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その"薄い皮膚"、もう何年も続いていませんか?─褥瘡予防で薬剤師が立ち止まる"長期ステロイド"の話

リハ室に向かう廊下で、PTさんが車椅子の患者さんを押したまま、看護師さんと立ち話をしていた。

「今日、リハお休みにしたほうがいいかなと思うんですけど、どうですか?」

PTさんが、患者さんの前腕を指さしている。

「ここ、皮、めくれちゃってて。リハやってる途中で広がりそうなんです。」

私が横を通り過ぎようとしたら、看護師さんが顔を上げた。

「あ、HONOさん。いいところにいた。これ、どう思います?」

── うちの病棟では、こういう場面で、私はよく声をかけられる。
褥瘡認定をとってから、スキンテアの相談も自然と回ってくるようになった。

私自身が「呼ばれる」立場であることに、まだ少し慣れていない。それでも、こういう時に声をかけてもらえるのは、ありがたいことだと思っている。

ここに出てくる症例は、複数の症例を掛け合わせており、個人が特定されないように配慮してあります。

患者さんは、高齢女性。
脳卒中後の回復期で、入棟して数週間が過ぎようとしていた。

リウマチ治療のため、プレドニンを継続している方だった。
前腕を見せてもらう。

薄い、線状のスキンテア。

仙骨部はまだ赤くなっていない。
でも、皮膚の張りが、明らかに薄い。

「先生にも見てもらった方がいいよね。薬のこと、確認してきます。」

薬局に戻って、入院前から続いている処方を、もう一度開く。
・プレドニゾロン 
・メトトレキサート 
・葉酸
・PPI
・ビスホスホネート

リウマチの薬一式。
入院後の処方変更は、ほぼない

ステロイドは"入院後に増えた薬"じゃない。

もう何年も飲み続けている薬に対して、
いま私ができることは何か──
カルテの前で、少しだけ手が止まる。



褥瘡予防におけるステロイドの問題

前回、褥瘡予防で薬剤師が最初に見る"眠剤"の話を書きました。

シリーズの最初の記事「褥瘡予防の"正解"はどこ?」で挙げた、薬剤師が介入を検討する6項目── そのうちの2項目目、ステロイドと皮膚の脆弱性 について今日は書いてみます。

ただ、正直なところ、
眠剤の話よりも、ステロイドの話はずっと介入しにくい

『介入するかどうか、ものすごく悩む薬』というのが私の中にはいくつかあって、ステロイドはそのトップに近いところにいる。

今日は、その「介入する手前」で私が何を考えているか、を中心に書いてみます。

局所の問題を、全身の問題として考えたい。
私はそんな風に思っています。

皮膚の問題は、処方の問題でもある
──今日も一緒に考えてみたいと思います。


私が「ステロイドと皮膚」を、3つに分けて整理している理由

ここから少し、薬の話に入ります。

『皮膚』というステージで見たときの、
ステロイドの影響

"なぜステロイドで皮膚が弱くなるのか"
── これを私は、3つに分けて整理しています。

3つに分けておくと、看護師さんやPT/OTさんに説明するときも、自分の中で「今どこの話をしているか」がクリアになるから。


① 真皮コラーゲンの減少 ── 皮膚が"薄く"なる

ステロイドは、真皮のコラーゲン合成を抑制します。
長く飲んでいる方の皮膚は、見るからに薄い。
前腕や下肢の皮膚を軽く触っただけで、紙のような感触になっている方もいます。

スキンテアの出やすさ・テープ剥離での剥がれ・小さな打撲でできる紫斑

このスキンテア指針でも、
リスク薬剤としてステロイドが挙げられています。

実際問題、薬剤師側“皮膚が薄くなった”ということを判断するのはかなり難しい。
入院時に普通に見えた皮膚が、ある日「あ、薄い」と気づくのは看護師や介護士のみなさん。

私はいつも、
「なんか皮膚薄くなってきたんだよね」と教えてもらっています。


② 創傷治癒の遅延 ── "できたら治りにくい"

