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星の欠損被害についての査問 /ショートショート

 前の話







「ご苦労だったな」
「いえ、仕事ですから」

星を割った男を捕らえ、漸く十分な睡眠を貪った翌日。俺は上司に呼び出されていた。

「お前が捕まえたあいつが犯人だったよ。本人がそう言ったし、星に残されていたノミの痕跡とお前が回収したノミの形が合致した」

俺を自分の勤務室に呼び出した上司は重厚なデスクから立ち上がり、同室に置かれたソファに座った。そしてテーブルを挟み、対面する形で置かれているソファに俺を座るように促す。言われるがまま座ると、想像以上に沈み込み、左手をついた。
 「何か飲む?」という上司に「おかまいなく」と返し、姿勢を正した。

「今までは仕事中に外殻をヤスリで削っていたが、黄昏燕が一斉繁殖する際、星の外殻を巣材として利用するという話を聞いたらしい。その時なら自分が割っても気付かれないだろう、と。」

お前の推理通りだな。そう言ってニヤつく上司から目を逸らし、溜息を吐く。

 正直、推理という程のものではない。星が割られた翌日の見回りで発見した、削られた痕跡のある星があったのはあいつが担当しているブロックのみだった。
 星磨きがその痕跡を残していたのなら、その後に仕事をする星注ぎが気付かないのはおかしい。そして、そもそも星磨きが犯人なら削った後に自ら磨けば何の痕跡も残らない。なら、その痕跡を残したのは星注ぎしかいない。

「動機も喋ってくれたぞ。聞きたい?」
「いえ、特には。俺が任されていたのは犯人を捕らえる事でしたので、それ以外の事は教えていただかなくて結構です」
「まあ、そう言うなって。聞きたいだろ? な?」
「いえ、別に」
「じゃあ、勝手に喋るわ」

なら聞くなよ。とは言わず、口を噤む。すると、彼はニヤニヤと釣り上げていた口元を引き締め、俺を見る。

「“アポローンが欲しかった”」
「アポローン?」
「ああ。瓶に入れられた金属のような光沢を持つ細かい粉の事らしい。それを一舐めするとふわふわとした酩酊感と恍惚感が溢れるんだとさ」
「麻薬ですか?」
「多分な。既に男の家から押収して研究室に回してある」

麻薬の類はいろいろと聞いたことがあるが、アポローンというのは聞いたことがない。
 新しく出回り始めたものだろうか。そういうものは規制の抜け道を通っていることもあるから、取り締まりが出来ない可能性もある。

「その粉と星を割ったことの関係は?」
「木曜の夜更けにとある路地裏に星の外殻の破片を持って行くと、ある人物がその粉と交換してくれるんだってよ」
「麻薬の対価になる程、星の外殻に価値があるとは思えませんが」
「そうなんだよな~」

 外殻の成分は近くの山に落ちている火成岩と大差はない。
 今回、黄昏燕に割られた星たちの外殻も、その火成岩と少量の金属類を混ぜ合わせたもので修復される。当然、男に割られた星もそうだ。

「不思議だよなぁ?」
「確かに不可解ですね」
「交換してくれる相手っていうのも黒いヴェール、黒い手袋、声も中性的。男か女か、年齢もわかんないってよ。」
「そうですか」
「そっからは何か呻きだしちゃってさ、話にならなかったわ。おクスリの離脱症状かね」

 ただの個人的な悪ふざけで済めばよかったのだが、麻薬か。ヴェールの人物のバックには大きな組織があるだろう。
 男もこれまでに幾度も犯行を重ねていたようだし、他にもそれをしている奴がいるかもしれない。
 さっきも言ったように、ヤスリで削る程度なら不審に思われることは少ないし、星磨きにそれをされたらまず気付けない。

「男が落ち着いたら詳しく話を聞くことになっている。特に相手と会っていたっていう路地裏の場所はしっかり教えてもらわないとな」
「そうですね。その相手も組織としては末端の人間でしょうが」
「そう言うなよ。何事も一歩ずつだろ?」

薬の売人は警察に目を付けられやすいし、捕まりやすい。そういうのは末端の人間を蜥蜴の尻尾にして終わりだ。



「で、だ。お前には星の外殻が何に使われているか調べてほしい」
「その組織についてではなく?」
「ああ。言っちゃあ悪いけどよ、外殻なんて俺らにとっては掃いて捨てるようなもんだろ? 実際、磨いた時に出る粉とか、集めてる奴なんかいない。
だが、そいつらにとっては麻薬と交換できるくらいに価値があるものだ。何らかの金稼ぎの道具になっている可能性が高い」

麻薬も幾億の金が動く巨大マーケットの商品だ。それと交換できるということは星の外殻も麻薬に匹敵する程、もしくはそれ以上に金が稼げると考えるのが妥当だろう。

「今回、俺らが男を捕らえた所為でその供給が途絶える。組織は他の星磨きもしくは星注ぎに接触してくるだろう」
「それを防げるといいのですが」
「まあ、難しいだろうな。なら、その大本を断ってしまいたい。その為には“なぜ星の外殻で稼げるのか?”を知る必要があるだろ?
その組織から外殻を買っている奴がいるはずだからな、そっから調べられそうじゃないか?」
「星の外殻そのものに価値がある可能性は? わけのわからない宗教とか」
「お口が悪いデスヨ。……まあ、それならそれで信者がどっかにいるだろ」
「それを俺に調べろ、と」
「ああ。しばらくお前の担当ブロックは他に振っとくから、そっちに専念してくれ」
「承知致しました」

男に吐かせたら連絡するわ。の声を背に部屋から出た。




 いつからこんな面倒な組織に目を付けられていたのか。被害が拡大する前に決着させなければ。まずは、連絡が来るまでアポローンについて調べておくか。
 アポローンといえばオリュンポス十二神の一柱だが、何か関係はあるだろうか。古い文献でも漁ってみるか、と資料室に向かうのだった。





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