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ミキサー食の患者さんのお薬、どうしてますか?

「HONOさん、この人、経管栄養から食上げになりました。」

管理栄養士さんに呼び止められたのは、
夕方の慌ただしい時間だった。

「ミキサー食になったんだけど、薬は一緒に混ぜてもらっていいのかな? ご飯の味、変わらないかな?」

手元には、食形態が変わる患者さんのお薬が並んでいて、
錠剤とカプセルと粉薬が混ざっている。

新人の頃の私なら、たぶん「粉砕できるか確認しますね」とだけ返していたと思う。でも、それだけじゃ済まないことがあるんだなと気づいてから、立ち止まって考える時間が少しずつ増えていった。

これは、ミキサー食の患者さんのお薬をどう扱うか、管理栄養士さんと一緒に考えるようになった話。



シンプルな質問

ありがたいことに、管理栄養士さんに呼び止められることは多い。

  • 食形態が変わるタイミング

  • 栄養補助食品を追加するタイミング

  • 新しい薬が始まったタイミング。

その日も、ちょうどそんなタイミングのひとつだった。

ミキサー食になったんだけど、
薬は一緒に混ぜてもらっていいのかな

この問いの裏には、
たぶんいくつもの想像があるんだろうなと思う。

これ以外にも、きっとありますよね。

そして「ご飯の味、変わらないかな」というひと言には、患者さんの食事の時間そのものを守ろうとする目線がある。
食事がおいしくなければ、患者さんは残してしまうかもしれないから。

ミキサー食に薬をかけていいかどうか。

シンプルな質問に見えて、その奥にはいくつも考えることがあるんだよなぁと、私はいつも思っている。


ご飯の味、変わらないかな?

ミキサー食に混ぜていいかと聞かれた時、
薬剤師の頭の中ではパパパパっといくつかのチェックが作動する。

パパパパっと作動するチェック項目の全体像
本当に基本的なチェックだけ。

数年前までの私は、
このチェックリストを頭の中で淡々と回していた。

徐放錠は粉砕すると血中濃度が跳ね上がるし、腸溶錠は胃で溶けると効果が落ちる、あるいは胃に負担がかかる。苦味の強い薬は粉にした瞬間に患者さんが口を開けてくれなくなるし、湿気を吸う薬は混ぜたそばから固まっていく。

このあたりまでは、たぶん多くの薬剤師が共通して気にしているところだと思う。

でも、ミキサー食の患者さんの話になると、もうひとつ気になることが出てくる。

最初に管理栄養士さんがくれたあのひと言、
「ご飯の味、変わらないかな?」というやつだ。

あの質問の先には、患者さんが食事を残してしまう可能性が潜んでいる。

もともと、食事の全量摂取ができない患者さんも多い。
全量摂取できなかった時、薬は何割入ったことになるんだろう。
苦味で食事を残してしまったら、その日の薬は飲めていないことになるんだろうか。