ステロイドは、コラーゲン合成だけでなく血管新生も抑制します。

つまり、一度できた褥瘡が、
一段階深くなりやすい

表皮剥離で済むはずだった皮膚が、
気づくと深くなってる。
深部組織損傷(DTI)のように見えていた仙骨部が、
1週間で目に見えて深ぼれしてくることがあります。

私が現場でいちばん怖いと感じるのは、ここです。

特に印象に残っているのは、
肉芽が出てきにくいこと。
滲出液はコントロールできているのに、
創底がいつまでも盛り上がってこない。

外用薬を変えても、変えても、
良性肉芽にならない
── ステロイドの患者さんの褥瘡をみていて、いちばん時間が長く感じる瞬間です。

"できた後の進行スピードと治る速度が、ステロイドの患者さんでは違う"── これは、看護師さんとも度々共有している実感です。


③ 免疫抑制 ── 感染を拾いやすい

3つめは、免疫抑制による局所感染リスクです。

ステロイドを使っている場合、創部のわずかな発赤を「経過観察」のままにしておくと、翌日に蜂窩織炎で熱が出るということが起こりえます。

バイタルが動く前にCRPだけ先に動く
というパターンもあるので要注意だと思っています。


用量と期間の目安

プレドニン換算で、私が現場で意識しているおおまかな区分を表にしてみました。

HONOはこんな風に考えていますが、
皆さんはどうですか?

6項目のうち、私がいちばん見落としやすいと感じているのは、「5mg/日未満を何年も続けている方」です。

"もう低用量だから大丈夫"と、
現場でも、文献でも、比較的軽く扱われがち。

でも、皮膚の脆弱性はのちのち効いてくる
冒頭のリウマチの患者さんも、まさにそのタイプでした。


同じ5mgでも、見え方が違う日がある

ここでもうひとつだけ、
私が現場で気にしている話を書かせてください。

回リハ病棟で長期ステロイド患者さんをみていて、
ときどき思うことがあります。

同じプレドニンでも、食事がしっかり摂れている時期と、食欲が落ちてきた時期では、皮膚の見え方が違う

── そんなふうに、感じることがあります。

しっかりとデータで切り分けられているわけではありません。

ステロイドの薬物動態が変わっているのか、
低栄養や脱水の方が先にきているのか、
私にはまだ、はっきりとは分けられない。

でも、確かに違って見える日がある。

── 食事量が落ちはじめた週から、前腕の皮膚の張りがいっそう薄く見える。
── アルブミンが3.0を切ったあたりから、創底の肉芽形成がさらに停滞している気がする。

数字で示せない感覚を、
こうしてここに書いていいのか、少し迷いながら書いています。

ただ、現場の感覚として共有しておきたかった話です。

なので、私は最近、嚥下が落ちはじめた患者さんのカルテに長期ステロイドが入っていたら、その日のうちにSTさんと管理栄養士さんに声をかけるようにしています。

「この方、嚥下少し落ちてきましたよね。ステロイド長く飲んでる方なので、栄養面の落ち込みを早めにキャッチしたくて」── と、それだけ。

介入の中身は、栄養の専門家にお任せします。
ただ、"皮膚と栄養と嚥下が、一本の線でつながっている患者さん" がいる、ということを、チームで共有しておきたい。

この共有ができているチームでは、褥瘡が"できる手前"で止まることが多いんじゃないかと思うんです。


主治医のところに行く前に、私がやる3つのこと

ここからが、今日の話の中心です。

前回は「褥瘡予防で“眠剤”を最初に見る3つの理由」を書きました。

今回は、ステロイドに関する相談を主治医に持ちかける前に、私がやっている3つの準備を整理してみました。

問いではなく、準備、と書いたのには理由があります。

眠剤は「介入する余地が比較的残っている」薬剤でした。
でも、ステロイドは違う。
だからこそ、本当に検討の土台にあげることができるだけの情報が必要なんです。そのために準備をします。


① 「主治医がどこまで気づいているか」を、先に確かめる

いちばん最初にやるのは、カルテの内容をもう一度読み直すことです。

  • 「皮膚が脆弱化している」ということを主治医が把握しているか。

  • 看護記録に、皮膚所見がどう残っているか。

── 主治医が、まだ気づいていないのか。
── 気づいた上で、減らせないと判断しているのか。

この2つは、提案の出し方がまったく違ってきます

気づいていない主治医に「減量しませんか」と切り出すと、唐突に聞こえる。
気づいているけど減らせないと判断している主治医に同じことを言うと、無神経に聞こえる。
だから、まず主治医の現在地をつかみに行きます。


