【Bubble×POS】ホールとキッチンは“違う景色”を見ている 現場で揉んで分かったUI設計のリアル ~中小ホテルマンのDX奮闘記vol.6-4~
前回は、Bubble×PMSで作った自作POSを運用して見えてきた「複利の効能」をお伝えしました。
今回はその続きです。 運用が安定してきた今、一番ハードルが高かったのは技術じゃなく、「ホールとキッチン、両方の意見をどう汲み取るか」 でした。
Scene0:運用が落ち着いてきた頃
ホテリエちゃん 「コーギーマネージャー、POS自体はもう問題なく動いてるんですけど……」
コーギーマネージャー 「いい流れだね。で、何が引っかかってる?」
ホテリエちゃん 「ホールとキッチンで、“欲しい画面”が全然違うんです。」
コーギーマネージャー 「そう。それが運用フェーズの本丸。 “現場ごとに見ている景色が違う” ってことに、作ってからじゃないと気づけないんだよね。」
Scene1. ホールの世界 ― 料理を“運ぶ”ことが最優先
ホールスタッフのミッションはただ一つ。 お客様のテーブルに、料理を滞りなく運ぶこと。
これを軸に要望を拾っていくと、ホール用画面に必要なものが見えてきます。
デシャップ視点:テーブルの進行が一目で分かるビュー
デシャップ(料理を捌く立ち位置)は、全テーブルの進行状況が パッと見で分かる ことが命。
どのテーブルに何が出ていて、何が残っているか
次に出すべき料理はどれか
これが瞬時に判断できないと、料理が冷める or 運ぶ順序がぐちゃぐちゃになる。
ワンタップでキッチンに依頼できるボタン
「あの料理、そろそろ用意してください」 これを口頭やインカムでやっていると、聞き間違いと言い忘れが発生する。
だから ワンタップで“この伝票を用意して”と通知できるボタン が必要になりました。
ドリンクだけ分離表示できるビュー
これは正直、盲点でした。
ドリンカーは洗い場も兼任していることが多い。 だから注文一覧にフード・ドリンクが混在していると、自分が拾うべき情報が埋もれてしまう。
ホテリエちゃん 「フードと一緒に並んでると、ドリンク見落としちゃうんです。」
コーギーマネージャー 「情報を“絞れる”ってこと自体が、忙しい現場では救いになる。」
Scene2. キッチンの世界 ― 視覚情報が命
ホール側の要望をひと通り反映した後、今度はキッチンに通って同じことをやりました。 すると、優先順位がガラッと変わるんです。
キッチンが知りたいのはこの2つ。
どの料理を、何個作るべきか
どの料理がホールから依頼されているか
これを 作業しながら一瞥で把握できる ことが、すべての軸になります。
料理種別で色を変える
伝票の中で、前菜は緑、メインは赤、デザートは黄……というように色分けしておくと、 「自分のステーションの料理だけ」を瞬時に拾える。
依頼が来た伝票は点滅させる
ホールから「これ用意して」と通知が来た伝票は 点滅 させる。 これがあるだけで、デシャップとキッチンのタイムラグがほぼ消えました。
コーギーマネージャー 「色と動きで“視線を誘導する” ってのは、紙の伝票じゃ絶対にできないこと。 ここがデジタルの活かしどころだね。」
Scene3. 最大の壁 ― “1画面に収める”という現場の鉄則
キッチン側の要望で、もっとも譲れなかったのがこれでした。
すべての情報を1画面に収めたい
スクロールやタブ切り替えは、料理を作りながらやる動作じゃない。 だから タブレット1枚で完結 している必要がある。
一度はホールの要望を受けて挫折
ホールから「伝票リストを実際のテーブル配置と同じ並びにしてほしい」という要望が来ました。 理屈としては超わかる。フロアマップと一致していれば、誰がどこの料理かを直感で把握できる。
でも実装してみると——
フロア配置を再現するために構造が複雑化し、動作が重くなる
すべてのテーブルを並べると 1画面に収まらない
理想と制約がぶつかったわけです。
落としどころ:使用中テーブルだけを“注文順に左から”
最終的にこういう形に落ち着きました。
