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渡りきれない夜は、橋の途中でいい|決めることに疲れた心へ

心に、ひと呼吸の余白を。

こんにちは、ゆきのです。


決めなければいけないことが、いくつも重なる時期があります。

続けるのか、離れるのか。
伝えるのか、黙っておくのか。

誰かに相談すれば、「自分の気持ちを大事にして」と言われるかもしれません。
それは優しい言葉です。

でも、自分の気持ちがどこにあるのか、まだわからない夜もあります。

こちらに残りたい自分もいる。
向こうへ進みたい自分もいる。

そのどれもが、嘘ではない。

そんな夜、私はよく、橋のことを思い出します。
 


帰り道、駅前の古い歩道橋を渡りました。

特別な橋ではありません。
手すりには雨上がりの水滴が残っていて、指先が少し濡れました。

その日は、ある人との関係についてずっと考えていました。

近づきたい気持ちもある。
でも近づくと疲れてしまう。

離れたいとも思う。
でも完全に切ることもできない。


歩道橋の真ん中で、ふと足が止まりました。

下を車が流れていきます。
赤いテールランプが、濡れた路面に細く伸びていました。

その光を見ていたとき、ふいに思ったのです。


「ここは、どちらの場所でもないんだな」と。
 

こちら側でもない。向こう側でもない。
でも、ちゃんと足が置ける場所。


橋は途中にあります。

それでも、ちゃんと足を置ける場所です。

欄干に触れた手の冷たさと、下を走る車の音だけが、そのとき確かでした。


橋の上で立ち止まる時間を、長く「迷い」と呼んできた気がします。


早く決めなきゃ。
覚悟が足りないんじゃないか。

そうやって急かすほど、足元の感覚は遠のいていきました。

決めなければと思うほど、
本当は何を感じていたのかが、見えにくくなっていきました。


迷っているあいだ、心は何もしていないわけではないのだと思います。

こちら岸に置いてきたものを、まだ見ている。

向こう岸にあるものの輪郭を、目を細めて確かめている。

下を流れていく車の音だけが、はっきり聞こえている。

急いでひとつの答えにしないように、心が少し待ってくれているのかもしれません。


それは迷いではなく、大切なものを雑に扱わないための時間なのかもしれない。

そう思えた夜から、歩道橋の上で立ち止まることが、少しだけ軽くなりました。
 


歩道橋は、岸と岸をくっつけるものではありません。
離れたまま、行き来できるようにするものです。

人とのあいだにも、そういう橋があっていいのだと思います。

すぐ返事をしない距離。
会う時間を少し短くする距離。
今日は心の中で名前を呼ぶだけにする距離。


橋の上には、そういう“途中の距離”も置けるのだと思います。

距離があっても、断絶ではない。


あの歩道橋の上で、その夜は何も決めませんでした。

家に帰って、靴を脱いで、冷えた手を洗って、お茶を淹れました。

答えは出ていませんでした。

でも、ひとつだけ変わったことがありました。


決まらないまま、橋の真ん中にいる。
それだけのことが、その夜は、責める材料ではなくなっていました。

それだけで、呼吸が少し戻りました。


翌日も、すぐに答えは出ませんでした。
でも、焦りの質が少し変わっていました。


責める声ではなく、川の音のようなものに近づいていた。
急かすのではなく、聞いている。
そんな感じでした。
 


もし今、あなたが橋の上にいるような気がするなら。

今日は、渡りきらなくていい。

こちら岸に戻れなくても、向こう岸へ進めなくても。


欄干に手を置いて、下を走る車の音を聞くように、自分の中の音を少しだけ聞いてみる。

決めるより先に、今の自分がどこで立ち止まっているかを、感じてみる。

それだけで、今日のあなたは自分を置き去りにしていません。


渡りきれない夜があってもいい。

戻るのも、進むのも、今夜でなくていい。

欄干に手を置いたまま、
車の音を聞いているだけの夜があっても。


咲かなくても、あなたは美しい。
渡りきれないままの夜も。


ゆきの



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