② 「原疾患の活動性」を、通院歴から推測する

次に、原疾患
── 冒頭の方であれば、リウマチの活動性をできる範囲で見ます。

  • 直近の通院歴と、ステロイド用量の推移

  • CRP・MMP-3・抗CCP抗体などの推移

  • 関節腫脹・朝のこわばりに関する記載

「直近で、リウマチが落ち着いているように見える」のであれば、減量の余地があるかもしれない。
「ここ半年で増量と減量を繰り返している」のであれば、活動性が安定しておらず、減量の話を切り出すタイミングではない。

ただ、ここで一度、自分に言い聞かせます。

これは、薬剤師の知見だけで安易に判断していい領域じゃない── と。

膠原病の専門医が、何年もかけて調整してきた処方です。
カルテや情報だけを読んで、私の中で結論を出してしまうことだけは、しないようにしている。

でも、今その人がどういう状況なのかは知っておきたい

「主治医はどう判断しているのか」
「いま薬剤師として何が見えているのか」
── この2つを、自分の中で並べておく。

判断はしない。
でも、並べておく。

主治医のところに行ったときに、
判断を委ねる材料を、こちらが整えておく


③ 「減量提案」だけでなく「観察強化案」を持っていく

そして、ここが今日いちばん書きたかったことです。

ステロイドは、眠剤と違って、簡単に減らせない。
止められない。
だから、減量提案だけを持って主治医のところに行っても、たいてい通らない。

そこで私は、もう1枚カードを用意して行きます。

「もし減量が難しければ、皮膚観察の頻度を上げる体制をこちらで作りたいと思っている」というカード。

この体制を作るときに、
必ず相談するのが、褥瘡担当の看護師さんです。

主治医のところに行く前に、まず褥瘡担当の看護師さんと、こういう話をしています。

「この方、ステロイド長く飲んでて皮膚も薄くなってきてるんですけど、OHスケールの再評価を週2回に上げるのって、現場的どんなですか?」

看護師さんと一緒に、
観察強化の中身を現場でできる形に詰めていく。

具体的には、次のような形で、看護師さんと擦り合わせていきます。

薬剤師も分担しますが、
たいていは看護師さんがすべてやってくれています。
ありがたいことです。

もちろん、業務負担を考えて全例に適応とはいきません。
それでも、「この人危ない」と思ったときに『どう動くか』が決まっているだけでも安心です。

この観察強化案をもって主治医のところへいくと、
ステロイドの減量は難しい場合でも、話は前に進みます。

提案が通ることだけが目的じゃない。
"通らなかった日にも、患者さんの皮膚が守られる仕組み"を残すことが目的です。

このカードを用意するようになってから、
主治医とのやり取りが、少し楽になった気がしています。


回リハ病棟で、ステロイドは調整が難しい?