お客様が使用中のテーブルだけ を表示
注文が入った順に左から横に並べる
そのテーブルの下に、そのテーブルの伝票がぶら下がる
ホテリエちゃん 「フロア通りじゃないけど、“今動いている注文だけ”が並ぶ から、結果的に見やすいって声が多いです。」
コーギーマネージャー 「“理想のレイアウト”より“今欲しい情報の密度” を取った、ということだね。 これは現場で揉まないと出ない答えだよ。」
Scene4. 音は“見ていないとき”のUI
タブレットを凝視できないキッチンには、音による通知設計 が想像以上に重要でした。
イベントごとに音を変える
新規注文が入ったとき
ホールから「料理を用意して」依頼が来たとき
客室からテイクアウトの注文が入ったとき
それぞれ 違う音 にする。
ホテリエちゃん 「料理を作りながらでも、“あ、これは部屋からの注文だ” ってわかるんです。」
コーギーマネージャー 「料理人は手も目も使ってる。 視覚が空かないなら、聴覚を使う。 これも現場に立たないと出てこない発想だね。」
Scene5. 現場で作ることの意味
ここまでの要望、振り返るとほぼ全部 現場に通って初めて拾えた声 です。
ドリンカーが洗い場を兼任している
デシャップが見たい順序とキッチンが見たい順序が違う
フロア配置の再現は重くなる
料理人はタブレットを凝視できない
これ、ヒアリングだけじゃ絶対に出てこない。
コーギーマネージャー 「専門のシステム開発会社に属していないエンジニアが作るなら、現場に入ってなんぼ。 経験やノウハウがない分、“足で稼ぐ”しかないんだよね。」
ホテリエちゃん 「逆に言うと、現場の人間がそのまま開発できる って、すごい強みなのかもしれません。」
Scene6. 運用の成果 ― キッチンが認めた瞬間
数字とエピソードで成果をまとめると、こうなります。
コスト
以前のシステム: 月2万円
自作POS: 月5,000円
業務改善
伝票の紙の削減
無線の煩雑なやり取りによるヒューマンエラーの削減
ホールとキッチンが共通ビューを見ることで、状況理解が一致
→ 連携ミスの大幅減
そしてキッチンから、こんな言葉をもらえました。
「前のシステムよりずっと良い。これからもこれで運用したい。」
ホテリエちゃん 「デジタル苦手意識が強かったキッチンメンバー から “こっちのほうがいい” って言ってもらえたの、正直一番うれしかったです。」
コーギーマネージャー 「“アナログより良い”って評価は、DXの中でもなかなか取れない勲章だよ。」
Scene7. これから ― 「もういいよ」を「やってみよう」に変える
キッチンは今、こう言っています。
「このままでもかなり使えるから、別にアップデートはいいよ。」
満足してくれているのは嬉しい。 でも、ここで止まったら、デジタル化のメリットは半分しか取れない。
コーギーマネージャー 「データが溜まり始めてるからね。 注文数の集計から、在庫数の最適化へ繋げられる はず。」
ホテリエちゃん 「『発注数を勝手に提案してくれる』みたいなのができたら、キッチンも嬉しいですよね。」
コーギーマネージャー 「“便利が積み上がる感覚” を一度体感してもらえれば、デジタルに対する空気は確実に変わる。 そこを次の目標にしよう。」
まとめ:UIは“現場ごと”に分かれる。設計は“現場で”磨かれる
今回の運用フェーズで得た気づきを3つに絞ると、こうです。
ホールとキッチンは“見ている景色”が違う ― 同じシステムでも別UIが必要
理想のレイアウトより、“今欲しい情報の密度” ― 制約の中で落としどころを探す
音は、視覚が空かない現場の第二のUI ― 五感を全部使って設計する
そして何より—— 現場に通うこと自体が、最強の仕様書になる。
ホテリエちゃん 「呪いのお札、剥がすだけじゃなくて、“もっと良くしよう” が現場から出てくるようになりました。」
コーギーマネージャー 「次はそれを、データで支える番だね。」
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