粉砕の可否だけでは、答えが出ない領域に入っていく。


この記事で取り上げている症例は、複数の症例を掛け合わせており、個人が特定されないように配慮しています。

二人の患者さん

もうずいぶん昔の話だけど、
ミキサー食と薬の話で、今でも思い出す患者さんが二人いる。

①認知症のあるAさん

80代の女性で、認知症があり、入院してしばらくしてから食形態がミキサー食に変わった。

内服は、認知症の薬と、便秘の薬と、不眠時の頓服。
最初は病棟で粉砕してミキサー食に混ぜていたらしい。
でも、ある時から食事を残すようになった。

看護師さんが
「ミキサーになってから、半分くらい残しちゃうんですよね」
と教えてくれて発覚した。

食事介助についていた介護スタッフさんからも
「認知症の影響で味覚が変わったのかな?」と言われた。

たしかに、認知症の影響もあったかもしれない。
でも、粉砕した認知症の薬には、けっこう強めの苦味があるんだよなぁ。

食事の最初のひと口で苦さを感じてしまって、
その後の食事全体が「美味しくないもの」になってしまったのかもしれない。

結局、認知症の薬だけは少量のゼリーに混ぜて先に飲んでもらって、食事には混ぜないことにした。

翌週、食事はまた完食できるようになっていた。


②脳梗塞後のBさん

もう一人は、脳梗塞のあとに嚥下機能が落ちてしまって、ミキサー食になった70代の女性。

入院中は錠剤でなんとか飲めていたし、
在宅介護の希望があったので、食形態もミキサーのまま退院した。

でも、退院してしばらくしてからの外来受診で、
ご家族からこんな相談を受けた。

「やっぱり錠剤が飲めないようなので、砕いてミキサー食に混ぜていたんです。そしたら、最近なんか変で…。ぼーっとしている感じなんです。」

お薬手帳を見てみると、退院のときと比べて内服の種類も量もほぼ同じ。でも、剤形と飲ませ方が変わっていた

粉砕したことで、ある薬の効きが
入院前より強めに出ていた可能性があった。

主治医と相談して、散剤への切り替えや、
簡易懸濁法の導入、いくつかの薬は減量を試した。

ご家族から「最近、また会話が増えてきた」と聞けたのは、
それから一ヶ月くらい経った頃だった。


ミキサー食になった理由を考えてみる

ミキサー食になる理由は、もちろん患者さんそれぞれにある。

脳梗塞のあとの嚥下機能低下だったり、認知症の進行だったり、加齢による筋力低下だったり、術後の一時的な変化だったり。

でも、もうひとつ、見落とされがちな原因がある。

それは、いま飲んでいる薬そのものが、
嚥下機能を落としている可能性。

他にもあると思うけど、まずチェックしたいのはコレ


抗精神病薬は錐体外路症状として嚥下に関わる筋肉の動きを鈍くすることがあるし、抗コリン作用のある薬は口や喉の粘膜を乾燥させて食塊をまとめにくくする。ベンゾジアゼピン系の薬は覚醒レベルや筋緊張を落とすことで、飲み込みのタイミングそのものをずらしてしまう。

昔の私は、ミキサー食の患者さんを見ても「ミキサー食になった理由」を薬の側から疑うことなんて、ほとんどなかった。

でも、嚥下機能が落ちた患者さんの薬の中に、嚥下を落としかねない薬が混ざっていることは、思っているより多いんです。

ミキサー食に薬を混ぜていいかどうかを考える前に、
その薬がミキサー食を呼び寄せている可能性はないんだろうか。

ひと呼吸置いて処方を見直してみる時間が、薬剤師にできる食事との向き合い方のひとつなんじゃないかなと思っている。


「ご飯の味、変わらないかな?」と最初に聞かれた時、正直、味のことなんてそこまで考えてこなかったなと思った。

どうやって薬を飲んでもらうかは考えてきたけど、
薬が入ったあとの食事がどんな味になるかは、たぶん私には見えてなかったんだよなぁ。

管理栄養士さんの目線は、いつも私の少し先にいる。

ミキサー食と薬の話は、たぶんこれだけでは終わらない。
食事と薬の間で起きていることは、
まだまだ知らないことだらけだ。

ミキサー食という一つのことから、いろんな方面に視野が広がっていく。こんな風に相談したり・されたりするのも、多職種連携の面白さなのかなと最近思うようになった。

さぁ、今日はどんなことを管理栄養士さんと話そうかな。

【簡易懸濁法のこと】
本文では深く触れなかったけれど、ミキサー食×薬の話をする時、薬剤師の引き出しの中にひとつ大事な道具がある。
簡易懸濁法と呼ばれる飲ませ方だ。

錠剤を粉砕せず、そのままお湯(だいたい55℃前後)に10分くらい浸けて、自然に崩れたものを飲んでもらう方法。

粉砕では壊れてしまう徐放性や腸溶性を、ある程度そのまま保てるという利点がある。苦味も粉砕に比べて出にくいので、食事への影響も抑えやすい。

嚥下機能や経管栄養の状況、薬剤ごとの適合性を確認したうえで使う必要はあるけど、ミキサー食の患者さんに「もう少しできることがある」と思える選択肢として、知っておいて損はないと思う。

興味のある管理栄養士さんがいたら、ぜひ病棟の薬剤師に声をかけてみてほしい。


★もう少し詳しく知りたい人へ

・倉田なおみ 編. 内服薬 経管投与ハンドブック. じほう. — 簡易懸濁法の標準的な参考書です。


・薬剤性嚥下障害については、お近くの薬剤師さんに「気になる薬があって」と相談してみるのがいちばん早いと思います。


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管理栄養士さんとの関わりから、HONOが栄養に興味を持ちました。そんな話を書いています。


仕事では患者さんのために「攻める」こともあります。それは家でも変わらない。HONOのママとしての「攻めた」一日はこちらから(なんの学びもありません!)。


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