冒頭のリウマチの患者さんとは別の方の話をします。

同じく長期ステロイドで、仙骨部に褥瘡ができてしまっていた方。
準備を整えて、主治医のところに相談に行きました。

主治医からの返事はこうでした。

「HONOさん、やっぱ減らせないみたい。僕は減らしていいと思うけど、専門外だからねー。ごめんね」

── この一言の中には、現場のリアルがけっこう詰まっていると、私は思っています。

回リハ病棟の主治医は、
リハと全身管理のプロです。
でも、リウマチや膠原病の薬剤調整はもともとの専門外のことが多い。

だから、判断を保留して「調整はしない」で着地する。
これは、無責任とは違うと思っています。
触らない、という判断も、ひとつの臨床判断です。

そして、ここから先
── 膠原病内科の専門医まで確認するのは、本当に稀なケースだと思います。

たいていの長期ステロイドの方は、
「あえて調整はしない」で止まる。

回リハ病棟で私が出会う長期ステロイドの方の、おそらく大半が、そういう着地になります。
── ここで、私の提案は、いったん止まります。

皮膚が薄くなっているかもしれないという状態と、ステロイドが必要な疾患の管理。当たり前と言えば当たり前だけど、疾患管理が優先され、減量提案は通らない。

準備してきたもののなかで残るのは、観察強化案だけ。

観察を重ねていく中でも、褥瘡は改善せず、
あたらしくスキンテア予備軍もできそう…。

こういう日、私はカルテの前で、しばらく動けなくなります。

提案が通らないこと自体は、慣れている。
それでも、皮膚が確実に悪くなっていく経過を、観察強化のシートに記録しながら追いかける時間は、結構つらい。

何が正解なのかは、いまでも分かりません。

ただ、ひとつだけ、自分の中で決めていることがあります。
主治医の判断を飲み込むことと、私が何もしないことは違うはず── ということです。

減量提案は自分の中で飲み込む。
でも、観察は強化する。
褥瘡担当の看護師さんと、皮膚所見を擦り合わせ続ける。
栄養面の落ち込みがあれば、STさんと管理栄養士さんに、その都度声をかける。

「答えが出ない日」の中でも、できることだけは、続けておく。
それが、この話を書きながら、いま私が自分に言い聞かせていることです。


みなさんに聞いてみたいこと

ここまで読んでくださってありがとうございます。
残りは少しだけ、読んでくださっている方への質問と、退院後の話を置いて終わります。

👩‍⚕️ 看護師さんへ

長期ステロイドの患者さんの皮膚で、「あ、これちょっとヤバい」と感じるサインはどこでしょうか?
ありがたいことに、褥瘡担当の看護師さんとは頻回に皮膚所見を擦り合わせる体制があるのですが、それ以外の看護師さんたちがシフト中にキャッチしている何かを、もっと活用できる仕組みにしたいと思っています。

🚶 PTさん・OTさんへ

もし、リハビリを行うその方が長期ステロイド使用中だと知ったら、リハの仕方や接触の仕方を変えますか?
私の職場では、『うーん、難しいな』と言われました。みなさんの現場の感覚を教えてください。

🍵 STさん・管理栄養士さんへ

ステロイドを飲んでいる方で、食事が落ちた週から皮膚の見え方が違うという感覚は、現場で見ていて思い当たるものでしょうか?
もし「このタイミングで薬剤師から声をかけてほしい」というサインがあれば、それも併せて教えてくださるとうれしいです。

💊 薬剤師さんへ

長期ステロイドの患者さんに対して、主治医に減量提案を出したことはありますか?
ある方は、送った提案がどう返ってきたか。提案していない方は、何がブレーキになっているか。
とくに「提案まではいかないけど、観察強化だけは現場で揃えている」という方がいらっしゃるなら、その揃え方を、ひとつだけでも教えていただけると嬉しいです。

🩺 医師の先生方へ

もしも、長期ステロイドの患者さんの皮膚について、薬剤師から何か提案があるとしたら──
・どんな情報が揃っていると、先生方としては話を聴きやすいでしょうか。
・逆に、「ここから先は主治医と専門医の領域なので、薬剤師は踏み込まないでほしい」という線引きがあれば、それも教えていただきたいです。
先生方の領域を、薬剤師としてどこまで尊重して、どこから提案を出していいのか。これは、現場の薬剤師が、うまく言葉にできずに抱えている課題だと思うんです。

6つの質問のうちひとつでも、教えていただけると、とても嬉しい。「うちの現場ではこうだよ」という一行でも、私の明日からのカルテの見方が変わります。


退院した後も、ステロイドは続く

冒頭のリウマチの患者さんは、このあと、自宅へ退院していきます。
プレドニンは、退院後も続きます。積み重なってきた皮膚の脆弱性も、そのまま続きます。

回復期リハを退院していく方を見送りながら、いつも思うことがあります。

この方のステロイドは、これから何年も続いていく。
退院サマリーに「長期ステロイドによる皮膚脆弱性、観察強化中」と一行書いても、その一行が、次の医療者の手元でどう使われるかは、私にはもう見えない。

それでも、一行だけは残しておきたい。

退院した先で、いつか説明があるかもしれない。
そのときに「そういえば、回復期の薬剤師が何か書いていたな」という手がかりにさえ、なれば。

退院は、ゴールじゃない。
ステロイドも、皮膚も、その先で、続いていく。
ここまで読んで下さって、ありがとうございました。


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