外も検討」とひとことで済ませた部分に、ポジショニング・温熱・ストレッチ・装具という具体的な話が詰まっていました。

大事なことなので、繰り返します。
引き出しの幅が、ほんとに多い・・・脱帽です。

膝についても、温熱療法やストレッチ、アライメント調整で痛みの軽減を図っているそうです。

薬剤師の引き出しが「薬の選び方」に閉じがちなのに対し、リハ医の引き出しは "そもそも痛みの原因と環境を変える" ところまで広い——ここはぜひとも参考にしたい視点でした💡

そして何より大事なのが、
「痛みでリハが止まること」が不利益だということ。

出血を恐れて鎮痛をためらうのではなく、
「より安全な使い方」を一緒に設計する。
それが、回リハにいる薬剤師の仕事だと思うからです。

避けたい組み合わせにこそ、薬剤師の引き出しが問われる。
次にあの患者さんのカルテを開くときは、
もう言葉に詰まらずにいられそうです。


⑦ K先生へ

今回、本文のあちこちに差し込ませていただいたコメントは、すべて暮らしのリハ医K先生が寄せてくださったものです。

医師としての本音をたっぷり、
しかも具体的に書いてくださり、
私の引き出しがいくつも増えました。
本当にありがとうございました。

冒頭にも書きましたが、
この記事は、「医療者どうしの考え方の共有」であって、特定の治療を約束するものではありません。
読んでくださった患者さん・ご家族の方には、
ぜひ目の前の主治医とご相談いただきたいと思います。

  • 避けたい組み合わせにこそ、職種それぞれの引き出しが問われる。

  • 視点は違っても、向いている先は同じ

ブレーキを踏んだその先に、どれだけ引き出しを持てるか。
K先生のコメントは、その答えをいくつも見せてくれました。

感謝感謝です✨

【免責】本記事は医療従事者の臨床上の考え方を共有する目的で書かれたものであり、個別の患者さんに対する診断・治療を指示・推奨するものではありません。薬剤の選択・用量・併用の可否は、必ず主治医および担当薬剤師が患者さん個別の状態を評価したうえで判断します。患者さん・ご家族の方は、ご自身の治療について必ず担当の医療者にご相談ください。

おまけ

HONOの大好きな記事やクリエイターさんを集めたマガジンです📚。今回の記事にご協力いただいたK先生の記事も入っていますので、よかったら覗いてみてください😊


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