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同じ場所を、ずっと縫い直してきた夜に|繕い続ける手を、少し休める日

心に、ひと呼吸の余白を。

こんにちは、ゆきのです。


深夜、スマホの光だけが手元を照らしている夜があります。

似たような言葉をいくつも開いては閉じる。

読んでいるあいだだけ、少し息が緩む気がして。閉じるとまた同じ場所へ戻ってくる。

頑張っているはずなのに、何かが足りない。
ちゃんとやっているはずなのに、どこかカラカラに乾いていく。

気づくと、首のうしろだけが固くなっていて。
親指だけが、画面の上を滑り続けている。

そんな夜を、私も知っています。


繕う手と、すり切れていく布


ある夜、仕事帰りに商店街を歩いていると、まだ明かりのついた手芸店が目に入りました。

引き寄せられるように入ったのは、なぜだったのか今でもよくわかりません。

ただ、あのとき私の手も、何かに針を入れ続けて疲れていたのかもしれません。

店の奥に、縫いかけの布が何枚か並んでいました。
ひとつは、まだ形になりきっていない布。
もうひとつは、同じ場所を何度も繕った跡が残る布。

そのとき、店主さんが布地を広げながら、独り言のように言ったのです。


「同じ場所を何度縫い直しても、布はいつかくたびれるんですよ」


その言葉が、胸の奥に残りました。


「消耗」と「努力」の似ているけれど違う顔


外から見れば、どちらも同じ針の動きです。

糸を通して、手を動かして、形を守ろうとしている。


けれど、少し違う。

一針ごとに少しずつ広がっていく布と、
同じ場所へ何度も針を戻されて、だんだん薄くなっていく布。

その違いを見たとき、私はしばらく動けませんでした。


消耗と努力は、外から見ると、とても似た動きをしています。

どちらも手を動かして、どちらも疲れていく。
だから、気づきにくいのかもしれません。


繕うことが悪いわけではありません。
ほつれたままではいられない夜もあります。

そのときの自分には、それしか選べないこともあるのだと思います。
だから私は、繕ってきた時間を、間違いだとは思いません。


ただ、もし「頑張っているのに、満たされない」と感じる夜があるなら。
もしかしたらそれは、同じ場所へ、ずっと針を戻し続けていたからなのかもしれません。


「頑張る」という名の足踏み


私は以前、同じ職場で、同じ摩擦を何度も縫い直していました。

言い方を変える。

受け取り方を変える。

傷つかなかったことにして、その場を過ぎる。

また次にほつれたら、同じところへ針を入れる。


進んでいるつもりでした。

でも本当は、形を変えないまま、同じ場所だけを守り続けていたのかもしれません。


布は少しずつ薄くなっていたのに、私はまだ「大丈夫」と思い続けていました。

それが、あのときの私にできる精一杯だったのだと思います。


針を置く、という勇気


17回目の転職を決めた夜のことを、今もときどき思い出します。

ここまで縫い直してきたものを、手放すようで怖かった。
また同じように迷うのではないかと、手が止まりました。

でも、あの夜、手放したのは布そのものではなかったのだと思います。

ほつれた場所で、ずっと力を込め続けていた針を、いったん置いただけだったのかもしれません。


場所を変えることは、布を捨てることではない。
今まで覚えてきた指先の感覚まで、なくなるわけではないのだと思います。


そのことを、私はあとになってから少しずつ知りました。

もちろん今も、完全に信じきれているわけではありません。

新しい布を前にすると、「本当にここでよかったのかな」と立ち止まる夜があります。


それでも、以前と少し違うのは。
すぐに縫い直そうとしなくなったことです。

ほつれを見つけても、まず布を広げてみる。
どこが擦れているのか、どこがまだ残っているのか、少し離れて眺めてみる。


それだけで、指先の力が少し抜けることがあります。


今夜、少しだけ手を緩める


今夜、手を洗うときでも、カップを持つときでも。
ふと自分の手を見る瞬間があったなら。
指先を、少しだけ緩めてみる。


今日いちばん多くの力は、どこへ向かっていたのだろう。

答えが出なくても大丈夫です。
指先が少し開いただけで、今日はもう十分かもしれません。

新しいものを縫うためだったのか。

同じほつれを守るためだったのか。

あるいは、誰にも気づかれないよう、誰かの傷みをそっと抱えていたためだったのか。

問いがそこに残ることも、布を広げるひとつの動作なのだと思います。


繕えない夜も、そのままに


縫えない夜にも、布地はそこにあります。

今日はもう針を置こうと思う夜があっても。

形にならないまま眠る夜があっても。

あなたの中の布が、なくなってしまうわけではありません。


その手は、ここまで何度も何度も布を守ってきた手です。

薄くなった場所に気づけるのも、長いあいだ見つめてきたからなのだと思います。


ここは、繕えない夜も、そのまま置いていける場所でありたい。


咲かなくても、あなたは美しい。

また、ここで。


ゆきの



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